千変万化に負けない陰の実力者になりたくて! 作:kaneda,i9
偽物を退治した翌日。僕は今日も《探索者協会》を訪れていた。ゼブルディアオークションまでどうやって暇を潰すか……とりあえずロビーを見回すと、モブ友のヒョロとジャガを見つけた。
「2人ともおはよう。昨日の儲け話はどうなったの?」
そう話しかける前から、2人は暗い顔で俯いている。どうやらうまくいかなかったみたいだね。
「楽に大金が稼げるって、そんなおいしい話はありませんでした……」
「あいつ
「へー」
「運が良かったですよね、僕達……」
「ああ。断って殺されそうなところに、騎士団が乗り込んできたんだ……命は助かったが、これっぽっちも稼げなかったぜ」
「大変だったねー」
オークションが近いから、そういう犯罪も増えてるって事か。僕も変な依頼を受けないように気を付けないと。
「なあシド、金貸してくれないか? 今俺は金が無くて金が無いんだ」
「ヒョロくーん……みっともないですよ」
「頼むシド! 金のために金が必要なんだ! だからどうしても金がいるんだ!」
「僕は魔獣退治にでも行こうかなー。一番確実に稼げそうだし」
2人との会話を切り上げ、僕が依頼書の張られた掲示板に近づいた時だった。
「あ……あの……シド、シド・カゲノー君」
「ん? 君は……シェリーだっけ」
声をかけて来たのは昨日のピンク髪の女の子……シェリーだ。シェリーが笑顔で僕のそばに近づいてくる。
「昨日はありがとうございました! 改めてお礼を言いたくて探してたんです。……でも、すぐに会えてよかった」
「僕がここにいるってよくわかったね」
「たまたまです。たくましかったから……もしかしたらハンターかなって」
そういえば僕の腕に抱き着いてたね。
「それで、昨日の事は誰かに話したの?」
「その事ですが……一緒に来てくれませんか?」
「え?」
「その……1人で話すのは心細くて……」
事件を話すって……騎士団、それとも支部長? あんまり目立ちたくないんだけど……ここで断るのも変か。彼女に付き合うとしよう。……なんだか昨日のティノと似たような展開だな。
「いいよ、どこに行くの?」
「はい。《
……シトリー?
***
「――なるほど。そんな事件があったんですね」
僕達の前にはにこやかに笑うシトリー。ここは足跡クランハウスの地下訓練場の一角。実験中のシトリーを訪ねた形だ。まさかシェリーが足跡所属で、しかもシトリーと知り合いだなんて……すごい偶然だね。シェリーの方も、僕とシトリーが顔見知りな事に驚いた様子だ。
「シド君はそこの、クレアちゃんの弟なんですよ」
「そうだったんですね、シド君」
「うん、そんな感じ」
頷きながら、横目に姉さんの方を見てみる。さっきから訓練場の真ん中で、リィズと模擬戦してるんだ。実験の一環らしい。
「おいシト! テメエの新作、全然使えないじゃん!」
「私が実験台を頼んだのはクレアちゃんだけだから! お姉ちゃん邪魔しないで!」
「待って……もう一回よリィズ。もう少しでコツが掴めるかも……」
「クレアちゃんまで……もう!」
自信家のリィズに、負けず嫌いの姉さん、そんな2人に振り回されるシトリー。3人の関係はあの頃から変わってない。結局シトリーは、ため息をついてこっちに視線を戻した。
「……それで、シド君も現場を見たんですね?」
「うん。黒づくめの男の死体があって、その近くでシェリーがへたり込んでたんだ」
「そ、それでシド君に声をかけられて……家まで送ってもらったんです」
そう言ってシェリーは恥ずかしそうに視線を逸らした。第一印象通り彼女は内気な性格みたいだ。彼女の反応を見たシトリーが僕に疑いの眼差しを向けてくる。
「シド君、何もしてませんよね?」
「送っただけ。僕からは触ってない」
「でも……チョコレート、美味しかった……です」
「チョコですか……なるほど。合格です」
シェリーの証言のおかげで、僕は何かに合格したらしい。シトリーが笑顔で祝福してくれてる。やったね。
「合格するとどうなるの?」
「シェリーちゃんを護衛する権利をあげます」
「ふぇぇ!?」
シェリーが驚き変な声を出した。シトリーはお構いなしに話を続ける。
「シェリーちゃんは学者としては天才ですが……ハンターとして、
「あう……」
シェリーが落ち込み変な声を出した。シトリーはお構いなしに話を続ける。
「そんなシェリーちゃんとも打ち解けられる……シド君は素晴らしいですね」
「そうかな?」
