千変万化に負けない陰の実力者になりたくて!   作:kaneda,i9

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【これまでのあらすじ】

(陰の実力者を目指す僕、シド・カゲノーは【帝都ゼブルディア】を訪れた。表向きは冴えないトレジャーハンターを演じつつ、その裏で陰の実力者として活動するために。
 そんなある日、先んじてハンターになっていた幼馴染クライ・アンドリヒと再会する。5年ぶりに会った彼は驚くべきことに、ハンターとして大成功し認定レベル8になっていたんだ。戦う才能の無かったクライが……いったいどういう事だろう? 考える間もなく、僕はクライをキッカケに事件に巻き込まれてしまう)

(巻き込まれたのは2つの事件、ワガママ貴族令嬢アレクシア・ミドガルの誘拐事件と、魔術結社《アカシャの塔》による宝物殿の異変だ。どちらも解決の裏には、クライが手を回している様子があった。
 何も考えていない。何もしていないふりをしながら、最低限の的確な行動だけをしている。どうしたらそんな事ができるのだろうか? 答えは1つ。クライには隠している実力がある)

(クライ・アンドリヒは陰の実力者に違いない。これからは彼と陰の実力者同士、様々な舞台で競い合う事になるだろう……)



2章_ゼブルディアオークションの陰謀を暴け!
オークションについてガンマに聞いてみよう!


 《アカシャの塔》騒動から1週間、帝都は落ち着きを取り戻し、僕のモブハンターとしての日々も再開した。でもすぐに新しいイベントがやって来る。

 僕は《探索者協会》内の連絡掲示板、そこに張られた1枚の告知ポスターに注目していた。

 

『ゼブルディアオークション開催迫る』

 

 それは、1年に1度行われる帝国主催の大オークションの告知。故郷の田舎町でも名前を聞いた事がある。それぐらい大きなイベントの開催だ。

 国を挙げての大オークション……金、じゃなくて陰謀の匂いがするぞ。もし大オークションの裏で何か事件が起きれば……陰の実力者として介入するチャンスだ。そんな未来に期待してると、近づいてくる足音に気づいた。

 

「やあシド君。君もオークションに興味あるの?」

「おはよう。珍しいね、クライがここにいるなんて」

「この前の事件の後処理に呼ばれてね。まあ、僕は殆ど置き物だったけど」

「ああ……シトリーが大活躍したって言ってたね」

 

 やって来たのは、黒髪のぼんやりした顔つきの男。彼はクライ・アンドリヒ。《千変万化》の二つ名を持つレベル8ハンターで《始まりの足跡(ファーストステップ)》のクランマスター、そして僕の幼馴染だ。

 事件と言うと……やっぱり《アカシャの塔》関係かな。シトリーが首謀者を捕まえたって話だけど。そりゃ前々から潜入していたんだから、隠れ家を知ってて当然だよね。

 どんな会議だったのか聞こうかと思ったら、クライの視線はオークション開催の告知ポスターに注がれてる。

 

「それよりゼブルディアオークションか……楽しみだなぁ」

「どんなオークションなの?」

「いろいろ出品されるけど……一番の目玉は宝具だね。ほら、この帝都はトレジャーハンターの聖地って呼ばれてるだろ? それでいろんなハンターが秘蔵の宝具を出品するんだ」

 

 宝具の出品か……実は僕は結構な量の宝具を隠し持っている。陰の実力者としての修行に、高レベル宝物殿を使ってるからだ。見つけると、ついつい拾っちゃうんだよね。

 一度は宝具店に売る事も考えたけど……何度も売ってたらいずれ噂されて、目立ってしまう。それじゃあモブらしくない。そんなわけで処分に困っている。

 

「それなら僕も出品しようかな……」

「……どんな宝具? 僕に見せてくれない?」

 

 ちょっと呟いただけなのに、クライの食いつきがすごい。なんとなくそんな気はしてたけど……クライが宝具コレクターって噂は本当っぽい。そもそも、両手の指全部に指輪型宝具を嵌めてるじゃないか。これがレベル8の財力って奴か……

 

