千変万化に負けない陰の実力者になりたくて! 作:kaneda,i9
ゼブルディアオークションの開催期間に入った帝都は、まさに祭りのような賑わいを見せていた。大通りを行きかう人が増え、あちこちに露店や屋台が立ち並んでいる。
オークションの協賛商会は、開催を記念した催しを各々で行っている。そんな中、初協賛の《ミツゴシ商会》が帝都の話題をさらった。
「ご清聴ありがとうございました。オークション当日は会場で演奏を行います。ぜひ足を運んでください」
流浪の天才音楽家シロンを招致したミツゴシ商会は、デパートでミニコンサートを行い、商会とオークションの宣伝を行ったのだ。
帝都市民の注目がますますオークションへと集まっていく。
そしてゼブルディアオークション本開催当日……クライ・アンドリヒは幼馴染のリィズとシトリーを連れ、会場に向かっていた。
「クライちゃん、もし負けたら私がグラディス家のクソガキから盗み出してあげるぅ」
「そんな事をしたらクライさんが疑われるでしょ! やるなら強盗に見せかけないと……」
「やめなさい」
物騒な事を言い出すスマート姉妹に、クライの口からため息がこぼれる。
会場となるのは、帝都中心街にある白亜の建物。普段はコンサートや観劇に使われている場所だ。老若男女でごった返している入り口は、貴族、ハンター、その他の3つに分かれている。
クライ達がハンター向けの入り口に向かおうとすると……リィズが係員の1人を指さした。
「あれシドちゃんだよ? 話してるのはクレアちゃんだ」
***
待ちに待ったゼブルディアオークションの当日! 僕は参加者では無く、アルバイトのスタッフとして会場にいた。
入場料の10万ギールが用意できなかったわけじゃないし、ケチったわけでもない。
そもそもガンマから特別招待券が届いているし、シェリーから前売りチケットを貰っている。
『あの……お養父様からオークションの参加券を貰ったんですけど2枚あって……シド君、一緒に行ってみませんか?』
――なんてシェリーに誘われた昨日の時点で、バイトに申し込んでいたんだ。……ルスラン副学長は何を考えているんだか。もちろん一緒に行くけど、ひと仕事してからね。
「それじゃあシェリー、また後でね」
「はい。シド君……頑張ってください」
一緒に来たシェリーが会場内へと入るのを見送り、バイトの打ち合わせに向かう。
僕がスタッフをやる理由はただ1つ……オークションの周囲で起きるであろう事件に備えるためだ。会場全体の構造を把握すれば、動きやすくなる。
……ところが、目論見はうまくいかなかった。日雇いのバイトに重要な所は任せてくれないらしい。裏口を担当するミツゴシ商会の人に、こっそりと謝られてしまった。
「こちらは私共にお任せください。シャド……シド様の手を煩わせたとなれば、私達がガンマ様に叱られてしまいます。それにその……恐れ多いので……勘弁していただけないでしょうか?」
ガンマは何を教えているんだ? 仕方ないので「ハリー・コトラ商会」が担当する入場整理を手伝う事になった。僕の担当はハンター向け入り口と貴族向け入り口の境目だ。
……こんな所にいたら知り合いに見つかるじゃないか。
最初に見つかったのはアレクシアにだった。騎士団の制服を着た彼女は、僕を見つけると胡散臭い笑顔で近づいて来る。
「あら~久しぶりね。シド・カゲノー君」
「うん、久しぶり。まだ帝都にいたんだ」
「っ!? コイツ……!」
彼女は今、第3騎士団の活動を手伝っているらしい。団長のアイリス……姉との確執はすっかり解消されたみたいだね。
「――つまり見回り中か。こんなところで油売ってていいの?」
「相変わらず生意気ね……変な事して、私の仕事を増やさないでよね」
そう言って彼女は、会場前の広場の方へと去って行った。広場にはいろんな出店があるけど、1つ1つチェックしてるのかな? 街中にも屋台がたくさん並んでたし、大変だね。
次にやって来た知り合いはガンマだ。《ミツゴシ商会》の馬車が停まり、その中からルーナ会長として姿を現す。かなり注目を集めてるみたいで、黒山の人だかりができていた。
挨拶でもするべきなんだろうけど……後にしよう。モブとして目立つわけにはいかない。結局、遠巻きに顔を見る事しかできなかった。
それからしばらくたって……バイトの終わりが近づく中、今度は姉さんに見つかった。
「何やってんのよシド?」
「バイトだよ姉さん」
「おはよう弟君。元気してる?」
「元気ですよニーナ先輩」
「シド・カゲノー……」
姉さんの横にはニーナ先輩と、ティノと、ミリアと、どこかで見た赤毛の
「もしかして入場料用意できなかったの? それならお姉ちゃんが立て替えてあげるけど」
「心配しないで。チケットは貰ったから」
「貰ったって誰に?」
「シェリーにだよ。シトリーに言われて僕が護衛してた子」
「そういえばそんな話あったわね。……じゃあなんでバイトしてるのよ?」
「なんと言うか……タイミングの問題で、断れなかったんだ」
「ふぅん……」
「なあクレア、早く行こうぜ」
