千変万化に負けない陰の実力者になりたくて!   作:kaneda,i9

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帝都動乱#6_《千変万化》の夢

「くそっ、体力もバカかよバカ犬! まだ遊び足りねえみたいだなぁ!」

「グルルルルッ……」

 

 帝都に破壊をもたらすリィズとデルタの戦い。それもついに佳境を迎えていた。速さで圧倒するリィズが優勢に見えるが、彼女の表情に余裕は無い。体のあちこちが引き裂かれ、そこから血がにじんでいる。

 

(こっちはマトモに喰らったらアウトなのに、向こうはリィズちゃんの蹴りに全く堪えてねえ! 頑丈すぎるだろ!)

 

 リィズは知る由も無いが、デルタは元「悪魔憑き」の獣人。高い身体能力と魔力を両立し、マナ・マテリアルに対する適正も高い。しかしその能力に驕らず修練を積み重ねて来た。高レベルハンターに見劣りしない実力者なのだ。

 

 ――リィズのハンターとしての勘が、常に死の危険を告げている。

 

 一方のデルタは、額からの流血が顔を彩っていた。ボディスーツで隠れているが、全身もあざだらけになっている。

 

(やっぱりメス盗賊(シーフ)はデルタより速い……でもあと少し、あと少しで追いつけそうなのです!)

 

 デルタは知る由もないが、リィズの二つ名《絶影》は戦闘術の名前でもある。帝都最速の盗賊(シーフ)が編み出したその戦闘術は、影すら残さぬ神速を発揮する。リィズは《絶影》と呼ばれた盗賊に師事し、戦闘術と二つ名、両方を受け継いだ。

 

 ――その速度に、デルタは迫ろうとしている。

 

「うがぁぁぁ……ああぁっ!!」

「ちぃっ!」

 

 またしても、デルタのツメがリィズの腕をかすめた。追撃をブリッジ回避し、リィズはそのままバク転から後退。デルタから距離をとる。速さを増すデルタの攻撃に、苛立ちを隠せない様子だ。対するデルタは、新たな戦い方を見せる。

 

「これで、どうです!」

 

 デルタは瓦礫を、折れた街灯を、次々と投げつける。しかしリィズにとってそれは遅すぎる攻撃だった。軽々と見切り、呆れた様子でデルタを笑う。

 

「テメエ、リィズちゃんをバカにしてんのかぁ? こんなのが通用するとでも――」

「デルタの本気は……これから……であぁぁぁっ!」

「っ……!? バカ力かよ!」

 

 咆哮と共にデルタは巨大な瓦礫を持ち上げた。路面電車と同等のサイズの瓦礫、それをリィズめがけて投げつける。大きさ、質量、共に桁外れな瓦礫を、リィズは垂直跳躍で回避した。彼女の後方で、また別の建物が崩れ始める。

 

「もらったのです!」

 

 しかしそれはデルタの狙い通りだった。人間は空中を自由自在に動くことができない、優れた魔導師(マギ)でもそれは難しい。ましてや盗賊なら。

 空中のリィズに向かってデルタは跳びかかる。鋭いスライム刃のツメがリィズを捉えようとした瞬間……リィズは空を跳んだ。

 

天に至る起源(ハイエストルーツ)』それは金属ブーツ型の宝具、「宙を一歩だけ蹴る事ができる」能力を持つ。その力でリィズは宙を蹴り、デルタのツメを紙一重で躱した!

 

「えぇっ!?」

 

 驚愕するデルタ。一転して、今度は彼女が空中に取り残されている。リィズは瓦礫の1つに着地し再度跳躍、空中のデルタめがけて空中回し蹴りを放った。

 

「残念だったなぁ!」

「んがぁぁ……!?」

 

 蹴り飛ばされたデルタが地面に衝突し、勢いのまま転がっていく。しかし彼女はまだ立ち上がった。震える肩……それは痛みでは無く怒り。彼女の目には真の怒りと殺意が漲っていた。

 

「フゥーッ……ころす」

 

 デルタの腕に魔力(マナ)が集まる。その手の中でスライムが剣になり、デルタの背丈をはるかに超える巨大な刃を形成していく。剣と呼ぶにはあまりにも武骨で巨大なそれは『鉄塊』と呼ばれていた。デルタが本気になった時にだけ見せる、彼女の真の武器だ。

