千変万化に負けない陰の実力者になりたくて!   作:kaneda,i9

83 / 83
Interlude_論理のイータ

《探索者協会》帝都ゼブルディア支部の応接室にて。支部長のガークは届けられた手配書を手に取り、顔をしかねていた。

 

「『帝国の怨敵シャドウ』無差別殺人、監禁、放火、強盗……とんでもねえ大悪党だな」

「シャドウガーデンについての手配書はこちらです」

「おう、どれどれ……こっちもひでえな。それでアイリス、団長としてお前はどう思うんだ?」

 

 ガークの正面には手配書を自ら届けに来たアイリス・ミドガルの姿があった。毅然とした態度だが、ガークの問いかけに目を細める。

 

「どう……とは?」

「いやなに、やけに早い手配書だと思ってな。事件からたった2日ってのは相当だぞ」

「いえ……騎士団の本部は前々から準備していたようです。国際手配ですから」

「なるほど……だったらオークションの直後ってのはタイミングが良すぎる。すごい偶然だな」

 

 冗談めかした口ぶりだが、ガークの目は笑っていなかった。彼の表情が意味する事をアイリスはすぐに察する。

 

(この事件には裏がある。そう仰りたいのですねガーク殿)

 

 アイリスの率いる第3騎士団は帝都が管轄だ。手配書の発行に裏があるとするなら……第3騎士団の上、帝国の深い所に企みの根があるという事になる。

 

(私では手の届かない企みが、シャドウガーデンを狙っている……? だとしても――)

「第3騎士団の団長として、帝都の治安を乱す者は誰であろうと許しはしません」

 

 どんな陰謀があろうとアイリスの思いは変わらない。彼女の堂々たる発言に、しかしガークは眉をひそめた。

 

「おいおい……正義感を燃やすのはいいが、真っ直ぐすぎやしないか……?」

 

 

***

 

 

 帝都からグラディス領へと戻る馬車の中で。エクレールは発行されたばかりの手配書を握りしめ、憤慨していた。

 

「納得がいきません! 私達を助けたのはシャドウ率いる本物のシャドウガーデンなのに……これはいったいどういうことなんですか!」

 

 握りしめる手が震え、シャドウの手配書が皺だらけになる。命の恩人が指名手配された事に、彼女は義憤を燃やしていた。

 その一方で彼女の父、ヴァン・グラディス伯爵は鋭い視線を彼女へと向ける。

 

「落ち着けエクレール。例え恩人だろうと賊は賊……手配書の1枚で狼狽えるな」

「しかしお父様!」

 

 反論しようとするエクレールを無視し、ヴァンは視線を執事のモントールへと移す。

 

「モントール、私は手配書の発行とオークションが近すぎる……そう思えてならないのだが、お前はどう思う」

「はい旦那様。オークションについては気になる噂がございます」

「噂?」

「今回のゼブルディアオークションは開催を危ぶまれ、延期あるいは中止するのではないかと言われていたそうです」

「……シャドウガーデンが帝都を襲撃した件か」

「その通りでございます。しかし実際のオークションは予定通りの日時で開催されました。そして事件が起き……わずか数日で国際手配書が発行された」

 

 父と執事の話にエクレールは目を白黒させた。話の内容はエクレールにも理解できる。できるが……信じがたい。思わず口を挟んでしまう。

 

「ま、待ってくれモントール。それではまるで……オークションの開催日時と、手配書の発行を合わせたみたいではないか!」

「……証拠はありません。そう見えるだけでございます。お嬢様」

 

 もし本当に日時を合わせたのだとしたら、オークションの運営と帝国騎士団……そして実行犯が協力してあの占拠事件を起こした事になる。陰謀論めいた馬鹿げた話だ。

 しかし……当事者としてエクレールの不安は拭えない。彼女はつい父を見上げた。

 

「お父様……」

「……モントール、確かアーク殿に指名依頼を出す予定があったな」

「はい。領内のバレル盗賊団討伐への協力要請ですな」

「屋敷に戻ったら指名依頼を直ちに出せ。ただし相手はアーク・ロダンにではなく、クライ・アンドリヒにだ。感謝状も忘れるな」

「承知しました」

「っ!? お父様……あの男を呼ぶのですか!?」

「あの事件、奴にはシャドウガーデンとの繋がりがあった。改めて話を聞く必要があるだろう。手配書についての判断はそれからだ」

 