 クライと話し込んでいると、もう1人誰かが近づいて来た。地味なローブに、切りそろえられたピンクブロンドの髪……シトリー・スマートだ。クライと同じパーティ《嘆きの亡霊(ストレンジグリーフ)》に所属する錬金術師(アルケミスト)で、彼女も僕の幼馴染。何やらペット用みたいな籠を抱えている。

 

「クライさん、お待たせしました。シド君もおはよう」

「おはよう。その籠は……?」

 

 籠を覗き込むと……中には小さな獅子がいた。竜の翼と刃の尻尾を持った獅子の子供。僕が戦った《アカシャの塔》のキメラじゃないか。

 

「これはクライさんの飲み物です」

「のみもの?」

「それはもういいよシトリー……」

 

 なんだかクライが辟易してる。会議で何かあったのかな。

 

「このキメラが……事件解決の報酬?」

「そんなとこです。それとクライさん、これを」

 

 シトリーが取り出したのは四角くて薄い箱。それを受け取ったクライは早速、蓋を開ける。僕も覗き込むと……縦横の長さが同じ銀色の十字架が見えた。いや、X字と言うべきかもしれない。変わった装飾がされていて、ただのアクセサリーには見えないな。もしかして宝具?

 

「いい輝きだ……アークさまさまだよ」

「ゼノン侯爵秘蔵の品……いったい何でしょうね?」

「変わった宝具だといいな」

 

 嬉しそうな顔でクライが片付けてるけど……シトリーの言葉が気になる。ゼノン侯爵ってアレクシアを誘拐したらしい変態じゃないか。変態でも侯爵、上級貴族秘蔵の宝具……確かに気になる。

 

「それじゃあシド君、僕達は帰るよ」

「いつでも遊びに来ていいですからね。シド君なら大歓迎です」

「うん、またねー」

 

 去っていく2人を見送り、改めてオークションのポスターを見てみよう。どうやって出品すればいいのかな……?

 ポスターに詳しい方法は書いて無かったけど、協賛の所に【ミツゴシ商会】の名前を見つけた。ミツゴシと言えば、大通りにそびえる巨大デパート。そこで聞いてみるか。

 

 出口に向かおうと振り返ると、受付にいる集団が目に留まった。全員が武装してるしパーティかな? リーダーらしき男は身長およそ2メートルの筋骨隆々の剣士、背中に大剣を背負っている。そして……マナ・マテリアルを多く取り込んだ高レベルハンター特有の気配を感じた。

 

 帝都にいる高レベルハンターは一通りチェックしたけど……彼らは初めて見る。リィズ程じゃないけど、けっこう強そうだね。あれならガンマと互角……以上の実力かな。

 

***

 

 名前を思い浮かべたからか、僕はガンマと再会する事になった。

 

(あるじ)様がご来店するのを、私達は心よりお待ちしておりました」

 

 帝都でも屈指の人気スポット【ミツゴシデパート】。その入口の行列に並んだら、係員に屋上に案内され、そのまま屋上屋敷の中へ……すると豪華絢爛な玉座の間に、ドレスを着たガンマが待っていたんだ。

 《シャドウガーデン》七陰の3番目、ガンマ。藍色の髪の精霊人(ノーブル)、僕が治療した「悪魔憑き」の1人だ。長髪の似合う凛々しい顔つき、暗色のドレスも相まって、クールで知的な印象を纏っている。

 

「久しぶりだねガンマ。もしかして、ここって君の店?」

「はい、ミツゴシ商会はシャドウガーデンの……ふぎゃ!?」

 

 段差で躓いて転び、ガンマは大理石の床に顔面を打ち付けてしまった。相変わらず運動神経が壊滅的みたいだね。悪魔憑きの後遺症で高い身体能力を得たはずなんだけど……昔からまったく使いこなせてない。七陰の中では『最弱』なんて呼ばれてたっけ。

 

「――シャドウガーデンのフロント企業でございます」

「鼻血出てるよ」

 

 

 ――気を取り直して、ガンマの案内で王座に腰掛ける事になった。脚を組んで軽く頬杖をつく……陰の実力者らしいポーズで座ってみる。

 

「ふむ……悪くない眺めだ」

 

 屋敷内にいたミツゴシ商会の人達が、ズラッと並んで跪いている。配下を見下ろすこの感じ……いいね。陰の組織の長って感じがする! こんな見事なセットを用意してくれるなんて……何か礼をしないと。

 

「褒美だ。受け取れ」

 

 僕は青紫の魔力を天井へ向けて放った。散り散りになって雪のように降り注ぐ光……僕に用意できる礼はこれくらいだけど、みんな感動してくれたみたいで何より……でも泣くほどかなガンマ?

