千変万化に負けない陰の実力者になりたくて!   作:kaneda,i9

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陰の実力者はゴーレムの挑戦を受けて立つ!

 ソフィア・ブラックの想定は完全に瓦解した。

 

 多数のハンターが迫る今の状況を利用し、研究成果の性能試験を行う。それがソフィアの計画。しかしあの男は……シャドウは完全に規格外の実力者だ。マリスイーターを一太刀で切り伏せる技の冴え、マリスイーターに追いつく速さ、そして今まさに繰り広げられている空中戦……全てが想定外だ。

 

(どうやってマリスイーターを従えてるの? 獣を従える宝具? それとも本能的な恐怖?)

 

 シャドウは荒ぶるマリスイーターの上に跨り、他のマリスイータ―に向けて明らかに誘導している。残るもう1体も、上に乗る兄弟子がシャドウを叩き落とそうと躍起になっている。地上への攻撃が完全に止まってしまった。マリスイーター同士がぶつかり合う様子を、戦線離脱したハンター達が呆然と眺めている。

 

(あんな規格外を相手にしたら試験になりません。おそらく全滅は時間の問題……)

 

 ソフィアがそう考えた瞬間、振り落とされた兄弟子が地上に墜落した。木の密集してる場所に落ちたので命は無事だろう。次いでバラバラになったマリスイーターの破片が降り注ぐ。月光を背に、空に浮かぶのは……シャドウただ1人。

 このままでは研究所の門番をしているゴーレム「アカシャ」も同じ目に遭うだろう。それでは試験にならない。

 

(……こうなったら最初の計画通り、私がやるしかありません)

 

 ソフィアは周囲のハンターに気取られないように「アカシャ」の操作術式を発動させた。管理者権限を使い兄弟子から操作権を奪い取る。

 

(私の努力と《アカシャの塔》の資金力の結晶……そう簡単には倒されてあげませんよ)

 

 真の「アカシャ」が目覚める。

 

 

***

 

 

 いや~……どの世界でも最強生物ってのは男のロマンだね! 男子なら誰もが一度は思い描く最強生物の妄想、キメラはその1ジャンルだ。既存の生物の一番強いところ集めたら最強じゃね? そんな夢を《アカシャの塔》は形にして、しかも数を揃えるなんて……すごい技術力だ。

 そしてキメラを華麗に乗りこなす陰の実力者……昔、魔獣相手にスライム手綱を試したことがある。その経験が活きたね。

 

「後はあのゴーレムだけだけど……頑丈なだけか」

 

 僕は今、魔法でゆっくりと落ちながら、地上の戦いを眺めている。洞窟の入り口を塞いでいるゴーレムに、たくさんのハンター達が攻撃してる。その中だとガークさんが1番強そうに見えた。さすが元レベル7、氷属性のハルバートを力強く振り回している。

 ゴーレムの方は防戦一方……ダメージは全く受けて無さそうだけど、動きが鈍い。あれじゃあその辺のスライムにだって剣を当てられない。

 

「あれなら僕が相手する必要も無いかな……でもあんなに頑丈なのを一撃で倒したら、それはそれでありかも」

 

 考えながら地上に降りると、戦場の空気が変わった。ハンター達の悲鳴が僕の耳にも届く。

 

「ほう……?」

 

 地面を揺るがす振動、剣が風を切り裂く音、砕けた地面から舞い上がる砂塵、どれもさっきまで無かったものだ。そして土煙の中から跳び出すゴーレム、4メートルか5メートルくらいは跳んでるかな? そのまま落下の勢いを乗せて、剣を地面に叩きつけた。

 さっきまで木偶の坊だったのに……明らかに動きが違う。その巨体に見合わぬ軽快な動きで、ハンター達をボウリングのピンのように吹っ飛ばしている。

 

 なるほど。どうやらあのゴーレムは実力を隠してたみたいだ。でもあんな人間みたいな体の使い方、どうやって組み込んだんだろう? ゴーレムはもっと単純な動きしかできないはず……もしかして人間が動かしてる? だとしたら……彼女か。

 

「……ふっ、面白い。獣だけでは物足りないと思っていた」

 

 本気を見せたいと言うなら、こっちも応えようじゃないか。

 

 

***

 

 

 腰を落とし、盾を前面に体を隠す……それまでの棒立ちとは違う実戦的な構え。自重と剣の重さを計算に入れた体運び。そしてその巨体からは想像できない速度と跳躍力。

 固く、強く、そして速い。ゴーレムが隠していた真の実力を前に、ガークはあるハンターの名前を口にする。

 

「なんだこいつは!? こりゃあまるで……アンセムじゃないか!」

 

 アンセム・スマート。『不動不変』の二つ名を持つ《嘆きの亡霊(ストレンジグリーフ)》のレベル7守護騎士(パラディン)。マナ・マテリアルによって体を強く大きくした彼と、今のゴーレムの在り方は酷似していた。

 途切れることなく続くゴーレムの剣技は、やがて周囲からハンター達を退ける。あの剣を受けたらただでは済まない……それは誰の目にも明らかだった。

 

 幸いにもゴーレムに追撃の意思はないようだ。しかし大仰に剣を高く掲げ、振り下ろした剣をピタリを止めた。その先端方向にいる……シャドウを挑発するかのように。

 

「動きが変わった……何が起きてる!?」

「なんで俺達じゃなくて、あの男を……」

 

 ゴーレムを取り囲むハンター達がざわめく。その中でスヴェンは、悔しさで眉間にしわを寄せていた。

 

