千変万化に負けない陰の実力者になりたくて! 作:kaneda,i9
リィズに置いてかれ、怪物と共に取り残されたティノ。
「ひぃぃっ!?」
彼女は必死に怪物の攻撃を躱していた。隙を見て突きや蹴りを叩きこんでいるが、効いている様子は無い。
(なんでこんな怪物が帝都にいるんですか!? ウルフナイトより手強いじゃないですか!)
攻撃が通用しない事にティノは焦りを覚える。【白狼の巣】ではウルフナイトに通用する短剣を拾えたのだが、今その剣は無い。宝物殿に放置してしまった。
(とにかく私1人じゃ無理です倒せません! 他のハンターと合流? どこに? お姉さまに助けを求める? 怒られる!)
考えてる間にも、怪物はティノを狙ってツメを横薙ぎに払う。
「ひゃぁぁっ!?」
必死の形相で駆け出すティノ。道路の上を転がりツメを躱すが、彼女の後ろにあった建物が倒壊を始めた。降り注ぐ瓦礫、巻き込まれて倒れる街路樹……その光景を見た彼女は、決意の表情で立ち上がった。
「や、やっぱり……私がここで足止めします!」
(逃げだしたら……帝都が壊されて……ますたぁの名前に泥を塗ってしまいます!)
身構え、怪物の動きに注視する。そんな彼女の目に映ったのは、振り上げられた怪物の腕と……その背後に迫る1人の
「はあぁぁぁっ!」
その赤髪の剣士は一撃で怪物の腕を切り落とした。そのままティノの前に着地し、苦しみ悶える怪物に向かって剣を構える。一瞬の出来事に、ティノは呆気に取られてしまった。
「え……あなたは……?」
「私は帝国第3騎士団団長、アイリス・ミドガルです。アナタですね? 怪物に1人戦いを挑んだ女性ハンターは?」
「え?」
「避難してきた人が言ってました。勇敢なハンターのおかげで逃げられたと……後は私に任せてください」
落ち着いたアイリスの言葉にティノは戸惑う。騎士団の人間と中堅ハンターである自分ならハンターの方が強いはずだと。しかし団長を名乗った目の前の女性は、怪物の腕を切り落とす実力者……一瞬の逡巡を経て、ティノは判断を下す。
(この騎士は強い、私よりも)
「……わかりました。でも! 逃げるわけにはいきません。見届けさせてもらいます!」
「どうぞご自由に」
アイリスの落ち着いた返答を聞き、ティノは邪魔にならないように距離を取った。すると時を同じくして、怪物の体に異変が起きる。傷口付近の肉体が膨張し……切り落とされた右腕が瞬時に再生したのだ!
「再生……ですか。ならば」
腕を乱暴に振り回す怪物に向かって、アイリスは躊躇い無く走り出す。攻撃を見切り、懐まで接近し、渾身の一撃で怪物を吹き飛ばした。怪物は瓦礫の山に激突する。
「再生できなくなるまで、切り刻むのみ!」
ティノの目から見ても、それは一方的な戦いだった。アイリスの剣は力強く攻撃的、怪物の巨体を吹き飛ばす程の剛剣だ。絶え間なく繰り出される技が、怪物に一切の反撃を許さない。
(すごい……騎士団じゃなかったら、ルークお兄様に襲われてそうです)
《
やがて、全身傷だらけになった怪物は身動きが出来なくなる。どうやら再生が間に合っていないようだ。これを好機と見たアイリスは、最後の攻撃を構えようとする。
「これで終わりにします!」
「……それが苦しみを長引かせるだけだと、なぜ気づけないの?」
アイリスと怪物の間に、突如として何者かが現れた。漆黒のボディスーツを纏う金髪の
(着地した……ようには見えたけど、でもどこから……?)
「っ!? 何者です!」
「アルファ」
アイリスの問いかけに返ってきたのは端的な名乗り。彼女は仮面で顔を隠していたが、その奥で鋭い眼光が2人を射抜く。そしてティノは気づいた。その精霊人の佇まいに、まるで隙が見当たらない事に。
(精霊人なのに……お姉さまみたいです)
ティノとアイリスが見守る中、アルファと名乗った精霊人は怪物に視線を向けた。そのまま語り掛けるように言葉を紡ぐ。
「可哀そうに、痛かったでしょう。もう苦しむことはない。悲しむことも無い……」
立ち上がろうとする怪物の前でアルファは漆黒の剣を構えた。一瞬前まで、手の中に存在していなかった剣を。
(やっぱり彼女は前衛……!? でもどこから剣を!?)
すると怪物が叫び、右腕をアルファに向けて振り下ろした。粉塵を巻き上げ、地面を揺るがす。しかしそこにアルファの姿は無かった。
「!? 奴はどこに……」
「上です!」
ティノは叫んだ。アルファが跳んで躱すのを見たのだ。しかしその高さは一瞬で怪物を飛び越えられる程に高い。そして空中でアルファは頭上へ剣を掲げる。剣から青い光が迸り、夜の街を染め上げる。
「だから、もう泣かないで」
着地と同時に剣が振り下ろされた。爆発的に膨れ上がった青い光が怪物を飲み込み、ティノとアイリスの視界も染め上げていく。
(眩しい……何が起きてるの?)
やがて光が収まると、怪物の姿はどこにもなかった。怪物のいた場所には、一人の少女が倒れている。左腕で何かを大事そうに抱えている少女が。立ちすくむアルファはじっとその少女を見下ろしていた。
「もっと早く、私達が気づいていれば……」
小さく呟くと、アルファはアイリスを一瞥する。そして、そのままどこかに去ろうとしていた。すかさずアイリスが呼び止める。
「待ちなさい! あなたは何者なの。もし帝都の平和を脅かすのであれば帝国騎士団が……」
「観客は観客らしく、舞台を眺めていなさい」
取りつく島も無く、アルファは姿を消した。彼女が屋根伝いに去っていくのがティノには見えたが、とても追う気にはなれなかった。
「行ってしまい……ましたね……」
「ええ……」
(あの光は何? 宝具ですか? ますたぁなら何か知ってるでしょうか……)
2人は呆然と立ち尽くしていたが、不意にアイリスが妹の名を呟く。
「アレクシア……無事でいて」
「え?」
「……後は私達騎士団に任せて、あなたは帰りなさい」
そうティノに呼びかけアイリスは走り出した。またしても取り残されたティノ。彼女は迷う。
(お姉さまは襲撃犯を探しているのでしょうか。でも私は……ますたぁ、ますたぁならどうするんですか?)
クライなら、ティノが尊敬する神の如きハンターなら――そう考え始めてすぐティノは、初めて彼に会った時の事を思い出した。
『君、大丈夫?』
(あの時ますたぁは通りすがりで、困っていた私を助けてくれた。助ける? ……!)
ティノは先程まで怪物がいた場所に、一糸まとわぬ姿で倒れている少女に駆け寄った。雪のように白い髪が目立つその少女からは、まるで生気が感じられない。ティノは恐る恐る少女の顔に手を伸ばす。
「息は……ある! 大丈夫、絶対助けますから!」
リィズは少女を抱き上げて走りだした。少女がずっと抱きしめていた、赤い宝石の短剣を握りしめて。