千変万化に負けない陰の実力者になりたくて!   作:kaneda,i9

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アルファ《アカシャの塔》って知ってる?

 部屋に戻った僕を1人の精霊人(ノーブル)が出迎えた。黒いボディスーツを纏う金髪碧眼、白い肌の美女が机に座って僕に微笑んでいる。初めて会った時から5年……アルファはすっかり大人びていた。

 

「久しぶりだねアルファ。でも今の報告担当ってベータじゃなかったっけ」

「そのベータから連絡を受けたのよ。帝都が大変なことになってるって」

 

 そう言ってアルファは一つの紙包みを掲げる。それにはチェーン展開するサンドイッチ店《まぐろなるど》の特徴的なロゴが印刷されていた。

 

「食べるでしょ?」

「もちろん!」

「水もあるわよ」

 

 僕はひったくるように包みを手に取ると、マグロ肉のサンドイッチを取り出し勢いよくほおばる。久しぶりのまともな食事だ! 流し込むための水さえおいしい。

 

「生き返る~……」

 

 人心地つくと急に疲れを感じた。ベッドに腰掛けたら、そのまま寝てしまいたくなってる。けどポケットの中でポーション瓶が自己主張していた。

 

「ちょっと脱いでいい? ポーション塗りたいんだけど」

「構わないけど……いつ用意したの? 真っ直ぐここに向かっているように見えたけど」

「偶然友達に会ってね、貰ったんだ」

 

 アルファの許しも得たので、遠慮なく上半身裸になる。……あ、このポーション凄い。少し塗っただけでみるみる痛みが引いていく。これ……かなり高級なヤツじゃないか? ケガが治ると疲れも少しはマシになった気がする。

 僕が体を拭き終えると、アルファが話を切り出した。

 

「あなたが捕まってる間に《千変万化》が動いたわ。おかげで《探索者協会》も騎士団も、動きを慌ただしくしてる」

「あのクライが……? 何かあったの?」

「帝都北の宝物殿【白狼の巣】の異変を見つけたのよ。騎士団は付近の街道を封鎖したし、探索者協会は、高レベルハンターに調査依頼を出したわ」

「ふ~ん……宝物殿の異変か」

 

 【白狼の巣】……聞き覚えは無いな。ってことはレベル3から5だ。僕が知っている宝物殿はモブとして堂々と行くレベル2以下と、修行でこっそり行くレベル6以上だけだからね。後で場所も調べておこう。

 

「そっちの方はベータとガンマが調べてるわ。それよりシド、今のあなたは危険な立場よ」

「わかってる。このままだとアレクシア失踪の犯人扱いされるね」

「騎士団は初め《千変万化》を犯人に仕立て上げようとしたみたいね。でもそれが上手くいかなくて、代わりにあなたを使おうとしてる」

「クライも疑われてたんだ」

 

 そういえば僕がアレクシアと関わるようになったのは、クライに対する彼女の依頼がキッカケだった。それが原因なのかな……?

 

「こうなると騎士団は信用できないわ」

「《教団》が入り込んでる?」

「おそらくね。騎士団に入り込む程の組織は《教団》と《狐》くらいだけど、狐ならもっと過激な事をするはずよ」

「狐?」

 

 知らない組織が急に出てきた。また変な設定を……いや、この前僕は《アカシャの塔》に襲われた(正確にはアレクシアが狙われてだけど)。《狐》とかいう組織もどこかにいるのかな? いつか出会う事を楽しみにしておこう。

 

「《教団》なら狙いは濃度の高い『英雄の血』ね。それでアレクシアを誘拐したのよ」

「てことは、彼女まだ生きてるのか」

「死んだらもう血を抜けなくなるもの」

 

 僕が頷いていると、アルファは僕の隣に腰掛け、その青い瞳で僕をじっと見つめて来た。

 

「なぜあなたが貴族令嬢を相手に、冒険とロマンスを繰り広げていたのか知らないけど」

「別にロマンスは繰り広げてないかな」

「何か、私達にも言えない理由があるのよね?」

 

 そんな大それた理由は無い。でもアルファは1人で勝手に盛り上がる。

 

「わかっているわ。あなたがとても大きな重荷を背負っていることくらい。でももっと私達を信頼して。そうすれば今回だってこんな大事になる事も無かった。そうでしょ?」

 

 さすがアルファだ。アカデミー級の演技力で僕を焚きつけようとしている……演技だよね?

 

「前向きに善処するよ」

「……ごめんなさいシド、押し付けるみたいな言い方をしてしまったわね。でも私達は全員あなたを支えたいと思っている。それだけは忘れないで」

 

 そう言ってアルファは立ち上がると、部屋の窓に手をかけた。そろそろ お別れみたいだ。

 

「そろそろ行くわ。あなたはおとなしくしてて」

「ちょっと待って。1つ聞きたいんだけど……《アカシャの塔》って知ってる?」

 

 アルファなら知ってるかな? と思って聞いたら、彼女は不思議そうに眉をひそめた。

 

「アカシャ……世界規模の魔術結社ね。背後には《教団》がついているけど、帝都では目立った活動はしていない……それがどうかしたの?」

 

 教団――は実在してないからどこかの悪徳商会かな?――がスポンサーの怪しい魔術集団。なるほどわかりやすい。魔導師は塔という単語が好き、異世界でもこのお約束は変わらないらしい。

 

「ちょっと気になる事があってね。それだけわかれば充分だよ」

「そう……こっちでも少し調べてみる」

 

 そう言ってアルファは窓を開き……今度は冷たい声で僕に聞いて来た。

 

「ところで……あなたを尋問した騎士達、先に消しておいていいかしら?」

「なんでさ。彼らは自分の仕事をしただけだよ。むしろ報酬を受け取るに値する」

「報酬ね……でも気が変わったら言って」

 

 窓枠に乗ったアルファが微笑み、黒い仮面で顔を隠す。

 

「今は人を集めてる。デルタも呼んだわ。詳しい事は準備が出来たら伝えるから」

「デルタも来るの?」

 

 デルタ。「七陰」の4番目。力こそパワー! な性格の黒毛の犬獣人だ。彼女を見てると、前世で飼ってたペットを思い出すんだよね。来るのはいいけど、帝都が大変なことになりそうだな。

 

「彼女、あなたに会いたがっていたわよ」

 

 その言葉を最後に、アルファは窓の外へと姿を消した。

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