千変万化に負けない陰の実力者になりたくて!   作:kaneda,i9

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祝勝会

 宝具チャージ騒動から一夜明け……クライ・アンドリヒはシトリー・スマートと共に、とあるアパートを訪れていた。

 

「クレア~……リィズ探してるんだけどいる?」

「はいはい、今開けるわよ」

 

 《足跡》クランハウスから路面列車で10分、大通りから1つ外れた路地のそのアパートに、クレア・カゲノーの部屋があった。ハンター向けに設計された広い玄関扉が開き、私服姿のクレアが2人を出迎える。

 

「いらっしゃい。とりあえず中に入って。リィズなら今シャワー浴びてるから」

「うん、おじゃましまーす」

「おじゃましますね」

 

 2人がここを訪れたのはシトリーの姉、リィズ・スマートを探すためだ。リィズは家を持っておらず、寝泊まりはクランハウスか、弟子、友人、師匠の家を転々としている。クレアはクライ達と幼馴染の友人だ。

 そんな理由で友人がいつ来てもいいように……なのか、クレアの部屋は整頓されていた。おとなしく待つクライと違い、シトリーは部屋を注意深く見まわしていた。キッチンもテーブルの上も、キレイに片付いている。

 

「今日もちゃんと片付いていますね。慌てて掃除した感じもありません。やっぱりクレアちゃんってキレイ好きなんですね」

「なに人の部屋をジロジロ見てるのよ。失礼ね」

 

 苦言を呈しながらも、慣れた手つきで客の2人にお茶を出すクレア。茶菓子の準備も手早い。まるで来客に慣れているようだ。

 

「……うちのリィズがいつも悪いね」

「そう思うなら、アンタが引き取りなさいよクライ。同棲でもしたら?」

「なっ……なんてこと言うの!?」

「する気はないし、しても無駄だと思うよ」

 

 仕返しと言わんばかりの過激な冗談に、シトリーは思わず叫んでしまった。一方でクライは、まるで動じていない。

 

「無駄って事は無いと思うけど……ねえシトリー?」

「もう、変なこと言わないでよクレアちゃん。今度実験台になってもらうからね」

 

「あっ……このクッキーとこのお茶、よく合うね」

 

 からかわれたシトリーが口を尖らせると、それを見てクレアはイタズラっぽく笑う。2人は冗談を言い合える関係だ。一方でクライは、マイペースにお茶を楽しんでいる。

 

「それ、どっちもミツゴシで買ったの。オススメの組み合わせだって、店員にやたらと勧められてね。でも一緒に買って正解だったわ」

「そういう所が抜け目ないよねミツゴシって。僕もチョコバーたくさん買おうとしたら、プレゼント用のラッピングを勧められたよ」

「……それは全然違う話だと思うけど」

「私もミツゴシは好きですが、回復薬(ポーション)に関しては商売敵です。量はともかく、質では負けません」

 

 3人がミツゴシの話題で盛り上がっていると、不意に奥のバスルームからリィズの声が響いた。

 

「クレアちゃん、タオルどこ? 持って来て~!」

「もう! 浴びる前に自分で用意しなさいよ! 何度も言ってるじゃない!」

 

 クレアがバスルームの中にタオルを投げつけ……ややあって、一糸まとわぬ姿のリィズが姿を見せた。ピンクブロンドの髪をタオルで拭きながら笑顔を見せている。慌ててシトリーはクライの目を塞いだ。

 

「クライちゃん、やっほー。私に会いに来てくれたの?」

「お、お姉ちゃん!? ちゃんと服着て、クライさんが困るから!」

「えー? 私とクライちゃんの仲だし、いまさら隠す必要なんて無いでしょ」

「いいから!」

 

「まったく……仲がいいんだか悪いんだか」

 

 やいのやいのと騒ぐスマート姉妹を、クレアは遠巻きに眺めていた。渋々ながらリィズが着替えると、ようやくクライが用事を切り出す。それは《嘆きの亡霊(ストレンジグリーフ)》の恒例行事についてだった。

 

「実は祝勝会をやろうと思ってね。【万魔の城(ナイトメアパレス)】を攻略したんでしょ? 戻ってきたのは2人だけだけど……こういうのはすぐやらないとね」

「行く行く! ありがとうクライちゃん!」

「ちょっ……お姉ちゃん!」

 

 クライに抱き着こうとするリィズを、シトリーが間に入って止めた。リィズを引きはがしながら、シトリーは話題を強引に変える。

 

「そういえばお姉ちゃん! さっきティーちゃんの家にも寄ったんだけど、留守だったの!」

「そうだね。リィズがいると思って訪ねたんだけど。ティノが何してるか知ってる?」

「ん~……ティーのヤツ、最近 女 拾ったんだよ。その世話焼いてんじゃないの?」

「女を……拾った?」

「ティーちゃんにそんな趣味が……? クライさんを諦めたのでしょうか」

 

