千変万化に負けない陰の実力者になりたくて! 作:kaneda,i9
「『
「こんな目にあってまだ僕と戦いたいって言うなら……条件を付けよう」
「僕はクランマスターだ。クランの主要パーティ……《
重力魔法で動けないアーノルド達《
それから数日の間……アーノルドは律義にクライが名前を上げたパーティと接触していく。だが返ってきた反応は予想とは違っていた。
「なんで俺達がアンタ達と戦わなきゃならないんだ? アンタ達、クライに騙されたんだよ」
「はぁぁっ!? 誰がヨワニンゲンなんかのために戦わなきゃいけないですか!」
「私達のリーダーはアーク・ロダンです。あのクランマスターの言うことは真に受けない方がいいですよ」
さらに《灯火騎士団》は帝都に不在。《霧の雷竜》はただただ困惑するばかりだった。
***
「クソッ、今思い出しても腹立たしい……なぜ俺はあの男の言う通りにしていたんだ!」
「まあまあ、落ち着いてくださいアーノルドさん。明日からは目標を変えると決めたんですから」
「そうだったな……今は力を試し、奴と決着をつけるのはその後だ」
アーノルド率いる《霧の雷竜》は拠点にしている宿に戻ろうとしていた。辺りはすっかり暗くなっている。
ここ数日の《霧の雷竜》は散々だった。
クライ・アンドリヒに関する情報を集め、奴はパーティの参謀役、戦闘力は低いはず――そう判断し襲撃するも失敗。さらに口車に乗せられ、多くの時間を無駄にしてしまった。
そこでようやく《霧の雷竜》は方針を宝物殿攻略へと変える。自分達の実力が帝都でも通用するかどうか……彼らは違うやり方で試す事を選んだのだ。
宝物殿の選定、装備や消耗品の用意、準備を整えた彼らの足取りは軽い。トレジャーハンターとして、宝物殿攻略に血が滾っているからだろう。
だが不意に《霧の雷竜》は脚を止める。四つ角の陰から堂々と姿を現した賊が、彼らの進路を遮ったのだ。
「なんだ貴様は?」
「俺達はシャドーガーディアン……いや、シャドウガーデンだったか? まあ、どっちでもいいか。ハハ」
賊はひょうひょうとした態度をとりながら、アーノルド達に挑発的な笑みを見せる。その手には双剣が握られていた。
「オッサン、俺の肩慣らしにつきあってくれよ」
「なんだとぉ!? 俺達を霧の雷竜だと知らねえのか!」
賊の言葉に反応したのは《霧の雷竜》で最も若いメンバー、ジャスターだった。
「やめろジャスター」
「でもエイさん……」
「悔しいが、今の俺達は名を売っている最中だ。舐められてもしょうがねえ。それに――」
ジェスターを窘めた副リーダーのエイ・ラリア―は、緊張の面持ちで周囲を警戒し始めた。
「いまヤツは『俺達』って言った。どうやら1人じゃなさそうだ」
「……っ!?」
仲間達が警戒する中、アーノルドは冷静に賊を見据える。構え、動き、気配、そしてレベル7ハンターとしての直感で、目の前の賊が実力者であることを見抜く。アーノルドは微塵も油断せず、背中の大剣を構えた。
「俺は《豪雷破閃》のアーノルド・ヘイル。貴様の名はなんだ?」
「いいぜ、冥途の土産に教えてやる。俺は……《叛逆遊戯》のレックス様だ!」
レックスと名乗った賊はアーノルドに向かって切りかかる。同時にアーノルド達を包囲するように黒づくめの集団が現れ、一斉に襲い掛かった。
***
「チッ……オッサン、なかなかやるじゃねえか……!」
「ふん……!」
レックスの双剣とアーノルドの大剣が幾度も火花を散らした。双剣によるレックスの猛攻、アーノルドはそれを大剣で防ぐ。レックスがフェイントを仕掛ければ、豪快な横薙ぎで小細工ごと振り払う。
アーノルドは大剣を体の一部のように軽々と扱い、レックスの連続攻撃を無傷でしのぎ切ったのだ。レックスは一度距離を取り、飢えた獣のような眼でアーノルドを睨みつける。
