千変万化に負けない陰の実力者になりたくて! 作:kaneda,i9
(帝都で行われる一大イベント……ゼブルディアオークション! 参加を決意した僕、シド・カゲノーはガンマそしてゼータと再会する。2人とも僕が昔 助けた元悪魔憑きだ。
ゼータと協力してシャドウガーデンの偽物を探していると、ひょんなことからシトリーの後輩シェリーを護衛する事になってしまった)
(クライがなんかすごい宝具を狙ってるって噂が流れる中、ついにオークションが始まった。ルークや姉さんと同じ道場に通うローズ・オリアナ王女と出会ったり、ニーナ先輩が大量落札したり、ピアニストとしてイプシロンが登場したり、なんやかんやありつつ迎えたオークションの終盤……偽シャドウガーデンが現れて貴族を人質に立てこもってしまった)
(この事件……クライは独自に動いている。そう直感した僕はタイミングを合わせて、同時に客席に突入。陰の実力者として首謀者のルスランと対峙した。
このルスランという男、シェリーの母を殺害した犯人で、それなのにシェリーの養父。宝具で正気を失ったシェリーに犯人だとバレて、自業自得の末路を辿った。……いや死んではないけどね)
(オークションの後、ゼータが世界中から忘れられてしまった。永遠の命を探して入った宝物殿で呪われたらしい。ショックは受けてたけど……永遠の命を諦めずに追いかけるとの事。
それと正気に戻ったシェリーは帝都を離れていった。……こっちは何も言うまい)
(あと気になるのは、ティノと行動を共にしてるミリアってハンター。彼女どうも悪魔憑きっぽいんだよね。タイミングがあったら僕が治すとしよう)
リィズと模擬戦……実力バレは避けたい!
四方を壁に囲まれた訓練場。その中央で僕、シド・カゲノ―は剣を抜いた。両手で剣を強く握り、目の前の相手をじっと見据える。ピンクブロンドの髪を揺らす女性
「いつでもいいよ……リィズ」
「じゃ、まずは小手調べね」
ニヤリと笑ったかと思うと、もう目前までリィズは迫っていた。左のハイキック。銀色に輝く金属ブーツが迫る。さすが帝都最速、モブなら絶対に躱せない速さだ。でも今は……ただのモブを演じるわけにはいかない。
身を反らして頭部への直撃を躱し……構えていた剣を代わりに蹴らせる。タイミングよく両手を離すと、蹴り飛ばされた剣が壁に向かって飛んでいく。でもリィズの脚は止まらない。そのまま回転し、右の後ろ回し蹴り。両手を交差して防御し……そのまま蹴り飛ばされる。
「ぐわーっ!?」
剣が壁に突き刺さるのと同時に、僕は床を転がった。これぞモブ演技の応用編……「一瞬だけいい動きするけど結局 倒される強モブ」だ。僕が実力を隠してると疑うリィズに、モブだと思わせるにはこれしかない。ひとまず、体を起こして彼女の反応を伺ってみよう。
「いたた……今ので小手調べなの? 防御で精一杯だったんだけど」
「う~ん……やっぱりシドちゃん、なんか怪しいんだよねぇ。手ぇ抜いたでしょ?」
「抜いてないよ。全力だった」
「じゃ、もう1回ね。今度はシドちゃんから攻撃して」
「……はーい」
1回じゃダメか……このやりとり、故郷で姉さんの鍛錬につきあっていた時を思い出す。こうなったら、リィズが満足するまで「強モブ」を演じ続けよう。剣を取って仕切り直しだ。
「やぁーっ」
全力を見せて実力バレするわけにはいかない。だから今リィズに見せるのは……技だけだ。剣を上に構えて、振り下ろすフェイント……からの横薙ぎ。力も速さも乗っていない剣は、簡単に躱された。次の攻撃を指で止められ……掌底で殴り飛ばされる。
「ぐわーっ」
「その程度ぉ? もっと本気を見せてよシドちゃん!」
僕が剣を構えると、リィズは正面から来た。と思ったら、サイドステップからの方向転換。こっちの横顔に向かって拳を突き出す。剣を振り上げて拳を払う……のをギリギリ間に合わせず、殴り飛ばされる。
「ぐわーっ」
「あれぇ? おっかしいなぁ……次、シドちゃんの番ね」
