千変万化に負けない陰の実力者になりたくて! 作:kaneda,i9
「クソッ、奴らが……シャドウガーデンこそが、敵だったのか!」
シャドウガーデンの襲撃から逃げ出した「蛇の眼」……プリスキンは地下通路を走っていた。その顔は憔悴しきっている。
「そうだ、俺の構築した「眼」をトレジャーハンター如きが掻い潜れるわけがない。全部シャドウガーデンの連中がやったんだ」
密会中の首領が《
「蛇はもうダメかもしれんが……まだ俺だけはチャンスがあるはずだ」
幹部が壊滅状態となった事で《蛇》の組織力は大きく削がれてしまった。だから組織を捨て、《ディアボロス教団》の一員として再起を図る……それが《蛇》の幹部だった男、プリスキンの出した結論だった。
まるで迷宮のような帝都地下を走り、出口にたどり着いたプリスキンは地上への扉を開けた。階段を上り、
「シャドウガーデンの情報を手土産にすれば……まだ……」
「あっ、ちょうどいいところに人が……」
「何かブツブツ言ってるけど、アレでいいの?」
「人を第1印象で決めつけるのはよくないよ。すみませーん、ちょっといいですか?」
独り言ちた言葉に返事があった。顔を上げたプリスキンの目に映ったのは、2人のハンター。
1人は黒い長髪をなびかせる黒目の女
もう1人は……一般人と見間違えてしまいそうなほど覇気のない男、しかし幹部襲撃の裏には必ず……この男の影があった。《千変万化》の二つ名を持ち、レベル8目前と噂されるハンター。彼の名は……
「誰かハンターを見かけませんでしたか? 僕達おいてけぼりにされちゃって……」
「クライ……アンドリヒ……!?」
表でも裏でも瞬く間に名を上げたパーティ《
「えっ? ……どちらさまですか?」
この期に及んでとぼけた顔をするクライに対し、プリスキンは即座に杖を向け風魔法を放った。その杖は宝具、宝具と同じ風属性の刃が2人を襲う。
クライの反応は速かった。クレアを庇うように跳び出し風の刃に向けて手を伸ばし……風の刃が消えた。クライの懐で宝具の1つが力を失う。
「え、なに? また? ……いい加減にしてほしいな」
「バカな、防いだだと!?」
驚くプリスキンに対しクレアが勢いよく接近、抜刀しながら剣を振り上げる。
「誰かは知らないけど、売られたケンカは買うわよ!」
クレアの叫びが夜の街に響いた。プリスキンはかろうじて初撃を躱し、2撃目が来る直前に
「蛇を舐めるな!」
クレアの剣は躱され、カウンターの拳が逆にクレアを殴り飛ばした。地面を転がるクレアを尻目に、プリスキンはその場を逃走。建物の隙間を走り抜けようとして……しかし彼は急に立ち止まった。その足元に黒い矢が突き刺さる。
「やれやれ……とんだ貧乏くじですね」
プリスキンが通り抜けようとした建物の隙間から、黒いボディスーツを纏う女性が姿を現した。銀髪のショートヘア、仮面の奥に青い瞳が見える彼女は《シャドウガーデン》のベータ。「七陰の第2席」である彼女は、スライム製の弓を剣へと変形させる。
「黒づくめの女……貴様もシャドウガーデン、まさか千変万化と組んでいたのか!?」
「さあ、どうかしら」
狼狽えるプリスキンに対し、ベータは冷ややかな対応をする。しかし内心では焦っていた。
(おそらくこの男が蛇の眼……ここにいるって事はアルファ様から逃げおおせたって事? 取り逃すわけにはいかない)
《蛇》の幹部から《ディアボロス教団》の情報を聞き出す……シャドウガーデンの計画はことごとく《
七陰全員が参加する中で、ベータは予備戦力として後方待機を命じられていた。多少の不満はあったが後方指揮をするガンマを補佐し、何事も無く終わる事をベータは願っていた。《千変万化》を見つけるまでは。
(まさかクレア様を連れて来るなんて……
視界の隅で、立ち上がろうとするクレアを確認し、ベータは意識を「蛇の眼」へと戻す。《千変万化》とクレアに姿を晒してしまったが、ここで奴を足止めしなければ表通りまで逃げられ、見失ってしまうだろう。
(見られた事はイプシロンになじられそうだけど……今頃ガンマが皆を呼び戻してるはず。でも私1人だって、奴を捕まえて見せるわ)
「教団の事、洗いざらい話してもらうから」
ベータは小さくため息を零し、プリスキンに向かって一歩踏み出した。すると狼狽していたプリスキンの眼に殺意が戻る。一呼吸で詠唱を終え、風の刃をベータに向けて連続で放つ。
「っ!?」
迫る不可視の刃を前に、ベータは回避行動を取った。躱しきれなかった風の刃が、たやすくボディスーツを切り裂いていく。並の
(まずい……距離を詰めないと!)