だが、内心でレックスは僅かに焦りを覚えていた。彼は《ディアボロス教団》の尖兵、ディアボロスチルドレンの中でも1st……つまり幹部待遇の精鋭だ。
しかも《叛逆遊戯》の二つ名を与えられたネームド・チルドレンである。精鋭中の精鋭なのだ。無名のハンターに後れを取るなどありえない。
(俺様と互角だと……? てことは、豪雷破閃は正式な二つ名かよ)
部下のチルドレン3rd達の様子を一瞥すると、やはりそちらも苦戦している。リーダーが二つ名持ちならレベルは6以上、仲間はレベル5だろう。チルドレン3rdの実力では決め手に欠ける。
(豪雷破閃……アーノルド……俺が名前を知らねえって事は、どっかの田舎から上ってきた余所者か? クソッ、俺様も運がねえな)
レックスは帝都で行われる作戦のために、追加人員として派遣された。当然、帝都で注意すべきハンターの顔は全て記憶している。
しかしアーノルド達《霧の雷竜》は帝都に来たばかりのパーティ、彼らの動向は教団も把握しきれてはいなかったのだ。
暇つぶしに適当なハンターをいたぶって遊ぶつもりだったレックス。だが、アーノルド達は想像以上の実力者。時間をかけるわけにも、部下を減らされるわけにもいかない――
苛立ちながらも、レックスは冷静に状況判断し……ため息をつきながら剣を収めた。
「やめだやめだ! これ以上は割に合わねえ!」
「なんだと……?」
「悪いなオッサン、俺達も暇じゃねえんだ。勝負は預けるぜ」
騎士団が来る前に撤退する。それがレックスの選択だった。さらにレックスが合図を出すと、チルドレン3rd達は一斉に退却を始める。アーノルドは大剣を構えながら怪訝な表情を向けた。
「逃げるのか?」
「……チッ、命拾いしたのはそっちだ。勘違いするんじゃねえ。次は殺す」
その言葉を最後に、レックスもアーノルド達の前から撤退した。
「無事か、エイ」
「ええ、皆無事です。しかし……奴らはなんなんでしょうかね? シャドウガーデン……とか言ってましたが」
エイの言う通り、誰も怪我無く襲撃を乗り切ったようだ。エイは賊について考え込んでいるが……アーノルドは興味を失っていた。
「くだらん。放っておけ」
「いいんですかい?」
「エイ、俺達は何だ?」
「俺たちゃ……トレジャーハンター、霧の雷竜です。それがどうしたんですか?」
「そうだ、俺達は霧の雷竜だ。だが奴は、自分の所属も満足に言えてなかった。そんな奴を相手にする必要がどこにある?」
「……なるほど、さすがはアーノルドさんだ。素性さえあやふやな礼儀知らずに、かまけている暇は無いって事ですね」
アーノルドの答えに納得し、エイは不敵な笑みを返した。《千変万化》に翻弄され続けたアーノルドはもはや、並大抵のことで揺るぎはしない。
「宿に戻るぞ。明日の宝物殿……寝坊したヤツは置いていく」
「聞いたなお前ら。寝過ごすんじゃねえぞ!」
***
「ねえアーク、お金貸してくんない?」
「お断りだね。どうせまた珍しい宝具を見つけたって言うんだろ?」
《
アークに断られると、ラウンジにいた他のクランメンバーにも誰彼構わずクライは金の無心をする。あまりに堂々とした会話は、ロビーにいた外の人間にも筒抜けだった。かくして、クライの行動は瞬く間に噂になる。
――《始まりの足跡》のクランマスターが、アーク・ロダンに協力を申し入れたらしい。
――宝具コレクターの《千変万化》が、どうしても手に入れたい宝具があるらしい。
――レベル8ハンターが欲しがる程の宝具が、ゼブルディアオークションに出品されるらしい。
ハンター間で広まった噂は、ゼブルディアオークションの協賛商会の1つ《ミツゴシ商会》にも届いた。
「ガンマ様、例の噂……お聞きになりましたか?」
「ええ。恐ろしい宝具が出品されると噂になっているようですね」
【ミツゴシデパート】の屋上屋敷にて。ルーナ会長……もとい《シャドウガーデン》のガンマに、彼女の補佐役であるニューが噂について尋ねていた。