 ヴァンの視線は変わらず鋭く、決意は固い。だがエクレールはクライとの再会に不安を覚える。

 

(あの男が屋敷に来る……あの何を考えているかわからない男が……)

 

 

***

 

 

 帝都における《シャドウガーデン》の活動拠点、その書斎にて。金髪の精霊人(ノーブル)……七陰のリーダー、アルファの青い瞳が手配書を見据えていた。

 

「よくできていると思わない?」

 

 そう言ってアルファが差し伸べた手配書を、ガンマは受け取った。描かれているのは漆黒のロングコートを纏った男の姿。ガンマは一瞬 戸惑うが、すぐに真剣な表情を作る。

 

「教団は我々を、悪に仕立て上げようとしていますね。それと、ガーデンの手配書にはアルファ様の名前が載っています」

「そのようね。でも、こんな事で私達の正義は揺らぎはしない……そうでしょガンマ?」

「もちろんですアルファ様。教団の打倒……それこそが私達の正義です」

 

 自信を持って答えるガンマだったが、対するアルファの表情はどこか険しい。彼女には気がかりがあった。それは報告の中にあった盟主シャドウの言葉。

 

「『この帝都には奴がいる。もし、奴が我らの破滅を望むなら……我は最後の1人になっても陰の道を進んでみせる』……奴とは、千変万化の事ね」

「……はい。今回の事件、主様は事態の収拾に千変万化を利用したと、イプシロンが」

「彼は……私達よりあの男を認めている」

 

 アルファの口から出た冷たい声に、ガンマは言葉を詰まらせてしまう。クライはレベル8と言えどトレジャーハンター。そんな一介のハンターに《シャドウガーデン》が負けると思われている……それはシャドウガーデンを取りまとめるアルファにとって屈辱の言葉だった。

 

「私達は彼から最高の環境と最高の知識を与えられた。彼もそれはわかっているはず。それなのに……千変万化、あの男はいったい何者なの……?」

 

 これまでも《シャドウガーデン》でクライを警戒はしていた。しかしシャドウさえも認めたとなると話が変わる。得体のしれないクライの実力を、アルファは不気味に思ってしまう。

 

(私達には、あの男の実力はわからなかった。神算鬼謀、未来が視えるなんて言われてるけど……彼は見抜いている……? その謎が解けない限り、勝ち目は無いと言うの?)

「っ……アルファ様! お気持ちはわかりますが、今は例の作戦を進めましょう。その日はすぐそこまで迫っています」

 

 考え込むアルファを引き戻すかのように、ガンマは声を張り上げた。《シャドウガーデン》が前々から計画を立てていた大規模作戦、その決行日は1年に1度の特別な日……今回のチャンスを逃せば、次の1年を待たなくてはならない。

 ガンマの言葉に、アルファはそっと息を吐いた。指名手配された以上、あまり目立つわけにはいかない。慎重に計画を立てる必要がある。

 

「……そうね、動ける七陰を集めなさい」

 

 

***

 

 

 ゼブルディア北部高原【ミツゴシ温泉ランド】にて。七陰の第7席イータの元に、帝都からの指示書が届いた。彼女は赤みがかった暗色の長髪を持つ精霊人、日ごろから白衣を纏う研究者肌の錬金術師(アルケミスト)だ。勝手に増築した研究室で封を開き、眠そうな目で内容を確認する。

 

「んー……リンドブルム……もうそんな時期?」

 

 気怠そうに呟いたイータは、完成間近のゴーレムを見上げた。解析を依頼された《アカシャの塔》の資料、それを基に作り上げた全高約4メートルのゴーレムである。

……依頼されたのはあくまで解析だ。ゴーレムに関しては無断である。しかも、この研究室はあのゴーレムを作るためにわざわざ用意した物だ。本拠の研究室ではすぐにバレてしまう。

 

(後はマスターのアレをつけるだけ。でも、テストもしたいし、解析もまだ途中だし……)

 

 自分の椅子に座り、机の周囲を見回すイータ。乱雑に積み重なった資料、作ったはいいが試す機会の無い発明品の数々、そして様々な試行錯誤の走り書き……彼女は多忙だった。

 僅かな逡巡を経てイータは、指示書を魔動シュレッダーへとかける。

 

