千変万化に負けない陰の実力者になりたくて!   作:kaneda,i9

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刮目せよ……陰の実力者の奥義を!

 シャドウとゴーレムの戦いを付近で見ていたハンター達。その1人、スヴェンは眉をひそめた。

 

「なんだ? 一瞬あのゴーレム……動きがおかしくなかったか?」

 

 シャドウと名乗った剣士(ソードマン)は立ち位置を変え、正面からゴーレムを切り刻んだ。それに対し、逃げるように距離をとったゴーレム……うまく言語化は出来ないが、歴戦のトレジャーハンターの勘が、違和感を告げていた。

 思わず隣にいるシトリーに視線を向ける。彼女は視線をシャドウから外そうとしない。が、独り言のように口を開いた。

 

「……もしかしたら見えなかったのかもしれません」

「見えなかったって……正面から突っ込んでたぞ?」

「ですが、位置が違います。角度と言ってもいいかもしれません」

「角度……っ!? そういう事か!」

 

 シトリーの言葉でスヴェンも理解した。先ほどゴーレムの動きがおかしかった時は、ゴーレムの巨体でシャドウがよく見えなかったのだ。同じ事がゴーレムにも起きていたとすれば……スヴェンは思わず後ろを振り返る。

 

「この方向が死角って事は……向こうに動かしてる奴がいるのか?」

「それはどうでしょう……離れた位置から魔法で見ている可能性もあります。その場合、死角が一定の方向にあるとは限りません」

「くそっ、せっかく弱点がわかったと思ったのに……」

(待てよ? あの男はどうやってそれに気づいた?)

 

 スヴェンは再びシャドウとゴーレムに注意を戻す。立ち位置が変わり、両者の姿がハッキリと見える状況。しかしシャドウは、先ほどのように回り込もうとしない。

 

「アイツ何考えてやがる? 弱点に気づいて……それを無視するなんて」

「自信があるのでしょうね。あのゴーレムを正面から倒す自信が」

 

 困惑で顔をしかめるスヴェン。一方で、シトリーの口ぶりにはどこか怒りが滲んでいた。

 

「あん? どういう意味だシトリー?」

「そのままですよ。あの男は……ここにいる誰より強い」

「……そいつは違えねえ」

 

 彼は頷くしかなかった。これまで倒してきた様々な魔獣や宝物殿の幻影(ファントム)。出会ってきたバケモノのようなハンター達。その誰よりも何よりも……シャドウは実力者に見えた。

 

「なんにせよ、彼の実力を見極めるチャンスです。目を離してはいけません」

「……俺達の目的はアイツじゃなくて《アカシャの塔》の隠れ家だろ? やっぱりオマエも嘆霊(ストグリ)だな……」

 

 真剣な眼差しでシャドウを睨むシトリーに、スヴェンは呆れかえった。

 

 

***

 

 

 ハンター達が隙を伺う中、シャドウは剣を構えなおす。それまでの無造作な、自然体な構えではなかった。剣を両手で握り、肩の高さまで持ち上げる……シンプルかつ洗練された構えだ。その変更にはどんな意味があるのか……? そんな疑問をハンター達が考える暇も無く、ゴーレムが一息に距離を詰めた。勢いを乗せて大剣を薙ぎ払う。

 

 甲高い金属音と共に火花が散る。シャドウは漆黒の剣でゴーレムの大剣を受け流した。軌道をそらされた大剣が跳ね上がる。想定外の事態にバランスを崩したゴーレム、その隙をシャドウは見逃さない。彼は振り上げた剣を返す刀で振り下ろす。ゴーレムの胸で火花が散った。そしてその衝撃でゴーレムが僅かに後ずさる。

 

 ……ゴーレムが振り回す金属製の大剣を、人間の細腕で弾く。それを可能にするにはどれ程の力と技が必要なのだろうか? シャドウは振り下ろされる大剣を、またしても漆黒の剣で受け流す。そして反撃の横一閃で、ゴーレムは大きく後ずさった。ゴーレムの足元から響く重低音と衝撃が、シャドウの異常性を際立たせる。

 

 大きな隙を晒すゴーレムに対し、しかしシャドウは追撃せず剣を構えなおす。

 

「どうした……その程度ではないだろう?」

 

 平然と言い放ち、余裕を見せつける。すると体勢を立て直したゴーレムは……跳んだ。

 

「むっ……?」

 

 後ろに大きく跳ぶシャドウ。彼のいた場所に落下するゴーレム。衝撃で土煙が発生すると、その奥で……ゴーレムの二の腕が光った。魔力(マナ)の光が一筋の線となって煙を吹き飛ばし、一直線にシャドウに向かう。空気を焦がす熱線が、漆黒のロングコートをかすめた。不意打ちさえ身をひるがえして躱し、シャドウは感心したように呟く。

 

「ほう、しかしそんなこけおどしで我を倒せるとは……思ってない様だな!」

 