「噂に尾ひれはつきものですが……あの千変万化が欲している、というのは気になります」
「念のため出品リストの確認をしましたが……未鑑定で出品された物も多く、噂となっている宝具の特定は困難です」
「あの男の狙いはわかりませんが……ミツゴシ商会としては、この噂を利用しない手はありません。ニュー、あえて噂を広めなさい。1人でも多くの人間に、オークションに興味を持ってもらうのです」
「承知しました。商会の人脈を駆使し、帝都中に広めて見せます」
――そしてニューの宣言通り、噂は帝国貴族の間にまで広がりを見せる。
「先日、アークを帝都まで送ったのだが……その時、噂の千変万化に会ってな。奴は私に意地の悪い事を言ってきたのだ! なぜあんな男がアークより認定レベルが高いのだ……!」
「エクレールさんも彼に会ったのですね……私も彼の言動は理解に苦しみました」
「そうなのか? アレクシアは奴に感謝していると聞いたが」
「それはそれ、これはこれです。あの男とは二度と話したくありません」
ある日、帝都ミドガル邸で行われた茶会で。グラディス伯爵家の令嬢エクレールは、共にアークを応援するアレクシア・ミドガルとの会話に花を咲かせていた。そんな折、他の貴族から例の噂を2人は耳にする。
「千変万化が……アークに金の無心を!? あの男は悪評なんてお構い無しなの……?」
「最強の宝具か……それをアークに渡せば……喜んでくれるはずだ!」
アレクシアがクライに呆れる横で、エクレールは噂の宝具をなんとしても手に入れると、決意を固めた。
そして噂は、国外から訪れたオークション参加者の耳にまで届く。
「シロン様、その手紙は?」
「帝都の友人からです。近況報告と気になる噂が書いてありました。なんでも……今回のオークションには、とても珍しい宝具が出品されるそうです。高名なハンターが資金集めに奔走しているとか」
「その噂なら私も耳にしました。しかし少々意外です。シロン様はピアニスト、宝具とは無縁だと思いましたが……」
「
「そうですね……一介の剣士として、宝具に興味が無いと言えば嘘になります」
【オリアナ王国】から帰国した音楽家のシロンが、ミツゴシからの手紙で噂を広め……帝都に留学中のオリアナの王女、ローズ・オリアナも噂の宝具に対して興味を抱いた。
表の世界で広まった噂は、裏社会にも波及する。
「――最強の宝具だと?」
「ああ、帝都中で噂になってるぜ。俺は帝都の事はよく知らねえが……今回のゼブルディアオークション、かなり注目されてるみたいだな」
ディアボロス教団の隠れ家の1つで、計画の中心人物である《痩騎士》にレックスが気軽に話しかけている。《痩騎士》は隠れ家でも全身鎧と兜で体躯を隠した謎多き人物。
レックスが《痩騎士》について知っているのは、かつて彼が教団最高幹部「ナイツ・オブ・ラウンズ」の1人だった事だけだ。
「……注目されているなら好都合だ。計画に利用できる」
そう言って《痩騎士》は、銀色の球体を持ち上げて眺めた。中心に赤い宝石がはめ込まれたその球体は《痩騎士》が所有する宝具にして、計画の鍵となる存在である。
「しっかし高レベルハンターが客に紛れてたらどうするんだ? アンタで相手になるのかよ?」
「……誰に言っているつもりだ?」
挑発的に笑うレックスだったが、直後《痩騎士》から向けられた殺気に思わず怯んでしまう。
「わ、悪かったよ。ほんの冗談……そんなに怒るなって」
「勝手な行動をした先日の件、まだ許したわけではないぞ」
「わかってる……俺様だって馬鹿じゃねえ。決行の日まではおとなしくしてるさ」
肝を冷やしたレックスは、逃げるように部屋を去っていった。残された《痩騎士》は再び宝具に目を向ける。そして彼は何を思い出したのか……兜の奥で侮蔑の笑みを浮かべた。