千変万化に負けない陰の実力者になりたくて! 作:kaneda,i9
瓦礫の山と変わり果てた《ディアボロス教団》の拠点。その瓦礫の山の上に立つのは、黒いボディスーツを纏った黒毛の犬獣人、デルタだ。
「アオォーーン……!」
本能のままデルタは吠える。それは勝利の勝鬨か、それとももう終わってしまった事への不満なのか。叫び終えたデルタはヒクヒクと鼻を動かし、獣人の優れた嗅覚で敵を探る。すると彼女はつまらなそうにため息をついた。
「……物足りないのです」
どうやら敵対的な反応を感じなかったようだ。警戒を解き、大きく伸びをするデルタ。そして首をかしげる。指示を思い出そうと頭をひねっている。
「えーっと……アルファ様なんて言ってたです?」
作戦開始前の指示、実際に言われたのは「終わったら一度戻って来て」なのだが……彼女が思い出す事は無かった。なぜなら――
「っ!!」
デルタは直感的に振り向いた。見えたのは銀の光。かろうじて防御が間に合ったが、デルタは吹っ飛ばされ瓦礫の山を転がり落ちた。麓で体勢を立て直し瓦礫の山を見上げる。そこには、月光を背に佇む1人のハンターがいた。
「やっほーバカ犬、久しぶり~。やっとリィズちゃんに倒される気になったのぉ?」
後ろで纏めたピンクブロンドの髪、軽装と不釣り合いな銀色ブーツ。《絶影》リィズ・スマートが嗤う髑髏の仮面を被り、デルタを見下ろしていた。
「デルタは犬じゃない!
唸り声をあげ、尻尾を逆立て、デルタはリィズを睨みつける。2人はこれが初対面では無かった。2人が出会ったのは、かつて《蛇》と呼ばれる犯罪組織を《
「やっぱり躾がなってねえなぁバカ犬! テメエは野良犬か? それともバカなペットのご主人様も、躾ができないバカなのか?」
(あの時はアンセム兄に止められたけど、今日は逃がさねえ……)
「ボスをバカにするななのです! メス盗賊……絶対に許さない!」
(あの時はデカ鎧に邪魔されたけど、そうじゃなきゃ絶対デルタが勝ってた! だから今度こそ……)
互いに好戦的な2人は瞬間的に心を燃やす。闘志滾る視線が交錯し……同時に叫んだ。
「ぶっ殺す!」
「ぶち殺してやるのです!」
動き出したのも同時だが、先手を取ったのはリィズだ。帝都最速を示す二つ名《絶影》を受け継いだのは伊達ではない。
「おらぁっ!」
リィズは一瞬でデルタに接近し、顔面に拳を叩きつける。瞬く間に3発の拳を。だがデルタは踏みとどまり……笑った。
「うがあぁっ!」
デルタは躊躇いなくリィズに向けてツメを突き出す。教団員を何十、いやこれまで何百と貫いてきたスライムの刃を。それをリィズは僅かな首の動きだけで躱し……仮面の奥で笑みを浮かべた。
「遅え!」
「きゃん!?」
蹴り飛ばされたデルタが短い悲鳴を上げる。すかさず空中で身をひるがえし、激突するはずだった建物の壁面に着地した。衝撃で壁にヒビが入る。
「うぅぅぅっ……あぁぁっ!」
デルタは跳んだ。踏み台にした建物が崩れる。一直線に向かって来るデルタを、リィズは跳び下がって躱した。しかしリィズを狙った両腕は地面を破壊し、大量の粉塵を巻き上げる。両者の視界が遮られてしまう。
粉塵の中、デルタは静かに待ち構える。一瞬の静寂の後……目を見開いた。
「そこです!」
「チィッ!」
迷いなく放たれた手刀は、リィズの足を捉えた。死角からの蹴りとツメがぶつかり火花を散らす。デルタには獣人の嗅覚と聴覚があり、リィズはそもそも仮面で視界を塞いでいる。粉塵など問題にならない。
力のぶつかり合いで吹っ飛ばされたリィズは、空中で不自然に急停止し音も無く着地する。
「相変わらずのバカ力だなぁバカ犬!」
「そっちこそ相変わらずすばしっこいのです! あとデルタは犬じゃない!」
無人の直線道路の上で睨み合う2人。今度はデルタが先に動く。地を蹴り、壁を蹴り、もう一度壁を蹴る。一息でリィズに急接近し飛びかかる。
しかしリィズにはその動きが見えていた。身を屈めてデルタのツメをくぐって躱す。リィズの後方で何かの破壊音が響いた。
互いに相手に背中を向ける状況。デルタが振り向いた瞬間、既にリィズの攻撃は始まっていた。顔面に回し蹴りを受けてしまう。
「うぐっ……!?」
「動くんじゃねえぞ!」
よろめくデルタを、リィズの後ろ回し蹴りが吹っ飛ばす。蹴り飛ばされ壁に激突するデルタ。彼女が体勢を立て直す暇も無く、さらにリィズの跳び蹴りがデルタを壁にめり込ませる。
「ああぁぁっ!!」
だがデルタも黙ってはいない。膂力を持って強引に壁から脱出し、勢いのまま右腕を横薙ぎに振るう。着地した瞬間のリィズは、身を反らす事しかできなかった。デルタのツメが、リィズの顔から仮面を弾き飛ばす。
仮面の下から現れた、驚愕で見開かれた目……それが瞬時に怒りの色を宿した。
「テメエ、よくもうちのシンボルを!」
その仮面はクライが考えた《嘆きの亡霊》のシンボルであり、クライがこだわりにこだわった特注品。リィズにとっての逆鱗だった。突き出されるデルタの左手に向かってリィズは踏み込む。ツメが頬をかすめ、耳を抉る。しかしリィズは止まらない。
「おらぁっ!」
「ぐぅっ……!?」
拳がデルタの腹部にめり込んだ。そのままデルタの体が宙に浮く。そして追いかけるように跳んだリィズが、踏みつけるようにデルタを蹴り飛ばした。地面に激突し、転がり……デルタはすぐに体勢を立て直す。反動で離れたリィズに向かって唸り声をあげる。
「ウゥゥッ……やってくれたですねメス盗賊……!」
「そっちこそ、うちのシンボル傷つけて……タダじゃ済まさねえ! まだ倒れるんじゃねえぞ!」
「お前は獲物! 狩るのはデルタなのです!」
リィズが目にも止まらぬ速さで動く。デルタの踏み込みが地面を抉る。街路樹が折れ、街灯が曲がり、窓ガラスが粉々に砕け散る。
2人の戦いは激化の一途をたどった。桁外れの身体能力で風のように速いデルタと、《絶影》の技で風よりも速いリィズ。獣人の本能と鍛え抜かれた技の激突。それが破壊の嵐となって帝都の一角を蹂躙していく。
幸いなのはその地区が無人だと言う事だ。周辺住民はデルタが教団拠点を破壊した時点で避難している。
「「うあぁぁぁっ!」」
元悪魔憑きと高レベルハンター、並外れた体力を持つ2人の戦いはいつまで続くのだろうか?