千変万化に負けない陰の実力者になりたくて!   作:kaneda,i9

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陰の実力者は【白狼の巣】へ向かう!

 アルファにはおとなしくしててと言われたけれど、ただ待っているのも暇だな……とりあえず宝具を部屋に並べてみる。壁に飾ったり机に並べたり、ベストな配置を試行錯誤……

 ……いいね宝具。美術品に勝るとも劣らない輝きを放っている。僕はずっと考えていたんだ。陰の実力者の私室には、高価な美術品が飾られているべきだと。でも宝具は宝具で陰の実力者の部屋っぽい! この世界だとめちゃ高価な宝具は国宝扱いだし、ただ美術品を並べるよりも高級感があるかもしれない。

 

 

 そして時は来た。宝具という新たな『陰の実力者コレクション』の中でもひときわ美しい細剣を、僕は窓の向こうの夜空に掲げる。月光が刃を美しく照らした。

 

「時は満ちた……今宵は陰の世界……」

「陰の世界。眩い月光が作り出す影がまさに私達を象徴していますね」

 

 来訪者が扉を開けた瞬間、僕はそう呟いた。この気配と声は……ベータか。背後にいる彼女を一瞥し、僕は脚を組んで椅子に腰かけた。

 銀髪青目の精霊人(ノーブル)《シャドウガーデン》のベータ。よくオドオドしていた彼女も、漆黒のスライムボディスーツを纏い、アルファ同様にすっかり大人びた姿になっている。

 アルファは準備が出来たら連絡すると言っていた。ベータが来たという事は……

 

「シャドウ様の仰る通りでした。【白狼の巣】の異変に《アカシャの塔》が関わっています」

「そうか」

 

 あれ、そっちの話? まあでも気になってたから助かるよ。

 

「《教団》と《アカシャの塔》を繋ぐ資料を再確認したところ、かつて帝都を追放された大賢者ノト・コクレアの名前がありました。彼は地脈のマナ・マテリアルに干渉し、宝物殿をコントロールする理論を提唱していたとの事です」

「ふむ」

「しかし彼について多方面の資料を探りましたが、その論文は見つかりませんでした。おそらく全て処分されたか、禁書として扱われているのでしょう。そんな隠された情報を掴んでいるなんて……」

「ふっ……あの異変が人為的な物であることは最初から見当がついていた」

「さすがはシャドウ様です」

 

 さすがって言いたいのはこっちだよベータ。相変わらず、アカデミー級の演技力で僕を褒めてくれるじゃないか。

 

「白狼の巣には現在《始まりの足跡(ファーストステップ)》所属ハンターを中心とした調査隊がいます。《探索者協会》から向かう馬車も確認しました。《千変万化》の注意が【白狼の巣】に向いている今こそ作戦決行の好機、そう我々は判断しました」

「ふむ」

「目標は帝都に点在する《ディアボロス教団》フェンリル派のアジト、同時襲撃を行います。襲撃と同時にアレクシアを捜索、居所を突き止め次第確保に移ります」

 

 なるほど《シャドウガーデン》でアレクシアを探してくれるのか。それなら僕はどう行動するかな……いろいろ考えこんでいると、ベータが話を続ける。

 

「全体指揮はガンマが、現場指揮はアルファ様が執り私はその補佐を。イプシロンは後方支援を担当、デルタが先陣を切り作戦開始の合図とします。部隊ごとの構成は……」

 

 へー。七陰の殆どが帝都に来てるのか。それなら……優秀な彼女達に任せるのも悪くない。僕は片手を挙げてベータの言葉を止めた。そして彼女に、騎士団から届いた手紙を見せる。僕を犯人に仕立て上げようとする招待状だ。

 

「これは……」

「デルタには悪いが、プレリュードは我が奏でよう」

「わかりました、そのように手配を――」

「その後の事は任せる。我は……【白狼の巣】に向かう」

「え……そんな、何故ですシャドウ様!? 我々の目的は教団の殲滅ではないのですか!?」

「そうだ。だが我は運命の分岐点を知った。《アカシャの塔》深紅の女――裏切りの真意をこの目で見極めなくてはならない」

 

 あの赤い髪の女――スカーレッドさんって僕は呼んでる――彼女にもう一度会いたい。アレクシアを攫おうとしたけどそれを辞めた……あの裏切りイベントのその後が知りたいんだよね。

 場合によっては彼女を斬る事になるかもしれないけど……そうなったら後で面倒なことになりそうだな。

 

「アカシャ……裏切り? いえ、わかりました。私達はただシャドウ様に従うのみです」

「ふっ……では行くぞベータ。今宵、世界は……我らを知る」

 

 僕は立ち上がり、陰の実力者らしい不敵な笑みをベータに見せた。なんにせよ、作戦開始のプレリュードを七陰が待っている。そろそろ始めようじゃないか。

 

 

***

 

 

 すっかり日も落ちた帝都北の森。【白狼の巣】付近ではハンター達が阿鼻叫喚の状況に追い込まれていた。

 

「クライの野郎……アレのどこがスライムだよクソッ!」

 

