千変万化に負けない陰の実力者になりたくて!   作:kaneda,i9

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Interlude_論理のイータ

《探索者協会》帝都ゼブルディア支部の応接室にて。支部長のガークは届けられた手配書を手に取り、顔をしかねていた。

 

「『帝国の怨敵シャドウ』無差別殺人、監禁、放火、強盗……とんでもねえ大悪党だな」

「シャドウガーデンについての手配書はこちらです」

「おう、どれどれ……こっちもひでえな。それでアイリス、団長としてお前はどう思うんだ?」

 

 ガークの正面には手配書を自ら届けに来たアイリス・ミドガルの姿があった。毅然とした態度だが、ガークの問いかけに目を細める。

 

「どう……とは?」

「いやなに、やけに早い手配書だと思ってな。事件からたった2日ってのは相当だぞ」

「いえ……騎士団の本部は前々から準備していたようです。国際手配ですから」

「なるほど……だったらオークションの直後ってのはタイミングが良すぎる。すごい偶然だな」

 

 冗談めかした口ぶりだが、ガークの目は笑っていなかった。彼の表情が意味する事をアイリスはすぐに察する。

 

(この事件には裏がある。そう仰りたいのですねガーク殿)

 

 アイリスの率いる第3騎士団は帝都が管轄だ。手配書の発行に裏があるとするなら……第3騎士団の上、帝国の深い所に企みの根があるという事になる。

 

(私では手の届かない企みが、シャドウガーデンを狙っている……? だとしても――)

「第3騎士団の団長として、帝都の治安を乱す者は誰であろうと許しはしません」

 

 どんな陰謀があろうとアイリスの思いは変わらない。彼女の堂々たる発言に、しかしガークは眉をひそめた。

 

「おいおい……正義感を燃やすのはいいが、真っ直ぐすぎやしないか……?」

 

 

***

 

 

 帝都からグラディス領へと戻る馬車の中で。エクレールは発行されたばかりの手配書を握りしめ、憤慨していた。

 

「納得がいきません! 私達を助けたのはシャドウ率いる本物のシャドウガーデンなのに……これはいったいどういうことなんですか!」

 

 握りしめる手が震え、シャドウの手配書が皺だらけになる。命の恩人が指名手配された事に、彼女は義憤を燃やしていた。

 その一方で彼女の父、ヴァン・グラディス伯爵は鋭い視線を彼女へと向ける。

 

「落ち着けエクレール。例え恩人だろうと賊は賊……手配書の1枚で狼狽えるな」

「しかしお父様!」

 

 反論しようとするエクレールを無視し、ヴァンは視線を執事のモントールへと移す。

 

「モントール、私は手配書の発行とオークションが近すぎる……そう思えてならないのだが、お前はどう思う」

「はい旦那様。オークションについては気になる噂がございます」

「噂?」

「今回のゼブルディアオークションは開催を危ぶまれ、延期あるいは中止するのではないかと言われていたそうです」

「……シャドウガーデンが帝都を襲撃した件か」

「その通りでございます。しかし実際のオークションは予定通りの日時で開催されました。そして事件が起き……わずか数日で国際手配書が発行された」

 

 父と執事の話にエクレールは目を白黒させた。話の内容はエクレールにも理解できる。できるが……信じがたい。思わず口を挟んでしまう。

 

「ま、待ってくれモントール。それではまるで……オークションの開催日時と、手配書の発行を合わせたみたいではないか!」

「……証拠はありません。そう見えるだけでございます。お嬢様」

 

 もし本当に日時を合わせたのだとしたら、オークションの運営と帝国騎士団……そして実行犯が協力してあの占拠事件を起こした事になる。陰謀論めいた馬鹿げた話だ。

 しかし……当事者としてエクレールの不安は拭えない。彼女はつい父を見上げた。

 

「お父様……」

「……モントール、確かアーク殿に指名依頼を出す予定があったな」

「はい。領内のバレル盗賊団討伐への協力要請ですな」

「屋敷に戻ったら指名依頼を直ちに出せ。ただし相手はアーク・ロダンにではなく、クライ・アンドリヒにだ。感謝状も忘れるな」

「承知しました」

「っ!? お父様……あの男を呼ぶのですか!?」

「あの事件、奴にはシャドウガーデンとの繋がりがあった。改めて話を聞く必要があるだろう。手配書についての判断はそれからだ」

 

 ヴァンの視線は変わらず鋭く、決意は固い。だがエクレールはクライとの再会に不安を覚える。

 

(あの男が屋敷に来る……あの何を考えているかわからない男が……)

 

 

***

 

 

 帝都における《シャドウガーデン》の活動拠点、その書斎にて。金髪の精霊人(ノーブル)……七陰のリーダー、アルファの青い瞳が手配書を見据えていた。

 

「よくできていると思わない?」

 

 そう言ってアルファが差し伸べた手配書を、ガンマは受け取った。描かれているのは漆黒のロングコートを纏った男の姿。ガンマは一瞬 戸惑うが、すぐに真剣な表情を作る。

 

「教団は我々を、悪に仕立て上げようとしていますね。それと、ガーデンの手配書にはアルファ様の名前が載っています」

「そのようね。でも、こんな事で私達の正義は揺らぎはしない……そうでしょガンマ?」

「もちろんですアルファ様。教団の打倒……それこそが私達の正義です」

 

 自信を持って答えるガンマだったが、対するアルファの表情はどこか険しい。彼女には気がかりがあった。それは報告の中にあった盟主シャドウの言葉。

 