 

「宝具……いやスライムか? そうやって隠してたのかよバカ犬! ますます面白くなってきたじゃねえか……!」

 

 かつてと同じく、巨大な剣を構えるデルタの姿に……リィズの目が爛々と輝く。

 

 巨大な剣に魔力を集めるデルタ、その刃を睨むリィズ。2人は慎重に睨み合う。立ち位置を調整しながらじりじりと近づいていく。次の一撃が勝敗を分ける……そんな予感を両者は抱いたのかもしれない。

 どちらが先に動くのか……傷口から流れた血が、2人の足元に血だまりを作っていく……そんな時だった。

 

「……そこにいるのは誰だ!」

「さすが絶影ね。目の前の敵だけではなく、戦場全体に気を配っている」

「へ……アルファ様!?」

 

 屋上から2人を見下ろす存在に、リィズはいち早く気づいた。それはデルタと同じく漆黒のボディスーツと仮面を身に着ける精霊人(ノーブル)、金の長髪をなびかせる彼女はアルファだ。戻ってこないデルタを探しに来たのだ。

 遅れて気づいたデルタのそばに、アルファは着地した。彼女に冷たい視線を向けられて、デルタは慌てふためく。

 

「こ、これはその……違うのです! 帰ろうと思ってたんだけど嘆霊(ストグリ)のメス盗賊に襲われたのです! だから悪いのはデルタじゃなくて……」

「黙りなさい」

「はいぃっ!」

 

 言い訳を並び立てるデルタに、もはやリィズとの戦闘意欲は無かった。デルタの手放した『鉄塊』が地面に落ちて鈍い音を立てる。リィズの蹴りをアルファはスライムソードで受け止めた。一瞬で接近し、リィズはアルファを間近で睨みつけている。

 

「テメエ……邪魔すんじゃねえ。リィズちゃんはテメエんとこのバカ犬を躾けてやってたんだ」

「あらありがとう。でも必要ないわ。後できつく言っておくから」

「ひぃっ……!」

「ちっ……」

 

 怯えて縮こまるデルタに、リィズは興味を失う。そのまま距離を取ると、次の相手としてアルファを見据えた。鋭い視線に対し、アルファは冷静な態度を見せる。彼女は急ぎ戻らなければならず、リィズと戦う理由は無かった。

 

「絶影、貴方がどうして帝都に残っているのかはわからないけれど……でももう時間切れ。貴方と遊んでいる時間は無いの」

「は? そっちの都合なんて知るかよ。テメエはここで――」

「お~い、リィズ~……!」

 

 その時、四つ角の向こうから気の抜けた男の声が聞こえて来た。姿を現したのは……クライ・アンドリヒ。《千変万化》の二つ名を持つ男がのんびりと歩いて来る。アルファは息を呑んだ。

 

「千変万化……!? どうしてここに……」

(あれだけの人数を送り込んで、自分は白狼の巣に向かわなかったと言うの……? まさか私達が動く事を予期していた? だから絶影もここに……)

 

「クライちゃ~ん! アイツぶっ飛ばしていい? いいよね? だめぇ?」

 

 一方リィズは、笑顔でクライに懇願を始めた。先程までの剣幕が嘘のようだ。血濡れで笑う彼女の姿に、クライは引いている。

 

「リィズ……血まみれじゃないか!? 大丈夫なの?」

「これくらい平気! それよりぃ……アイツと戦わせて!」

「大丈夫ならいいけど……アイツって?」

「そこの《シャドウガーデン》の! 多分ルークちゃんが斬りたがってるヤツ!」

 

 リィズが指さす先……アルファを見つめて、クライは首を傾げた。

 

「シャドウガーデン……覚えてないなぁ」

(覚えてない……笑えない冗談ね。こっちは随分と頭を悩ませてるのに)

 

 仮面の奥でアルファの瞳が揺れる。《千変万化》……《シャドウガーデン》にとって因縁の相手。盟主シャドウが警戒した男。予期せぬ対面に焦りながらも、アルファは平静を装う。

