千変万化に負けない陰の実力者になりたくて!   作:kaneda,i9

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蛇_#1_シャドウガーデンVS《嘆きの亡霊(ストレンジグリーフ)

 アルファと出会ってからから3年……あれから捨て猫を拾うみたいにアルファは悪魔憑きを見つけてきた。その全員が僕達の戦いに賛同し……今の《シャドウガーデン》は僕と7人の仲間で構成されている。

 

 銀髪青眼で空想好きの精霊人(ノーブル)ベータ。

 藍色の長髪が似合う頭脳派精霊人ガンマ。

 黒髪でいつも元気な犬系獣人デルタ。

 湖のような碧い髪でプライドの高い精霊人イプシロン。

 かくれんぼ好きでクールな金猫獣人ゼータ。

 暗い長髪、マッドサイエンティスト気質な精霊人イータ。

 

 7という数字にキリの良さを感じたので、彼女達に「七陰」という称号を与えた。そしたらみんな、ものすごく嬉しそうだった。ちなみに7人全員女の子。すごい偶然だね。

 

 他にも悪魔憑きについて気になる事がある。それは、七陰のみんなが人並外れた身体能力と魔力(マナ)を身に着けているという事だ。恐らく悪魔憑きの後遺症だろう。

 体の許容量を超えたマナ・マテリアルを吸収すると起きる体調不良、いわゆる「マナ・マテリアル酔い」のはるか極致……それが悪魔憑きに対する僕の認識だ。それを治療した結果、マナ・マテリアルに対する高い適正を得たのかもしれない。

 

 悪魔憑きの治療法を応用して僕はマナ・マテリアルの吸収力をコントロールする技術を身に着けた。これで効率的にマナ・マテリアルを取り込むことができるし、取り込みすぎによるマナ・マテリアル酔いにもすぐに対応できる。

 

 

 彼女達に剣技を含めた前世知識を与え、この世界で編み出した魔力(マナ)に関する技術も教え、この3年で《シャドウガーデン》はかなり強くなった。廃村近くのレベル4宝物殿が今では訓練場扱い。姉さんを誘拐した人さらいも簡単に全滅させてしまった。あの銀髪オールバック……賊にしては結構強かったな。

 

 15歳になった姉さんもハンターを目指して帝都に行ったし、僕達も一度みんなで高レベル宝物殿に遠征する必要があるかな……そう考えていたあの日、七陰全員が集まり僕に別れを告げた。

 

 なんでも《ディアボロス教団》と戦うためには大きな組織力が必要で《シャドウガーデン》をそこまで成長させるため活動範囲を広げるらしい。

 《ディアボロス教団》ってそんなに大きい組織だったのか。とかいろいろ言いたいことはあるけど……これはあれだ。僕のでっち上げた設定が嘘だと気づいたのだ。《シャドウガーデン》のため――と言うのは、僕を傷つけないようについた優しい嘘なのだろう。

 

 前世でもそうだった。みんな子供のころの夢を忘れ、大人になっていく……それでも前世の僕は夢を追い続けた。この世界でもそれは変わらない。僕は……陰の実力者になりたいんだ。

 

***

 

 アルファ達がシドに別れを告げて1年後……

 

***

 

「私達はシャドウガーデン。陰に潜み陰を狩る者」

 

 アルファはスライムソードの切っ先を目の前の男――「蛇の眼」へと向けた。《蛇》。それは《狐》と双璧を成す裏社会の大組織《闇を睨む蛇(ダーク・アイズ・スネーク)》の通称であり、「蛇の眼」は組織の中でも情報収集を担当する幹部の称号だ。

 

 ここは帝都の外れにある屋敷、《蛇》の拠点の1つ。その1室でアルファと「蛇の眼」は睨み合っていた。部屋の外からは悲鳴と怒号、そして激しい戦闘音が聞こえている。《シャドーガーデン》のメンバーと《蛇》の構成員が戦っているのだ。今回の作戦には「七陰」以外のメンバーも参加している。

