千変万化に負けない陰の実力者になりたくて! 作:kaneda,i9
帝都に点在する《ディアボロス教団》の拠点、その1つで悲鳴がこだまする。すでに多くの教団構成員が倒れ、物言わぬ骸となりはてていた。
「ぐあぁぁぁっ!?」
「助け……んがぁっ!?」
「ば……バケモノ……!?」
惨劇を巻き起こしたのは、突如として現れた黒い影。漆黒のボディスーツを纏った黒毛の獣人が、嵐のように暴れている。剣を噛み砕き、銃弾を握りつぶし、爪で構成員を次々と引き裂いていく。
「ウウゥゥゥゥッ……!」
大量の獲物を前に彼女は獰猛な笑みを浮かべ、仮面の奥の目を爛々と輝かせる。獣人の本能をむき出しに破壊の限りを尽くす彼女こそ《シャドウガーデン》最高幹部「七陰の第4席」デルタ。彼女は漆黒の大剣を手にすると、拠点建物を真っ二つに切り裂いた。
***
【白狼の巣】へ多くのハンターを送り出した《
「ねえなんで!? なんでシトはよくて私はダメなの? 行かせてよ~クライちゃん!」
「うんうん、ダメ」
「え~!?」
「あの……お姉さま、そんな抱き着くなんて……」
シトリーに指揮権をくださいと言われたクライはあっさりと譲渡し、クランマスター室で気楽にしていた。「シトリースライム8号」の捜索もシトリーに任せた事で、心配事が何一つないのだ。リィズが抱き着いてる事も、彼女の懇願もまるで気にしていない。
「でもでも、シト一人だと危なくない? シトは
キルキル君とはシトリーが普段連れ歩いている魔法生物だ。筋骨隆々の人型で灰色の肌を持ち、紙袋で頭部を隠している。名前の由来は「きるきる……」という鳴き声からだ。
シトリーが心配、という建前を使ってでも【白狼の巣】に向かいたいリィズ。だが……クライの返事は変わらない。リィズの暴走で他のクランメンバーに迷惑をかけたくないのだ。
「絶対ダメ」
「ねえクライちゃ~ん、いいでしょ……っ!? 今のは何?」
突然リィズはクライから離れ、クランマスター室内を真剣な眼差しで見回した。それに驚きクライは目を白黒させる。
「どうしたのリィズ、何かあった?」
クライの呼びかけに答えず、リィズは呆けた顔の弟子を睨みつける。
「おいティー! 聞こえたか?」
「え? 何がですか、お姉さま?」
「あぁっ!? 気い抜いてんじゃねえ!」
「ひぃぃっ!? ごめんなさいごめんなさい!」
ティノに怒鳴りつけ、リィズはバルコニーへのガラス戸を勢いよく開いた。広々とした5階バルコニーは帝都の大通りを一望できる。そして彼女は見た。帝都の各地で上がる火の手を。そして聞こえてくるかすかな悲鳴。遠く離れていても、帝都有数の
後から来たクライも街を見渡し、登る黒煙に気づく。
「火事かな? しかもこんなに同時に……僕達も気を付けないとね」
のん気な事を言うクライの隣で、リィズは歓喜の表情を浮かべていた。期待で目を輝かせ、興奮で肩を震わせている。
「あはっ。これを待ってたんだねクライちゃん! だから邪魔なシトを追い払って、私を留守番させてたんだ! 贔屓してたのはシトじゃなくて……私だ!」
「え?」
状況がわからず呆気にとられるクライだったが、直後の爆発音に目を瞬かせる。新たに火の手が上がる瞬間を彼も目撃した。
「もしかして……何か事件?」
「行くぞティー! 帝都で好きに暴れられるなんて……こんなチャンス滅多に無えぞ!」
「いやお姉さまはよく暴れて……なんでもありません!!」
クライが気づいた時にはもう、リィズはテラスの手すりに脚をかけていた。その肩にティノを担いでいる。
「それじゃあクライちゃん、行って来るね~!」
「待ってくださいお姉さま!? ここ5階……」
「ああうん……いってらっしゃい」
「止めてくださいますたぁぁぁぁ…………!」
飛び降りるリィズを見とどけ、遠ざかるティノの悲鳴が聞こえなくなった後、クライはガラス戸を閉めてカーテンを戻した。そして自分の執務机に戻り……いつも通り宝具を磨き始める。
すると間もなく、慌ただしく近づく足音をクライは聞いた。クランマスター室の扉が勢い良く開かれ、副マスターのエヴァが息を切らせながら駆け込んでくる。
「クライさん、大変です! 外を見てください!」
「……見なくてもいいんじゃないかな?」
「ダメです! ってその反応……見たんですね? ならクランの方針と指示をお願いします」
「エヴァに任せるよ。外の騒ぎはリィズが何とかするって」
どこまでも気楽なクライに、エヴァは不安そうに眉をひそめた。
「リィズさんを行かせたんですか? 帝都の問題を彼女に任せて、本当に大丈夫なんですか?」
「いや大丈夫でしょ…………多分大丈夫…………うん、ちょっと探してくるよ」
重い腰を上げ、クライ・アンドリヒは帝都へと繰り出す。