 幸いなことに、クライが現れてからリィズはすっかりおとなしくなっていた。そうでなければ、クライと話すどころではなかっただろう。

 

「私はシャドウガーデンのアルファ。こうして会うのは初めてね、千変万化。《蛇》の時は随分と世話になったわ」

「蛇? ……蛇ってなんだっけリィズ?」

「もう~クライちゃ~ん! 知らないふりするのうますぎ!」

 

 とぼけているのか、本当に忘れているのか……クライの反応にアルファは虚しさを覚えた。

 

(そう……《蛇》も私達も、彼にとっては取るに足らない存在って事かしら。なら彼が帝都に残った理由は……アレクシア、そう考えるのが妥当でしょう)

「千変万化、私達は貴方達と戦うつもりは無いわ。貴方もそうでしょ?」

 

 彼女が改めて《シャドウガーデン》としての意思を表明すると、クライは迷うことなく頷いた。

 

「うんうん、そうだね。帰ろうリィズ」

「えーっ!? もっとやらせてよクライちゃん! 絶対負けないから。ね?」

「ダメだよリィズ、ケガしてるじゃないか」

「こんなの大したこと無いよぉ。クライちゃん『創造の神薬(ハイエリクサ)』持ってるでしょ? だから手とか脚とか吹っ飛んでも……」

「ダメ」

「後で同じの用意するから……」

「ダメなものはダメ。帝都がメチャクチャになっちゃうよ」

 

「やはり……千変万化、貴方も気づいているようね」

 

 帝都襲撃には大きなリスクがある。それは、帝都にいるクライ以外のレベル8ハンターだ。《シャドウガーデン》が電撃的な同時襲撃を決行したのも、アルファが急いでいるのも、それが理由だ。

 

(《深淵火滅》……帝都最強の魔導師(マギ)が現れたら、私達の拠点も巻き添えになりかねないもの)

 

 作戦予定時間は残りわずか。これからアレクシア捜索に向かう必要がある。しかしそれでも……アルファはこの機会を逃したくなかった。今後も帝都で活動するうえで、クライの真意を確かめる必要がある。

 

「最後に1つだけ聞かせて……千変万化、貴方の目的は何?」

「そんなの決まってるじゃん! クライちゃんは世界最強のハンターになるの! それで《嘆きの亡霊(ストレンジグリーフ)》を世界最強のパーティにするのが私達の夢!」

「リィズ・スマート、貴方には聞いてないわ」

「目的……そりゃ引退……いや」

 

 クライは隣のリィズを一瞥すると、ハードボイルドな笑みでアルファに答えた。

 

「大切な友達の夢を応援する事……かな」

「クライちゃん……もう、カッコつけすぎ!」

「わっちょっと、リィズ!?」

 

 感極まったのか、リィズがクライに勢いよく抱き着いた。よろめきながら、困ったように苦笑いするクライ。仲睦まじい光景にアルファは何も言えず……不愉快そうに目を細めている。クライが真面目に答えていないと、彼女はそう感じたのだ。

 

「そう……千変万化、敵にならない事を祈るわ。行くわよデルタ」

「は、はいなのです!」

 

 踵を返したアルファ。その後をデルタが慌てて追いかける。身軽に去っていく2人を、クライはのんびりと眺め……リィズは名残惜しそうに叫んだ。

 

「あぁ~逃げられた! もう……クライちゃん、次いつアイツらに会えるかな? 私、もっと強くなってバカ犬をぶちのめすから」

「うんうん、そうだね……あ、そうだ」

 

 リィズの宣言を聞き流したクライは、嗤う骸骨の仮面を取り出した。デルタのツメの跡が刻まれた仮面を、リィズの手に返す。

 

「これリィズのでしょ? 向こうに落ちてたよ」

「ありがとうクライちゃん! でも傷つけちゃってごめんね」

「別にいいよ。また作ればいい」

「それはそうなんだけど~……やっぱりこれが私達のシンボルじゃん? クライちゃんが考えてくれた私達のシンボル」

「そうだね。僕が考えたんだよね……」

 

 2人は腕を組みながら、クランハウスに帰っていく。街の惨状からは眼をそらして。

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