千変万化に負けない陰の実力者になりたくて!   作:kaneda,i9

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最強の宝具? オークションに嵐の予感!

【マギズテイル】で発見した仮面型宝具を手に入れるため、鑑定依頼人との交渉に臨もうとするクライ・アンドリヒ。隣にいるのは、彼がまたしても借金を申し入れたシトリーだ。

 

「どうしても手に入れたい宝具なんですよね? クライさんは何も気にする必要はありません。私達の方は後回しでいいです。本当はイヤですが……後回しで構いません」

 

 悲壮感すら漂うシトリーの笑顔に、クライは目を合わせる事が出来なかった。

 

 

 交渉の場に指定された酒場【挑戦者の学び舎】を訪れたクライ達は、因縁浅からぬアーノルド・ヘイル達と交渉相手として対面することになる。

 

「貴様らは……」

「交渉に応じていただき、ありがとうございますアーノルドさん!」

 

 罵詈雑言が飛び出す前に、シトリーが強引に交渉を始めた。

 

 しかしクライの交渉術はとても拙く、逆にそれがアーノルドを警戒させる。

 

(「少し危険な宝具」「能力は教えられない」か。話にならんな。だがそれが罠だとしたら? ヤツの狙いは俺達から宝具を手に入れる事ではなく、俺達に押し付ける事だとしたら……)

 

「……1千万だ」

「え?」

「いいんですかアーノルドさん!?」

「ああ。どうやらこの宝具は『少し危険』らしいからな?」

 

 芝居がかった口調で額を宣言するアーノルド。彼は断りづらい程度に高い金額を提示する事を選んだ。正体の分からない宝具を抱えるリスクを避けるために。そして双方納得の上で、宝具が引き渡される……はずだった。

 

「わかりました。では1千万ギールで――」

「ちょっと待ったァ! その宝具、倍の値段で俺が買おう!」

「待て待て、俺は2千5百万出す!」

「私は3千万!」

 

 ありえない事が起きていた。噂の宝具を手に入れるため、クライの動向を虎視眈々と狙っていた者たちが、一斉に金という牙をむいたのだ。

 もはや収拾のつかない騒動、それを止めたのは……少女の可憐な声だった。

 

「1億」

 

 その言葉に、誰もが振り向いた。エクレール・グラディス。高級感あふれる白いドレスと、似つかわしくない剣を携えた金髪の少女が、得意気な笑みを浮かべクライを見下していた。

 

 

 

 ……騎士団の介入により、まとまりかけた交渉は破談。決着はゼブルディアオークションの場に持ち越されることになってしまった。

 

「どうしてこうなるかなぁ……」

 

 クランマスター室でクライは、深いため息をついた。

 

 

***

 

 

 ゼブルディアオークションの開催が目前に迫り、《探索者協会》のロビーはいつも以上に混雑していた。依頼掲示板の前には、ハンターが黒山の人だかりを作っている。

 しかし既に目ぼしい依頼は無く、残っているのは報酬が安い依頼か、オークションに間に合わない物ばかりだ。

 

 その光景を離れた机から、ティノ・シェイドは疲れた目で眺めていた。そんな彼女を心配そうにミリアが見つめている。

 

「ティノさん大丈夫? そもそも、もう開催に間に合わないよ」

「わかってる。開催日はずっと前から分かってるのに、今さら慌てるのは3流ハンターだって」

「そこまで言ってないけど……」

「よお、ティノじゃねえか。何してんだ?」

 

 落ち込むティノに声をかけるのは赤髪の剣士(ソードマン)。ギルベルト・ブッシュだ。ティノと即席パーティを組んで【白狼の巣】に挑んだハンターの1人だ。こうして姿を見かければ声をかける仲である。

 

「ギルベルト……あなたこそどうしたんですか?」

「どうしたって、パーティで受ける依頼探しに来ただけだよ。そしたらアレだろ?」

 

 そう言ってギルベルトは、依頼掲示板を一瞥した。殺気だったハンター達が集まって、剣呑な雰囲気を生み出している。

 

「オークションが終わるまで、依頼を受けるのは無理そうだな」

「……でも私にはお金が必要なんです。少しでもますたぁの力になるために」

「ああ……あの噂ホントだったんだな。宝具コレクターのハンターが、あちこちからお金集めてるって」

「いや、借りようとしたけど断られてました」

「そうなのか? ってオマエは……誰だ?」

「初めまして、私はミリアです。まだレベル1の駆け出しハンターです」

「そうか。俺はギルベルト、レベル4の剣士だ。よろしくな」

 

