千変万化に負けない陰の実力者になりたくて!   作:kaneda,i9

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シェリーは元武帝ルスラン・バーネットの娘!?

 僕とシェリーは【プリムス魔導科学院】の門前で足を止めた。ここは帝都における錬金術師(アルケミスト)の総本山だ。シトリーやシェリーを始め、帝都の錬金術師の殆どがこの学院に所属経験があるとか。

 

「シド君は学院に来るのは初めてですよね?」

「いや、帝都に来たばかりの時に来たことあるよ。中には入れてもらえなかったけど」

 

 あの時は入口で適当に聞いたんだよね。「錬金術師の凄いハンターって聞かれたら誰を思い浮かべます?」って。それでシトリーの名前が出て驚いたっけ。

 

「ここは危険な実験や、研究の機密事項が多いので警備が厳重なんです。なので、まずはシド君が立ち入る許可を得る所からです」

「なるほど」

「事情を話せば、多分大丈夫だと思うんですけど……いざとなったらお養父様に――」

「シェリー!」

 

 誰か男の叫ぶ声が、シェリーの言葉を遮った。長身で白髪交じりのオールバックの男が小走りでこっちに近づいて来る。慌ただしい様子の男性に対して、シェリーはどこか驚いた表情だ。

 

「お養父様、どうしたんですか?」

「無事かいシェリー? 事件の事を聞いて心配していたんだ。ケガは無いかい?」

 

 シェリーの肩を抱く初老の男性……なるほど、シェリーの父親か。……それより、僕はシェリーの父の顔に見覚えがあった。

 

「もしかして……ルスラン・バーネット副学長ですか?」

「そうだが……君は?」

 

 やっぱりそうだ。ルスラン・バーネット副学長。今はやせ細っているけど《武帝祭》での優勝経験もある文武両道、貴族階級の重要人物だ。

 という事は……シェリーは副学長の娘、彼女もモブとして関わるべきではない重要人物じゃないか……! しかし今さら彼女から離れるわけにもいかない。もう護衛依頼は受けてしまったんだ。

 

「シド・カゲノーと言います。シェリーの護衛をシトリー・スマートから頼まれました」

「シトリー・スマートが? そうか、シェリーは彼女と同じ《足跡》のハンターだったね」

「はい、お養父様。私が襲われたって聞いたら、シトリー先輩が彼に頼んで……」

「襲われた、だって?」

 

 シェリーの言葉に、ルスラン副学長がやけに驚いている。今初めて聞いた、みたいな反応だ。

 そういえば襲われた事を話したのってシトリーだけのはず。それなのにルスラン副学長は慌てていた。つまり……?

 

「ルスランさん。もしかして……彼女が襲われたのとは別に、事件が起きたんですか?」

「え? そうなんですかお養父様!?」

 

 僕とシェリーが尋ねると、ルスラン副学長は伏し目がちに恐る恐る口を開いた。

 

「……そうだ。私の研究室に賊が入った。そして最近あの研究室を使ったのは、私とシェリーだけなんだ」

「そんな……!?」

 

 学院の方をよく見たら、確かに事件後の慌ただしい雰囲気がある。警備が厳重って話をしたばかりなのに……これは予想以上に事態が大きいぞ。陰謀の一端を掴めたら僕はそれでよかったのに……真っ只中じゃないか。

 

 

 

 ……その後、現場の確認や騎士団の取り調べとかでシェリーは忙しくなった。彼女を待っているのも暇なので、僕はその裏で立ち入り許可の申請を行う事にした。

 ルスラン副学長の口添えもあって、申請はスムーズに進み……最終的に「シェリーと一緒なら」という条件付きで立ち入りの許可を得る事が出来たんだ。

 

「ありがとうございますルスランさん。いえルスラン副学長」

「私がシェリーに出来るのはこれくらいだ。この体がまともなら、私が彼女を守ったのだが……」

「……ルスラン副学長は武帝祭での優勝経験があると聞きました」

「よく知ってるね。しかしそれも過去の栄光だ」

 

 そう話すルスラン副学長の目は……どこか寂しそうだった。

 