危険を感じたベータは走る。スライムを掴み、
(今……!)
「……『エアロストーム』!」
剣を握り直しプリスキンに向かって踏み込むベータ。しかし突如として暴風が吹き荒れる。プリスキンの魔法だ。ベータの追撃を予測したプリスキンは、全方位に向けて風を巻き起こしたのだ。
「しまっ……きゃぁっ!?」
ベータは攻撃に入る瞬間だった。不安定な姿勢、耐えきれず風に吹き飛ばされてしまう。それを見たプリスキンの口元に一瞬笑みが浮かぶ。杖を空中のベータに向け、詠唱を始めた。
「……『エアロ――」
「どこ見てんのよ!」
発動直前の魔法をクレアが遮った。体勢を立て直した彼女は、再びプリスキンに向かって剣を振るう。
「クソッ、邪魔をするなぁ!」
「思い出したわ。アンタの顔、手配書で見たわよ!」
プリスキンに肉薄するクレア、一流の
「それはもう見た!」
悪あがきは2度も通じない。クレアは冷静に拳を躱し、逆に飛び膝蹴りでカウンターを決める。そのまま対
(似てる……シャドウ様の剣と)
地面に横たわりながらベータは驚いた。シャドウから教わった剣術を忠実に使うベータだからこそわかる。クレアの剣技の根底にはシャドウ様の考案した剣術……「徹底的に研ぎ澄ませた基本の技」があると。
「……感心してる場合じゃないわね、加勢しないと」
クレアにもしもの事があればシャドウに顔向けできない――独り言ち立ち上がるベータ。そんな彼女をクライが緊張感のない顔で見つめていた。クレアに加勢するそぶりすら見せずに。
視線に気づいたベータは息を呑み、警戒心を露わに睨み返す。ディアボロス教団の息がかかった《蛇》に対して大きな打撃を与えたパーティ《
「……何の用ですか、千変万化」
「え? いや何でもないよ、B。ただ僕も忙しいからさ……」
B。そう呼ばれたベータは後ずさり、顔から血の気が引いていく。
(わ、私の名前を知っているの……!?)
ベータとはシャドウから授かった名前、そしてアルファベットにおけるB。《千変万化》がBと口にしたのは偶然の一致とは思えない。
しかし外部の人間にベータと名乗ったことはない。もしかしたら《ディアボロス教団》に聞かれた可能性はあるが、彼は《蛇》と敵対している。《教団》の一員という可能性は低いだろう。つまり……彼は独自の情報網で《シャドウガーデン》の内情を掴んでいるという事になる。
(まさかガーデンに内通者が!? いえ、そんなはずないわ。でも……)
疑心暗義に陥るベータ。驚愕のあまり、彼女の脚は止まってしまった。
「頑張れクレアー! もう少しで謎の男Aに勝てるぞー!」
「クライ黙ってて!」
「あれぇクライちゃん!? 隠し通路走った私より先なんて……さっすがぁ!」
「待てよリィズ! もし
その後まもなく《シャドウガーデン》より早く《嘆きの亡霊》メンバーが現れプリスキンを捕縛。ベータは隠れ、それを見届ける事しかできなかった。
アルファも含め負傷者多数。入手できた情報はわずか……《シャドウガーデン》の作戦行動は失敗に終わった。