千変万化に負けない陰の実力者になりたくて!   作:kaneda,i9

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事件後の会議室にて

「へえ~……光の柱か。そんなにすごかったの?」

 

《探索者協会》の会議室でクライは事もなげに言い放った。

 

 帝都と【白狼の巣】で同時に事件が起きた3日後。会議室に集められた騎士団や《遺物調査院》の役人が、彼の言葉に困惑と戸惑いの表情を浮かべている。アーク・ロダンを除いて。

 

「こんな時でもいつもと同じか。見習いたいものだね」

 

 彼は笑っているが、顔を引きつらせて怒る者もいた。ガークだ。

 

「お前……クライ、なんで平然としてやがる!?」

「そんなこと言われても僕は見てないし……ほら、僕の部屋って窓が無いからさ」

「部屋にいた……だと? お前は帝都で何してやがった!?」

「ところでガークさん。戻ってきたシトリーの様子が変なんだけど……何か知らない?」

「今はお前の話をしているんだ!」

 

 マイペースなクライに、ガークの顔は怒りでますます赤くなる。アイリスは戸惑いながらも、会議を進めようとガークを諫める。

 

「落ち着いてくださいガーク殿、白狼の巣の件は追々……まずは帝都の件からです」

「むぅっ……そうだな。始めてくれ」

 

 しぶしぶ怒りの鉾を収めたガークは、手元の資料に目を落とした。そこには、襲撃された建物や団体のリストと、街に現れた怪物、ゼノン侯爵の悪事と変貌、そして……《シャドウガーデン》について書かれていた。

 

(シャドウガーデン……どこかで聞いたな。どこだ? クライの奴が関わった事件ってのは覚えてんだが……思い出せねえ)

 

 ガークはクライの顔色を伺うが、彼はいつも通りのぼんやりした顔をしている。

 

 

「アイリス・ミドガルです。まずは資料の――」

 

 最初の説明はゼノン侯爵について。今の彼は意識不明の昏睡状態、補足として妙な薬物の服用をアークが証言した。取り調べは意識が戻ってからになるだろう。その際は、あらゆる嘘を暴く宝具『真実の涙(トゥルーティアーズ)』の使用も検討されている。

 次の説明は、帝都襲撃の被害について。

 

「――犠牲者の中には騎士団の人間もいました。が……彼らのそばにアレクシア・ミドガルの靴が落ちていました。ゼノン侯爵によって誘拐されたはずのアレクシアの靴です」

 

 そのアイリスの言葉で会議室がどよめいた。疑問の声を挟む余地も無く、さらにアイリスは話を続ける。

 

「ゼノン侯爵の屋敷を調べた所……犠牲となった騎士への手紙の痕跡が見つかりました。内容は……『千変万化を誘拐犯に仕立て上げろ』でした」

「なんだと!?」

「え? 僕?」

 

 騎士団に内通者がいた。しかもレベル8ハンターを陥れようと画策していた。その事実にガークは、またしても怒りで顔を歪ませることになる。

 一方、当事者のクライはキョトンとしていた。

 

「捜査を開始した当初から彼を逮捕しろという騎士はいましたが……まさか、内通者までいたなんて。クライ・アンドリヒ殿、騎士団による数々の非礼、第3騎士団の団長として……この場を借りて謝罪させていただきます」

 

 深く頭を下げるアイリスに対し、クライは一瞬だけ首を傾げ……ハードボイルドな笑みを作る。

 

「顔を上げてくださいアイリス団長。騎士団に疑われてるのに僕は慣れてる」

「慣れ……? いえしかし……」

「それに悪いのは……その、ゼノン侯爵? だ。あなたが頭を下げる必要はない」

「……心遣い、感謝いたします」

 

 顔を上げたアイリスは、安堵の表情を浮かべていた。するとアークが小声で尋ねる。

 

「アイリス様、彼らの繋がりについては……」

「それは後程、どこに耳があるかわかりません……っ!?」

 

 騎士団の中に紛れていた以上、ここにも《教団》の人間が紛れているかもしれない――それを遠回しに伝えたアイリスは、自分の言葉に驚愕した。

 

(あの時、クライ殿も同じことを言っていた。まさか教団を警戒していた……!?)

 

 足跡クランハウスでの一幕を思い出し、アイリスは畏怖の眼差しをクライへと向ける。しかし彼は視線に気づく素振(そぶ)りすら見せない。

 

「……話は終わりですか? アイリス団長」

「い、いえ……次は帝都を襲撃した者達についてです」

 

 他の参加者に詰められ、アイリスは話を続ける。話題の中心は、現場付近で目撃された黒づくめの集団について。

 

「部下達の報告によると、彼らはシャドーガーデンと名乗ったそうです。私もアルファと名乗る者と遭遇しました」

「シャドウガーデン、やっぱりどこかで……そうかっ!」

 

 ガークは弾かれたように立ち上がり、クライに真剣な眼差しを向ける。

 

「おいクライ。お前らが《蛇》とやりあってた時に、シャドウガーデンの事も報告してなかったか!?」

「うん、そうみたいだね。僕もリィズに言われるまで忘れてたけど、アルファって精霊人はなんだか根に持ってるみたいでさ……迷惑な話だよ」

 