今度の攻撃は少し速さを乗せる。当たるか当たらないかの距離で初撃を振るい、踏み込んで本命の追撃。もちろんリィズは軽々と躱した。ブリッジ回避からの蹴り上げが、僕を吹っ飛ばす。
「ぐわーっ」
「ふぅん……早く立ってよシドちゃん。痛そうにしてるの……フリだよね?」
「いや痛いよ。そろそろ限界かも」
剣を支えに何とか立ち上がる演技をして、構えなおす。まだまだリィズを騙せそうにない。こうなったら、どこまでも我慢比べをしてやろうじゃないか。
……そう思った矢先、彼女から笑顔が消えた。真顔でじっと睨んでいる。
「じゃ、リィズちゃん本気で行くから。シドちゃんも本気出さないと……殺しちゃうよ」
リィズは本気だ。凄まじい殺気を感じる。しかし僕は本気を見せるわけにはいかない。これは試練だ……絶対に本気を出さず、彼女に本気だと誤解させる。僕がこれからも陰の実力者であるために、乗り越えなくてはならない試練だ。
「いつでもいいよ……リィズ」
そう言った瞬間、首を傾げてリィズの拳を躱した。躱した後に、拳が空気を切り裂く音が聞こえてくる。彼女は速い。本気の速さだ。見えるだけで、躱すだけである程度の実力者だと言えるだろう。だから……反撃は1回でいい。
リィズの左手が迫る。両手で僕の頭を掴む気だな。そうなるより速く、前へと踏み出す。頭突きだ。額を突き合わせると、彼女が笑うのが見えた。リィズはひるまず僕の首に両腕を回し、膝蹴りを繰り出す。息が詰まる程の衝撃が走った。
「ぐわーっ……がくり」
「だからさぁ……フリはやめろって言ってんじゃん」
リィズに突き飛ばされてしまった。そのまま僕は倒れ、リィズに見下ろされている。
「……ばれた?」
「リィズちゃんが騙されるとでも思ってんのぉ? バカにしてる?」
「してないよ。でも、やってから無理そうだって思った」
「ふ~ん……まあいいや」
「ぐえっ」
起き上がろうとしなかったせいか、僕の上にリィズが座り込んだ。そして、疑いの眼差しでこっちを睨んでる。
「なんで実力隠すの? 本気のリィズちゃんに反撃できるじゃん」
「……わからない。無意識なんだ。気づいたら体が動いてる」
これで納得してくれないかな。祈りながら見上げると、リィズが眉をひそめてた。なにやら考え込んでるみたいだ。
「もしかして……これがクライちゃんの言ってた才能? 才能だけある感じ?」
「クライ? クライが何か言ってたの?」
「うん。クレアちゃんやシドちゃんと違って、ティーには才能無いって」
???……あの温厚なクライがそんなこと言うかな? きっとそこまで強くは言ってないよ……たぶん。
「……そろそろどいてくれない?」
「いいよ。続きしよっか?」
「う~ん……」
困ったな……納得してくれたかはさておき、まだまだ満足はしてくれないか。返事に迷っていると、訓練場の扉が開いた。現れたのはぼんやりした顔つきの黒髪の男。噂をしていたクライ・アンドリヒだ。
クライは僕とリィズの幼馴染で、この訓練場のあるクラン《
彼が現れた途端、リィズは笑顔を振りまいた。すっかり闘志を収めている。露骨に態度違うね。
「クライちゃん、やっほー!」
「リィズ、貸しきりにしたって聞いたけど……なんでシド君に座ってるの?」
「聞いてよクライちゃん。シドちゃんすごいんだよ! 私の本気が見えてたの!」
「え……シド君に本気出したの!?」
「うん。ティーと違って本気で蹴っても喋る余裕あるの! これがクライちゃんの言ってた才能の差? 私にもよくわかったよ!」
「……うんうん、もうやめようか」
「えーっ!? なんで!?」
「シド君がかわいそうだよ!」
嬉しそうに話してたリィズが、クライの叱責に戸惑っている。ありがとうクライ。僕は平気だけど……これでようやくリィズとの模擬戦を終えられそうだ。
「それで……クライは何しに来たの? 様子見に来ただけ?」
「ふふん。実はね……宝具の面白い使い方を思いついたんだ」
クライは得意気な顔で1枚の板を掲げた。見覚えがある……オークションで『反発の盾』って仮称がついてた宝具だ。ちなみに出品者は僕。ミツゴシ商会を経由しての出品だから、クライは気づいてないと思うけど。それより、隣のリィズが呆れた表情をしてる。
