千変万化に負けない陰の実力者になりたくて!   作:kaneda,i9

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蛇_#3_シャドウガーデンと《千変万化》

「……以上が今回の作戦結果になります」

「そう……ありがとうガンマ」

 

 七陰の集う会議室に重苦しい空気が漂う。無理もない。先日の手痛い失敗の振り返りをしたのだ。アルファの顔が険しいのはケガだけが原因ではない。そんな中、ためらいがちにベータが次の報告を始める。

 

嘆きの亡霊(ストレンジグリーフ)についてですが……どうやら、彼らも蛇の眼を捕まえようとしていたみたいですね」

「何なのですアイツら……メス盗賊(シーフ)はすばしっこいし、デカ鎧はカチカチだったのです」

 

 いつも元気で騒がしくしている犬獣人のデルタも、今日ばかりは元気がない。自分の力が通用しなかったことにショックを受けているようだ。

 

「私の罠……全部壊された。あの巨体は宝具の力? 興味深い……」

 

 一方でイータはただ1人、目を輝かせていた。組織の技術開発を一手に担う彼女にとって、宝具は恰好の研究材料だ。

 

「今回の件で、探索者協会が動きを慌ただしくしています。おそらく……千変万化のレベル8昇格試験に向けて」

「……蛇の幹部全員の捕縛、いい実績だね。私達の事、全部まんまと利用されたわけだ」

 

 ベータの説明は続き、金豹獣人のゼータが不愉快そうに口を尖らせた。諜報担当として、《嘆きの亡霊(ストレンジグリーフ)》に裏をかかれ続けた事を誰よりも重く受け止めている。

 

「まさかまったく同じタイミングになるなんて……酷い偶然ね」

 

 ベータをライバル視するイプシロンも、今回ばかりは責める気になれなかった。彼女もあの戦いで部下を傷つけられ、歯がゆい思いをしている。

 

「ホントに偶然かしら……?」

 

 するとふいに、ベータの口から疑問が漏れる。その言葉をイプシロンは訝しんだ。

 

「……どういう意味よベータ?」

「千変万化、奴は……私の名前を知っている。そんなそぶりを見せたわ」

「それって……おかしいじゃない。ありえないわ!」

 

 《千変万化》に名前を知られている、その意味を理解したイプシロンは声を荒げた。一方でデルタは首をかしげている。

 

「名前を知られてたら変なのですか?」

「少しは考えなよバカ犬。私達はずっと陰の世界に隠れていたんだ。それをハンターが知っているのはおかしいんだよ」

「デルタは犬じゃない……」

 

 小馬鹿にしながら説明するゼータ、それに食って掛かるデルタ。いつものやり取りもどこか元気が無かった。

 皆が戸惑っていると、聞きに徹していたアルファが口を開く。

 

「ベータ、あなたの考えを聞かせて」

「アルファ様…………最初はガーデンに内通者がいる可能性を考えました」

「なっ……!? そんなはずは……」

 

 驚き、立ち上がりかけたゼータを、アルファは手で制した。そのままベータに続きを促す。

 

「しかしそれでは、私達と関りが無い部分での実績に不可解な点があります。なので考えられる可能性は2つです」

「1つ目は?」

「はい……千変万化が独自の情報網を持っている可能性、それも私達や蛇を超える精度の」

「……2つ目は?」

「例の噂……『千変万化は未来が視える』それが真実という可能性です」

 

 どちらも荒唐無稽な話だ。しかし《千変万化》の実績と振る舞いが説得力をもたらしている。誰も否定することはできなかった。続く沈黙に小さなため息を零し、アルファは意を決した表情で立ち上がった。

 

「どちらにしても蛇はもういない……今後は嘆きの亡霊(ストレンジグリーフ)との不用意な接触を避けるべきね」

「アイツらから逃げるですか? デルタはあのメス盗賊(シーフ)を狩りたいのです」

「デルタ、私達の目的はディアボロス教団の壊滅よ。それを忘れないで」

「でも……う~……」

 