 

 蛇の眼は杖型宝具をアルファへと向けているが、その額から汗が流れ落ちる。彼は焦燥していた。

 

「シャドウガーデン……だと? まさか本部で噂になっている黒づくめの集団……」

「その反応、やはり蛇はディアボロス教団と繋がっていたみたいね」

「貴様らの目的はなんだ。教団を敵にまわしてタダで済むと思っているのか?」

「それでも私達は、彼と同じ道を歩むと決めたの」

「彼?」

「ディアボロス教団の壊滅……それが私達の目的よ」

 

 アルファの言葉に一切の迷いは無かった。蛇の眼はそれにたじろぐが、すぐに魔力(マナ)を杖に集中する。

 

「できるものか……!」

 

 詠唱は一瞬、風属性の杖が火炎魔法を強化し、大爆発を起こした。爆風が窓を砕き、爆炎が部屋を埋め尽くす。炎に囲まれながらアルファは、蛇の眼が部屋の中にいない事に気づく。

 

「いない……まさか隠し通路が?」

 

 先程まで蛇の眼がいた場所を睨むが、次の瞬間に天井が崩落を始めた。

 

「っ……ここにいては危険ね」

 

 仮面の奥で険しい顔をしながら、アルファは窓から屋敷を脱出、裏庭に着地した。

 

(追跡にはデルタの力が必要ね。彼女はどこ?)

 

 外に出たアルファは周囲を見回す。血にまみれた裏庭でまだ聞こえる剣戟の音、その方角に目を向けた。

 

「お前ら蛇じゃなさそうだが……剣士(ソードマン)だな? 俺と戦え!」

「その剣……木剣だと!?」

 

 白髪褐色肌の砂漠精霊人(デザートノーブル)《シャドーガーデン》のメンバー、ラムダが……嗤う骸骨の仮面を被る赤毛の剣士(ソードマン)と対峙していた。

 《嘆きの亡霊(ストレンジグリーフ)》の剣士、ルーク・サイコル。剣士を切りたいと常日頃から言っているという危険な男。それがラムダに木刀で襲い掛かっている。ラムダの握るスライムソードを軽々と切り刻み、彼女を追い詰めていた。

 

「バカなっ……!? 木剣でなぜここまで……」

「ラムダ、下がりなさい!」

 

 アルファは仲間を守るため剣を構え、ルークの前に立ちはだかった。漆黒の剣と木剣がぶつかり合い、2人は鍔迫り合いながら睨み合う。シャドウガーデンの黒い仮面と、嗤う骸骨の仮面が視線を交錯させる。

 

嘆きの亡霊(ストレンジグリーフ)! 何が目的なの!」

「お前……強そうだな。俺と切り合え!」

 

 ルークの口元で笑みがこぼれた。《蛇》と戦うと言う目的を忘れ、目の前の剣士(ソードマン)……アルファとの戦いを楽しもうとしている。

 

***

 

「うむ!」

「うーん……お手上げ」

 

 屋敷の庭。イータの仕掛けた罠は全て破壊された。身長3メートルを超える全身鎧の聖騎士(パラディン)、アンセム・スマートによって。

 

「あんな巨体、どうやったら崩せる……っ!? 後ろ!」

「ちぃっ! 躱すんじゃねえ!」

 

 アンセムと対峙していたゼータは、背後からの奇襲をギリギリで躱した。風のように速い盗賊(シーフ)リィズ・スマートの一撃だ。

 

「どくですメス猫ぉぉっ!」

「バカ犬……!?」

 

 叫びながら現れたデルタは、その手に全長2メートルを超えるスライムソード《鉄塊》を握っていた。後先考えない全力の一撃。ゼータは巻き込まれないように離れ、振り下ろされるその一撃に視線を向けた。

 

「うむ……!」

「き、効いてないのですか!?」

 

