千変万化に負けない陰の実力者になりたくて!   作:kaneda,i9

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ティノに睨まれて!?

「どうしたんですかクレアさん。剣が荒れてますよ」

「……ごめんなさい。昨日飲み過ぎたのよ」

 

 クレアは顔をしかめ、痛む頭を押さえていた。彼女を心配するのは兄弟子のナドリ。クレアの言葉に眉をひそめている。

 ここは《剣聖》の称号を持つ1人、ソーン・ロウウェルの道場。数多くの高名な剣士(ソードマン)を輩出した道場の、その総本山の訓練場だ。広い訓練場には、2人の他にも多くの門下生が鍛錬を繰り広げている。

 

「自制できなかったと……修行が足りませんね」

「返す言葉もないわ……ちょっと頭を冷やしてくる」

 

 ナドリの言葉に納得したのか、クレアは鍛錬用の剣を片付けに行った。おそらく、走り込みなどの基礎訓練に徹するのだろう。そんな彼女の背中を、ナドリはじっと見つめていた。

 

「やはり可憐だ……」

 

 ナドリは半年前の、クレアがこの道場に初めて来た時の光景を昨日の事のように覚えている。強い志を宿す瞳と、艶やかな黒髪を持つ彼女の姿に思わず見とれてしまった日の事を。

 

「……いかんいかん。女子だからと惑わされていては、また師匠にお叱りを受けてしまう」

 

 ナドリは《剣聖》の言葉を思い出し、誘惑を断ち切ろうとかぶりを振った。同じように見とれていた兄弟弟子たちと全員まとめて叱られた事も、昨日の事のように覚えている。

 

「私も修行が足りないな……」

 

「ごきげんようナドリさん。今日も精が出ますね」

「!? ローズ王女、こ、こんにちは……」

 

 自嘲気味に笑うナドリに声をかける女性の姿があった。鮮やかなブロンドヘア―と美しい黄金の瞳を持つ彼女の名は、ローズ・オリアナ。芸術の国【オリアナ】の王女である。

 芸術の国出身でありながら剣に憧れ、《剣聖》の教えを乞うため留学して来た生粋の剣士だ。厳しい修練にも毅然として臨む彼女は、1人の剣士として一目置かれていた。

 

 そしてナドリは、ローズが初めて来た時の事も、叱られた事も昨日の事のように覚えている。

 

「……失礼ですが、どうしてここに? ローズ王女はしばらくお休みになると聞きましたが」

「夜まで時間が出来たので、剣を振るおうかと……その方が落ち着くので」

「そういう事でしたか……」

 

 既にローズは稽古着に着替え、鍛錬用の剣を携えている。芸術の国の王女として、ゼブルディアオークションの準備で忙しいはずだが……彼女の目に疲れは無く、剣を振るう期待と喜びに満ちている。

 

「鍛錬の前にナドリさん。1つお聞きしたいのですが――」

「なんでしょうか?」

「ルークさんは戻りましたか?」

 

 その名前を聞いて、ナドリは閉口してしまう。ルーク・サイコル。《嘆きの亡霊(ストレンジグリーフ)》に所属するトレジャーハンターで門下生の1人だ。誰もが認める実力者で……同時に様々な傷害事件を起こしてきた危険人物でもある。彼の事をナドリは苦々しく思っていた。

 

(なぜクレアさんもローズさんもアイツを目標に……強さか、強さなのか)

 

「……ナドリさん?」

「あぁ……失礼しました。ルークはまだ顔を見せていません。ハントが長引いているのでしょう」

「そうでしたか……わかりました。ではナドリさん。私の鍛錬につきあっていただけますか?」

「喜んで、お相手いたしましょう」

「よろしくお願いいたします」

 

 穏やかな笑みで一礼したローズの眼差しは、顔を上げた時には真剣な物に変わっていた。一介の剣士として剣を静かに構える。

 

「いざ……勝負!」

 

 

***

 

 

 トレジャーハンター向けの高級宿の1つで、アーノルド達《霧の雷竜(フォーリンミスト)》の面々は苛立ちと不安を見せていた。《探索者協会》の面々は彼らをまるで恐れず、名を知らしめようと訪れた酒場では不意打ちで昏倒させられた。

 それは故国ネブラヌベスで力を示し続けた《豪雷破閃》アーノルド・ヘイルにとって屈辱だった。彼の力に惹かれたパーティメンバー達も、アーノルドの敗北にショックを隠せない。

 

「くそう、どいつもこいつもアーノルドさんを舐めやがって……」

「気に入らん……だが、所詮俺達は余所者。黙らせるには力を示すしかないだろう」

「しかしアーノルドさん、あれだけの事をしておいて『許してくれ』はいくら何でも酷いじゃないですか! 俺達をバカにしています!」

「ああ、そうだ……」

 

