千変万化に負けない陰の実力者になりたくて!   作:kaneda,i9

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Interlude#2_悪魔憑きの少女

――その少女は夢を見ていた。

 

「パパ、ママ、ありがとう!」

 

 それはいつの光景だろうか。まだ母さんが生きていて、父さんが笑顔で……みんなでパーティに行くからと、ドレスを仕立ててもらった幸せなあの日。

 

「ミリア……必ず、必ず私が何とかする! 悪魔に魂を売ってでも……必ず!」

 

 それはいつの光景だろうか。母さんが天国に旅立って、父さんが険しい顔をしていて……ベッドの上で、自分の運命を呪った日。

 

 いつからだろうか。父さんが死んで、怪しげな連中に体を弄られるようになったのは。いつからだろうか。父さんの笑顔を思い出せなくなったのは。

 

 いつから……いつから――

 

「ティー! テメエそこにいるのはわかってんだ! いつまで特訓サボる気だ、あぁっ?」

「お姉さま……!? ちょっと……静かにお願いします」

 

 騒がしい、知らない声が聞こえて来た。それは夢の外から聞こえてくる声……少女の意識が少しずつ覚醒を始め――

 

「おらぁっ!」

「ひゃっ!?」

 

 扉が蹴破られる音で、少女はベッドから跳び起きる事になる。

 

「えっ……何? 何が……」

「あん? 起きてんじゃねぇか。……ティー、何とかしろ」

 

 扉を壊したのは、浅く焼けた肌の女性。ピンクブロンドの髪を後ろにまとめ、銀色のブーツが眩しく輝いている。その女性は苛立たしげに、ベッドの上の少女を睨んでいた。

 

「お姉さま、私の部屋を……って起きてる!? あの子起きたんですか!?」

 

 もう1人誰かの声が聞こえて来た。黒髪の少女が、隙間から顔を出して見つめている。

 

***

 

「私は、ミリア」

 

 それから、黒髪の少女(ティノというらしい)に水とタオルと着替えを渡され、眠っていた少女――ミリアは落ち着いて周囲の状況を確認できた。

 

(地下でも、牢屋でもない……なんというか……普通だ)

 

 普通の部屋、普通のベッド、普通の着替え……《ディアボロス教団》に実験体として扱われていた時とはまるで違う。最も違う点は……自分の体が人間の姿をしているという事だ。

 

「あの、私……どうしてここに」

「それは……街で倒れているのを見つけて、運んだんです。ここは私の家」

「ええと……ティノさん、の家……」

 

 ミリアはゆっくりと記憶をたどる。実験体として監禁され、同じように監禁された少女がいて、変な薬を打たれて……そこから先を思い出そうとすると、頭に鈍い痛みが走った。

 

「うぅ……!」

「大丈夫ですか!? 無理しないでくださいね」

「え、ええ……」

 

 ティノに心配されながら、ミリアは自分の右手をじっと見つめた。「悪魔憑き」の腐り落ちた右手ではない。実験体としての歪な右手でもない。人間らしい右手。

 

「あの、私、何があったの? こんな……体が、治って……」

「そ、それは……」

 

 それを訪ねた途端、ティノは口ごもってしまった。部屋の隅にいるお姉さま(名前はリィズ)とやらを気にしているようだったが……意を決したのか、真剣な表情をミリアに向ける。

 

「あの日、私は怪物に出会ったの」

 

 ティノは正直に話してくれた。アルファと名乗った女性が、青い魔力を解き放ち怪物を人の姿に……ミリアに変えたと。すると、話を聞いたリィズが、興味深くミリアを見つめている。

 

「へえ……怪物をアルファがねぇ。ティーなんでそんな面白い話を黙ってんだよ」

「だって……どこでシトリーお姉さまが聞いてるかわからないじゃないですか。もし気づかれたら、あの子に何をするか……」

「あー……確かにシトの喜びそうなネタかも」

「……ところでお姉さま、アルファを知っているんですか?」

「うん、シャドウガーデンって組織の幹部っぽい。結構強そうだったし……ルークちゃんが狙うのもわかるんだよねぇ」

 

(アルファ、シャドウガーデン……それが私の体を……)

 

 2人の言ってる事は半分も分からなかったが、平然としている彼女達は頼もしく見える。

 

「驚いたり……しないのね」

「は? 私がそれくらいで驚くわけないじゃん。もしかしてぇ……私のこと知らないのぉ? モグリかテメエ?」

「……ごめんなさい。私、ずっと監禁されてて……」

 

 挑発的な問いにどう反応していいかわからず、ミリアは謝る事しかできなかった。

 

「ホントに知らねえのかよ……私は《絶影》のリィズ・スマート。レベル6の盗賊(シーフ)だよ」

「さ、さすがに《嘆きの亡霊(ストレンジグリーフ)》はわかりますよね?」

「……ごめんなさい。どこかで聞いた気はするんですが……」

「そ、そうですか……」

「マジで言ってんの?」

 

 リィズもティノも、驚きと困惑の入り混じった表情を浮かべている。いたたまれなくなったミリアは、思わず叫んでいた。

 

「あ、あの! 今って何年何月何日ですか? それと、ここはどこの街ですか?」

 

 

 そしてミリアは知った。自分が「悪魔憑き」になってから、3年近い月日が流れていたことを。

 

「3年前って……クライちゃんが足跡を作ったばかりの頃じゃん。私らの名前が広がり始めた頃というか……でも知らないのムカツク」

「あの……ミリアさん、家族はいないんですか? きっと心配して……」

「母さんは私が小さい時に。父さんは私の病気を治そうと、悪魔に魂を売って……死にました。罰が……くだったん……でしょうね……」

 

(私は……父さんがいつ死んだのかもわからない……)

 

 ミリアの父、オルバ子爵が魂を売ったのは《ディアボロス教団》という悪魔だった。父の死後、ミリアは教団に実験体として扱われることになる。

 

 涙を流し、肩を震わせるミリアに、ティノは鞘に収まった短剣を差し出した。赤い宝石が装飾され、柄に「最愛の娘ミリアへ」と刻まれている。

 

「これ、ずっとあなたは握っていました。怪物の姿でも肌身離さず……大切な物……ですよね」

「あ、ああ……」

 

 ミリアは震える手で短剣を受け取り、愛おしそうに抱きしめた。

 

「父さん……」

 

 ……ミリアが泣き止むと、つまらなそうに待っていたリィズが問いかける。

 

「それで? テメエはどうすんの?」

「どう……する?」

「やりたい事とか無いの? いつまでもティーの世話になるつもり? そんなの私が許さないから。ティーにはやらなきゃいけない事があるの」

 

 リィズの厳しい視線がミリアをじっと見据えている。

 

「ちょっと……お姉さま!?」

「いいのティノ」

(厳しい言い方だけど……リィズさんの言う通りよ。私は、私のやりたいことは……)

 

 ミリアの脳裏をよぎるのは名前。教団の連中が噂していた、父を殺した者たちの名前。そして、ティノ達が教えてくれた、自分の体を戻した組織の名前。

 

「私は……父さんがなんで死んだのか知りたい。だから、シャドウガーデンに会いたい」

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