千変万化に負けない陰の実力者になりたくて! 作:kaneda,i9
帝都ゼブルディアでトレジャーハンターになるぞ!
15歳、成人した僕は故郷の村を飛び出した。馬車を乗り継ぎ、途中からは列車旅。そうやって訪れたのは帝都【ゼブルディア】。トレジャーハンターの聖地と呼ばれる都市だ。
大きなターミナル駅を出ると、馬車が行きかい路面電車が走る大通りに出た。その向こうにはずらりと建物が並んでいる。控えめに言って大都会だ。
ここなら主人公やラスボスがいるだろうし、きらびやかな街並みの陰で蠢く陰謀や策謀……陰の実力者に相応しい舞台もきっと見つかる。そう考えただけでワクワクする。
だが焦ってはいけない。僕が目指すのは陰の実力者だ。普段は実力を隠しモブに徹する必要がある。
陰の実力者に相応しい表の顔を考えてみると……ここは当初の予定通りトレジャーハンターになるべきだろう。それはこの帝都が、トレジャーハンターに対して結構な優遇をしているからだ。宝物殿とハンターによって大きくなったという歴史と先人に感謝しておこう。
さっそく僕は《探索者協会》帝都ゼブルディア支部を訪れた。《探索者協会》通称《探協》はトレジャーハンターの活動に対して支援と管理を行う組織だ。帝都ゼブルディア支部は、それなりに大きくて立派な建物。その中に入ると、これぞハンターと言わんばかりの屈強な男たちが依頼書や新聞を眺めてたり、装備の手入れをしている。僕の一見普通体形だと逆に浮いてるかもしれない。絡まれる前に用事を済ませよう。
ロビー中央の受付でハンターになるための登録用紙を受け取り、ササっと書いて……提出だ。
「ハンター登録、おねがいしまーす」
「お預かりしますね。名前はシド・カゲノーさん……カゲノー?」
僕の提出した登録用紙を見て、黒髪のかわいらしい受付嬢が目を丸くしている。なんで?
「僕の名前が何か?」
「あの……もしかして、クレアという姉がいませんか?」
なんで姉さんの名前が出てくるんだ? マズい。
「人違いです」
「そうですか? クレア……さん、よく私に話してくれますよ。カワイイ弟がいるって」
ダメだ誤魔化せない! まさかいきなり姉さんの知り合いに出くわすなんて……そりゃ僕の名前に疑問を持つわけだ。
「姉さんめ、余計な事を……」
「やっぱり姉弟なんじゃないですか。クレアさん、アナタに会いたがってましたよ」
一刻も早くこの場を離れたいけど、ハンターになるための説明を聞かずに帰るわけにはいかないし……それに、この受付嬢さんが姉さんに何か言うのを防がないと。
「……僕が来た事、姉さんには内緒にしてくれませんか?」
「えっ、どうしてですか?」
「姉さんが僕の事をどう思ってるかはわからないけど、僕は……姉さんに頼らず1人で頑張りたいんです」
「……わかりました。内緒にしておきますね」
よし! 一人前になりたい弟ムーブがうまくいったぞ。受付嬢さんが営業スマイルで頷いている。これでしばらくは大丈夫のはずだ。
「それでは、ハンター活動と探索者協会の役割について説明させていただきますね」
「あっはい」
それから、受付嬢さんからノルマと年会費、そして様々な特典の事を説明され、僕はあっさりとトレジャーハンターになる事が出来た。
「結構簡単になれるんですね」
「ハンターはなってからが大変ですから」
なるほど。そういうものかもしれない。
***
「もしパーティの斡旋が必要でしたら……」
「いえ結構です。1人で地道にやって行こうと思うんで」
そう言って去るシド・カゲノーの背を、受付嬢クロエは不思議そうに見つめていた。
(姉さんに頼らずに……1人で地道に……か。ああいうのが反抗期って言うのかな?)
クロエにとってクレアは同い年の友人。シドの話も彼女からよく聞かされていた。
『あの子は平凡で地味で……でも私を何度も助けてくれた』
『シドには剣の才能があったわ。ルークもシドの剣を褒めてた。でもあの子は自分の才能に気づいていない』
『私は、シドを守るために強くならなくちゃいけない……だからいじめたの。あの子の剣から学ぶために』
少し歪んでいるが、弟を溺愛している……それがクロエから見たクレアだった。そしてクロエはこう考えていた――家族のため、という強い意思が《
(……ホントに黙ってた方がいいのかな。家族なのに)
弟を守りたいクレアと自立したいシド、複雑な姉弟関係にクロエが思いを馳せていると……シドと入れ替わるように1人の少女がクロエの前に並んだ。白銀の髪と切れ長の赤い目が特徴的な美人だ。控えめだが、どこか高級感を感じる装い。とてもハンターには見えなかった。
その来客に気づいたクロエは気を取り直し、受付嬢としていつも通り笑顔を振りまく。
「探索者協会へようこそ。何かご依頼ですか?」
「いえ、ハンターになりたいの。どうすればいいのかしら?」
「それでしたら、こちらの書類に必要事項を記入してください。登録費用は……」
……やがて、少女の提出した書類には、アレクシア・ミドガルという名前が記入されていた。