「何それ? ただの板きれにしか見えないけど」
「まあ見てなよリィズ。シド君もきっと驚くと思うよ」
「へー」
僕らの見ている前で、クライは『反発の盾』を床に置いた。先端部分が僅かに反り返ってる長方形の板だ。その上にクライは両足を乗せ……宝具を起動させる。
「これは『高度物理文明』の宝具。だからこの薄さで盾って鑑定されたみたいだけど……よっ!」
なんと……クライを乗せたまま『反発の盾』が浮かび上がった。まるで、僕が前世で見た「名作タイムマシン映画」それに登場した宙に浮くスケートボードじゃないか。
でもクライはなかなかバランスを取ることができず、見ていて危なっかしい。
「これは、乗り物だ! 改めて『浮遊する板』とでも名付けた方が……おっとっと」
「ふーん……乗り物なのはわかったけどぉ、どうやって前に進むの?」
「え? それは……どうするんだろうね?」
「地面を蹴るんじゃない? 片足を板の真ん中に乗せて、もう片方の足で――」
……ついついアドバイスしてしまったせいか、『浮遊する板』が魔力切れを起こすまで、クライの練習を手伝う流れになってしまった。
でも、こうして見覚えのある物が宝具として再現されたのを見ると……やっぱり僕は「高度物理文明」から転生したのかもしれない。
***
500年の歴史を誇りトレジャーハンターの聖地と呼ばれる【帝都ゼブルディア】。ゼブルディアオークションの開催期間が終わって1週間、祭りのような賑わいが噓のように元の日常が戻ってきた。しかし日常が戻らなかった者もいる。
【ミツゴシデパート】や《始まりの足跡》のクランハウスなど、巨大建築そびえる大通りから道を外れ、閑静な路地を進む女性がいた。黒髪黒目の彼女はクレア・カゲノー。足跡所属のレベル4ハンターだ。その後ろには、2人の同行者がいる。
1人は黒髪で軽装の少女、ティノ・シェイドだ。クレアと同じく足跡所属のハンターだが、なぜか仏頂面で気まずそうにしている。
もう1人の同行者は、短く切りそろえたピンクブロンドの髪と色白の肌が目立つ《
「クレアちゃん、あのアパートじゃないですか?」
「うん? ……確かにそれっぽいわね」
クレア達が探していたのは、どこにでもありそうな古びたアパートだった。3人は2階に上がり、目当ての部屋の玄関扉にたどり着く。そこはクレアとパーティを組んでいた唯一のハンター、ニーナの部屋だ。オークションをキッカケに、彼女は帝都から姿を消してしまった。
「ここがニーナさんの部屋……」
「まったく……こんな場所にあるなら、泊めてくれてもいいじゃない」
愚痴をこぼしながら、クレアは封筒から鍵を取り出す。今朝、足跡クランハウスのロビーで受け取った封筒だ。同封されていたのは、別れの挨拶と「代わりに鍵を返してくれない?」という文言が書かれた手紙。
受け取った際、クレアは人目もはばからず叫んでしまった。
『あ~……! またクライのせいじゃない……!』
『? どうしたのクレアちゃん』
『……ニーナが面倒事を置いて行ったのよ』
『! 今、ニーナの話をしましたか?』
ロビーでクレアの苛立ちを耳にし、ティノとシトリーはそれぞれの思惑で同行を申し出たのだ。
「……開いたわ」
「おじゃましますね」
「お、おじゃまします……」
クレアとシトリーは堂々と、ティノは遠慮がちに入室。3人を出迎えたのは……異常なほど殺風景な部屋だった。備え付けの家具しか残っておらず、生活感は皆無。事情を知らない人が見れば、つい最近まで1人の女性が暮らしていたとは到底思えないだろう。
掃除のつもりで来たクレアは拍子抜けし、ため息をこぼす。しかし隣のティノは変わらず浮かない顔をしている。
「掃除する暇があるなら、手紙じゃなくて直接挨拶に来ればいいのに……まったく。ティノもそう思わない?」
「は、はい……でも彼女がいなくなったのは、私が安請け合いしたからで……」
「だとしても! 悪いのはクライよ。アンタにオークションのやり方を教えなかったんだから」