(答え合わせに興味は無い。それに今は無理。だって……)

 

 イータは椅子を回転させ、ゴーレムの反対側……部屋の奥の檻へと目を向けた。それは鳥籠を人間サイズにした檻。中には人影……灰色の肌を持つ小柄の亜人が、黄色く光る目でイータを睨んでいる。

 

「りゅー……!」

 

 高い声と体格から見て、その亜人は女性だろう。植物の蔦のような白亜の髪は、1本1本を自在に操る事ができる様だ。髪を鉄格子に搦めている。

 捕まえたばかりのこの亜人について、イータは見覚えがあった。本物ではなく図説ではあるが。

 

「洞窟の奥を住処にするはずのアンダーマンが、地上にいた……興味深い」

 

 温泉ランドの敷地内にて敵対的な亜人と遭遇……これを緊急事態だと思ったわけではないが、イータの関心はアンダーマンに向けられていた。未解明の謎が目の前にあるのだから。目を輝かせるイータを見て、囚われのアンダーマンは威嚇のつもりか声を張り上げる。

 

「りゅっ……りゅりゅんりゅーりゅん!」

(王……いや姫……?)

 

 アンダーマンの独特な言語は、詳細な資料も無しに翻訳する事はできない。それでも聞き取れた単語を理解しようとするイータは……捕らえたアンダーマンの額に模様がある事に気づいた。思わず立ち上がり、自分から檻へと近づく。

 

「その模様は……まさか……」

「りゅん!」

 

 鉄格子の隙間から、アンダーマンの髪がイータを襲った。まるでムチのようにうなりを上げる髪を、スライムの腕が止める。イータの影から黒いスライムの腕が伸びていた。

 ムチを気にすることなくイータは鉄格子を掴み、身を乗り出した。アンダーマンは驚愕で目を見開く。鉄格子越しに顔と顔が近い。

 

「りゅっ……!?」

「額の模様……確かプリンセスの証……? アンダーマンの……それは、ちょっとマズい。かも」

(プリンセスに危害を加えたら、報復で温泉ランドが危ない。それで何かあったら予算が減らされる。でも……貴重な検体、実験台にしたい……!)

 

 実験台にするか否か……眉をひそめ苦悩するイータ。その様子をアンダーマンのプリンセスは訝しんだ。

 

「りゅう……?」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

学戦都市でぼっちは動く(作者:ユンケ)(原作:学戦都市アスタリスク)

文化祭の一件で学校の嫌われ者になった比企谷八幡。そんな彼は学校に嫌気をさして水上学園都市”六花”へ移り住む。▼転校先は悪名高いレヴォルフ黒学院。魔術師として桁違いの才能を持つ彼の運命は……


総合評価:6930/評価:7.4/連載:324話/更新日時:2018年11月18日(日) 20:48 小説情報

帰ってきたらD×Dだった件(作者:はんたー)(原作:ハイスクールD×D)

転スラ世界に迷い込んだイッセーがもとの世界に帰還するお話


総合評価:4365/評価:7.94/連載:155話/更新日時:2026年03月22日(日) 07:00 小説情報

ここだけシド君に人間性をブレンドした世界線(作者:読者その1)(原作:陰の実力者になりたくて!)

感情の起伏が小さいシド君に、人間性をブレンドして原作シド君より感情豊かにした話。▼人並みに怒って、人並みに欲のあるシド君が見たかったので書きました。▼※タイトル少しだけ変えました


総合評価:15003/評価:8.96/連載:43話/更新日時:2026年07月30日(木) 12:00 小説情報

嘆きの亡霊は死神と共に(作者:ディーン・グローリー)(原作:嘆きの亡霊は引退したい)

「嘆きの亡霊は引退したい」にBLEACHの黒崎一護を落とし込んだ物語です。▼黒崎一護はクライ達と幼馴染の設定です。▼基本的に一護がメインで活躍する話となります。▼駄文、原作改変、キャラ崩壊などがありますのでご注意ください。


総合評価:629/評価:8.2/連載:14話/更新日時:2026年08月01日(土) 08:00 小説情報

俺が死んだと思っている仲間と会うのが気まずい(作者:guruukulu)(原作:葬送のフリーレン)

何で死んだのが分身って誰も気付かないの・・・


総合評価:6324/評価:8.04/連載:6話/更新日時:2026年04月01日(水) 19:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>