千変万化に負けない陰の実力者になりたくて!   作:kaneda,i9

27 / 82
クライの不安

 【白狼の巣】から戻ってきた翌朝。報告を終えたティノ達、即席パーティの4人は《探索者協会》のロビーに集まっていた。ギルベルトは何か吹っ切れたようだ。さわやかな笑顔をティノ達に向けている。

 

「俺……元のパーティの奴らに謝ろうと思う。それで1からやり直しだ」

「その……助かりましたギルベルトさん。頑張ってください」

「おう! ティノも頑張れよ」

 

 ウマの合わなかったティノとギルベルトだったが、共に死線を乗り越えた今は戦友。互いの今後を応援し合う仲になっていた。

 

「ところで『煉獄剣』だけど、クライに使い方でも聞いてみる? アイツ相当の宝具コレクターだから、コツとか教えてくれるかもね」

「そうなのか……でも別にいい。自分で掴んで見せるさ」

 

 『煉獄剣』の刃が気迫に応えた瞬間、ギルベルトの目にはそれがしっかり焼き付いていた。クレアの提案も断り、ギルベルトは1人で歩き出す。かつての仲間達がいる場所へ。

 

(クライと同じやり方は俺にはできない。俺は俺のやり方で、最強を目指す!)

 

 そうしてギルベルトが去った後、報告をしていたニーナが戻ってきた。その手には新たな依頼書が握られている。

 

「クレア~面白そうな依頼見つけたよ。ちょっと遠いけど、新しい宝物殿が出来たかもだって」

「戻ってきたばかりじゃない。相変わらず目ざといわね」

 

 クレアは小さく笑うと、ティノに向き直って別れの挨拶を切り出す。

 

「あの依頼受けたら、しばらくお別れね。ティノ、また機会があったら組みましょ」

「…………まあ、クレアがどうしても私と組みたいと言うのなら、特別に考えてあげますよ」

 

 ティノは腕を組み、恥ずかしそうに顔を背けている。照れているのだろうか? だがクレアの返事は素っ気ない物だった。

 

「じゃあ別にいいわ。そこまで組みたいわけじゃないし」

「えっ……えぇーっ!?」

 

 立ち去るクレアの背に向かってティノは叫んだ。

 

 

 

「で、何を企んでるの? アンタが『一緒に行こう』だなんて、珍しいじゃない」

 

 《探協》の外に出た途端、クレアはニーナを睨んだ。それに対し、ニーナは小声で答える。

 

「聞いたよクレア、アレクシア・ミドガルが失踪したって。それでマスターが疑われてるらしいじゃん? 確かクレアも一緒にミドガル邸に行ってたよね?」

「……いつ聞いたのよ。あの時ラウンジにいなかったでしょ」

「帰ってきてすぐにね、エヴァさんから聞いたんだ。マスターの次はクレアが疑われるかもだし……ほとぼりが冷めるまで、帝都を離れない?」

「やっぱり目ざといわね。アンタ」

 

 悪い笑顔を作るニーナに、クレアも笑みを返した。

 

 

***

 

 

 ……同じ頃、《探索者協会》を訪れていたアイリス・ミドガルは、応接室でガーク支部長と相対していた。2人は帝都の治安維持について度々顔を合わせる立場にあった。

 

「朝から時間を取らせて申し訳ありません、ガーク支部長。しかし早急に確認しなければならない用件があります」

「……手短に頼むぜ。こっちも火急の問題を抱えているんだ」

 

 ガークの顔はいつにもまして険しかった。【白狼の巣】についての報告がその原因だが、アイリスが知る由もない。

 

「では単刀直入に……《千変万化》クライ・アンドリヒ殿にどのような依頼をしたのですか?」

「昨日も聞かれたが……なぜクライの名前が出てくる」

「彼はとある貴族の失踪についての重要参考人です。しかし、そちらの依頼を理由に話を聞く事が出来ませんでした」

「待て待て、つまり……クライを疑っているのか?」

「それを見極めるために情報が欲しいのです。まずは彼の受けた依頼が本当に救助依頼だったのか、騎士団の取り調べを断る理由に足りえるのかどうかを――」

「アイリス、悪いがそういうのは後にしてもらえないか?」

 

 アイリスの言葉を遮り、ガークは真剣な眼差しで彼女を見据えていた。アイリスはそれに対し正面から睨み合う。

 

「それはどういう意味ですかガーク殿。何が起きているのですか?」

「救助依頼は無事に終わった。クライ達が宝物殿で遭難したパーティを助けてな。だがそれで終わりじゃねえ。俺達はその原因を究明しなけりゃならなくなった」

「……原因、と言うと?」

「宝物殿の異常だ。レベル3の宝物殿にレベル6相当の幻影(ファントム)が出やがった。クライが依頼を受けてなけりゃあ、誰も気づかなかったかもしれねえ」

「それは……」

 

