千変万化に負けない陰の実力者になりたくて! 作:kaneda,i9
魔術結社の繰り出すキメラやゴーレムに苦戦するハンター達。そこに颯爽と現れる陰の実力者……理想通りのシチュエーションがそこにはあった。完璧と言っても過言ではない。手伝ってくれたスカーレッドさん……もとい、シトリーには感謝してる。
2体のキメラをけしかけてきたし、ゴーレムを遠隔操作して僕に挑戦してきた。おかげで圧倒的な実力を見せつける事が出来たよ。
多分だけど……彼女は戦況が互角になるようにしていたんだ。それで《アカシャの塔》を騙そうとしていた……そんなところだろう。陰の実力者の乱入で、いろいろアドリブさせちゃったね。
でもアレクシアを眠らせて採血してたし……これでおあいこって事にしておこう。
それより問題は帝都に戻った後だ。帰ってきたら、あちこちボロボロになってるじゃないか。きっとデルタだな……そのせいで宝具店がいくつか休業してた。鑑定依頼したかったのに。
そんなこんなで、キメラやゴーレムと戦ってから5日。その間は特に何事もなく、今日は《探索者協会》に向かっている。新聞によるとアレクシアも見つかったらしいし、堂々と帝都を歩いても問題は無い。
ちなみにアレクシアを見つけたのはアーク・ロダン率いる《
【白狼の巣】の一件で大活躍したシトリーと、アレクシアを救出してゼノン侯爵を捕まえたアーク。どっちも《
偶然じゃないとしたら、クランマスターのクライの仕業って事になる。その辺りの噂話を今日は聞きたいな。《アカシャの塔》についてどこも全く報道しないし。報道規制?
「そこの貴方、止まりなさい」
考え込んでると《探索者協会》の入り口で呼び止められた。いつか聞いた声だ。白銀の髪の女の子が赤い目で僕をじっと見つめている。
「アレクシア……さん。その、無事でよかったです」
「シド・カゲノー、ちょうどよかった。アナタを呼び出そうと思ってたとこなの」
アレクシアは真顔で近づいてきて、僕の腕を掴んだ。
「話があるの。来てくれないかしら?」
……この展開、前にもあったぞ。
***
そんなわけで連れてこられたのは、足跡クランハウスすぐそばのカフェだ。いつぞやアレクシアがクライに依頼交渉をしていた場所なんだけど……なぜか姉さんがいた。
「シド、大丈夫だった? ケガはない? 私心配だったの。帰ってきたら帝都が滅茶苦茶になってたんですもの……あなたに何かあったら、って私不安でしょうがなかったの」
「苦しいよ姉さん」
「安心してシド。お姉ちゃんがそばにいてあげるから……」
「それが苦しいんだって。いいかげん離れてよ」
抱き着くのやめて欲しいんだけど……他の客が見てるし、アレクシアがドン引きしてるじゃないか。クライも苦笑いしてないで助けて欲しい。
「ええと……どういうことです?」
「あはは……シド君が来るって言うからクレアを呼んだんだけど……その、よかったね?」
……クライは変わらないね。空回りしがちだけど、昔からいろいろと気づかいをする性格だった。それから……姉さんが離れるのを待って、ようやくアレクシアの話が始まった。
「……お2人を呼んだのは、改めて礼を言おうと思ったからです」
2人……姉さんはクライの護衛か。それより僕は何かしたっけ? 礼を言われるような覚えは無いんだけど。
「まずはクライさん。私が助かったのは貴方のおかげです。本当にありがとうございました」
「いやいや、僕は何もしてませんよ。君を助けたのはアークじゃないですか」
「アークにはもう礼を言いました。その上で貴方にも必要だと考えたんです。アークに情報を渡したのは貴方でしょう?」
「情報……? ……ああ、アレですね。まさかゼノン侯爵が悪人だったなんて……僕は全く気がつきませんでした」
「……まあ、そういう事にしておきましょう」
ん? クライの情報でアークが動いたって事?
