千変万化に負けない陰の実力者になりたくて! 作:kaneda,i9
ボス部屋に颯爽と現れたクライ・アンドリヒは、ウルフナイトの棍棒の一撃を(『
ボス部屋から離れた通路の奥で、即席パーティにクライを加えた5人は体勢を立て直していた。各々の傷を、ニーナが持ってきたポーションで癒している。
「ありがとマスター! おかげで命拾いしたよ」
「えーっと……クレアと組んでる
「あはは、私の名前はニーナですよマスター」
笑顔でクライを出迎えるニーナ。その一方でティノは暗い顔で俯いていた。
「ますたぁ……助けに来たのはありがたいのですが……その……」
「気にしないでよティノ、戦力を見誤ったのは僕だ。これは僕のミスだ」
「そんな……!?」
ますたぁは……ティノ達なら依頼を達成できるパーティが組めると考えていたようだ。それなのに手を煩わせてしまった……ますたぁは失望しているに違いない――そう考えたティノは顔面蒼白になっている。
「それでこれからどうするんだよ。アンタならさっきの
ギルベルトの問いかけに、クライはボス部屋の方を眺めてから答えた。
「……倒せるかな。でもあの時した行動は全部最適だった。僕はそう思っているよ」
クライのその答えにクレアがため息をつく。
「そうね。助けに来てくれたのは嬉しいけど、クライの本領は戦いじゃないし」
「うんうん、そういう事」
「開き直るな!」
……ともあれ、5人のハンター達は進むしか無かった。クライの先導で進む5人。何の説明も無いまま進んでいると……
「あれは……!?」
「さっすがマスター。テキトーに進んでるように見えたのに」
「ウソだろ……どうしてわかったんだ」
「え? なになに、どうしたの?」
状況のわからないクライを置いて4人は駆け寄った。衰弱し身動きが取れない5人の救助対象……ロドルフ・ダヴーのパーティに。
「あ……ありがとう……助かった……」
クライが取り出したチョコバーと、ニーナが持って来ていた水にかぶりつき、ロドルフ達は幾分か元気を取り戻したようだ。
ロドルフ・ダヴ―。得物は風属性の宝具の槍。槍と全身鎧が目立つことから、帝都のハンターの多くが彼の名を知っている。
「もう何日も前になるが……私のパーティに名指しの依頼が来たのが事の始まりだ。妙だと思いつつ私達はそれを受けた。ここの調査依頼を」
「それでこんな、人気の無い宝物殿に」
「レベル3宝物殿にしては強い幻影が出ると思った。だから調査を伸ばした。腕試しにちょうどいいと、それが間違いだった」
経緯を説明していたロドルフだが、その言葉を最後に黙ってしまった。顔を見合わせるクライ達、だがニーナは躊躇なく問いかける。
「それで、どんな幻影にやられたの? まさか白くておっきな人狼にやられたわけではないでしょ?」
「……違う。私達はあの程度の幻影にやられたりはしない。アイツは……桁違いの強さだった」
まだ見ぬ強敵がいる。その情報を聞いたクライは顔をひきつらせた。
そして来た道を戻るクライ達の前に、それは姿を現した。髑髏を被った赤い毛皮の剣士。死の雰囲気を纏うその幻影が、異変をきたした【白狼の巣】の真のボスだった。
「私が囮になる……だから、逃げるんだ」
撤退のお荷物になるであろう自分を囮にする――それがロドルフの下した決断だった。彼に負けじとクライが前に出ようとした……その時だった。ボス幻影の後ろからもう1人、髑髏の仮面を被った剣士が現れたのは。
「オイオイ嘘だろ……!?」
「もう一体……だと!?」
「ひっ……!?」
驚愕するギルベルトとロドルフ。だが誰よりも怯えたのはティノだった。クライの陰に隠れ、恐怖で肩を震わせている。
「ごめんなさいごめんなさい。許してください。ますたぁ私はもうおしまいです助けてください」
「なんでここにいるのよ……」
「ははは……これもマスターの計算の内?」
呆れるクレアと苦笑いするニーナ。そしてクライは……見たままを口にする。
「あれうちのリィズちゃんじゃん」
ボス幻影が壁に激突した。衝撃が空間を震わせる。髑髏の仮面の後ろでピンクのポニーテールを揺らし、リィズは銀色に輝く金属ブーツを下ろした。そのままリィズはゆっくりとクライに近づいて来る。