 そう言ってクライがため息をつくと、会議室は静まり返った。困惑しながらも、ガークはおずおずと口を開く。

 

「…………待て。お前……今なんつった?」

「え? えーっと……アルファって精霊人が根に持ってるって」

「会って話したのか? 帝都襲撃の夜に」

「うん、話したけど……」

 

 クライがとぼけた態度を見せると、ガークの顔がまたしても怒りで赤く染まり、禿頭に青筋が浮かぶ。

 

「そんな報告は受けてねえぞ!? そういう大事な事はすぐに伝えろ!」

「いや、うちの報告担当はシトリーだし……」

「シトリーは白狼の巣に来てたんだよ馬鹿野郎! お前が報告しないでどうする!!?」

 

 ついに凄まじい剣幕でガークが怒鳴り、声が会議室の窓を震わせた。クライは何も言わず、ゆっくりと立ち上がると……腰を90度曲げて頭を下げた。

 

「すみませんでしたぁぁっ!!」

 

 

 ……その後クライは「アルファとは初めて会った、何も聞かなかった」と答え、帝都の事件に関する報告は終わった。最後にアイリスが騎士団内の内部監査を宣言し、議題は【白狼の巣】の件に変わる。

 

「現場にいた私から説明しましょう」

 

 立ち上がったのは《遺物調査院》の役人の1人、眼鏡をかけた男だ。

 

「我々はまず、白狼の巣の異変の原因を調べるという名目で現場に向かいましたが……シトリー・スマート、彼女の情報提供によりその目的を変える事になりました。白狼の巣の異変は自然現象ではなく、1人の狂った魔導師(マギ)の研究が原因だったのです」

 

 シャドウが光の柱を発生させた後……隠れ家に突入した調査隊は大量の証拠品を押収した。だが、首謀者のノト・コクレアは既に逃げだしていた。さらに激戦のどさくさに紛れ、捕らえた魔導師達にも逃げられてしまった。キメラから落ちた魔導師は、意識不明の重体で話せない。

 後に残ったのは、シャドウによる破壊の跡……円柱状に抉れた地面と崖だけだ。ゴーレムは跡形も無く消滅してしまった。

 

 渋い顔でガークが証言を付け加える。

 

「俺も現場にいたが……あの光の柱を発生させたのは間違いなく1人の人間だ。信じられねえとは思うし、俺も自分の目を信じられなくなった……くそっ、なんなんだアイツは?」

 

 《アカシャの塔》そしてシャドウについて何か知っているか? ――と、クライは問い詰められるが……

 

「何も知らないだと……!?」

「残念ながら」

「それが通用すると思っているのか千変万化! 『千の試練』の域を超えているぞ!」

 

 遺物調査院の役人がクライを睨みつける。《アカシャの塔》の暗躍『十罪』に触れるノトの研究、事態は国家レベルにまで到達しているのだ。検問を張り、帝都中を血眼になって捜索しても、逃亡したノト一派の足取りは掴めていない。《シャドウガーデン》も、シャドウの行方もだ。

 事ここに至って情報を隠そうとするクライに、厳しい視線が向けられるのは当然の事だった。

 

「貴様の秘密主義は知っているが、帝都襲撃の件といい……それにも限度がある。こちらには『真実の涙』を使用する準備がある……! 情報を隠匿するなら、罪になると思え」

 

 それは脅しとも取られかねない最終通告だった。ガークは渋い顔を見せるが、口を開くことは無かった。もはやクライを庇えない事態だと考えているのだろう。アイリスも固唾をのんで事の成り行きを見守っている。

 

(まさか本当に、クライ殿に『真実の涙』が使われかねない事態になるなんて……彼はいったいどう答えるの?)

 

 参加者の視線が集まる中、クライは力強く答えた。

 

「望むところだ!」

「望むなぁぁぁぁっ!」

 

 《遺物調査院》の役人が興奮気味に叫ぶ。彼が知りたいのはクライの無実ではなく情報だ。『真実の涙』という最高の交渉材料さえも躱されてしまえば、クライから情報を引き出すことは不可能だろう。

 

(クライ・アンドリヒ……彼が何も知らないはずがない。なのに今の答えは……彼は『真実の涙』すら騙せるというの?)

 

 驚愕と畏怖の入り混じった視線をクライに向けるアイリス。一方その隣では、アークが笑いをこらえていた。

 

「ははっ……やっぱりクライは面白いな」

「アーク殿、なぜ笑って……いるのですか?」

「あれがクライ・アンドリヒ。おおよそハンターとは思えない男……それが彼なんです」

 

 その後、シャドウと《シャドウガーデン》には関係があるのでは? と提唱する者もいたが、確たる証拠は無く……会議はそのまま終わりを迎えた。

 

 

 参加者の殆どが退室したのを確認し、アイリスはガークに話しかけた。

 

「お疲れ様ですガーク殿」

「アイリスか。うちのクライがすまねえな。何の情報もよこさないで」

「いえ、気にしないでください。それより、あなたに伝えたいことがあります。ゼノン侯爵について……これは帝都の治安維持に留まらない話になります」

 

 ゼノン侯爵、騎士団、そして襲撃された被害者を繋ぐ共通点……《ディアボロス教団》について、アイリスはガークに伝えようとしていた。

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