 しかしデルタの全力も、アンセムの全力には届かなかった。結界魔法で勢いを削がれた大剣は、アンセムを数メートル後ずらせることしかできなかった。ダメージは無い。

 

「ならもう一度……!」

「隙だらけなんだよぉ犬っころ!」

 

 鉄塊を構えなおそうとするデルタを、リィズが蹴り飛ばした。デルタが激突した塀が崩れ落ちる。

 

「リィズちゃんの邪魔すんじゃねえ! ルークちゃんに全部取られちまうだろうが!」

「邪魔はそっちじゃないか! 蛇は、私達の獲物だ!」

 

 ゼータが啖呵を切った瞬間、起き上がったデルタがリィズに襲い掛かる。

 

「やってくれたですねメス盗賊(シーフ)っ! オマエはデルタが、デルタが狩ってやるです!」

 

 

 突入を目論む《嘆きの亡霊(ストレンジグリーフ)》と、突入した仲間を守ろうとする《シャドウガーデン》。その戦いが繰り広げられているのはここだけでは無かった。

 

 

「まずっ……カイ、オメガ、来るわよ備えなさい!」

「『ヘイルストーム』!」

 

 本来、屋敷全体に放たれるはずだった広範囲魔法が発動する。ルシア・ロジェの最も得意とする魔法は、氷の嵐を巻き起こす物だった。目の前の敵だけを狙い範囲が絞られたその嵐は、威力も収束されている。

 

「ぐぅ……!? 全身が……バラバラになりそうだ!」

「これは……シャレにならないかな……!」

 

 イプシロンと部下の2人を巻き込んだ嵐は、彼女達の体をズタズタに切り裂いていく。絶体絶命の状況で、イプシロンは漆黒の大鎌を握りしめ、緻密に魔力(マナ)を練り上げた。

 

「炎は……苦手なのよ……『炎撃昇嵐(フレア・ライジング)』!」

 

 イプシロンが発動した魔法は、逆回転、火炎の竜巻を巻き起こし、氷の嵐と相殺する。一瞬の無風状態が生まれた。

 イプシロンは傷だらけの体に鞭打ち、真っ直ぐルシアに向けて踏み込んだ。新たな魔法を詠唱する彼女に向けて、スライムの大鎌を剣へと変え、刃の先端を突きつける。

 咄嗟に身をひるがえすルシア。イプシロンの剣は躱されたが、詠唱の中断には成功した。そのまま、剣の距離で2人は睨み合う。

 

「……あそこには私の仲間がいるの。もう詠唱なんてさせないから」

「その剣……あなた魔導師(マギ)じゃないんですか!?」

魔導師(マギ)のつもりよ。剣もそれなりに使えるけど」

 

 睨み合う2人の魔導師(マギ)、その静寂を打ち破ったのは甲高い声だった。

 

「きるきる……」

 

 それは筋骨隆々の人型だった。身長2メートルを超える灰色肌の魔法生物。それを引き連れて現れたのは《最低最悪(ディープブラック)》シトリー・スマート。状況を見極めようと、仮面をずらし、自らの目で敵をじっと見据えていた。

 

「これは……貴方達ですね。蛇を陰で狙っていたのは」

「きるきる?」

 

 イプシロンは何も答えられなかった。一瞬たりともルシアから視線を離そうとしない。

 

「少々手強そうですが……仕方ありません、キルキル君」

「きるきる!」

 

 シトリーの指示で魔法生物が走った。イプシロンに向かって一直線に。

 

「させないよ!」

「イプシロン様! ここは我々が食い止めます!」

 

 黒髪で褐色肌の砂漠精霊人オメガと、片目を隠す金髪の精霊人カイ、傷ついた2人がキルキル君の前に立ちふさがる。その覚悟に、2人に手を貸せない自分の状況に、イプシロンは唇を噛んだ。

 

「っ……2人とも! 《最低最悪》からも目を離さないで!」

 

 ただ、それを言う事しかできなかった。

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