 調査隊の全体指揮を任された《黒金十字(くろがねじゅうじ)》のリーダー《嵐撃》のスヴェンが悪態をつく。彼の前では溶けた肉体を持つ怪物、スライムもどきが暴れている。元々は白狼の巣の幻影(ファントム)ウルフナイトなのだが、アカシャの塔の魔化ポーションによって、原形がわからない程に変貌している。

 スライムのような体は、攻撃の一切が通用しない。いや届かないと言った方が正確だろう。溶けかけた肉体を不可視の膜が覆い、それが攻撃をそらしてしまう。最初に遭遇したゲインは咄嗟に剣を向け、腕をねじ切られた。取り囲んでの魔法も、スヴェンの強弓も、ウルフナイトなら一瞬で消し飛ばせるような攻撃が通用しなかった。スライムもどきがハンターに向けて腕を振るえば、周囲の木々をねじ切ってしまう。

 赤髪の錬金術師(アルケミスト)、タリアが持ってきた「シトリー製スライム特効薬」も効果が無かった。スヴェンが撤退を考え始めた時、場違いなほど落ち着いた声が響き渡る。

 

「魔力障壁です」

 

 その声の主はシトリー・スマート。彼女の登場で状況が一変した。

 

「膨大な魔力(マナ)が体表を渦巻き強力な力場を作成しています。こんな強力な魔力を纏う幻影はレベル8の宝物殿でもまず見られない。非常に興味深いです」「身体が溶解している? 幻影を構成しているマナ・マテリアルを無理やり魔力に変換しているとすれば……」「残った本能でマナ・マテリアルを求めてるとすれば、この場で最もマナ・マテリアルを吸収してる私が狙われるのも道理ですね」

 

 彼女はスライムもどきの攻撃を平然と躱しながら、推察を話し続けた。そして背負った鞄から1本の金属棒を引っ張り出す。

 

「こういうのは如何でしょうか?」

 

 シトリーの放り投げた金属棒は、いともたやすくスライムもどきの頭部に命中した。

 

対魔金属鋼(アンチマナメタル)です。やってくださいスヴェンさん」

「っ……!」

 

 スライムもどきの頭部、シトリーの投げた金属棒、スヴェンはそれがはっきり見える位置に立っていた。射手(アーチャー)の彼にとっておあつらえ向きの状況。スヴェンの放った矢は寸分たがわず金属棒を砕き、スライムもどきの頭を吹き飛ばす。先ほどまでの苦戦が嘘のような呆気ない幕切れに、誰も何も言えなかった。

 ただ1人、この結果を予測していたシトリーをのぞいて。

 

「間に合ってよかった……皆さんご無事ですか?」

 

 

***

 

 

 待ち合わせ場所についた僕は、投げつけられたブーツをキャッチした。それを投げて来たのは悪そうな顔の騎士達。彼らが詰め寄って来る。

 

「あーあ、アレクシアのブーツを持って、こんなところで何してるんだ?」

「痕跡もバッチリ残るだろうな」

「なるほど、そういうことか」

「そういうことだ」

「抵抗するなよ? しても無駄だけどな」

 

 騎士達は遠慮なく剣を抜いた。そのままどんどん近づいて来る。僕を犯人として扱って、その間に黒幕がアレクシアと一緒に姿をくらます……そんなところだろう。

 ただ顔と口ぶりが怖いだけで本当は真面目な騎士、とかじゃない根っからの悪党。なら容赦しなくていいか。

 

 眼前に来た騎士が剣を振り下ろす。僕はその剣を指で挟んで止めた。そのまま顔を蹴り上げて反撃、足先にはスライムソードの刃。呆気に取られている顔を貫いた。あと1人。

 受け止めた剣を放り投げ、今度は驚愕で目を見開く騎士に向かう。スライムの刃を伸ばし、すれ違いざまの足払い。

 

「なっ、ぐあぁぁぁっ!? 脚が、俺の脚がぁぁっ!?」

 

 悲鳴を上げて這いつくばる騎士を、僕は冷酷な目で見下ろす。モブの姿で、陰の実力者の片鱗を見せつけるように。

 

「こ、こんな事してタダで済むと思うなよ。騎士団を敵に回したらどうなるか……」

「何も心配することはない」

 

 僕の体を黒いスライムが覆い隠し、一瞬で陰の実力者に早変わりだ。黒のロングコートに黒の手袋、フードに仮面……そして漆黒のスライムソード。

 

「夜が明ければ……全ては終わっているのだから」

 

 恐怖で歪む騎士の顔を漆黒の剣で貫いた。……ところで、さっきからベータは何やってんだろう? メモ帳片手にこっちをチラチラ見てるけど。

 その時、遠くからの轟音が僕の耳に届いた。ビルでも倒れたのだろうか? そんな派手に暴れる七陰はただ1人……

 

「デルタか。ノクターンの始まりだ」

 

 僕のそばにベータが駆け寄ってくる。その顔は……僕の指示を待ち望んでいた。

 

「帝都は任せる。ぬかるなよ」

「はい! お任せくださいシャドウ様」

 

 決め顔で仮面を付けるベータを見とどけ、僕はロングコートを翻して走る。さあ帝都よ……陰の実力者を見よ!

 

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