千変万化に負けない陰の実力者になりたくて! 作:kaneda,i9
【白狼の巣】から戻ってきた翌朝。報告を終えたティノ達、即席パーティの4人は《探索者協会》のロビーに集まっていた。ギルベルトは何か吹っ切れたようだ。さわやかな笑顔をティノ達に向けている。
「俺……元のパーティの奴らに謝ろうと思う。それで1からやり直しだ」
「その……助かりましたギルベルトさん。頑張ってください」
「おう! ティノも頑張れよ」
ウマの合わなかったティノとギルベルトだったが、共に死線を乗り越えた今は戦友。互いの今後を応援し合う仲になっていた。
「ところで『煉獄剣』だけど、クライに使い方でも聞いてみる? アイツ相当の宝具コレクターだから、コツとか教えてくれるかもね」
「そうなのか……でも別にいい。自分で掴んで見せるさ」
『煉獄剣』の刃が気迫に応えた瞬間、ギルベルトの目にはそれがしっかり焼き付いていた。クレアの提案も断り、ギルベルトは1人で歩き出す。かつての仲間達がいる場所へ。
(クライと同じやり方は俺にはできない。俺は俺のやり方で、最強を目指す!)
そうしてギルベルトが去った後、報告をしていたニーナが戻ってきた。その手には新たな依頼書が握られている。
「クレア~面白そうな依頼見つけたよ。ちょっと遠いけど、新しい宝物殿が出来たかもだって」
「戻ってきたばかりじゃない。相変わらず目ざといわね」
クレアは小さく笑うと、ティノに向き直って別れの挨拶を切り出す。
「あの依頼受けたら、しばらくお別れね。ティノ、また機会があったら組みましょ」
「…………まあ、クレアがどうしても私と組みたいと言うのなら、特別に考えてあげますよ」
ティノは腕を組み、恥ずかしそうに顔を背けている。照れているのだろうか? だがクレアの返事は素っ気ない物だった。
「じゃあ別にいいわ。そこまで組みたいわけじゃないし」
「えっ……えぇーっ!?」
立ち去るクレアの背に向かってティノは叫んだ。
「で、何を企んでるの? アンタが『一緒に行こう』だなんて、珍しいじゃない」
《探協》の外に出た途端、クレアはニーナを睨んだ。それに対し、ニーナは小声で答える。
「聞いたよクレア、アレクシア・ミドガルが失踪したって。それでマスターが疑われてるらしいじゃん? 確かクレアも一緒にミドガル邸に行ってたよね?」
「……いつ聞いたのよ。あの時ラウンジにいなかったでしょ」
「帰ってきてすぐにね、エヴァさんから聞いたんだ。マスターの次はクレアが疑われるかもだし……ほとぼりが冷めるまで、帝都を離れない?」
「やっぱり目ざといわね。アンタ」
悪い笑顔を作るニーナに、クレアも笑みを返した。
***
……同じ頃、《探索者協会》を訪れていたアイリス・ミドガルは、応接室でガーク支部長と相対していた。2人は帝都の治安維持について度々顔を合わせる立場にあった。
「朝から時間を取らせて申し訳ありません、ガーク支部長。しかし早急に確認しなければならない用件があります」
「……手短に頼むぜ。こっちも火急の問題を抱えているんだ」
ガークの顔はいつにもまして険しかった。【白狼の巣】についての報告がその原因だが、アイリスが知る由もない。
「では単刀直入に……《千変万化》クライ・アンドリヒ殿にどのような依頼をしたのですか?」
「昨日も聞かれたが……なぜクライの名前が出てくる」
「彼はとある貴族の失踪についての重要参考人です。しかし、そちらの依頼を理由に話を聞く事が出来ませんでした」
「待て待て、つまり……クライを疑っているのか?」
「それを見極めるために情報が欲しいのです。まずは彼の受けた依頼が本当に救助依頼だったのか、騎士団の取り調べを断る理由に足りえるのかどうかを――」
「アイリス、悪いがそういうのは後にしてもらえないか?」
アイリスの言葉を遮り、ガークは真剣な眼差しで彼女を見据えていた。アイリスはそれに対し正面から睨み合う。
「それはどういう意味ですかガーク殿。何が起きているのですか?」
「救助依頼は無事に終わった。クライ達が宝物殿で遭難したパーティを助けてな。だがそれで終わりじゃねえ。俺達はその原因を究明しなけりゃならなくなった」