 言葉を失うクライと、あらぬ勘違いをするシトリー、そんな2人にクレアは呆れた視線を送る。

 

「リィズ、ちゃんと説明しないと分からないわよ。何があったのか知らないけど」

「えーっ……ほら、この前シャドウガーデンが帝都で暴れたじゃん? その時に悪い奴らから逃げ出した子がいて、両親もいない孤児で、その面倒を見てんの。だから特訓も平気でサボりやがって……! 次はもっと教育してやらねえとダメだよねぇ?」

「ああ、うん……ほどほどにね?」

 

 思い出し怒りをするリィズに対し、クライはやんわりと宥める事しかできなかった。

 

***

 

「っ!?」

「どうしたのティノさん?」

「なにか悪寒が……いや気のせい、気のせいだから大丈夫です」

 

 ティノは自分に言い聞かせるように呟いた。彼女は今、自分が助けた少女……ミリアと共に《探索者協会》帝都ゼブルディア支部を訪れていた。

 

「それでミリア、登録は済みましたか?」

「はい。これで私もトレジャハンターです」

 

 そう言って真剣な眼差しを向けるミリアに、ティノはかける言葉を迷う。

 

「……登録した後で聞くのもなんですが、本当にハンターになってよかったんですか?」

「ご心配ありがとうございます。でも私は……シャドウガーデンを追いたいんです」

 

 父の死の真相を知りたい――そう願うミリアの目に、迷いは無い。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

【黄金の林檎亭】……帝都に存在するトレジャーハンター向けの酒場の1つで、クライは途方に暮れていた。

 

「シドぉ~もっと会いたぁぁいぃ……」

 

 泥酔状態のクレア。

 

「しくしく……クライさんにとって、私は都合のいい女なんですね。借金10桁あるのに……」

 

 泣き上戸のシトリー。

 

「おらおらぁ! もう終わりぃ? 大したことねぇなぁ!」

 

 ネブラヌベス? とかからやってきたレベル7ハンターをボコボコにするリィズ。

 

「どうしてこうなるかなぁ……」

 

 クライはこの惨状に至る過程を思い出す……

 

***

 

「そうだ、クレアも来る? リィズが世話になってるから、そのお礼に」

「……明日、道場に行く予定なのよね。だからお酒はちょっとね」

 

 最初は単なる思い付きだった。クレアは初め、乗り気ではなかったのだが……

 

「え~来ないの? でも仕方ないか。クレアちゃんってすぐ酔いつぶれちゃうもんねぇ?」

「はぁ? そんな事ないわよ!」

 

 リィズの挑発に乗せられ、祝勝会にはクレアも参加することになった。

 

「ボスが剣士の幻影(ファントム)で……それを見たルークさんが、1体1でボスを倒せるようになるまで帰らない、と。いつもの悪い癖が出たんですよ」

「えーっ!? そんなに強いボスが出たの!? シャドウガーデンとやり合った事、自慢しようと思ってたのにぃ」

「どんどん強くなってるのねアンタたち……全然追いつける気がしないんだけど」

 

 最初は和気藹々と話していた……少なくともクライはそう思っていた。

 

「くっ……シト……てめえ盛ったな?」

「もう、人聞きの悪い事言わないでよお姉ちゃん」

「……ちょうどいいハンデね」

 

 3人が飲み比べを始めて、そこから少しづつ様子がおかしくなった。

 

「そうだ、ジョッキを交換しなよ。こうすればシトリーの疑いも晴れるでしょ」

 

 毒を盛ったと疑われるシトリーに助け舟を出すが……するとなぜか、シトリーも酔いがまわり始めた。

 

「ざまぁ! クライちゃんがいつまでも見逃すわけねえだろ!」

「しくしく……いくら強い毒を作っても、すぐ耐性ついちゃいます……」

「なんでぇ……私は、薬飲んでないのに……」

 

 クレアも酔い始めたが……むしろよく耐えたと言っていいだろう。マナ・マテリアルは肉体を強化する。毒物などに対する耐性も……つまり酔いにくくもなるのだ。

 クレアはレベル4、一方リィズとシトリーはレベル8宝物殿に挑む実力者。吸収したマナ・マテリアルの量が違いすぎる。

 

 3人をさておき、クライがどのアイスクリームを注文するか迷っている時だった。《霧の雷竜(フォーリンミスト)》を名乗るパーティが酒場に現れたのは。

 

「この方は『竜殺し』《豪雷破閃》のアーノルド・ヘイル、ネブラヌベスの英雄だ! 覚えておけ!」

 

