千変万化に負けない陰の実力者になりたくて!   作:kaneda,i9

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釈放!路面電車でまさかの再会!

「アイス屋ってアレかな? でもシャッター降りてるよクライちゃん」

「みたいだね」

 

 そこは《ディアボロス教団》のアジトの1つであるアイス屋、訪ねたのはクライ・アンドリヒ。それは彼が、リィズとデートした翌日の事だった。消えた『シトリースライム8号』を探し【退廃都区】まで足を延ばしたクライは……ついでに評判のアイスを食べようと考えていたのだ。

 護衛として連れてきたリィズが、乱暴にシャッターを叩いているが……何の反応も無い。

 

「マジで誰もいないみたい。さっきから血の匂いもするし……強盗にでも襲われたんじゃない?」

「そんなに物騒なのこの辺?」

 

 結局、目当てのアイスを食べられなかったクライは踵を返すことになる。

 

「ところでクライちゃん、なに探してるの?」

「えーっと……魔法生物かな」

「あ~……私じゃなくてシトの分野かー……」

 

 

 

 クライ達が離れたしばらく後……アイス屋を訪れた人間がもう1人いた。黒いローブを纏った女性が裏口の前で立ち止まる。

 

「この傷……それに血痕……」

 

 目深にかぶったフードの奥で、深紅の瞳が静かに揺れる。ソフィア・ブラックは僅かに残った痕跡を見逃さなかった。

 

(扉前の壁と地面に新しめの血痕、それも大部分は掃除されている。この辺りのゴロツキなら痕跡を消すような事はしない。つまり……)

「一足遅かった」

 

 彼女はそれ以上何も言わず、アイス屋に入ることもなく、その場を後にした。

 

(戻る前に《教団》とやらの情報を、と思ってましたが……いったい誰がやったのでしょうか)

 

 師ノト・コクレアに紹介された協力者……《教団》について彼女は興味があった。師からは詳しく知らされず、あの時出会った2人からは大した情報を得られずじまい。わかっているのは帝都の暗部に《教団》と呼ばれる謎の組織がある事だけだ。今後その組織とどんな関係になってもいいように、彼女は情報を求めていた。

 

(残すは師に聞くだけ……なんにせよ急いだほうがよさそうですね)

 

 連絡用の宝具『共音石』で知らされた【白狼の巣】の現状、このままではアジトを破棄する事になるかもしれない。それでは遅すぎる。彼女は足早に【退廃都区】を抜け出した。

 

「もう時間がありません」

 

 

***

 

 

「釈放だ。さっさと行け」

「はーい」

 

 4日か5日くらい続いた尋問がやっと終わり、僕は晴れて自由の身になった。と言っても無罪が証明されたわけじゃない、証拠不十分ってやつだ。

 尋問の傷が痛むけど日も傾いてるし、とにかく帰る事にしよう。街を歩いていると僕を尾行する気配を感じた。監視役だろうね。気づかないふりをして歩き……僕は路面電車に乗りこむ。人気の無い路線なのか、帰宅時間だけど思ったより空いてた。どこに座ろうか見回していると……見覚えのある女性と目があった。

 

「こんばんはシド君。奇遇ですね」

「奇遇だね。シトリー」

 

 灰と緑の地味なローブ、肩で切りそろえられたピンクブロンドの髪と白い肌、そしてリィズそっくりの顔つき。穏やかな笑みを浮かべて座っている彼女は、シトリー・スマート。スマート3兄妹の末っ子だと僕は一目でわかった。

 

「そっち座っていい?」

「いいですよ」

 

 ひとり分の隙間を開けて僕はシトリーの横に座った。昔からおとなしい性格だったけど、今はすっかり大人びて柔らかい雰囲気を纏っている。と思ってたら、彼女は僕を見て少し驚いた。

 

「シド君、そのケガはどうしたの?」

 

