千変万化に負けない陰の実力者になりたくて! 作:kaneda,i9
ハンターになって1カ月、僕は表向き新人ハンターとして振る舞いつつ、陰では帝都の事を調べていた。モブとしては関わらず、陰の実力者として注意すべき重要人物を探るためだ。
【プリムス魔導科学院】に【ゼブルディア魔術学院】、『剣聖』の道場に【光霊教会】、興味深い場所がたくさんある。中でもトレジャーハンターのパーティが集って立ち上げる組織『クラン』そのクランハウスが気になる。
トレジャーハンター黄金時代の、トレジャーハンターの聖地【帝都ゼブルディア】……そんな状況なら主人公ポジションはハンターに違いない。
そんなわけで、大通りにそびえる白い建物《
「久しぶりねシド。お姉ちゃんに挨拶しに来るなんて感心ね」
「苦しいよ姉さん。首締まってる」
姉さんに見つかってしまった。なぜここに……逃げようとしたら後ろから組み付かれて身動きが取れない。
「クロエから聞いたわ、1人で頑張りたいって言ったそうね」
「あの受付の人? 内緒にしてって言ったんだけどな」
「あの子、隠し事が苦手なのよ」
「そうなんだ。次からはもっとましな言い訳考えておくよ」
「言い訳?」
しまった。僕の首を絞める力が強くなる。
「ぐえ……離してよ姉さん」
「ダぁメ、アンタ逃げる気でしょ」
「逃げないって……信じてよ」
「……まあいいわ」
やっと姉さんが離してくれた。……と思ったら、今度は僕の腕を掴んで引っ張りだした。クランハウスの入り口に向かっている。
「挨拶しに来たなら案内してあげる。ついてきなさい」
「勝手に入っていいの? ここクランハウスでしょ」
「大丈夫。アンタは私の身内なんだから」
それは……どういう事だろうか?
《
そのクランハウス1階はロビーになっていて、受付では白い制服の職員が様々な対応をしている。床も壁も白く、清潔感と高級感にあふれている。吹き抜けの高い天井はとても開放的だ。準備や打ち合わせをしているハンターの姿も見えるけど……こっちをチラリと見るだけで、誰も姉さんを止めようとする気配は無い。
「姉さん、もしかしてここに所属してるの?」
そう言った瞬間、天地がひっくり返った。気づけば僕は襟を掴まれ、床を引きずられている。
「アンタ……私の手紙読んでないの?」
「そういえば母さんが読んでたような……」
「今はアンタの話をしてんのよ」
怒りのこもった姉さんの声が聞こえる。ついでに周囲のざわめきも聞こえるけど、姉さんはお構いなしのようだ。そのまま人のいない階段の陰まで来ると、今度は僕の首に手をかけた。
「アンタが寂しがってるんじゃないかって、お姉ちゃん頑張って書いたのに……アンタは私の事なんてどうでもいいのね?」
「そんなことは……ないよ……」
姉さん本気で怒ってるな。どうやってなだめよう……
そんな風に考えていると、さっき階段が見えた方から声が聞こえて来た。
「あれぇ何してんのクレアちゃん? 変態でもいた?」
「違うわ、愛のムチよ。姉からの手紙を読まない弟を躾けてんの」
「弟ぉ? ……あ! もしかしてシドちゃん?」
女性らしき高い声で姉さんと親しげ……そんな声の主が近づいて来る。するとようやく姉さんが離れてくれた。
息を整え顔を上げると、目の前には顔。燃えるような赤い目と浅く焼けた肌、揺れるピンクブロンドの髪……見覚えのある顔が、僕を間近でのぞき込んでいる。
「シドちゃん久しぶり! 元気してた?」
「ええと……もしかしてリィズ?」
リィズ・スマート、元気いっぱいなトラブルメーカー。年上の幼馴染がそこにいた。久しぶりに会った彼女は昔と変わらない笑顔を僕に見せている。同時にマナ・マテリアルの気配も色濃く感じた。最後に会った時の七陰よりも強い気配を。
「そだよー。昔みたいに、リィズお姉ちゃんって呼んでもいいよ」
「ダメよ。シドのお姉ちゃんは私1人なんだから」
「えー? クレアちゃんのイジワル~」
姉さんがリィズの言葉を遮って睨みつけ、対してリィズはイタズラっぽく笑っている……2人とも相変わらず仲がいいみたいだ。
立ち上がって、改めてリィズを見ると……
「その子どうしたの?」
「これ? 私の弟子。クライちゃんに頼まれて鍛えてるんだけど、ちっとも強くならないの。強くしてもすぐクレアちゃんに追い抜かれちゃう」
「私の目標は
姉さんはリィズにそう言って鼻を鳴らした。つまり……リィズの弟子と姉さんがライバル。リィズが強そうに見えたのは間違いじゃなさそうだ。今のリィズからは、全身にエネルギーが漲っているのを感じる。
「それよりシドちゃんがここにいるって事はぁ……もしかして足跡に入りたいの? それなら私が推薦してあげよっか?」
「……いや、入る気は無いかな」
「え~!? なんでぇ?」
リィズが不満げな表情をしている。彼女には悪いけど……僕は陰の実力者を目指しているんだ。パーティとかクランに入って、不在を怪しまれるわけにはいかない。すると姉さんがフォローしてくれた。
「この子、1人で頑張りたいそうなのよ。登録の時にクロエが聞いたらしいの」
「クロエ……ああ、あの受付の子ね。でも1人で頑張りたいってなんで?」
「僕は……姉さんに守られてばかりじゃイヤなんだ。1人でも大丈夫だって……一人前の男だって証明したいんだよ」
僕がそれっぽい決意を表明すると、姉さんは寂しそうに笑って……逆にリィズはニヤニヤと笑っている。
「へぇ……シドちゃんカッコいい~。私もシドちゃんみたいな きょうだい 欲しかったなぁ」
「シド、あなたの気持ちはよくわかったわ……でも、何か困ったことがあったら……いつでも! お姉ちゃんを頼ってね!」
「うん、頑張るよー」
それから……僕のソロ活動に納得してくれたのか、リィズが別れを告げた。
「それじゃ私、ティーを置いて来るから。2人ともまったね~」
「またねー」
元気に手を振るリィズに、手を振り返す。その背中をよく見ると……リィズは歩き方にもまったく隙が見えない。いったいどれぐらい強くなったんだろう。……ティーってのは肩に担いでる弟子かな、そっちも一応覚えておこう。
リィズを見送った後、姉さんは受付に何かを確認して、ため息交じりに戻ってきた。
「クライは探協に行ってるみたいね。いつ戻ってくるかわからないし……どうするシド?」
「どうするって……クライもここに所属してるの?」
「……アンタ何しに来たの?」
姉さんの呆れたような視線が僕に突き刺さる。そういえばリィズがクライの名前を出していたような……でもクライはハンターの才能があるようには全く見えなかった。まだ生きてて、しかもハンターを続けている? とても信じられない。
「何って……クランハウスを眺めに来ただけだよ。誰が所属してるとかは後で調べるつもりで」
「ホントに何も知らないのね……クライはここのクランマスターで、千変万化の二つ名を持つレベル8ハンターよ」
あのクライが……レベル8?