千変万化に負けない陰の実力者になりたくて!   作:kaneda,i9

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クライは【マギズテイル】の常連客!

 ハンターになって2カ月、他のハンターと交流する事が増えて来たけど、今話題になっているのはある新人ハンターだ。もちろん僕じゃない。

 

「あ、アレクシアさん……私と……パーティを組んでいただけないでしょうか!」

「ごめんなさい、別の人を誘って」

 

 《探索者協会》の依頼掲示板の前で、白銀の髪を持つ女の子がパーティ勧誘を冷たくあしらった。ここ1カ月で何度も見た光景だ。

 彼女はアレクシア・ミドガル、大貴族ミドガル家のご令嬢らしい。言われてみれば気品と言うかオーラ? が他のハンターとは大違いだ。つまり、モブとして関わるべきではない重要人物。

 

「これで何回目だ? アレクシアがパーティ結成を断ったの」

「仕方ないですよ。いくらトレジャーハンターの聖地と言われてる帝都でも、やっぱり貴族の力は強いですから。僕だってお近づきになりたいです」

 

 僕の隣でハンター友達のヒョロとジャガがため息をついている。背が高い金髪がヒョロで、背が低くて丸刈りなのがジャガ。僕が選んだ生粋のモブ友だ。3人共剣士(ソードマン)だから、パーティを提案される心配も無い。いくら何でもバランスが悪すぎる。

 

「なんで貴族がハンターやってんだろ」

 

 僕は手元の地図を見ながら疑問を口にした。こことそこと……あそこにも行きたいな。借りた資料と地図を照らし合わせ、情報を書き移している。

 

「さあな。貴族がマナ・マテリアルで体鍛えるのに宝物殿に潜るってのは聞くけど、ハンターになったのは初めて見たぜ」

「それなんですけど、妙な噂を聞きました。2人とも耳を貸してください」

 

 得意気な顔でもったいぶるジャガ。たかが噂されど噂……一応僕も耳を貸すことにする。

 

「実はミドガル家で、アレクシアさんの婚約相手を決めようとしてるらしいです」

「婚約? まあ貴族の娘ならそうなるよな」

「その候補者が気に入らなくて帝都に来たんじゃないか……って噂になってます」

「へー。僕はそろそろ行くね」

 

 どうやら、ゴシップ系の噂はどんな世界でも人気みたいだ。さわりは聞いたし、これ以上はいいかな。僕は適当に返事をして1人で出口に向かった。

 

「それでですね……婚約者候補はあの……」

「何のお話をしているのかしら? 私にも聞かせてくれない?」

「え? あ、あ、あ、あ、アレクシアさん!?」

「こ、これは貴方様の耳に入れるような話ではぁぁ!?」

 

 ヒョロとジャガの悲鳴が聞こえた気がするけど……まあいいや。

 

***

 

 今日の僕の目的は宝具店巡り、後々のための下見だ。表向きは新人ハンターとして、陰では自分を鍛えるため、宝物殿に潜る日々を僕は送っている。だけどそうすると、未鑑定の宝具がどんどん貯まっていくんだ。

 《探索者協会》の中にも宝具の鑑定所はあるけど、新人ハンターが大量の宝具を鑑定したら目立ってしまう。そこで、別々の宝具店に少しずつ依頼をするという作戦を考えたんだ。

 

「ついでに宝具の事いろいろ勉強させてもらえたらいいな」

 

 魔法なんとか文明とか、物理かんとか文明とか……マナ・マテリアルによって生まれる宝物殿には傾向があるらしい。中に出現する幻影(ファントム)や宝具なんかは、宝物殿の傾向に強い影響を受けるんだって。

 昔、七陰のみんなと勉強したんだけど……最寄りの《探索者協会》に大した資料が無くて、全然捗らなかったんだよね。今思うと、ゼブルディア支部の充実っぷりとは雲泥の差だ。これが田舎と都会の差か……

 

 

 