「……シェリーは可哀そうな子でね。昔は話す事もままならなかったんだ。彼女と仲良くしてやってくれ。これは1人の父としてのお願いだ」

 

 僕に優しい眼差しを向けるルスラン副学長。仕事上の関係で済ませたい――なんて、とても言える雰囲気じゃない。

 

「……はい」

「頼むよ、シド・カゲノー君」

 

 満足そうに頷くと、ルスラン副学長は学院内のいずこかへと去って行った。

 

 ……さて、僕は学院建物の入り口へと向かうとしよう。見覚えのある金の尻尾が見えたからだ。柱の一つに寄りかかると、裏に隠れていたゼータに話しかける。よくここにいるってわかったね。

 

「待たせたかな」

「いや」

「手短に頼むよ」

「学院を襲撃したのは例の偽物、もう消した」

「昨日のか」

 

 顔を合わせずに淡々と報告を受ける……まるでスパイ映画のワンシーンだ。さすがゼータ。いいシチュエーションを用意してくれるじゃないか。

 

「アイツらの目的はアーティファクト」

「やっぱりね」

「今わかってるのはそれだけ。何も吐かなかった」

「へえ」

「オークションに向けて人が増えてる。教団も紛れてるかも」

「だろうね」

 

 偽シャドウガーデンはシェリーの持っているアーティファクトを求めてる。どんな能力があるのか知っているのかな? なんにせよシェリーの解析結果が重要になりそうだ。

 

 ……さっきのルスラン副学長、シェリーについて変な事を言ってたな。可哀そうな子――話す事もままならない――なんだか気になる。彼女は友達じゃなくて護衛対象、だったら調べても問題は無いはずだ。

 

「詳しい報告は次の時に」

「待って、シェリー・バーネットの過去を調べてほしい」

「……何か気になる?」

「念のためだよ。僕の勘違いならそれでいい」

「ん……わかった。調べとく」

 

 次の瞬間には、ゼータの気配は消えていた。ずいぶんとスパイごっこの腕を上げたみたいだね。僕はシド・カゲノーとして、シェリーの護衛に戻るとしよう。

 

 

***

 

 

 アーノルド襲撃事件の翌日……《始まりの足跡(ファーストステップ)》クランマスター室にティノが駆け込んできた。

 執務机のクライ・アンドリヒに向かって、得意気に腕輪を見せつける。

 

「ますたぁ見つけました! 宝具です! ミリアが見つけてくれました!」

「ホントに見つかったの? 【アレイン円柱遺跡群】に宝具が落ちてる事ってあるんだ」

「え!?」

 

 

 

 ティノから腕輪型の宝具を受け取ったクライは、彼女とミリアを連れて宝具店【マギズテイル】を訪れた。クライが入店した途端に、店長のマーチスは露骨に顔をしかめる。

 

「ちっ……何の用だ。今の時期は忙しい。売れる物も増えてはおらんぞ」

「相変わらずだねマーチスさん。今日はティノが……友達と一緒に宝具を見つけて来たからさ。鑑定を依頼しようと思って」

 

 ティノの名前が出ると、マーチスの眉がピクリと動いた。そして、クライの陰に隠れていたティノを見つけると、僅かに表情が和らぐ。

 彼はティノを見ると孫娘を思い出すらしい。なのでクライは【マギズテイル】を訪れる時は必ずティノを連れていくのだ。

 

「……嬢ちゃんが見つけて来たのか。そっちの子と一緒に」

「はい、ミリアは最近ハンターになったばかりの子で、いろいろと教えてあげてるんです」

「初めまして……私はミリア。ティノさんの世話になっています」

 

 礼儀正しくミリアが頭を下げると、なぜかクライは顔を背け小声で呟いた。

 

「ミリアもハンターだったのか……」

 

 一方でマーチスは感慨深く頷くと……鼻を鳴らして、宝具に対して手を差し伸べる。

 

「よこせ。こっちは鑑定依頼が山積みなんだ……だから、簡単にだけ見てやる」

 

 

 