 アイリスは続ける言葉を見つけられなかった。もしガークの話が本当なら、取り調べを断った事に正当性が生まれる。それどころか、帝都の治安を任されているアイリスは、クライに協力を仰ぐ必要性が出てくる。付近の街道を封鎖しなくてはならない。

 

「あの野郎、絶対何か知ってやがる。それに『レベル8ハンターが騎士団に連行された』なんて事になったら、トレジャーハンターそのものに対する不信感が生まれちまう。だから異変が解決するまで、騎士団に引き渡すことは出来ねえ」

 

 ガークの険しい視線には解決を急ぐ気持ちだけではなく、ハンターを守る探索者協会支部長としての意思も込められていた。アイリスは戸惑う。

 

(ガーク殿の話も分かるけど、騎士団内でクライ殿を疑う声は強い。何もしなければ捜査方針で対立が起きるかもしれない。もはや彼を疑っている場合では無いのに……)

 

 アイリスが考え込むのを見たガークは立ち上がり、話を切り上げようとしていた。

 

「悪いがアイリス、この後大事な用事が入ってるんだ。話の続きは……」

「わかりました。騎士団での取り調べどころではないようですね。ですが――」

 

 意を決したアイリスも立ち上がり、正面からガークを見据えた。

 

「私の方から彼を訪ねるぶんには、何も問題ありませんね?」

「何だと?」

「そうすれば拘束時間は最小で済みます。そちらにも迷惑は掛けません」

「それはそうかもしれんが……むぅ……」

 

 確かにアイリスの言葉には一理ある。だがガークは一抹の不安を抱いた。

 

「なあアイリス。クライに会った事はあるか?」

「いえ、まだ会った事はありません。先任の騎士団長から気を付けろとは言われてますが……そんな警戒が必要な人物なのですか?」

「いや、悪い奴じゃあないんだが……」

 

 ガークは返答に困った。思い浮かぶのは、クライの高レベルハンターらしからぬ振る舞い。彼と生真面目なアイリスを会わせてよいのだろうか? そうガークは考え……小さく呟いた。

 

「……無しだな」

「え?」

「アイリス、今日と明日……2日待ってくれないか? それならこっちも都合を合わせられる。アイツから一緒に話を聞こうじゃねえか」

 

 クライを訪ねるのなら俺も立ち会わせろ――それがガークの妥協案だった。

 

(私に、というより騎士団に対するけん制でしょうか。ガーク殿らしいですね)

「騎士団と探協の合同でクライ殿から話を聞く、という事ですね……わかりました。是非ご一緒させてください」

「決まりだな」

 

 2人は約束の固い握手を交わした。

 

 

***

 

 

「あー……引退したい」

「またですかクライさん」

 

 その頃クライ・アンドリヒは《始まりの足跡(ファーストステップ)》クランハウス最上階、クランマスター室でいつもの口癖を呟いていた。自分の執務机で頬杖とため息をつく。そんな彼に副マスターのエヴァはいつも通りの対応をする。

 

「いや今回は本気だよ。僕のせいでティノ達を危険な目に遭わせてしまった」

「貴方が引退したらこのクランは、あなたのパーティはどうするんですか?」

「どっちももう僕の手には負えないよ。だから後はエヴァや他の人に任せて……」

「クライちゃんが引退するなら私も辞める~」

 

 そう言って、ソファに寝転がってたリィズが飛び起きた。屈託のない彼女の笑顔に見つめられ、クライは少し戸惑った。

 

「リィズが抜けたら《嘆きの亡霊(ストレンジグリーフ)》は瓦解しちゃうよ?」

「大丈夫だよ、みんな辞めると思うから」

 

 リィズの言葉は冗談では無いのだろう。クライはゆっくりと背もたれに体重を預け、ぼんやりと考える。《嘆きの亡霊》全員がハンターを辞めた時に発生するリスクを。問題行動は多いが……皆実力者だ。それぞれの得意分野で評価を得ている。クライが結論を出すのは早かった。

 

「……ハンター、もう少し頑張るよ」

「ええ、そうしてください」

「おー! 私も頑張るね」

 

 結局いつも通りの結論に達したクライだが、彼の表情にはまだ不安の色があった。それは【白狼の巣】の件か? それともアレクシアの失踪についてか? 彼は本棚を……その奥にある自室の方を見つめながら呟いた。

 

「中身、なんで無かったんだろ」

 

 彼の悩みはただ一つ、『シトリースライム8号』の行方について。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。