 サブリーダーとも言えるエイの言葉を聞き、アーノルドは《探索者協会》での会話を思い出し、眉間にしわを寄せた。

 

 

 あの酒場の一件……不意打ちとは言えアーノルドを昏倒させたあの女、彼女の事を知るため訪れた《探索者協会》で、ガークという支部長はアーノルドを挑発した。いや正確にはあの女……《絶影》リィズ・スマートの飼い主《千変万化》なる男の伝言だったが、それを伝えるガーク支部長は憐れむような笑みを浮かべていた。

 

『あの女の飼い主は、『弱い者いじめ』をよしとしねえ。おとなしくしてりゃあ、もう何もしないだろう』

 

 実力を疑われるような言葉にプライドを傷つけられ、その時のアーノルドは胸に激しい怒りを抱いた。口を開けば飛び出すであろう罵倒を必死に抑えていた。

 

 

 だが今のアーノルドは違う。冷静に怒りを飲み込み、名を上げる新たな道筋を見出している。

 

「逆に考えろ。これはチャンスだ。俺達に因縁をつけたのは支部長自ら厄介だというハンター……そんな連中を倒せば、力の証明になるだろう」

「……! そうか、確かにそれなら俺達の名も上がる!」

「情報を集めろ。《千変万化》についてだ! 今の俺達は……奴に対する挑戦者だ」

 

 宣言と共にアーノルドは拳を強く強く握りしめた。

 

 

***

 

 

 知らなかったな。広すぎる部屋って逆に落ち着かないって。

 

 引っ越し作業を一通り終えた僕は、《探索者協会》を訪れていた。宝具の受け渡しも終わったし、ゼブルディアオークションまで何をしようか……とりあえずロビーを見回すと、モブ友のヒョロとジャガを見つけた。

 

「2人ともおはよう、ってもう昼過ぎか」

「ようシド、なんだか久しぶりじゃね?」

「そうかな?」

「そうですよ。シド君、騎士団に捕まってたじゃないですか」

「誘拐犯だって疑われたんだろ? でも俺はお前が無実だって最初から信じてたぜ」

「僕もです。シド君がアレクシアさんをどうにかできるなんて……全く思いませんでした」

「うん、信じてくれてありがとー」

 

 冤罪で捕まったり、陰の実力者として活動したり、引っ越ししたり……そういえばここ最近、ハンターらしい活動は全然やっていない気がする。結果がどうなるにしろオークションまでは時間があるし……少しは働かないとね。

 

「2人はどうしてたの。稼げた?」

「それが全然です」

「どの宝物殿に行っても宝具を拾えねえ。もうすぐオークションが始まるってのによ……」

「オークションで稼ぐつもりなんだ?」

「おうよ! 大波には乗るしかねえだろ。大金が俺を待ってるぜ」

 

 ヒョロはオークションに向けてやる気十分みたいだ。僕はもう出品を任せたけど、宝具集めにつきあうのも悪くないかな。そんな風に考えてたら、あからさまに悪党顔のハンターが僕達のいる机まで近づいて来た。

 

「なあオマエら……金が欲しいのか?」

「そりゃあ欲しいですよ。そのためにハンターになったんですから」

 

 愛想のいいジャガの答えに、怪しいハンターは怪しい笑みを浮かべた。

 

「ならとっておきの儲け話があるんだ……耳を貸せ」

「儲け話!? アンタいい奴だな! 教えてくれ」

 

 ヒョロは乗り気みたいだけど……これはアレだ。犯罪の匂いがする。僕はそっと机から離れ、1人で依頼掲示板のそばに向かった。確実に稼ぐなら魔獣退治の依頼かな? レベル1ハンターにちょうど良さそうなのは――

 

「み、見つけた! 見つけましたよシド・カゲノー」

 

 依頼を見比べてると、誰かが僕を呼んだ。振り向くと、黒髪で軽装なハンターらしき女の子に、指をさされている。

 

「あの……どちら様ですか?」

「ティノ・シェイド、忘れたとは言わせない」

 

 うん、覚えてるよ。リィズの弟子で、姉さんのライバル。護衛とか言ってクライに連れまわされていた子だ。そんな彼女が僕を鋭く睨んでいる。……なんで?