 中央の机を占拠し、取り巻きの1人が声高らかに名乗りをあげる。その男、アーノルド・ヘイルは、まさにハンターらしい筋骨隆々の大柄な男だった。背中に背負った大剣、動きやすさを重視した野性的な鎧、不機嫌にも見える鋭い目つき、それが堂々と周囲の客に睨みを利かせている。

 

「聞いて驚くなよ。アーノルドさんの認定レベルは……7だ!」

 

 帝都には様々な国からハンターが集まる。そして舐められないようにと、彼らのような横暴を働く者も少なくない。関わりたくない――クライはそう思った。しかし……

 

「ふん、帝都のハンターは腑抜けのようだな……おい、酒と女だ」

「へい」

 

 図々しいアーノルドの注文、それを聞いた取り巻きの1人が、3人の女性を侍らせているクライに狙いをつけた。

 

「なに? お酌してほしいの? しょーがないなぁ」

 

 それからリィズが立ち上がって……アーノルドのそばまで行って……殴って……

 

***

 

 クライは考えるのをやめた。

 

「よし帰ろう」

 

***

 

「あはは! やっぱクレアちゃん潰れてんじゃん! 無理しちゃってさぁ……ふふふ!」

「笑うな~! もう……アンタらとは絶対飲まない!」

「しくしく……クレアちゃんに嫌われてしまいました……こうなったらもう、実験台にするしかありません」

「うんうん、そうだね。ちゃんと本人の許可を取ってね」

 

 酔っ払い3人を引き連れ、クライは夜の帝都を歩く。1人で歩けないクレアを支え、フラフラと変な方向に行こうとするリィズを止め、腕に抱き着いて来るシトリーの対処に困る。

 再びクライが途方に暮れていると、そんな彼を救う救世主が現れる。

 

「あれ? マスターじゃん。こんばんはー!」

「君は……クレアとパーティ組んでる……えーっと……ニ、ニ……」

「ニーナですよマスター。3人も女の子を連れて……何してたんですか?」

 

 浅く焼けた肌、ワインレッドの長髪、小柄だが胸の主張が激しい彼女は《足跡》に所属しているハンターだ。からかう彼女の声を聞いて、クレアが顔を上げる。

 

「んん……ニーナぁ? 奇遇ねぇ……何してたの?」

「いや~アーノルドってレベル7の余所者の話聞いてね。気になって探してたんだ。この辺りの宿で部屋取ってるのはわかったんだけど……」

「そいつならさっきぃ、リィズちゃんがボコボコにしといたよ! 見たかった?」

「しくしく……キルキル君のいい素材になりそうだったのに……」

「ふむふむなるほどー。だいたいの事情は察しました」

 

 あからさまに酩酊しているクレアと、いつも以上に陽気なリィズ、泣き上戸なシトリー。3人を見たニーナは何度も頷いた。

 

「クレアは私が連れて帰りますねマスター」

「ありがとう、助かるよ……ニーナ」

「やっと覚えてくれましたか? ほらクレア、私が肩貸してあげるからさ」

 

 クレアに近づこうとするニーナだったが、彼女の肩をリィズが掴んだ。獲物を狙う肉食獣のような目で、ニーナをじっと見ている。

 

「ニーナちゃん……今度ぉリィズちゃんとぉ、模擬戦しよ? 何か隠してるでしょ?」

「ははは、リィズさんの目はごまかせないかー。でも勘弁してください。リィズさんには勝てませーん」

「え~っ? 結構いい勝負しそうな気がするんだけどなぁ……やろうよニーナちゃん」

 

 リィズの誘いに対し、ニーナは冗談めいた口調で拒否する。それでもリィズは掴んだ手を離そうとしないので……クライが口を挟んだ。

 

「リィズ、冗談はやめて手を離しなよ。彼女にクレアを送ってもらうんだからさ」

「ちぇっ、わかったよクライちゃん……」

「ありがとうございますマスター。マスターには頭が上がりませんよ」

 

 ようやくリィズが手を離す。ニーナは調子よくお礼を告げ、クレアに肩を貸す。

 

「行くよクレア、しっかりしてよね」

「ニーナ……うち遠いから、アンタの部屋に泊めてよ」

「ダメ、私の部屋は企業秘密」

「散々泊めてあげたじゃない! 不公平よ~!」

 

 騒ぎながら去っていく2人の背中を見送り……クライはそっと、ため息をつく。

 

「……さあ僕達も帰るよ」

「はーい!」

「しくしく……はい」

 

 

***

 

 

「アーノルドは堂々と酒場を訪れた……それで絶影の顔を知らない……という事はシロですか」

「ニーナ……何か言った?」

「いや? 私もアーノルドを見たかったな~って」

 

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