「この前会った時、私の二つ名……《最優》って呼んでくれたじゃないですか。適切な対応と距離感をシド君は身に着けています」
そういえばシトリーって二つ名が2個あるって聞いたけど……《最優》じゃない方ってなんだっけ? まあなんでもいいか。
「なので、改めて言いますが……シェリーちゃんの護衛をお願いします。ここで解析ができるならキルキル君に護衛させるんですが……」
「やっぱり学院じゃないと資料が無くて……」
解析に資料……なるほど、シェリーが襲われたのは偶然じゃないのかもしれない。その辺りを聞いてみよう。……キルキル君とやらも気になるけど。
「解析って?」
「アーティファクトです。その解析を先輩に頼まれました」
「ゼノン侯爵秘蔵のアーティファクトです。いろいろあってクライさんが……って、そういえば探協でシド君にも見せてましたね」
「ああ……あの交差してるヤツ?」
「それです。賊の狙いがアーティファクトなら、また襲われるかもしれません。だからシド君、お願いできますか?」
うーん……オークションまでの暇潰しに丁度いいかな。それに偽シャドウガーデンとアーティファクト……なにやら陰謀の匂いがする。シェリーのそばにいたら、いい感じに陰謀に巻き込まれるかも。
「わかったよシトリー、護衛の依頼を受けるよ。学院も見学してみたいしね」
「ありがとうございますシド君」
「よ、よろしくお願いします」
「それで報酬ですが――」
その瞬間、シトリーの言葉を遮るように、赤黒い閃光と共に乾いた破裂音が訓練場に響いた。姉さん達の方からだ。何が起きたんだろう?
「ぷっ……あはは! クレアちゃん顔真っ赤!」
「……ベッタベタで気持ち悪いわね。最悪」
床には赤黒いシミが放射状に広がり、その中心でリィズが姉さんを指さして笑っていた。2人とも顔が真っ赤に汚れてる。まるで血まみれだ。それを見たシトリーは真剣な顔つきを作ってる。
「ふむ……爆発したように見えましたね。これは予想外です」
「何の実験してたの?」
「スライムです。
……どこかで聞いたことあるな。
「僕が昔遊んでたヤツ?」
「そうですね。その完成形かもしれません。クレアちゃんに使わせたら、剣の形にして木材を切り裂きました」
うん間違いない。僕が使ってるスライムソードと同じコンセプトだ。しかもシトリーは本職の錬金術師。完成したら僕のヤツよりすごいのができるかも。……護衛ついでに学院で改良してみよう。そう考えてると、姉さんがこっちに……シトリーに近づいて来た。
「ちょっとシトリー! 何で爆発したの!?」
「逆にこっちが聞きたいですね。何をしたんですか?」
「魔力をこう……いい感じに流したら、突然光って爆発したのよ」
「なるほど……あの素材が原因でしょうか? なら次はこっちのスライムを……」
「まだやるの? その前に洗い流したいんだけど……」
「体についたのなら、魔力で操作して取れませんか?」
「私は
そう言いながらも姉さんは、髪についたスライムをなんとかしようと触っている。姉さんは(剣士にしては)魔力量が多い。たぶん元悪魔憑きだからだ。故郷では魔導師にならないかと誘われた事もある。今回の実験に選ばれたのはそれが理由だろう。
姉さんを見てたら視線が合ってしまった。
「ごめんシド。今日はアンタの相手できそうにないわ」
「ホント? やったね」
「……なんで喜んでるのよ?」
しまった、つい本音が……
「じゃあ私がシドちゃん借りてくね~」
そう言ってリィズは僕に向かって手を伸ばした。それをシトリーが掴んで止める。
「ダメ! シド君はシェリーちゃんの護衛で忙しいの!」
「はあ? 何の話だよシト! 私はシドちゃんの実力確かめたいの!」
「それは私も知りたいけど……アーティファクトの解析はクライさんに頼まれた事なの。だからそっちが優先!」
「シドちゃんには関係ねえだろ! テメエでやれ!」
「私だって忙しいんだから!
僕を取り合って睨み合うスマート姉妹。相変わらず仲がいいね。でも巻き込まれたくないし……こっそり離れる事にしよう。
「行こうかシェリー」
「ふぇ? あ、はい」
僕はシェリーを連れて出入口に向かう。
「待ってよシドちゃん! 私もう我慢できないんだからぁ!」
「ダメって……言ってるでしょお姉ちゃん!」
「リィズ、途中抜けなんて許さないんだから! 私に付き合うなら最後まで付き合いなさい!」
……声を聞く感じ、シトリーと姉さんの2人がかりでリィズを抑えてるみたいだ。今の内に急いで離れよう。報酬の話がまだだけど……最初にしておけばよかった。