千変万化に負けない陰の実力者になりたくて!   作:kaneda,i9

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クライの二つ名《千変万化》……どこかで聞いたぞ!?

 姉さんに案内された《足跡》クランハウスの2階、そこは吹き抜けで1階の様子が見下ろせるラウンジになっていた。ここで話の続きをするらしい。案内されるがまま、僕は姉さんと同じテーブルを囲んだ。

 

「どこから話せばいいのかしらね。私が帝都に来た時にはもう足跡があって、クライはそのクランマスターだったの」

「えーっと姉さんがハンターになったのは2年前だから……たった3年でクランを作ったの?」

「そうなのよ。クライに聞いたら『ハンター活動から離れたかった』ですって」

「あ~……なるほど」

 

 クライにはやっぱりハンターの才能は無かったんだ。クランの設立は確か……レベル5以上が必要のはず。そこがクライの限界だったんだろう――そう勝手に納得してると、姉さんの顔に真剣みが増す。まだ話は終わりじゃないらしい。

 

「でもね……クライにはクランマスターの才能があったのよ。そのおかげでアイツはレベル8にまで上り詰めた」

「……どういう事?」

 

 そこからの話は信じられないものだった。

 

「ルークたち言ってたわ。帝都に来て最初に行った宝物殿……【小鬼の遊び場(ゴブリンズケイブ)】で、大鬼(オーガ)一つ目鬼(サイクロプス)と遭遇したって」

「そこなら行った事あるけど……そんな強そうな幻影(ファントム)なんていなかったよ」

「そうよ、普通はいないのよ。そんな話が他にも山ほどあるわ。クライが関わった時だけ宝物殿の難易度は上がるし、魔獣退治だと群れや上位種と遭遇する。今じゃクランメンバーの殆どがそれを経験してる」

 

 姉さんの目も、口ぶりも本気の物だった。冗談のような話だけど、冗談ではないらしい。

 

「そんな生きるか死ぬかの修羅場を何度も潜り抜けて、《嘆きの亡霊(ストレンジグリーフ)》はみんなものすごく強くなったし、他のクランメンバーはそれでクライを畏れてる。私もひどい目に何度もあったわ」

「《嘆きの亡霊》……それがクライ達のパーティなんだ。みんなってみんな?」

「ええ。リィズはさっき会ったでしょ。ルシアにルーク、アンセム、シトリー、それと新メンバーが1人、みんな二つ名を持っているわ。そんなパーティ……世界中を探してもクライ達だけよね、きっと」

「えーっと……二つ名って条件がいるんだっけ?」

「《探索者協会》に認められて送られた、正式な奴よ。勝手に名乗ってるのとは違うわ」

 

 クライと関わると危険に見舞われる。それだけならまるで疫病神だ。でも逆に言えば功績が勝手に寄って来る……って見方もできなくはない。それで二つ名持ち……クランマスターの才能って姉さんの言い分もわかるような……わかりたくないような。

 

「それでね。みんなひどい目に遭うから、足跡のクランマスターはメンバーに対して試練を出してる……って噂になってるのよ。千の試練、なんて呼ばれてて……《千変万化》の二つ名とどっちが先だったかしら?」

「え、クライの話まだ続くの? もうお腹いっぱいなんだけど」

「……それもそうね、私の話がまだじゃない。まったくクライめ……」

 

 その後の姉さんの話も、クライのせいで大変な目にあった……とか、クライの尻拭いをさせられた……とか、そんな話が多かった。

 

***

 

 《始まりの足跡(ファーストステップ)》を訪れてからだいたい1週間……【プリムス魔導科学院】ではシトリー、【ゼブルディア魔術学院】ではルシア、『剣聖』の道場ではルーク、【光霊教会】ではアンセム……帝都探索を続けた僕は他の幼馴染の《嘆きの亡霊》に関する噂をたくさん聞いた。

 会う事は出来なかったし、噂も信じ難い物ばかりだったけど……もし本当なら、たった5年でクライ達は帝都有数のパーティになった事になる。

 結果を出し続けるクライは神算鬼謀、深謀遠慮、未来が視えると評判になり、つけられた二つ名が――

 