「クライは何を調べてたの?」
「ここで依頼されたゼノン侯爵についてだよ。……あれ? もしかして……シド君も彼女と一緒に調べてたのか」
「うん、成り行きでパーティを組んでね」
「ちょっとシドどういう事よ? 1人で頑張りたいって言ったのは嘘なの?」
しまった、姉さんが僕を睨んでる。今の発言はウカツだった。すると慌ててクライがフォローしてくれた。
「いやクレア、悪いのは僕だよ。彼女の話にシドを巻き込んだのは僕なんだ。ですよね? アレクシアさん」
「まあ……そういう事になるのかしら?」
「……なるほどね、シドに対する千の試練だったの」
「なんでも千の試練って言うの、やめて?」
ナイスフォロー……? なんだか姉さんは納得してるけど、逆にクライは納得してない表情だ。でも千の試練は姉さんから聞いた気がする。クライは関わった人間に誰彼構わず試練を与えるって。僕が5日も尋問されたのは、やっぱり千の試練だったのか。……いやいやそんなまさか。
「そのパーティなんだけど……私、ハンターやめるわ」
「もういいの?」
「いいのよ。ゼノンは捕まったし……残念だったわね」
??? むしろ清々してるけど……
「それより僕にお礼って何? 何かしたっけ?」
「そ、それより? ……あなた、前に私の剣を褒めてくれたでしょ。その……ありがと」
「確かに言ったけど……なんで今さら?」
僕が聞き返すと、アレクシアは手元の紅茶に視線を落とした。どこか遠い目をしている。
「……アークがゼノンに言ってたの。『剣には歴史が宿る。積み重ねて来た思いを否定することは許さない』って」
「アークらしい言葉だね。彼の剣は初代ロダンから受け継がれてきた宝具だ」
「……それを聞いてね、自分の剣を好きになれるかもって思ったの。ずっと鍛錬を積み重ねて来た剣を。だから……今言ったのよ」
なるほど、クライの解説もあってやっとわかった。とにかくアレクシアは、まだまだ剣を振るつもりらしい。
「それで私、ハンターはやめるけど……しばらく帝都にはいるつもりよ。お姉さまにも剣を見てもらいたいしね」
「ふーん」
「だからシド……たまにはミドガルの屋敷に来なさい。貴方、練習相手にちょうどいいのよ」
「お断りだね」
「…………は?」
金貨が出るなら考えなくもないけど……そんな話、人前でするわけないよね。金の切れ目が縁の切れ目……って事にしたい。
なんだかアレクシアがすごい顔してるけど……気にせず運ばれてきたアップルパイに手を伸ばす。うまい!
「残念ね、お嬢様?」
なぜか姉さんが得意気な顔をしてる。……放っておこう。クライには《アカシャの塔》についても聞きたい。
「ところでクライ。宝物殿の異変を解決したって本当?」
「あ、それ私も聞きたかった。白狼の巣の話よね? 私がティノ達と行った」
……姉さんも巻き込まれてたんだ。
「解決したのはシトリーだよ。よくわからないけど……悪い
「まさか……アカシャの塔?」
アレクシアが息を呑んで驚いてる。彼女を襲ったのはシトリーだけど……クライは知ってるのかな? そのクライは首を傾げてる。
「あー……そんな名前だった気がするな」
「なんか他人事みたいな言い方だね」
「だってもう終わった話だし……こっちのケーキのほうが興味深いね」
そう言ってクライは、パウンドケーキを一口ほおばる。そりゃシトリーなら解決できるよね。元《アカシャの塔》の裏切り者なら、隠れ家の位置も知ってて当然だ。
「ん……? どうしたのシド君、僕の顔に何かついてる?」
「いや、さすがレベル8だなって。そう思っただけ」
「僕は何もしてないよ」
アレクシアとの話が本当なら、クライは前々からアークが動くように仕込んでいたんだ。それでアレクシアを救った。
シトリーの方も潜入したのはだいぶ前じゃないか? アレクシアの血を狙って、隣にいた僕を見て裏切りを決意したみたいだし。それで《アカシャの塔》をなんとかした。
クライには何かある。それは知略? それとも未来予知? はたまた運? その正体は全く掴めない。実力がある事はわかるのに、その正体を巧妙に隠している。
『実力を』『隠している』
……間違いない、クライは陰の実力者だ! まさか、こんな隠し方があるなんて……!?
「そっちのアップルパイも美味しそうだね……」
「じゃあ1切れずつ交換しようよ」
「いいの? ありがとうシド君」
陰の実力者の対になるのは、主人公ポジションだとばかり思ってたけど……陰の実力者が2人いるなんて完全に予想外だ。まさかの展開にワクワクが止まらない!
「あっ……!? 確かにこの店はパウンドケーキが一番かも……!」
「ふっ……そうだろ?」
くっ……ケーキも美味しいし、自信満々なクライに何も言い返せない! ……今日の所は負けを認めよう。これから僕とクライは競い合うライバルだ!
「クライってスイーツに関してだけは、頼りになるのよね」
「……それなら、いくつかオススメ教えてほしいわね。お姉さまにも喜んでもらえそうだし」
「あ、僕も聞きたい」
「オススメか……僕が最近注目してるのはミツゴシだね。あそこのスイーツは『デパチカ』ブランドが有名だけど、5階レストランでもおいしいスイーツが食べられるんだ。例えば――」
まあ……とりあえず今は友達として、一緒にお茶を楽しむとしよう。
1章本編はこれで完結です。
次話からは章間のエピソードです。