千変万化に負けない陰の実力者になりたくて! 作:kaneda,i9
「ガークさんにはもう話しましたが、私には……今の現象と、そしてそれを行った者に心当たりがあります」
【白狼の巣】を調査していたハンター達に、ガーク支部長を始めとする《探索者協会》の面々と《遺物調査院》の役人が合流。そして、彼らと相乗りしてきたシトリーの口から、ノト・コクレアとアカシャの塔の情報が共有された。
シトリーは以前より、個人で内密にノト・コクレアを追っていたのだ。
***
度重なる襲撃を退け、ついに調査隊はノト・コクレアの隠れ家にたどり着いた。崖にぽっかりと空いた人工的な洞穴を前に、《アカシャの塔》との戦いが既に始まっている。
「また来るぞ備えろ!」
「ちくしょう……速すぎる!」
上空から襲い掛かるキメラの能力は、調査隊の予想以上だった。その速さは機関車と同等。そのうえ空中を縦横無尽に翔る小回りを併せ持つ。高速飛行からの体当たりが、盾を構えたハンターを吹っ飛ばす。ツメや尻尾の刃は鎧を容易に切り裂く。反撃しようにも、攻撃後すぐに空へと退避してしまう。魔法による攻撃も目に見えた効果は無い。竜の鱗は伊達ではないらしい。
そんな上空のキメラ3体は《
「くそっ、俺達を警戒してやがる!」
スヴェンがどんなタイミングを狙っても、キメラは確実に矢を回避してしまう。道中でキメラの1体を倒したガークの
それでも戦線を維持できているのは、シトリーが宣言通り地上2体のキメラの注意をひいているからだろう。武器も盾も持たず、身のこなしだけで2体のキメラの攻撃を躱し続けている。しかしそれもいつまでもつか……
決して追撃をせず、慎重な戦いを徹底するキメラ達。キメラが上空に退避している間に、交代と回復をするハンター達。ハンター達が突破口を見いだせないまま、いたずらに時間だけが過ぎていく……だが、《アカシャの塔》はさらなる戦力を隠し持っていた。
「新手だ! くそっ!」
そう叫んだのはガークだった。洞窟に迫った彼の前に、中から巨大な人型が姿を現す。身長2メートルを超えるガークを、優に見下ろせる程の巨体。黒金の体に大仰な手足。赤い光の走る大剣と盾。そして頭部で明滅する《アカシャの塔》のシンボル。
洞窟の前に仁王立ちし、剣と盾を構えるその姿は……まさに《アカシャの塔》を守る騎士のようだった。
***
ハンター達が命がけで戦う最前線に紛れ、ソフィアは歯噛みしていた。
(なんて消極的なんでしょう。一気に攻めれば勝てるというのに)
スヴェンとガークを警戒するのはいいが、それ以外はお粗末だ。マリスイーターの鱗は並のハンターでは貫けない。強引にハンターの数を減らすなり、最も警戒すべき2人に集中攻撃すべきなのだ。おかげでハンターに1人の犠牲者も出ていない。それに――
(そんな戦い方では、攻撃性能と防御性能の記録ができません)
次にソフィアは、拠点の入り口にそびえたつ「アカシャ」に目を向ける。ソフィアが心血を注ぎ、《アカシャの塔》の資金をつぎ込んで作り上げたゴーレムだ。その盾はスヴェンの矢も、ガークの槍斧も弾き返し、特殊合金の体は魔法を受けてもびくともしない。
他にも革新的な機能を盛り込んだのだが……それが発揮される気配はない。
(やはり使いこなせていませんね)
「アカシャ」のもっとも革新的な機能は、人間による遠隔操作だ。今アカシャを動かしている兄弟子はその頑強さに酔いしれているのだろう。ハンター達の行く手を遮るだけで満足し、反撃がおろそかになっている。アカシャの性能はまだまだこんなものでは無いのに。
兄弟子達は皆優秀な魔導師だが、戦い方を知らない。調査隊が「スライムもどき」と呼んだ「魔化
(これだけのハンターを相手に出来る機会なんてそうそうないのに……もったいない)
***
ハンター達が絶望し、《アカシャの塔》が優勢に浮かれる中……その男は現れた。
「天を駆ける獅子か。人の業とはどこであろうと変わらぬようだな」
森を駆け抜け、木々の合間を飛び移り、天空より現れたその男は、衝撃で大地を揺るがす。巻き上がる砂煙を剣で切り裂き、月光がその姿を照らした。
「なんだ、何が起きた!?」
「まだ戦力を隠してたのか!?」
「いや……あれは
ハンター達がざわめく中、上空を舞うマリスイーターもその男に恐れ慄いている。フードと仮面で顔を隠し、漆黒のロングコートが風にたなびく。漆黒のグローブで漆黒の剣を携え、地獄の底から響くような声で、男は名乗った。
「我が名はシャドウ。陰に潜み陰を狩る者」
「なんだアイツは……?」
(今までいろんなハンターや悪党を見て来たが、あんな奴は見たことねえ。どれだけのマナ・マテリアルを取り込んだって言うんだ!?)