ニーナが姿を消したのは、オークションでクライ・アンドリヒの代理人を務めたのがキッカケだ――と、クレアとティノは思っている。自分のせいだとティノは気に病んでいるのだ。
その一方でシトリーは……注意深く部屋を観察し、ニーナの痕跡を探っている。彼女はニーナを怪しんでいた。実力を誤魔化していると、姉リィズが言っていたことを気にしている。
床、机、戸棚、窓……これ見よがしに置いてある書類はいったん無視し、注目したのは……窓枠についた土の跡だ。他に痕跡らしい痕跡は残っていない。
「ここから出入りした……何かがいる?」
そっと呟き、改めて机の上の書類へと視線を向ける。ちょうどその時、クレアが書類へと手を伸ばした。怪訝な表情で書類を眺めている。
「なにかしらコレ……『オルバ子爵』?」
「……貴族? 聞いた事は無いですね……シトリーお姉さまは知ってますか?」
「いえ、聞き覚えはあるのですが詳しくは……クレアちゃん、なんて書いてありますか?」
「……あまり気分のいい話じゃないわね。これ没落の記録よ」
書類の1枚目には、オルバ子爵を襲った悲劇と末路が書かれていた。
『子爵は武闘派貴族として名を馳せていた』
『流行り病で妻を亡くし、残された娘を溺愛する』
『娘の死で狂気に陥る』
『最期はダクアイカン領の古城で、死体を発見される』
『死後、人身売買に関わった証拠が発見された事で、オルバ家は取り潰しとなる。その領地は――』
「なんだか……かわいそうですね」
読み終えたティノは悲痛な面持ちをしていた。家族を亡くし独り取り残され、孤独の果てに犯罪に走る。悪人ではあるが、そうなるだけの悲惨な理由がそこには書かれていたからだ。しかしその一方で、クレアとシトリーは顔を見合わせている。
「ダクアイカン領って……懐かしいわね」
「よく遊びに行きましたね」
「え……クレアと、お姉さま達……ますたぁの!?」
「村に探索者協会の支部が無くてね……隣町の、ダクアイカン領の支部に行ってたのよ」
カゲノー姉弟とクライ達の幼馴染グループ、彼らの故郷は帝国北部の辺鄙な村だ。懐かしい名前にクレアは若干戸惑っているが……シトリーは真剣な眼差しを書類へと向けている。
「……書き慣れてますねニーナちゃん。彼女はこういった情報を纏めるのに慣れている」
「言われてみれば……すごく読みやすいですよね」
「……何が言いたいのよシトリー」
「オルバ子爵に関しては私達への置き土産として……他の情報はどうしたのでしょうか? そこにクライさんが彼女を追い出した理由があると思ったんです」
「クライが追い出した? 何言ってんのよ」
いつもと変わらぬ調子でシトリーが告げた推察に、クレアは不愉快そうに眉をひそめた。2人の剣呑な雰囲気の横で、ティノは息を呑む。シトリーの言いたい事に気づいたようだ。
「まさかシトリーお姉さま……代理人の事ですか? でもあれは私が頼まれて――」
「ティーちゃんを利用したんですよ。直接お願いしたら彼女が警戒すると思ったのでしょうね」
「そんな……!?」
ティノは愕然とする。共に死線を乗り越えた戦友は、どこかのスパイだとますたぁに疑われた――そう言われたのだ。返す言葉が見つからない。しかしクレアはシトリーの推察を鼻で笑った。クライが神算鬼謀の知恵を持っているなど……クレアは一切信じていない。
「バカバカしい。偶然よ偶然」
そのままクレアは、重なっている2枚目へと話題を移そうとした。1枚目をめくり……現れた1枚の写真に、顔を引きつらせる。
「こ、コイツ……あの時の変態じゃない!」
「変態ですか」
「そうよ! 私……コイツに誘拐されそうだったのよ!」
それは大きく引き伸ばされた写真――立派な身なりの夫婦と、1人の少女が描かれた肖像画の写真だった。叫ぶクレアは白髪オールバックの男……オルバ子爵と思わしき男を指さしている。
だがティノは、写真中央に佇む、白髪の娘に目を奪われていた。よく似た顔を、ティノはよく知っている。
「……ミリア?」