「――こいつは『高度魔道具文明』の宝具だな。どこの宝物殿で見つけたんだ?」

「確か……アレイン円柱遺跡群ですよねティノさん?」

「そうです。ますたぁがそこで宝具を探せば見つかるって……」

 

 そこまで言って、ティノは問いかけるような不安げな眼差しをクライに向けた。しかし真意を問われたクライは肩をすくめる。

 

「言ってないよ。宝具があるかないかなんて、どの宝物殿でも五分五分だよ」

「でも実際に見つかりましたよ!?」

「うん、だから……運が良かったみたいだね」

 

 無責任なクライの発言に、横で聞いていたマーチスは再び顔をしかめる。

 

「小僧、適当な言葉で嬢ちゃんを振り回すな! ったく……しかし、アレイン円柱遺跡群となるとコイツは『外の宝具』だな」

「あの、外の宝具……って何ですか?」

 

 ミリアの質問に、マーチスは視線を宝具から上げた。ミリアを一瞥すると、クライを睨む。

 

「そっちの嬢ちゃんはハンターなり立てだったか。小僧、説明してやれ」

「僕が? まあいいけど……まず宝物殿にはね――」

 

 宝物殿には基本的に、由来となる時代がある。高度魔道具文明、高度物理文明、魔導武器文明……そして宝物殿と、そこで見つかる宝具は、由来となる時代が一致している事が多い。

 しかし何事にも例外はある。稀に宝物殿と由来の時代が一致しない宝具が出現し、それは「外の宝具」と呼ばれている。

 

「――それでアレイン円柱遺跡群は……どんな文明だっけ?」

「……魂なき者が蔓延っていた時代、と言われておる。これまでの発見例だと魔法生物に関する宝具が多いようだが……この宝具は明らかに意匠が、つまり時代が違う。高度魔道具文明の物だ。今 言えるのはそんなところだ」

 

(私が見つけた宝具。でもティノさんやクライさんのおかげな気もするし……)

 

 マーチスが机の上に置いた腕輪に、ミリアは視線を釘づけにしていた。彼女が考え込んでいる間にも話は進む。マーチスがしかめっ面でクライを睨みつける。

 

「あとは本格的な鑑定がいる。時間はかかるぞ。先約が詰まっているんでな」

「わかってるよ。いつも通り鑑定料もキッチリ払うからさ」

「当たり前だ!」

 

 そう言って、仕事に戻ろうとするマーチス。するとクライは、ティノの肩に手を置いてから本題を切り出した。

 

「……マーチスさん、それよりオークションに出品される宝具が届いてるんでしょ? 見せてよ」

 

 その言葉にマーチスは険しい顔を向けるが……渋々と、カウンター奥の扉を顎で示した。

 

「少しだけだぞ」

 

 

 

 目録を片手に宝具を物色するクライ……をさておいて、マーチスはティノとミリアにお茶を出している。

 

「そっちの嬢ちゃん……ミリアと言ったな。歳はいくつだ?」

「13……いえ16です」

「知っていると思うが、トレジャーハンターは危険な仕事だ。親に反対されなかったのか?」

「マーチスさん、ミリアはその……」

「……生きていれば、反対したと思います」

「そいつは悪い事を聞いちまったな……」

 

 そのままマーチスとティノ達の話は続く。ミリアの境遇を察したマーチスは、彼女にもティノ同様に優しい言葉をかけ始めるのだが……一方クライは、ある鑑定前の宝具に目を奪われていた。

 

「こ、これは……!?」

 

 それは眼と口の部分に穴が開いた仮面だった。まるで人の皮膚のようなのっぺりした表面、生肉のような手触り、肉の仮面と形容するのが相応しいその仮面に、クライは目を奪われていた。

 

「前見た奴と少し違うけど……間違いない。また巡り合うなんて……!」

 

 生唾を飲み込み、震える手で仮面を箱に戻し、クライは立ち上がった。

 

「マーチスさん、どうしても欲しい宝具があった。鑑定依頼人と交渉したいから、連絡つけてくれない?」

 

 莫大な借金があるにもかかわらず、クライはなんとしても仮面を……『転換する人面(リバースフェイス)』を手に入れようとしている。

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