その男の佇まいを見たガークは、自分の目を疑った。マナ・マテリアルを多く取り込んだ実力者は特徴的な気配を纏う。だがシャドウのそれは、今まで感じた事が無いほど色濃い物だった。
ガークだけではない。突如として現れた乱入者に戦場の誰もが目を奪われた。アイツはいったい何者なんだ? しかし戦場での静寂は長くは続かない。マリスイーターが再びハンターを襲い出し、ハンター達はその対応に追われる。
混迷する戦場を見渡し……シャドウは一点を見据えた。その方角へ悠然と歩きだす。彼が目指す先には、2体のマリスイーターと戯れるシトリー・スマートの姿があった。
「っ!? 危ねえシトリー!」
シャドウの行動に気づいたスヴェンは叫んだ。矢をつがえ、シャドウに狙いを定める。躊躇は一瞬。スヴェンは狙いをずらし、威嚇の矢を放った。狙い通りその矢は、シャドウの眼前を横切る……はずだった。
空中で矢が静止する。
同じような光景がスヴェンの脳裏をよぎった。《
「まるでリィズじゃねえか……!?」
シャドウの歩みは止まらない。懸命にマリスイーターを引き付けるシトリー、彼女に近づいていく。すると、2体のマリスイーターはシトリーから離れ、狙いをシャドウに変えた。左右に別れ、2方向からシャドウに向かって唸り声をあげる。しかしシャドウは止まらない。
「……どうした、来ないのか?」
鼻を鳴らすシャドウに向かって、マリスイーターの1体が跳びかかった。ハンターの鎧を軽々と切り裂くツメを、シャドウは漆黒の剣で受けながす。そしてマリスイーターの頭部を掴んだ。突進を片手で受け止め、そのまま地面へと叩きつける。
間髪入れず、もう1体のマリスイーターも動いた。仲間を押さえつけているシャドウ、その背中に向かって接近する。もしシャドウが動けば、押さえつけられているマリスイーターが再び立ち上がるだろう。挟み撃ちの状況だ。
だがシャドウはその場から動かなかった。背後に迫るマリスイーターを、逆手に持った剣で貫く。1体を地面に押さえつけながら、最小限の動きでもう1体に対処したのだ。
「獣にしては知恵が回るな」
そのまま剣を振りぬき、マリスイーターを両断。さらに、這いつくばるもう1体に剣を突き立てる。それがトドメとなった。
マリスイーター2体を瞬時に倒した謎の男シャドウ。目の前の信じがたい光景に、シトリーは呆気にとられる。
「あなたは……何者、なんですか?」
(こんな実力者がいるなんて……そんな情報どこにも……)
《
警戒心を露わにするシトリーの前で、シャドウは足を止めた。仮面の奥の赤い瞳で彼女を見つめ……そして、不敵な笑みを浮かべる。
「それが貴様の選択か」
「……はい?」
「本当の己を晒し、自らの手で決着をつける……裏切りの結末に相応しい選択だ」
「あの……何を言っているのでしょうか?」
「貴様の覚悟に、我も手を貸そう」
シトリーの困惑を置き去りに、シャドウは振り返った。上空のマリスイーターに視線を向けている。攻撃と退避を繰り返し、ハンター達を苦しめ続けている3体のキメラに。
敵意を見せない彼に、シトリーは意を決して話しかけた。
「あなたは、何をするつもりなんですか?」
「天を駆ける獅子……月夜を彩るにしては大仰が過ぎる。夜空にはただ月があればいい。そうは思わないか?」
「……まさか!?」
シトリーの言葉を置き去りに、シャドウは走り出した。その速さはまさに風、漆黒の風が戦場を縦断する。その先には……今まさに急降下しているマリスイーターの姿があった。地面すれすれまで近づいたマリスイーターに、シャドウは飛び乗る。
「さあ……空を駆けてみせろ」