 

「っ……主様の来店理由は察しております。例の件についてですね?」

「え? ああ、例の件だ」

「シャドウガーデンを名乗る辻斬り……我々はその足取りを追っていますが、今は商会としても大事な時期……調査に人員を割くのが難しい状況でございます」

 

 適当に相槌したけど……《シャドウガーデン》の偽物が現れたのか。きっと憧れたファンが真似してるんだろう。でも名前をそのまま使うのはいただけない。こっちの評判が落ちる前に退治する必要があるね。

 

「ふむ。我も探るとしよう」

「っ! ……ありがとうございます! 詳しい話はゼータからお聞きください。彼女に調査を任せています」

「ゼータが来ているのか?」

「はい。帝都で調べたいことがあると言っていました」

「そうか……会うのが楽しみだな」

 

 七陰のゼータ。金猫獣人の彼女はかくれんぼが得意で、潜入とか調査とかスパイごっこが昔から好きだった。今でも好きって事なのかな?

 

「それと主様、こちらをお受け取り下さい」

 

 そう言ってガンマが差し出したのは一枚の封筒。手に取って中を確認すると……なにやらきちんとした書類が入っている。

 

「……これは?」

「主様のために用意した、マンションの権利書でございます」

 

 ……??? 今ガンマはなんて言った?

 

「ま、マンション……権利書?」

「はい。足跡のクランハウスより高い6階建てのマンションでございます。かつて私達は主様より様々な施しを受け取りました。その恩返しの一環として……あの《始まりの足跡》より高い景色をご用意したのです」

 

 自信満々の得意気な笑顔をガンマは見せている。改めて書類に目を通すと……後はサインを書くだけの状態だ。それで僕は不動産のオーナーになれる。……いやいや。そんなまさか。

 

「ガンマ、この商会……どれくらい儲かっているの?」

「現在、国内外の主要都市に店舗を展開しております。独自ブランドの売れ行きも好調で……それも全ては主様の『陰の叡智』のおかげでございます」

 

 ああ……そうだった、ガンマはメチャクチャ頭が良かった。僕が「陰の叡智」なんて名前でひけらかした前世知識を、一字一句逃さぬように聞いていたっけ。それがまさか……こんな形で現れるなんて。

 

「えーっと……シャドウガーデンのみんな、知ってる感じ?」

「はい、もちろんでございます。この屋敷が帝都での活動拠点です」

 

 僕をのけ者にして、僕の知識で大儲け……? いや、こんなセットを用意してもらったし……マンションまで……でも、でも念のため聞いておこう。

 

「もし、今すぐに用意しろと言ったら、いくら用意できる?」

「申し訳ありません。今はゼブルディアオークションの準備があるので……7億ギールが限界でございます」

 

 ……億か。そうだよね。商会規模の話なら億が単位だよね。ガンマは申し訳なさそうにしてるけど、モブ新人ハンターの視点だと一万、十万が単位なんだよ。これが頭脳の差か……

 とにかく、オークションの話が出たし、本題に移ろう。

 

「頼みがある。そのオークションについてだ」

「頼み……それは何でしょう主様」

「宝物殿で修行してると、いっぱい宝具拾うんだよね。それがたまっちゃってさ……オークションに出品したいんだけど、どうしたらいいかな?」

「まあ、それでしたら私達にお任せください。こちらで手続きを行いましょう」

 

 話題を変えると、ガンマも一転して穏やかな笑顔を見せた。

 

「主様なら、鑑定などの手数料もこちらで負担いたします」

「ホント? 助かるよガンマ。あっでも、ここに運んだら目立ちそうだな……」

「でしたら、マンションの管理人にお渡しください。彼女もシャドウガーデンの一員ですので、その旨を連絡しておきます」

 

 至れり尽くせりだね。とりあえず、権利書には今のうちにサインしておこう。

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