 

「ちょ、ちょっとティノさん。どうしたの急に……」

 

 ティノに近づく白髪の女の子、彼女も僕と同じくらい困惑してる。ん? というかあの子……気配が乱れて……これは……

 

「……話がある。一緒に来てほしい」

「あ、うん。…………え?」

 

 気を取られてたらテキトーな返事をしてしまい、僕はティノに連行される事になってしまった。

 

 

 

「あれ? シドどこ行った?」

「なんか……女の子に睨まれて、連れてかれちゃいましたよ」

「なんだそりゃ? アイツ、儲け話に興味ねえのか?」

「それならシド君の分も、僕達がもらっちゃいましょう!」

「だな!」

 

 

***

 

 

 連れてこられたのは《始まりの足跡(ファーストステップ)》のクランハウス。ここに来るのは2度目だ。入口の扉を開けると1階は広いロビーになっていて…………

 

「あれ何?」

「ノミモノです」

 

 ティノの答えは素っ気なかった。僕が指さしたのは奥の大きな檻、その中で寝ているキメラだ。獅子をベースに竜の翼と刃の尾を持っている……《アカシャの塔》の作ったキメラだ。そういえば少し前にシトリーが引き取ってたっけ。

 でもあの時は子猫とか子犬みたいなサイズで……今は大型犬を二回り大きくしたサイズ感だ。数日でずいぶん大きくなったな……よく見ると檻の周囲は床がボロボロだ。

 

 それはさておき、僕は2階のラウンジに案内された。そこは吹き抜け構造になっていて、1階の様子がここからでも見える。そしてテーブルの1つに、僕とティノと、白髪の子が座った。

 

「シド・カゲノー、単刀直入に言う。あなたの……」

「待って。そっちの子は?」

「……わ、私はミリア。ティノさんにいろいろとお世話になってる」

「ミリア、ね。ありがとう」

 

 ミリアと名乗った白髪の子は、ティノとよく似た軽装のハンター装備だった。盗賊(シーフ)だろうか? 歳は僕と同じくらいに見える。いろいろ気になるけど……今はティノの話を聞く方が先か。

 

「……改めて言う。あなたの実力を見せて欲しい」

「僕の……実力?」

「お姉さまは……私の師匠《絶影》リィズ・スマートは言った。私よりあなたの方が強いと」

 

 リィズが? なるほど……前ここに来た時に会ったけど、それだけで僕が実力を隠してる事に気づいたのか。下手に会うとシャドウである事もバレるかもしれない。

 

「僕はレベル1剣士ですよ。そんな強くなんて無いです。きっと勘違いですよ」

「いいえ、お姉さまの目は確か。だから私もこの目で確かめたい。あなたの実力を」

 

 どうやらティノはリィズを信頼していて、さらに本気で僕の実力を確かめたいらしい。モブとしてどうやって誤魔化そうか。

 

「そう言われても……どうやって証明すれば納得してくれますか?」

「模擬戦で。まずはミリアと戦って」

「え? わ、私!?」

 

 突然の指名にミリアが目を見開いて驚いている。が、ティノは僕から視線をそらさず、平然と説明を続けている。

 

「私が確かめてもいいけど、私はレベル4。あなたにケガをさせてしまうかもしれない」

「だから私なの?」

「そう。ミリアの今の実力も測りたい。2人ともレベル1……数字の上では互角だから」

 

 なるほど、そう来るか……ミリアが気になる僕としても、ありがたい提案だ。さて、モブとしてのリアクションは……怯えてみよう。

 

「……ま、まあ、それなら構いません。いきなりレベル4と戦うわけじゃ、ないのなら……」

「もしあなたが実力者なら……私とも戦ってもらうから」

「それは……勘弁してください……」

 

 ホントはイヤだけど断るに断り切れない弱気リアクション! 完璧なモブ演技を披露したところで、僕達は場所を変えた。今度はクランハウスの地下1階。大きな扉の向こうは、これまた広い訓練場になっている。

 

「へえ……広いですね」

「ここは模擬戦用の訓練場。早速準備して」

「はーい」

 

 言われるがまま訓練場の中央に行き、僕は剣を構えた。相手のミリアは、不安そうな顔でティノを見ている。

 

「ねえティノさん。コレって大丈夫なの?」

「心配する必要はありません、思いっきりやってください!」

「そうじゃなくて……まあ、いいけど」

 

 ティノの態度、僕とミリアでだいぶ違うな……ミリアは一呼吸整え、短剣を僕に向けて構えた。構えはちゃんとしてるけど……構えに対して、武器の長さが足りてない感じがする。

 モブなら「何度か武器をぶつけ合って、後は流れで負ける」ってのが王道パターンだけど、今回はもう少し粘ろう。彼女の違和感の正体を掴みたい。睨み合いながら、僕と彼女は合図を待つ。

 

「……はじめ!」

 

 ティノが宣言した瞬間、ミリアはもう目の前まで来ていた。

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