千変万化に負けない陰の実力者になりたくて! 作:kaneda,i9
「オラァ! いいかげん罪を認めたらどうだ! アレクシア様を誘拐したんだろ? 黙っていても無駄だ!」
今日の尋問は一段と激しい。裸同然の姿で椅子に縛られた僕は、あくどい顔の騎士に暴力を振るわれていた。それにしても、彼らのモブ悪役っぷりは素晴らしい! 僕も負けてられない。モブらしく、みっともなく泣きわめこうじゃないか。
「もうゆるしてください……ほんとうにぼくはやってないんでふ……」
「強情な奴め、まだ足りないみたいだな?」
「やめてください、いのちだけは……どうかいのちだけはぁぁ……」
「だったら罪を認めるんだな!」
「ぎょえぇ~!?」
痛みと恐怖に震えながら泣きわめく、どうだ僕のモブ演技は? ……それにしてもコレいつまで続くんだろ?
***
意識を取り戻したアレクシアは知らない天井を見上げていた。倒れているわけではなく、椅子に背中を預けている姿勢のようだ。
埃っぽい空気、僅かな明かりだけが部屋を照らす薄暗い空間。窓から明かりが差し込んでいる様子はない。
(ここはどこなの? なんでこんな場所に……)
自分がここにいる理由を、アレクシアはハッキリと思い出せなかった。ならとにかく動かないと――そう思って彼女が体を起こすと、手首にはめられた枷が目に入った。枷に繋がった鎖は椅子の後ろ側に続いている。対ハンター用のかなり頑丈な作りだ。
(……壊せそうにないわね)
力技での脱出を諦めたアレクシアは、他に何かないかと周囲を見回し……「それ」と目があった。初めは何かしらの肉塊に見えた。だが腕があり、脚があり、不気味に光る赤い目でアレクシアをじっと見つめている。人間離れしたいびつな姿の怪物が鎖に繋がれていた。
「っ……!?」
息を呑むアレクシア。しかしその怪物は鎖につながれていて、ただじっとしているだけだった。そのまま2人は――怪物を人と数えていいかはわからないが――2人はしばらく無言で見つめ合った。部屋の扉がその静寂を破るまで。
「王族の血……王族の血……」
部屋に入ってきたのは白衣を着た眼鏡の男、一見は研究者に見える装いだが何かがおかしい。ブツブツと呟きながら机の上で器具をいじっている。
「ねえ……あなたも《アカシャの塔》? 私をどうするつもりかしら」
アレクシアはなるべく刺激しないように平坦な声で問いかけた。男はアレクシアを見向きもせずに答える。
「あ、アカシャの塔? 奴らも君の血を狙っていたね。王族の血を……」
「ミドガルが王家だったのは何百年も前の話よ。今さらな話だわ」
その頃は【ゼブルディア帝国】のように大きな王国を治めていたと、アレクシアは父から聞いていた。今ならレベル10認定されるだろう宝物殿が国内に出現し、それで国としては滅んだとも聞かされていた。その宝物殿を攻略したのがロダン家の始祖、ソリス・ロダンだという事も。
(もっとちゃんと聞いておけばよかった)
アレクシアの返答に対し、男は講釈を垂れる。
「そう、君も知らない価値を私は知っている。アカシャの塔も知っていた。それなのに……なのになのに!」
男が語気を強めたかと思うと、突然怪物のそばに駆け寄り、怒りを暴力という形でぶつけた。
「ちくしょう! アカシャの塔は私を裏切った! 本当ならもっと早く! 魔人の血が! 手に入ったのに!」
怪物は何も言わず、男の怒りを受け止めていた。怪物の体はまるでびくともせず、表情一つ変わらない。何も感じていていないのだろうか?
「私の血をどうするか聞いてないのだけれど?」
「ハッ!? そうだった……魔人の血があれば完成する……」
アレクシアの言葉で男は我に返り、実験準備を再開した。机の上に採血用の注射器が並んでいく。それを見たアレクシアは何とか平静を装い、状況の理解に努めた。
(この男はアカシャの塔じゃない……でも協力関係にあった。少なくとも私を襲った奴とは。……どうして王族の血が特別扱いされるのかしら?)
果たして彼女は冷静に推察できているのか。あるいは目前の危機からの現実逃避なのか。狂気的な笑みを浮かべた男が、注射器を片手にアレクシアへと迫る。
「王族の血は魔人の血……魔人を現代に蘇らせる……くくっ……」
「痛くしないでね」
アレクシアは他人事のように呟いた。
(ポチも巻き込まれているのかしら? 無事だと良いけど……)
***
「183……184……んん?」
なんだか鼻がむず痒いな……僕は気にせず逆立ち腕立て伏せを続ける。昨日の昼に騎士団に捕まって、厳しい尋問を今日も受けて、今は留置所の中だ。小さな窓から漏れる月明かりが、今が夜だと伝えている。
それにしても尋問官のあの騎士、いかにも小悪党なモブだったな……尋問中、僕を楽しそうに殴ってきた。尋問は明日もやるらしい。
正直、モブとして事件の当事者になるつもりは無かったんだけど、こうなったらしかたない。完璧なモブ受刑者を演じてみせようじゃないか。あの騎士には負けてられない。
「199……200っと」
それにしてもアレクシアが失踪ってどういう事だろう? 普通のハンターなら宝物殿で遭難なんだろうけど……彼女は貴族だ。誘拐とかの犯罪に巻き込まれた可能性の方がありそうな話だ。もしそうなら……陰の実力者の出番だ。
「でも今日は明日に備えて寝ようっと」
暇つぶしの「無駄に見栄えの良い無駄に負荷の多い無駄なトレーニング」も一通りやったしね。僕は冷たい石床の上に寝転がり、モブ演技プランを練りはじめた。