 悔しそうに唸るデルタ。すると今度はガンマが不安を顔に、アルファに問いかける。

 

「しかしアルファ様、彼らと私達……どちらも帝都を拠点にしている以上、今後も衝突する可能性はあります。その場合の対応も考えなくては」

「そうねガンマ……その時が来る前に、彼から意見を聞きましょう」

(あるじ)様から……?」

 

 それはある種の敗北宣言だった。彼女達の(あるじ)、シャドウの使命は《ディアボロス教団》の壊滅。それを手助けするのが「七陰」と《シャドウガーデン》の存在意義、そう考えた彼女達はやるべき事を自分達だけで考えて来た。シャドウに頼りきりではいけないと。

 ……それでもアルファはシャドウに尋ねると言ったのだ。しかも《教団》とは無関係なハンターに対しての意見を。アルファの心中を察したガンマはそれ以上の追及を避けた。

 

「……主様への次の報告担当は私です。その際に主様に尋ねてみましょう。それまでは最低限の監視だけにとどめておきます」

「そうしてちょうだい。彼が帝都に来るのはもっと先の話。それまで帝都では陰に潜みましょう」

 

 

 

 その後、各々のやるべき事を確認し会議は終了。会議室にはアルファがただ1人残っていた。手元には皺のよった新聞。見出しには「乱闘騒ぎ またしてもハンター」と書かれている。《蛇》については伏せられた、粗暴なハンターに対する批判記事だ。アルファの突き刺すような視線は記事に向けられている。

 

「シャドウ……あなたがいればこんな事にはならなかったでしょうね」

 

 悪魔憑きとなった運命を呪い、シャドウに救われた。そして力と知恵を与えられた。七陰はそれに甘んじることなく己を鍛え、《シャドウガーデン》を巨大な組織に育て上げようとしている。

 

(私達は強くなったと思っていた。それなのに……ハンターに後れを取るなんて)

 

「あなたにまるで追いつけない。私達は……弱い」

 

 新聞を握り締めた手が僅かに震える。それは怒りか悔しさか。アルファの手から魔力が溢れ、新聞を灰へと変えた。舞い落ちる灰。見つめるアルファの顔は依然として険しい。

 

「千変万化……いったい何者なの」

 

***

 

「なんで! 私達の後を追いかけて来たんですかリーダー!? クレアまで巻き込んで……」

「いやだって……蛇を狩りに行くって言うからさ、どんな蛇か気になったんだよ」

「『ここで待っていて』って言いましたよね?」

 

嘆きの亡霊(ストレンジグリーフ)》の拠点、ハンタークラン《始まりの足跡(ファーストステップ)》のクランマスター室で、クライはルシアに問い詰められていた。

 

「例えばほら、真っ白な蛇は幸運の象徴って言うだろ? そういう変わった蛇がいるのかと思ったのに、まさか犯罪組織の方だったなんて。最初に首領を捕まえたのに、まだ残ってたんだ」

「も、文字通りの蛇だと……思って……ああ、もう!」

 

 クライの言い分にルシアは怒るが、もはやかける言葉を見つけられなかった。気にせずクライが指輪型宝具を磨いていると……ノックの音が響き、副クランマスターのエヴァが入室した。

 

「失礼します。クライさん、ガークさんから呼び出しが来ていますが……」

「いつも通り忙しいからって断っといて。僕が賊に襲われるなんてよくある事じゃないか」

 

 クライ・アンドリヒは自分を襲う賊をまるで区別していなかった。それが裏社会の大組織《蛇》であっても。

 

「はぁ……そうでは無く、現場で目撃された黒づくめの集団について聞きたいとの事です」

「黒づくめ……黒づくめ……ああ、謎の女Bの事か。ルシア、代わりに行ってよ」

「私はもう報告しました! してないのはリーダーだけです!」

 

 そしてクライは、《シャドウガーデン》の事を気にも留めていなかった。

 




これにて序章の完結です。
感想と評価、お待ちしています。
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