「俺達は眼中にないってのかよ……おいシトリー! どうする?」

「そうですね……皆さん下がってください。あの男の実力は未知数ですが……少なくともあのキメラを手玉に取りました。この戦い、下手に手を出すと巻き添えをくらいかねません」

 

 指示を出すシトリーの声は僅かに震えていた。緊張か? 疲労か? スヴェンは心配そうにシトリーを見ている。

 

(無理もねえ。さっきまで2体のキメラ相手に踏ん張ってたんだ)

「聞いたかお前ら! 今のうちに下がって体勢を立て直す! だが油断するな、奴らから目を離すんじゃねえぞ!」

 

 スヴェンの呼びかけで、ハンター達は戦線を離れ始めた。それを見計らっていたかのように、シャドウはゴーレムに向かって歩きだす。ハンターに手を出す素振(そぶ)りは見せない。彼の目にもゴーレムしか映っていないようだ。

 すると突然、ゴーレムが盾を構えた。今まさに槍斧(ハルバート)を振りかぶったガークに向けて。

 

「ちっ……手を出すなってか? よく見てやがる」

 

 ゴーレムを睨んだままじりじりと後退するガーク、やや離れた位置で矢筒に手をかけるスヴェン、その後ろで食い入るようにシャドウを見つめるシトリー。他のハンター達が下がり、この3人だけが戦場に残った。

 

 

 シャドウは無造作に剣を携え、真っ直ぐゴーレムへと足を運ぶ。そして双方の距離がおよそ10メートル程になった瞬間……ゴーレムが踏み込んだ。

 盾を前に構え一瞬で距離を詰める。勢いを剣に乗せ、地面を抉りながらの横薙ぎ払い! 石礫を飛ばしながら迫る剣に対し、シャドウは1歩だけ後退、紙一重で剣を躱した。

 そこにゴーレムが盾を突き出し、剣を引きながら前進。盾を前にした突進だ! これもシャドウは躱す。自身よりも巨大な盾を、横に大きく跳んで躱した。

 すかさずゴーレムは、剣をシャドウに向けて振り下ろした! 地面を揺るがす轟音と巻き上がる土煙が、その威力を物語っている。はたしてシャドウは――

 

「力押しでは、我は捉えられぬ」

 

 土煙の中から声が響いた。煙が晴れると……はたして彼はゴーレムの前から動いていなかった。いや、正確には……1歩だけ横に動いている。地面にめり込む巨大剣のすぐそばで、ゴーレムを見上げていた。

 シャドウの手に力が入る。刃を水平に、剣を引いて構え……漆黒の剣を突き出した。刃が空を切り、ゴーレムの着地で地面が揺れる。突きを後方に跳んで回避したようだ。互いに構えなおし、またしてもゴーレムがシャドウに切り込む。

 

 振り上げ、袈裟斬り、横薙ぎ、振り下ろし……ゴーレムの剣が振るわれるたび、巻き起こる風がうなりを上げる。しかしシャドウは時に身を反らし、時に屈み、全ての攻撃を躱していく。

 

「面白い、想像以上だ。だが……!」

 

 シャドウの姿がゴーレムの前から消える。巨大な盾を遮蔽として利用し、ゴーレムの側面後方で剣を構えた。もし人間なら背後は死角だろう。しかしゴーレムは、後方のシャドウに向けて剣を薙ぎ払った。まるで見えているかのように。後退して躱したシャドウは、余裕の笑みでゴーレムの頭部を見上げる。

 

「やはりそこに目は無いか」

 

 そう呟くと、今度はゴーレムを睨みながら横に動いた。目で追える程度の速さで走り、回り込もうとしている。ゴーレムもそれに合わせて向きを変えていく。すると、横で隙を伺っていたガークが、槍斧を構えた。睨みつける先は……ゴーレムが無防備に晒す背中。

 

「俺に背中を見せるたあ……いい度胸だ! うおぉぉぉっ!」

 

 ガークは相棒である『氷嵐旋牙(ひょうらんせんが)』を強く握りしめ、気迫の一撃をゴーレムに繰り出す。狙うは脚、機動力を奪うのが目的だ。しかしゴーレムの反応は速かった。槍斧の一撃を盾で受け止める。

 

「後ろにも目がありやがるのか!?」

 

 反撃を恐れガークはすぐに後退する。それを待って、ゴーレムは改めてシャドウに向き直った。回り込もうとするシャドウに対して身構える。

 不意に、シャドウの視線が動いた。ゴーレムの向こう側を睨み……シトリーと視線が交差する。だがそれも、ゴーレムの体が遮ってしまう。

 

 直後、シャドウは直角の方向転換、ゴーレムに向かって正面から接近する。無謀にしか見えない突撃。しかしゴーレムはまるで対応できない。シャドウの振るう剣が、ゴーレムに次々と傷を刻んでいく。

 一瞬の後、ゴーレムは跳んだ。横跳びでシャドウから離れ、剣を構えなおしている。その行動に対しシャドウは、つまらなそうに鼻を鳴らした。その視線はゴーレムに向けられていない。

 

「このまま死角を突いて我が剣が勝つ……そんな決着、貴様も望んではいまい」

 

 大仰に剣を高く掲げ、振り下ろした剣をピタリを止める。ゴーレムを挑発するかのように。

 

「本気を出せ。もっと足掻いて見せろ。勝負はこれからだろう?」

 

 どこか楽しそうな笑みを浮かべ、赤い瞳を輝かせた。

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