千変万化に負けない陰の実力者になりたくて! 作:kaneda,i9
それはシトリー・スマートが15歳の時だった。
「ふふふっ……どんなポーション作ろうかな?」
強力なポーションによる攻撃、その道をクライに示された(?)シトリーは1冊の本を手に取る。それは故郷で訓練していた時の愛読書、
「これを開くのも久しぶりだね。あの時はクレアちゃんやシド君がいて……」
故郷での日々……年下の幼馴染シド・カゲノーと、隣り合って勉強したのが懐かしい。彼は魔法生物に興味を抱いていて、村はずれでスライムを探していた事をよく覚えている。
「あれ……ちょっと面白かったな。スライムを魔力で操って……」
サンドラビットと並ぶ最弱の魔物スライム、しかし
彼は結果を出せなかったけど、今の……トレジャーハンターとして成長した私なら――そんな考えがシトリーの脳裏に浮かぶ。
「私も……1回だけ、やってみようかな? 1回だけ……」
そうして生まれたのが、シトリースライム1号だった。
***
そして現在……
「シャドウガーデンの剣……あれはどんなスライムなのでしょうか」
《
その3階で彼女は今、とある血液サンプルの実験をしていた。実験の合間の待ち時間……天井を見上げ、スライムの研究に想いを馳せている。すると、そんな彼女に駆け寄る1人の少女がいた。
「シトリー先輩、おめでとうございます!」
そう言って頭を下げたのは、シトリーと比べ一回り小柄な少女だ。歳は15~16だろうか? シトリー同様のピンクブロンドの髪、一房の髪が頭頂部からぴょこんと伸びている。顔を上げたその少女は、どこか緊張していた。
「シェリーちゃん、それでは何の話か分かりませんよ」
「あっ……そ、そうですよね。あの、わたし、ウワサを聞きました。シトリー先輩が《アカシャの塔》の
興奮気味に話す彼女の名は、シェリー・バーネット。【プリムス魔導科学院】にも所属しているレベル2の錬金術師だ。かつては、学院の先輩であるシトリーに強い憧れを抱いていたが、今は足跡所属のハンターとして共に研究する日々を送っている。
「ありがとうシェリーちゃん。……そうだ、ちょっと相談したいことがあるんです。新しい魔法生物のアイデアが欲しくて――」
シトリーが話したのは、スライムについてだった。8号の特性と欠点をシェリーに告げている。
「――でも8号は失敗作でした。私とクライさんを攻撃対象から外すのが限界で、後は見境なしだったんです」
「え、え、そ、それは……マナ・マテリアルへの干渉って『十罪』じゃ……」
話を聞いたシェリーはしどろもどろ、顔面蒼白になっていた。そんな彼女に、シトリーは変わらず笑顔を向けている。
「……ええ、だから失敗作なんです。すぐに処分しました」
「そうなんですか。よかった~……」
シトリーの言葉を信じたシェリーは安堵し、胸を撫で下ろした。
「そのスライムを改良するとしたら、どうするのがいいと思いますか?」
「うーん……そもそも、スライムのような頭脳の無い生物に複雑な命令は難しいって言われてますよね。その点、先輩の7号はすごいですけど……どうしてスライムにこだわるんですか?」
「それは……スライムじゃないと実現できないアイデアがあるからですね。キルキル君だって、宝物殿に連れて行ける魔法生物というコンセプトで、あの姿になったんです」
「そ、そうなんですか……」
そっと後ろを振り向くシェリー、彼女の視界の隅に灰色の肌を持つ人型が映った。
「きるきる……」
2メートルを超える身長で筋骨隆々、キルキル君だ。戦闘力と知能を両立した彼は今、ポーション瓶の詰まった箱を、軽々と持ち上げて運んでいる。
「た、確かにキルキル君はすごいです。見た目はちょっと怖いですけど……」
「それでですね。8号のアイデアをこのまま捨てるのは勿体ないな……って思うんです」
「でも、もし作ったのがバレたら罪に……」
「……実際に作るわけではありませんよ」
「そうですか。それなら安心です」
シトリーの言葉を信じたシェリーは安堵し、笑顔を見せる。すると、何かを閃いたのかハッと目を見開いた。
「そうだ。頭脳があればいいんですよ。ゴーレムの制御中枢を改良して、スライムの体内に埋め込むのはどうでしょう?」
「ふむ……サイズの縮小化、弱点にしては目立ちすぎる、制御装置が壊れた時のリスク……面白いアイデアですが実用するには課題が多そうですね」
「な、なるほど……操れれば良いというわけではないんですね。難しいなぁ……」
「ふふっ。シェリーちゃんも経験を積めばわかるようになりますよ」
そう言って微笑むシトリー。彼女はシェリーの事をとても気に入っていた。
(タリアちゃんは常識にとらわれてるけど、シェリーちゃんは見所があります)
自分が大丈夫と言えば、それを信じてアイデアを出してくれる……その危うさは逆に常識外のアイデアを思いつく利点だ――そうシトリーは考えていた。だからついつい、構いたくなる。
「シェリーちゃんはもっと外に出るべきです。実地に勝る経験はありません」
「そんな……無理です。知らない人とパーティを組むなんて……」
恥ずかしがっているのか、シェリーの声はどんどん小さくなる。この内気な性格が彼女の欠点だ。ハンターになったのは、この性格を変えるためだが……改善の兆しは未だ見えない。
(誰かいないかな? シトリーちゃんと組んでくれる人)
彼女とレベルが近くて、性格に問題が無くて、腕のいい……そんな都合のいいハンターを考えた時、シトリーには1人だけ思い当たる人物がいた。
(シド君って実力はどうなのかな? 彼なら、私が頼めば組んでくれそうだけど……)
「私から紹介したら意味が無いですね。自分で見つけるのも大事です」
「そんなぁ~……が、頑張ります……」
消え入りそうな声で宣言するシェリーと、にこやかな笑顔を向けるシトリー。そんな2人の横で、実験中の血液サンプルが泡立ち始めた。まるで沸騰したお湯のように激しい反応を見せる。
「おや? これは……なかなか研究し甲斐がありそうですね」
「ふぇ? それ……何の血ですかシトリー先輩?」
「……魔獣の血ですよ。珍しいのが手に入ったので調べていたんです。新しい魔法生物に使えるかと思いまして」
「魔獣の血で魔法生物? つまり……今度はキメラですか。いろんな魔法生物を試して……やっぱり先輩はすごいです!」
シトリーの言葉を信じたシェリーは安堵し、まだ見ぬ魔法生物に目を輝かせた。