赤毛の剣士が姉さんを促すと、そこにまた僕の知り合いが現れる。ピンクブロンド髪の姉妹を引き連れた黒髪の男、クライ・アンドリヒだ。
「クレアにティノじゃん。君達もオークションに参加するの?」
「っ! ますたぁ! おはようございます。ますたぁの勇姿を見るために来ました!」
クライが声をかけると、ティノは途端に笑顔を見せた。クライとそれ以外で対応大違いだね。赤毛の剣士も僕と同意見なのか、呆れたようにティノを半目で睨んでいる。そのままクライとティノの会話は続き――
「――そうだティノ、僕の代理人として参加する気は無い?」
「代理人……ですか?」
「僕はもう何回も参加したからね。今年は目立っちゃってるし……」
どうやらクライはオークションに向けての仕込みをしているようだね。その場の思い付きにも見えるけど……一体どうなるのやら。
すると今度は、貴族側の方から僕達に声をかける女性が現れた。輝くような金の縦ロール髪と、煌めく金色の瞳が特徴的な女性だ。
「クレアさん、ごきげんよう」
「あら、おはようローズ王女」
ローズという名前の王女で、姉さんと知り合い……そうか、彼女がローズ・オリアナか。芸術の国【オリアナ】の王女。芸術の国出身ながら『剣聖』の道場に留学して来た生粋の剣士。
帝都にいる貴族を調べてた時に、気になっていた人物だ。気品漂う装いながら、腰に剣を携えている。佇まいも体幹をしっかり鍛えている人の立ち方だ。
「王女……って……王女?」
「お、王女だって……!?」
ローズ王女の登場に、ティノと赤毛の剣士はとても驚いている。けど姉さんは気にせずローズ王女と話し始めた。ひとまず僕は黙って様子を見よう。モブらしく存在感を消して。
「アナタも噂の宝具が気になるの?」
「ええ。もし剣なら、私も競りへの参加を考えましたが……確か、仮面なのでしょう?」
「仮面……そうなのクライ?」
「え!? うんうん、そうだね……」
こっそり離れようとしていたクライが、姉さんに話しかけられてあたふたしてる。……ローズ王女から逃げようとしていた? クライ流の陰の実力者ムーブだろうか。
「クライ……!? もしや貴方は《千変万化》クライ・アンドリヒなのですか!?」
「そうだね……僕がクライ・アンドリヒだ」
「まあ……! ならば隣のお二方は《
「あー……ルークちゃんが言ってたのコレかぁ」
「でも想像以上……」
クライに気づいた途端、ローズ王女は目を輝かせた。そのまま興奮気味にまくし立て、リィズとシトリーも引かせている。もしかして……クライ達の大ファン?
「改めまして、私はローズ・オリアナ。オリアナの王女です。クライさんの事は、同じ道場のルークさんからよく聞いています。彼はクライさんのアドバイスのおかげで強くなれたと自慢げで……私にも何かご教授いただけませんか?」
「いや~……その……何も教える事はないかな」
「なるほど……剣筋を見ずに教える事はできない、そういうことですか」
「うんうん、そうだね……」
「これは失礼いたしました。例の宝具を貴方が競り勝てるかどうか……私もしかと拝見させてもらいますね」
穏やかな笑みを浮かべて優雅に一礼。そのまま去っていくローズ王女。立ち振る舞いを見るに真面目な性格みたいだね。そしてクライ達《嘆きの亡霊》にかなりの好印象を持っている。
高貴な王女の意外な一面に、みんな戸惑っていた。知り合いのはずの姉さんも苦笑いしてるじゃないか。独りティノだけは、上機嫌でクライを見上げている。
「王女さえも魅了するなんて……さすがますたぁです!」
「あっ……あの時ルークがやっちゃった要人って……お腹 痛くなってきた」
対してクライの顔は青ざめていた。貴族とか王族とか苦手なのかな?
「クライちゃん先に行ってて。私、シドちゃんと話があるから」
クライ達が入口に向かう中……リィズが1人、僕の前に残った。笑顔でこっちを見て……何をする気なんだ?
――瞬間、殺気を感じた。リィズのハイキックが僕の顔に迫る。レベル8宝物殿に挑む実力者からの不意打ちだ。
対処は簡単だ。でもリィズは僕の実力を疑っている。当たって平気だと実力バレする。避けても実力バレする。……詰んだ?
とりあえず、体を反らして躱すことにした。顔の上を銀のブーツが通り抜け、風を切り裂くような音が聞こえてくる。
「うわぁっ!? ビックリした……」
とりあえず驚いたふりをして尻餅をつく。これで誤魔化せたらいいんだけど……顔を上げた僕の目に映ったのは、真顔で僕を見つめるリィズだった。
「……躱したでしょ?」
「えっと、偶然だよ」
「ウソ」
「ホントだって」
リィズはずっとこっちを睨んでいる。観念して立ち上がると、今度はとても嬉しそうな笑顔を見せてきた。
「シドちゃん。今度ぉ私とぉ……模擬戦しよ?」
……さすが帝都トップクラスの
「……ふ、2人きりで誰にも見られない場所なら」
「約束だからね」
ひとまず頷いておこう。盗賊の彼女から逃げ続けるのは現実的じゃないし、こういう場合は相手してガス抜きした方が安全。少なくともデルタはそうだった。
問題は実力をどこまでどう見せれば誤魔化せるかだ。こんな事で、陰の実力者になる夢を諦めるわけにはいかない……!