 驚いたのは再会にじゃなくて僕のケガにみたいだ。治そうと思えばいつでも治せるけど、モブとしてそんなことをするわけにはいかない、だから放置してるんだよね。

 

「ああこれ? 大したこと無いよ。転んだだけ」

「そうは見えないけど……ポーション使いますか?」

「う~ん……くれるなら貰うよ。シトリーが作ったヤツ?」

「はい。今の私は立派な錬金術師(アルケミスト)ですから」

「ありがと」

 

 ポーション瓶を受け取った僕はそれをポケットにしまった。そして改めてシトリーを見る。

…………うん、これは5年ぶりの再会じゃない。少し前にも僕はシトリーと会っている。その事を確かめたいんだけど……僕は周囲を見回した。他にも客が数人いて、その中には僕の後をつけてきた騎士団の監視役もいる。

 ダメだ、2人きりじゃないと聞けないや。諦めてシトリーに視線を戻すと、彼女も監視役の方を見ていた。僕の視線を追ったのかな? 不愉快そうに眉をひそめてる。

 

「なるほど……シド君も罪を着せられたんですね」

「ノーコメント」

「……わかりました。この話はここまでにしましょう」

 

 僕「も」? そういえばシトリーのそんな噂を聞いたような……別に聞かなくていいか。

 

「シトリーの噂はいろいろ聞いてるよ。《最優》の錬金術師だってね」

「いえいえ、私なんてまだまだです。クライさんに比べたら大したことありません」

 

 二つ名を認定されるほどシトリーはハンターとして結果を出している。そんな彼女がクライを高く評価してる……彼女からクライはどう見えてるんだろ?

 

「クライってそんなに凄いんだ。この前会ったけど、そうは見えなかったな」

「確かにクライさんの凄さは少しわかりにくいかも。でも私達のパーティで一番突出しているのはクライさんです。いずれレベル10に手が届くでしょう。クライさんはトレジャーハンターになるべく生まれた人……私はそう考えてます」

「へー……レベル10か。僕には夢のまた夢だね」

 

 シトリーは満面の笑みで自信満々にクライの事を話している。歴史を紐解いてもほんの数人しかいないトレジャーハンターの最高峰、それがレベル10。身内贔屓も入ってるとは思うけど……でもクライは5年でレベル8に上り詰めた。クライなら、あながち夢じゃないのかも。

 

「シド君の調子はどう? ハンターになったんでしょ?」

「そだねー、宝具の鑑定どうしようかな……って悩んでる」

「それは楽しみですね。もしクライさんなら、宝具専門店に鑑定依頼する事をオススメすると思うけど……」

「レベル1ハンターは、鑑定料を稼ぐのも一苦労だよ」

 

 そのままシトリーと雑談してると、路面電車が何回目かの停車駅にたどり着いて、シトリーが立ち上がった。《始まりの足跡(ファーストステップ)》のクランハウスが遠くに見えてる……ここで降りるみたいだね。

 鞄を背負いながらシトリーはまた僕に話しかけてきた。

 

「シド君、《足跡》に入る気はある? クライさんの凄さがよくわかると思うし、私もいろいろと鍛えてあげる」

「イヤだ。姉さんと同じクランには入らない」

 

 僕の即答に目を丸くするシトリー、でもすぐに口を抑えて笑った。

 

「ふふっ……そうですか。気が変わったらいつでも言ってね」

 

 降りるシトリーに軽く手を振って別れ、また路面電車が出発する。……彼女は錬金術師だけど、僕をどう鍛えるつもりだろう? イータみたいに変な薬でも飲ませてくれるのかな?

 

 

 

 目的の駅で降りた僕は、帰路の途中で多くの人とすれ違う。帰宅時間の大通りらしい喧噪の中、僕はある女性とすれ違った。

 

「後で」

 

 その囁くような小さな声は、間違いなく僕に向けられたものだった。

 

「アルファか」

 

 人ごみに紛れ、もう彼女の姿は見えない。

 

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