 シャドウの眼前にゴーレムが迫っていた。より強く、より速く。それまでよりも強力な技で、シャドウに猛攻を仕掛ける。だがシャドウには届かない。漆黒の剣がゴーレムの絶え間ない連撃を全て防ぎ、隙をついた反撃でゴーレムの体を傷つけていく。

 

「一流の剣を知っているようだが、猿真似の剣で我は倒せぬ」

 

 シャドウの余裕は崩れない。それまで身のこなしで躱してきたゴーレムの剣を、今度は剣技でしのぎ切っている。圧倒的な実力差を見せつけ、余裕をもって構えなおす。両者の姿はまるで……剣の師匠と、それに挑む弟子のようだった。やがて……攻撃する術を見失ったのか、ついにゴーレムの攻撃が止まる。

 

 そしてシャドウが追撃せずとも、ゴーレムが動きを止めればハンターが動く。彼らに、千載一遇の機会を逃すつもりは無い。

 

「……っ!」

 

 一瞬の間に10本の矢が放たれた。《嵐撃》のスヴェン・アンガー。彼の二つ名の由来となった妙技が、嵐のような勢いでゴーレムに襲い掛かる。咄嗟に盾を構えたゴーレムだが、完全には防ぎきれず、一矢が左足にひびを入れた。

 

「ぬおぉぉぉっ!」

 

 ガークの『氷嵐旋牙(ひょうらんせんが)』による一撃が、ゴーレムの左脚を凍結させ……ついにゴーレムは完全にバランスを崩した。後ろへと倒れ込む。しかしその時……ゴーレムの背中から炎が噴き出した。

 

「なにっ……!?」

 

 距離を取ったガークの前で、ゴーレムの胴体が浮き上がる。背中から噴き出す炎と空気が上体を起こし、再びゴーレムは立ち上がろうとしていた。だが、ゴーレムの前にはシャドウがいる。彼は剣は後ろに引いて構え……踏み込みながら剣を突き出した。

 今まさに大地を踏もうとしていた……半ば宙に浮いていたゴーレムは吹っ飛ばされ、数十メートル先の崖に激突する。それは完璧なタイミングの一撃、同時に常識外れの力による一撃だった。

 

「あ、ありえねえ……ホントに人間か?」

 

 思わず口から漏れたガークの問い。それに答えることなく、シャドウは歩き出した。まだ立ち上がろうとするゴーレムに向かって。そして……冷酷に言い放つ。

 

「遊びは終わりだ」

 

 戦場を青紫の光が照らす。シャドウの足元から、幾何学模様の光が広がっていく。魔導士(マギ)の使う魔法陣のような光は、やがてゴーレムをその中に収めた。

 

「どうなってやがる……!? アイツは……剣士じゃねえのか!?」

「ガークさん離れてください!」

 

 その光を見たガークは驚愕し、シトリーが叫んだ。ハンター達はその腕前から、シャドウを剣士だと認識していた。

 マナ・マテリアルは吸収した人間の思いに応える。剣士であれば体が強くなり、魔導師であれば魔力が高まる。両立させることは難しい。だが魔法陣を描く今のシャドウは……一流の、いや規格外の魔導師にしか見えない。

 

 しかしゴーレムも最後の反撃を行う。両手で大剣を握り直し、正面まで来たシャドウに振り下ろす。全身全霊の剣。それを片手で難なく止めるシャドウ。衝撃で足元にヒビが入るが、彼は微動だにしない。そのまま片手だけで大剣を握り砕いた。

 

「刮目せよ……これが我が最強の剣」

 

 シャドウが天高く掲げた剣に膨大な、規格外の魔力が螺旋を描いて流れ込んでいく……

 

 

 

 ――かつて核に挑んだ男がいた。男は肉体を鍛え、精神を鍛え、技を鍛えた。

 

「アイ――」

 

 ――だがそれでも届かぬ遥か高みに「核」が存在した。しかし男は諦めなかった。彼の憧れた存在は……核では蒸発しないのだから。

 

「アム――」

 

 ――そしてたどり着いた答えは……核で蒸発しないために、自らを核とすることだった。

 

「――Atomic」

 

 シャドウが剣を突き出した瞬間、光が全てを飲み込む。大地を砕き空を穿つ光は、帝都さえも青紫の光で染め上げる。

 

 

***

 

 

「なんだ……あの光は……?」

「あの方角は……まさか【白狼の巣】で何かが……!?」

「白狼の……何の事です? お姉さま」

 

 ゼノンを捕らえ地上に戻ってきたアークとアイリス、助け出されたアレクシアが――

 

「え? え? ええぇ~!? ますたぁ……あれもますたぁの仕業なんですか……?」

 

 助けた少女を自宅で介抱していたティノが――

 

「アルファ様、あの光は……」

「ええ。彼の光ね」

「やっぱりボスが最強なのです!」

 

 シャドウガーデンが、帝都からその光を見上げていた。

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