「『この帝都には奴がいる。もし、奴が我らの破滅を望むなら……我は最後の1人になっても陰の道を進んでみせる』……奴とは、千変万化の事ね」

「……はい。今回の事件、主様は事態の収拾に千変万化を利用したと、イプシロンが」

「彼は……私達よりあの男を認めている」

 

 アルファの口から出た冷たい声に、ガンマは言葉を詰まらせてしまう。クライはレベル8と言えどトレジャーハンター。そんな一介のハンターに《シャドウガーデン》が負けると思われている……それはシャドウガーデンを取りまとめるアルファにとって屈辱の言葉だった。

 

「私達は彼から最高の環境と最高の知識を与えられた。彼もそれはわかっているはず。それなのに……千変万化、あの男はいったい何者なの……?」

 

 これまでも《シャドウガーデン》でクライを警戒はしていた。しかしシャドウさえも認めたとなると話が変わる。得体のしれないクライの実力を、アルファは不気味に思ってしまう。

 

(私達には、あの男の実力はわからなかった。神算鬼謀、未来が視えるなんて言われてるけど……彼は見抜いている……? その謎が解けない限り、勝ち目は無いと言うの?)

「っ……アルファ様! お気持ちはわかりますが、今は例の作戦を進めましょう。その日はすぐそこまで迫っています」

 

 考え込むアルファを引き戻すかのように、ガンマは声を張り上げた。《シャドウガーデン》が前々から計画を立てていた大規模作戦、その決行日は1年に1度の特別な日……今回のチャンスを逃せば、次の1年を待たなくてはならない。

 ガンマの言葉に、アルファはそっと息を吐いた。指名手配された以上、あまり目立つわけにはいかない。慎重に計画を立てる必要がある。

 

「……そうね、動ける七陰を集めなさい」

 

 

***

 

 

 ゼブルディア北部高原【ミツゴシ温泉ランド】にて。七陰の第7席イータの元に、帝都からの指示書が届いた。彼女は赤みがかった暗色の長髪を持つ精霊人、日ごろから白衣を纏う研究者肌の錬金術師(アルケミスト)だ。勝手に増築した研究室で封を開き、眠そうな目で内容を確認する。

 

「んー……リンドブルム……もうそんな時期?」

 

 気怠そうに呟いたイータは、完成間近のゴーレムを見上げた。解析を依頼された《アカシャの塔》の資料、それを基に作り上げた全高約4メートルのゴーレムである。

……依頼されたのはあくまで解析だ。ゴーレムに関しては無断である。しかも、この研究室はあのゴーレムを作るためにわざわざ用意した物だ。本拠の研究室ではすぐにバレてしまう。

 

(後はマスターのアレをつけるだけ。でも、テストもしたいし、解析もまだ途中だし……)

 

 自分の椅子に座り、机の周囲を見回すイータ。乱雑に積み重なった資料、作ったはいいが試す機会の無い発明品の数々、そして様々な試行錯誤の走り書き……彼女は多忙だった。

 僅かな逡巡を経てイータは、指示書を魔動シュレッダーへとかける。

 

(答え合わせに興味は無い。それに今は無理。だって……)

 

 イータは椅子を回転させ、ゴーレムの反対側……部屋の奥の檻へと目を向けた。それは鳥籠を人間サイズにした檻。中には人影……灰色の肌を持つ小柄の亜人が、黄色く光る目でイータを睨んでいる。

 

「りゅー……!」

 

 高い声と体格から見て、その亜人は女性だろう。植物の蔦のような髪は明るめの灰色、1本1本を自在に操る事ができる様だ。髪を鉄格子に搦めている。

 捕まえたばかりのこの亜人について、イータは見覚えがあった。本物ではなく図説ではあるが。

 

「洞窟の奥を住処にするはずのアンダーマンが、地上にいた……興味深い」

 

 温泉ランドの敷地内にて敵対的な亜人と遭遇……これを緊急事態だと思ったわけではないが、イータの関心はアンダーマンに向けられていた。未解明の謎が目の前にあるのだから。目を輝かせるイータを見て、囚われのアンダーマンは威嚇のつもりか声を張り上げる。

 

「りゅっ……りゅりゅんりゅーりゅん!」

(王……いや姫……?)

 

 アンダーマンの独特な言語は、詳細な資料も無しに翻訳する事はできない。それでも聞き取れた単語を理解しようとするイータは……捕らえたアンダーマンの額に模様がある事に気づいた。思わず立ち上がり、自分から檻へと近づく。

 

「その模様は……まさか……」

「りゅん!」

 

 鉄格子の隙間から、アンダーマンの髪がイータを襲った。まるでムチのようにうなりを上げる髪を、スライムの腕が止める。イータの影から黒いスライムの腕が伸びていた。

 ムチを気にすることなくイータは鉄格子を掴み、身を乗り出した。アンダーマンは驚愕で目を見開く。鉄格子越しに顔と顔が近い。

 

「りゅっ……!?」

「額の模様……確かプリンセスの証……? アンダーマンの……それは、ちょっとマズい。かも」

(プリンセスに危害を加えたら、報復で温泉ランドが危ない。それで何かあったら予算が減らされる。でも……貴重な検体、実験台にしたい……!)

 

 実験台にするか否か……眉をひそめ苦悩するイータ。その様子をアンダーマンのプリンセスは訝しんだ。

 

「りゅう……?」

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