「千変万化……か。あのクライがねぇ」

 

 部屋に戻った僕は集めた情報を改めて確認。様々なクランハウスを含め、帝都の主要な場所は結構巡ったかな? いつのまにか地図にかなりの数のバツ印を書き込んだみたいだ。それで今は《嘆きの亡霊》について書き込まれたメモを眺めている。

 

「嘆きの亡霊、千変万化……どこで聞いたんだっけ……」

 

 僕はクライ達のパーティ名とクライの二つ名に聞き覚えがあった。少なくとも帝都に来る前に聞いた気がする。思い出せそうで思い出せないモヤモヤ感を1週間ずっと抱えていた。

 

「ん~……僕が村で帝都の情報を聞けるのは…………そうだ、シャドウガーデンの報告だ」

 

 七陰のみんなは僕の元を去った後も、定期的に《シャドウガーデン》の活動報告をしてくれた。悪魔憑きを治療した恩を、僕の設定につきあって返しているのだろう。ビジネスが上手くいってるとか、《ディアボロス教団》(という設定の盗賊)と戦ったとか、悪魔憑きの命を狙う第3勢力(という設定の盗賊)とか、いろんな話をしてくれたっけ。

 それで《千変万化》の二つ名を聞いたのは……ガンマが報告担当だった時だ。

 

***

 

『どしたのガンマ。かなり落ち込んでいるみたいだけど』

(あるじ)様……私達はとんでもない失敗をしてしまいました』

 

 そうそう、ガンマがすっごい話しづらそうにしてた。失敗を打ち明けるのって勇気いるよね~。

 

『――つまり蛇って組織を追い詰めたけど、おいしいところを《嘆きの亡霊》ってパーティに全部取られたんだ』

『はい……私達が立てた作戦も、対する蛇の動きも何もかも、全ては《千変万化》の手のひらの上だったのです』

 

 《シャドウガーデン》対《ディアボロス教団》は裏社会が舞台、それを表社会の知略家が利用する。当時は(面白い設定だけど、また第3勢力出すの?)なんて思ったっけ。まさか実在のハンターでしかもクライ達の事だったとは。

 

『主様は《千変万化》の事をどうお考えになりますか?』

『フッ……もしかしたらその男は、我の先を行く者かもしれんな』

『主様の先……っ!? まさかそんな!?』

 

 敵でも味方でもない知略家って、なかなか絶妙なポジションだよね。どんな結果になっても得をしそうって言えばいいのかな。僕が目指す陰の実力者とかなり近い存在だ。

 

『戦いを挑めば必ず負けるだろう。例え我でも勝ち逃げを許してしまうかもしれないな』

 

 なんてあの時は冗談で言ったけど……陰の実力者と知略家が並ぶなら、戦うよりインテリジェンス溢れるカッコいいセリフを応酬したいよね。今宵の宴……仕組んだのは貴様か? ――とかね。

 

『ガンマよ、驕るな、うぬぼれるな、気を引き締めろ。もし我らが道を誤れば、その男は容赦しないだろう』

『っ……肝に、命じます』

 

 盗賊退治の時にハンタ―とトラブルになった――ってエピソードを脚色してる、そう思った僕は、「あんまり目立つ問題おこさないでね~」みたいな事を最後に言ったんだよね。今思うとリィズとかルークに絡まれたんだろうな……

 

***

 

「そういえば僕とクライ達が幼馴染って、七陰のみんなは知らないのか」

 

 僕がアルファと《シャドウガーデン》を結成したのは、クライ達が故郷から旅立った後だ。だから知る機会は無かったと思うし、今も教える必要があるかは微妙だ。僕がなりたい陰の実力者は、友人関係を軽々しく話したりしないのだ。それに――

 

「睨み合うハンターと陰の実力者。実は二人は共に夢を語り合った幼馴染だった……いいね。まさに陰の実力者らしい展開だ」

 

 こうして僕は、自分がクライ達と幼馴染であることを、七陰の皆に黙っている事にした(ひょっとしたらもう知ってるかもしれないけど)。彼女達ならいい感じに盛り上げてくれるだろう。

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