「クライちゃん、一応聞いておくけど……アレってうちの新メンバーだったりする?」
そう言ってリィズが指さしたのは、今しがた蹴り飛ばしたボス幻影だ。かぶりを振って立ち上がろうとしている。
「違うよ。あと仮面はずそっか」
「……だよねぇ、なんだか似てる仮面被ってるから、一応ね? あ、そうだ」
《
「これクライちゃんのでしょ? 落ちてたから拾っておいたよ」
「うん、ありがとうリィズ」
クライが受け取った剣を鞘に納めていると、今度はクレアが口を開いた。
「【
「クライちゃんに会いたくて急いで帰ってきたの。そしたらエヴァがクライちゃんは宝物殿に行ったって……クレアちゃん達を助けに行ったって」
説明をするリィズの声色はだんだんと低く、怒りを滲ませたものになっていく。クレアはこのまま話を続けていいのか戸惑った。怒ったリィズの危険性をよ~く理解していたから。
「ええと……正直危ない所だったわ。そうよねニーナ?」
「え、ボク? そ……そうだね……マスターが来なかったら死んでたかも」
「へえ~……そうなんだ。クレアちゃんとニーナちゃんがついていながら……」
リィズは睨む。クライの後ろに隠れる出来損ないを。ガタガタ震えている情けない弟子を。
「ティー! テメエが足ひっぱったんじゃねえのか! 『ゴミ掃除』すらまともにできないなんて……!!」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」
「リィズちゃんに恥かかすんじゃねえ! クライちゃんに嫌われるだろうが!」
爆発的な怒りが、怒号となってティノを襲う。リィズを知る3人は口を出せなかった。だが、さすがに見ていられないとギルベルトが口を開いてしまう。
「なあ、アンタ」
「あっバカやめ――」
ギルベルトは意識を失った、壁に激突して。リィズの脚が彼を吹っ飛ばしたのだ。クレアが止める間もなかった。
「うっせーぞ! 外野は黙ってろ! ったく……」
リィズはまだ興奮しているが、ギルベルトの乱入でペースを乱されている。すかさずクライが彼女を宥めようとする。
「ティノは頑張ってたと思うよ。だからもう、その辺でいいんじゃないかな?」
「ホント? ティーは頑張ってた? 殺さなくていい?」
「うんうん、殺さなくていいと思うよ」
「そうなの? よかったー……」
先程までの様子が嘘のように安堵するリィズ。刹那に感情が変わる直情的な性格、これが彼女なのだ。帝都最速を示す《絶影》の二つ名を持つ
「それじゃクライちゃん、あいつぶち殺してくるからそこで見ててね」
「うん、がんばってね」
「ティー! てめえも見るんだよ! リィズちゃんがグズのテメエに手本を見せてやる!」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」
「ニーナ、ギルベルトにぶっかけるポーション」
「はーい」
悠然と歩いてボス幻影に近づくリィズ。クライは諦観の笑みでその背中を見つめ、クレアとニーナはギルベルトを助けに向かった。見るまでも無い、と言わんばかりに。
馬鹿な、そう簡単に勝てるわけがない――そんなロドルフの不安をリィズの実力が破壊する。それはまるで、村の子供が野良スライムをいじめるような……もはや戦いでは無かった。
「剣も、鎧も、腕も脚も! 壊して殺せ! 砕いて殺せ! 簡単だろうがぁ!」
レベル5ハンターを圧倒するようなボスを、拳と脚で嬲り殺す。目にも止まらぬ剣技を、いとも簡単に躱し、掴んで止める。ボスがマナ・マテリアルに霧散するのもそう時間はかからなかった。
「これが……《嘆きの亡霊》」
初めてリィズの戦う姿を見たロドルフ達のパーティは、ただただ圧倒されることしかできなかった。隣でクライが頷いている。
「終わったよクライちゃん、帰ろ?」
クライの元にリィズが戻ってきた。返り血もマナ・マテリアルに還り、キレイになった両腕を広げクライに抱き着く。
「うんうん、そうだね……あ、そうだリィズ」
「なぁに?」
「おかえり」
「……うん! ただいま」