「……原因、と言うと?」
「宝物殿の異常だ。レベル3の宝物殿にレベル6相当の
「それは……」
アイリスは続ける言葉を見つけられなかった。もしガークの話が本当なら、取り調べを断った事に正当性が生まれる。それどころか、帝都の治安を任されているアイリスは、クライに協力を仰ぐ必要性が出てくる。付近の街道を封鎖しなくてはならない。
「あの野郎、絶対何か知ってやがる。それに『レベル8ハンターが騎士団に連行された』なんて事になったら、トレジャーハンターそのものに対する不信感が生まれちまう。だから異変が解決するまで、騎士団に引き渡すことは出来ねえ」
ガークの険しい視線には解決を急ぐ気持ちだけではなく、ハンターを守る探索者協会支部長としての意思も込められていた。アイリスは戸惑う。
(ガーク殿の話も分かるけど、騎士団内でクライ殿を疑う声は強い。何もしなければ捜査方針で対立が起きるかもしれない。もはや彼を疑っている場合では無いのに……)
アイリスが考え込むのを見たガークは立ち上がり、話を切り上げようとしていた。
「悪いがアイリス、この後大事な用事が入ってるんだ。話の続きは……」
「わかりました。騎士団での取り調べどころではないようですね。ですが――」
意を決したアイリスも立ち上がり、正面からガークを見据えた。
「私の方から彼を訪ねるぶんには、何も問題ありませんね?」
「何だと?」
「そうすれば拘束時間は最小で済みます。そちらにも迷惑は掛けません」
「それはそうかもしれんが……むぅ……」
確かにアイリスの言葉には一理ある。だがガークは一抹の不安を抱いた。
「なあアイリス。クライに会った事はあるか?」
「いえ、まだ会った事はありません。先任の騎士団長から気を付けろとは言われてますが……そんな警戒が必要な人物なのですか?」
「いや、悪い奴じゃあないんだが……」
ガークは返答に困った。思い浮かぶのは、クライの高レベルハンターらしからぬ振る舞い。彼と生真面目なアイリスを会わせてよいのだろうか? そうガークは考え……小さく呟いた。
「……無しだな」
「え?」
「アイリス、今日と明日……2日待ってくれないか? それならこっちも都合を合わせられる。アイツから一緒に話を聞こうじゃねえか」
クライを訪ねるのなら俺も立ち会わせろ――それがガークの妥協案だった。
(私に、というより騎士団に対するけん制でしょうか。ガーク殿らしいですね)
「騎士団と探協の合同でクライ殿から話を聞く、という事ですね……わかりました。是非ご一緒させてください」
「決まりだな」
2人は約束の固い握手を交わした。
***
「あー……引退したい」
「またですかクライさん」
その頃クライ・アンドリヒは《
「いや今回は本気だよ。僕のせいでティノ達を危険な目に遭わせてしまった」
「貴方が引退したらこのクランは、あなたのパーティはどうするんですか?」
「どっちももう僕の手には負えないよ。だから後はエヴァや他の人に任せて……」
「クライちゃんが引退するなら私も辞める~」
そう言って、ソファに寝転がってたリィズが飛び起きた。屈託のない彼女の笑顔に見つめられ、クライは少し戸惑った。
「リィズが抜けたら《
「大丈夫だよ、みんな辞めると思うから」
リィズの言葉は冗談では無いのだろう。クライはゆっくりと背もたれに体重を預け、ぼんやりと考える。《嘆きの亡霊》全員がハンターを辞めた時に発生するリスクを。問題行動は多いが……皆実力者だ。それぞれの得意分野で評価を得ている。クライが結論を出すのは早かった。
「……ハンター、もう少し頑張るよ」
「ええ、そうしてください」
「おー! 私も頑張るね」
結局いつも通りの結論に達したクライだが、彼の表情にはまだ不安の色があった。それは【白狼の巣】の件か? それともアレクシアの失踪についてか? 彼は本棚を……その奥にある自室の方を見つめながら呟いた。
「中身、なんで無かったんだろ」
彼の悩みはただ一つ、『シトリースライム8号』の行方について。