 ミリアと握手を交わし、ギルベルトは再びティノへと話しかける。

 

「それで大丈夫なのか、オマエのとこのクランマスターは?」

「大丈夫。ますたぁの神算鬼謀はもう宝具を手に入れる算段をつけている……はず」

「そ、そうか……ってそうじゃなくて、貴族もその宝具を狙ってるって話だろ? 手に入れたら目をつけられるんじゃねえのか?」

 

「……っ」

 

 貴族、という単語にミリアは一瞬だけ眉をひそめた。2人はそれに気づかず話を続ける。

 

「それも問題ない。ますたぁなら……どうにかする。私なんかが考えもつかない方法で」

「……まぁ、確かになんとかできるのかもな」

「そんなにすごいの? その……《始まりの足跡(ファーストステップ)》のクランマスターって」

 

 ギルベルトは半信半疑、困り顔でティノに同意した。そんな2人に、ミリアは問いかける。彼女はまだ、クライ・アンドリヒの事を知らない。

 

「すごいなんて言葉じゃ足りない。ますたぁの行動は何もかも計算づく。いつも限界ギリギリの試練を私に与える。つまり、ますたぁは神」

「俺は足跡のハンターじゃねえが……クレアが言ってた『クランマスターになるべくしてなった男』ってのは結構的確だと思ったな。 ……そういやそのクレアはどうしてんだ?」

「……クレアならお姉さまが連れてった。今頃宝物殿をはしごしてる」

 

***

 

 街道を少し外れた森の中で、リィズは苛立ちながら宝物殿の入り口を、息を整えるクレアを睨んでいた。

 

「もう! クレアちゃん遅い!」

「無茶言わないでよ……私はルークじゃないの!」

 

 クライのため金策しようと、リィズ・スマートは手近な宝物殿を片っ端から攻略していた。巻き込まれたクレア・カゲノ―は全くついていけず、息も絶え絶えになっている。

 

「ちっ、クレアちゃんでもダメか……じゃあいいや。後は私1人で行くから」

「はぁ!? 人を無理やり誘っといて何よそれ!」

 

 クレアが文句を言った瞬間にはもう、リィズの姿はどこにも無かった。今まで多数のハンターが使ったであろうキャンプ跡地で、クレアは歯噛みする。

 

「……絶対に追いついてやるんだから」

 

 眉間にしわ寄せ、剣を強く握りしめ、クレアは踵を返した。マナ・マテリアルが色濃く漂う森で、自らを鍛えるために。

 

 

 

***

 

 

 

 僕がシェリーの護衛を初めてから1週間、シェリーの周りでは特に何も起きてない。変わった事と言えば……ゼブルディアオークションの開催に向けて、帝都の賑わいが日に日に増している事くらいだ。

 そんな中、朝の帝都中心街で僕達は気になるニュースを見つけた。

 

「シド君、あの見出しって……マスター、えっと……クライさんの事かな?」

 

 そう言ってシェリーが指さしたのは、雑貨屋の店先に積まれた雑誌の1つ。ニュースを面白おかしく騒ぎ立てるタイプの……所謂ゴシップ系の雑誌だ。

 確かに見出しには「宝具コレクター」とか「高名なハンター」とか書いてある。十中八九クライの事だろう。そういえばオークションにすごい宝具が出るって噂、学院でも聞いたな。

 

「クライが気になる?」

「気になるというか……クランハウスにしばらく顔を出してないなって」

 

 確かに僕が護衛を始めてから、シェリーはずっと学院と家を往復する毎日だ。一緒にケーキを食べたりはしたけど、クランハウスには行ってない。

 

「じゃあ行ってみようか。解析は午後からにしてさ」

「そうですね……行きたいです」

「決まりだね」

 

 それで《始まりの足跡》のクランハウスの前に来た僕達は……入口の前でシトリーと遭遇した。今にもはち切れそうなトランクを抱えている。

 

「シド君にシェリーちゃん? いい時に来てくれましたね……運ぶのを手伝ってくれませんか?」

 

 

 ……重いトランクを持って階段を上がる。最上階に着くと、前を行くシトリーが、勢いよくクランマスター室の扉を開いた。

 

「クライさん! お金はあります。まだ戦えます。貴族や商人どもに一泡吹かせてやりましょう。シド君、それをテーブルの上に」

「はーい」

 

 僕がトランクをテーブルに置くと、シトリーがそれを開けた。中には真っ白な硬貨がぎっしり詰まっている。初めて見る硬貨だ。それを見たクライは目を白黒させて、副マスターのエヴァさんは顔を引きつらせている。

