千変万化に負けない陰の実力者になりたくて! 作:kaneda,i9
「……以上が今回の作戦結果になります」
「そう……ありがとうガンマ」
七陰の集う会議室に重苦しい空気が漂う。無理もない。先日の手痛い失敗の振り返りをしたのだ。アルファの顔が険しいのはケガだけが原因ではない。そんな中、ためらいがちにベータが次の報告を始める。
「
「何なのですアイツら……メス
いつも元気で騒がしくしている犬獣人のデルタも、今日ばかりは元気がない。自分の力が通用しなかったことにショックを受けているようだ。
「私の罠……全部壊された。あの巨体は宝具の力? 興味深い……」
一方でイータはただ1人、目を輝かせていた。組織の技術開発を一手に担う彼女にとって、宝具は恰好の研究材料だ。
「今回の件で、探索者協会が動きを慌ただしくしています。おそらく……千変万化のレベル8昇格試験に向けて」
「……蛇の幹部全員の捕縛、いい実績だね。私達の事、全部まんまと利用されたわけだ」
ベータの説明は続き、金豹獣人のゼータが不愉快そうに口を尖らせた。諜報担当として、《
「まさかまったく同じタイミングになるなんて……酷い偶然ね」
ベータをライバル視するイプシロンも、今回ばかりは責める気になれなかった。彼女もあの戦いで部下を傷つけられ、歯がゆい思いをしている。
「ホントに偶然かしら……?」
するとふいに、ベータの口から疑問が漏れる。その言葉をイプシロンは訝しんだ。
「……どういう意味よベータ?」
「千変万化、奴は……私の名前を知っている。そんなそぶりを見せたわ」
「それって……おかしいじゃない。ありえないわ!」
《千変万化》に名前を知られている、その意味を理解したイプシロンは声を荒げた。一方でデルタは首をかしげている。
「名前を知られてたら変なのですか?」
「少しは考えなよバカ犬。私達はずっと陰の世界に隠れていたんだ。それをハンターが知っているのはおかしいんだよ」
「デルタは犬じゃない……」
小馬鹿にしながら説明するゼータ、それに食って掛かるデルタ。いつものやり取りもどこか元気が無かった。
皆が戸惑っていると、聞きに徹していたアルファが口を開く。
「ベータ、あなたの考えを聞かせて」
「アルファ様…………最初はガーデンに内通者がいる可能性を考えました」
「なっ……!? そんなはずは……」
驚き、立ち上がりかけたゼータを、アルファは手で制した。そのままベータに続きを促す。
「しかしそれでは、私達と関りが無い部分での実績に不可解な点があります。なので考えられる可能性は2つです」
「1つ目は?」
「はい……千変万化が独自の情報網を持っている可能性、それも私達や蛇を超える精度の」
「……2つ目は?」
「例の噂……『千変万化は未来が視える』それが真実という可能性です」
どちらも荒唐無稽な話だ。しかし《千変万化》の実績と振る舞いが説得力をもたらしている。誰も否定することはできなかった。続く沈黙に小さなため息を零し、アルファは意を決した表情で立ち上がった。
「どちらにしても蛇はもういない……今後は
「アイツらから逃げるですか? デルタはあのメス
「デルタ、私達の目的はディアボロス教団の壊滅よ。それを忘れないで」
「でも……う~……」
悔しそうに唸るデルタ。すると今度はガンマが不安を顔に、アルファに問いかける。
「しかしアルファ様、彼らと私達……どちらも帝都を拠点にしている以上、今後も衝突する可能性はあります。その場合の対応も考えなくては」
「そうねガンマ……その時が来る前に、彼から意見を聞きましょう」
「
それはある種の敗北宣言だった。彼女達の
……それでもアルファはシャドウに尋ねると言ったのだ。しかも《教団》とは無関係なハンターに対しての意見を。アルファの心中を察したガンマはそれ以上の追及を避けた。
「……主様への次の報告担当は私です。その際に主様に尋ねてみましょう。それまでは最低限の監視だけにとどめておきます」
「そうしてちょうだい。彼が帝都に来るのはもっと先の話。それまで帝都では陰に潜みましょう」
その後、各々のやるべき事を確認し会議は終了。会議室にはアルファがただ1人残っていた。手元には皺のよった新聞。見出しには「乱闘騒ぎ またしてもハンター」と書かれている。《蛇》については伏せられた、粗暴なハンターに対する批判記事だ。アルファの突き刺すような視線は記事に向けられている。
「シャドウ……あなたがいればこんな事にはならなかったでしょうね」
悪魔憑きとなった運命を呪い、シャドウに救われた。そして力と知恵を与えられた。七陰はそれに甘んじることなく己を鍛え、《シャドウガーデン》を巨大な組織に育て上げようとしている。
(私達は強くなったと思っていた。それなのに……ハンターに後れを取るなんて)
「あなたにまるで追いつけない。私達は……弱い」
新聞を握り締めた手が僅かに震える。それは怒りか悔しさか。アルファの手から魔力が溢れ、新聞を灰へと変えた。舞い落ちる灰。見つめるアルファの顔は依然として険しい。
「千変万化……いったい何者なの」
***
「なんで! 私達の後を追いかけて来たんですかリーダー!? クレアまで巻き込んで……」
「いやだって……蛇を狩りに行くって言うからさ、どんな蛇か気になったんだよ」
「『ここで待っていて』って言いましたよね?」
《
「例えばほら、真っ白な蛇は幸運の象徴って言うだろ? そういう変わった蛇がいるのかと思ったのに、まさか犯罪組織の方だったなんて。最初に首領を捕まえたのに、まだ残ってたんだ」
「も、文字通りの蛇だと……思って……ああ、もう!」
クライの言い分にルシアは怒るが、もはやかける言葉を見つけられなかった。気にせずクライが指輪型宝具を磨いていると……ノックの音が響き、副クランマスターのエヴァが入室した。
「失礼します。クライさん、ガークさんから呼び出しが来ていますが……」
「いつも通り忙しいからって断っといて。僕が賊に襲われるなんてよくある事じゃないか」
クライ・アンドリヒは自分を襲う賊をまるで区別していなかった。それが裏社会の大組織《蛇》であっても。
「はぁ……そうでは無く、現場で目撃された黒づくめの集団について聞きたいとの事です」
「黒づくめ……黒づくめ……ああ、謎の女Bの事か。ルシア、代わりに行ってよ」
「私はもう報告しました! してないのはリーダーだけです!」
そしてクライは、《シャドウガーデン》の事を気にも留めていなかった。
これにて序章の完結です。
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