 

「これ……どうしたの?」

「……内緒で貯めていた結婚資金です。だいたい8億くらいあります」

 

 クライの問いかけに、シトリーは恥ずかしそうに答えた。そっか。結婚資金、それも8億。やっぱり高レベルハンターは金銭感覚が違うんだ。

 僕は何も言わず、モブらしくひっそりと部屋を退室した。閉めた扉の向こうから、シトリーとエヴァさんの口論が聞こえてくる。

 

 

 

 階段を降りてシェリーの待つ3階へ降りると……そこには立派な研究設備がずらりと並んでいた。学院にも引けを取らないんじゃないかな?

 

「シド君、おかえりなさい。どうでしたか?」

「きるきる?」

 

 設備を眺めてるとシェリーに声をかけられた。返事をしようと思ったけど……彼女のそばにいる人型の何かがすごく気になる。灰色の肌で半裸で、紙袋を被っている大男。

 

「き……? それ何?」

「キルキル君です。シトリー先輩の魔法生物で……見た目は怖いけど、結構優しいんです」

「きるきる」

 

 身長は2メートルくらいでムキムキの魔法生物が、赤く光る目で僕をじっと睨んでいる。それなりに強そうだ。僕は両手を挙げて、敵対心は無い事をアピールした。

 

「僕はシド・カゲノー。よろしく」

「大丈夫だよキルキル君。この人はシトリー先輩の友達だから」

「きるきる」

 

 シェリーの言葉にキルキル君は頷き、僕にサムズアップを見せた。同じポーズで友情をアピールしよう。ゴーレムでもキメラでも無い知性のある人型の魔法生物か……危険なニオイがする。

 この前のキメラといい、5年の間でシトリーは随分キャラが変わったのかもしれない。

 

「それでシド君。あのトランクの中身って何だったんですか?」

「見た事もない白いコインだったよ。それがトランクいっぱい」

「白って……帝国白貨じゃないですか? 1枚10万ギールの」

「……そっか、帝国白貨なんてあったね。初めて見たな」

 

 金貨が1枚1万ギールだからその10倍。そりゃ8億くらいあるよね。

 

「白貨がトランクいっぱい……い、いったいいくら……?」

「知らない方がいいと思うよ」

 

 既にシェリーは眼を回しそうになっている。

 

 

 しばらくキルキル君とコミュニケーションをとっていると……シトリーが3階に姿を見せた。どこか不満げな顔をしている。

 

「シトリー、話は終わったの?」

「ええ……エヴァさんがうるさいからか、いろいろ止められちゃいました」

「いろいろ?」

「いろいろです」

 

 そういえばシトリーって元《アカシャの塔》だよね。鮮やかな手際でアレクシアの血を手に入れてたし、非道な手段に抵抗無さそうだ。止められて当然じゃないかな?

 

「それであの大金は、オークションの噂の宝具が目当て?」

「はい。クライさんはオークション前に穏便に済ませようとしてたのに……それをあの連中が……これだから貴族も商人も嫌いなんです」

 

「シトリー先輩、冤罪で悪評ついて……それでいろいろあったんです」

「なるほど……大変だね」

 

 シェリーが小声で教えてくれた。錬金術師(アルケミスト)ならではの悩みってやつだね。

 

「裏工作や脅迫も考えたけど……クライさんはそれを拒否し、正々堂々戦うと言いました」

「そりゃ止めると思うよ。バレたら大変だろうし」

「なので私は、しばらく資金集めを頑張ろうと思います。申し訳ありませんが、お2人の力にはなれません」

「き、気にしないでください先輩。今日は顔を出しに来ただけですから」

 

 シトリー……物騒なこと言うからシェリーが引いてるじゃないか。

 

「そうでしたか……解析結果はオークションの後にでも聞かせてくださいね」

「りょうかーい」

「わかりました」

 

 シトリーとキルキル君に別れを告げて、僕とシェリーは足跡クランハウスを後にした。学院に向かう道すがら、シェリーが口を開く。

 

「シトリー先輩のあんな真剣な顔、初めて見ました。今回のオークション……なんだかすごいことになりそうですね」

「そうだね。あんな大金が動くんだから――」

 

 ――陰の実力者として介入すべき事件が起きるかもしれない。

 

「シド君?」

「……新人ハンターの僕には遠い世界の話だよ」

「私もですよ。さすがシトリー先輩ですよね」

 

 その日が来るまで、僕はモブに徹するとしよう。

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