 何件か宝具店を巡り、さらに帝都を練り歩いていると、黒髪の男が女の子を引き連れ裏路地へ向かっているのが見えた。僕の次の行き先は路地裏にある宝具店【マギズテイル】……もしかしたら同じ目的地に向かっているのかもしれない。ついていくことにしよう。

 

 そう思い、表通りから曲がった瞬間……蹴りが飛んできた。殺意は感じない、寸止めかな? ならモブとしては……

 

「うわぁぁっ!?」

 

 驚いて尻餅をつく。……ちょっと大げさだったかも。

 

「あっ、ごめんなさい! 大丈夫ですか?」

 

 蹴りを放ってきたのは黒髪の女の子。武器は持ってないけど動きやすさを重視した軽装備をしている。彼女は脚を下ろして、僕に手を差し伸べて来た。申し訳なさそうな顔をしている。

 

「な、何やってるのティノ!? リィズみたいな事して……」

 

 そこにいるもう1人、黒髪の男が慌てて女の子を注意している。困った顔を浮かべる彼は、両手の指の全部に指輪をしていた。

 

「すみません、尾行されてると思ってつい……」

「だ、大丈夫です。驚いただけですから」

 

 僕は少女の手を取って立ち上がった。……2人とも見覚えあるな。女の子の方はこの前リィズが担いでいた弟子? そして男の方は……故郷で何度も見た、どこかぼんやりした顔。

 

「クライ?」

「え? ………………シド?」

 

 5年ぶりに会ったクライは、相変わらず強そうには見えなかった。

 

***

 

「おお……これはなかなか……」

「すごいよね? 店主は少し偏屈だけど、目は確かだ」

「聞こえとるぞ小僧!」

 

 クライに案内されて入った【マギズテイル】は、知る人ぞ知る老舗の名店だった。まず、入り口には警備員がいて全身に宝具を身に着けている。迫力十分。

 店内には所狭しと宝具が並べられ、ショーケースの中で輝きを放っている。僕もこんな風に部屋に宝具を飾りたい。どんな宝具を飾ったら陰の実力者っぽいかな……あれ? 値札の桁が……百万……千万……めっちゃ高くね?

 

「この店は僕達が帝都に来たばかりの頃から世話になっているんだ。今では、ここに通うのが習慣になっているよ」

「お前は来すぎじゃ! 頻繁に来られても、そう簡単に宝具の品ぞろえは変わらん!」

「マーチスさん、そんな怒らないで……落ち着いてください」

 

 僕が宝具の値段に目を奪われていると、クライが嬉しそうに店の自慢をしてくる。なんだか怒ってるのは店主のマーチスさんで、彼と同じテーブルを囲っているのはティー……じゃなかったティノ。リィズの弟子でレベル4ハンターだ(ちなみに姉さんもレベル4らしい)。

 クライが言うには、彼女は護衛って事だけど……レベル8の護衛をレベル4が? 他にも気になる事はある。宝具も一通り見たしこの場でいろいろと聞いてみよう。

 

「そう言えばクライ、姉さんに聞いたけどレベル8って本当?」

「あはは……そうなんだよね。僕は何もしてないのにパーティやクランの功績で勝手に上がっちゃって……」

 

 何もしてない……確かにクライからは全く強さを感じない。レベル8にも関わらずマナ・マテリアルの気配が全くしない。僕と同じようにマナ・マテリアルの気配を隠している? それにしては立ち方や歩き方が普通すぎる。リィズの方が……いや、そこにいるティノの方がずっと強そうだ。

 クライの顔を見ても、とても嘘を言っているようには見えない。なんというか……うんざりしているようには見えた。とりあえず質問を続けよう。

 

「神算鬼謀とか未来が視えるとか、いろんな噂を聞くけど」

「シド君も聞いたの? なんだか恥ずかしいな……真に受けちゃダメだよ。全部ウソだから」

「……でも本当は?」

「無い無い。僕に特別な力は何も無いんだ」

 

 やっぱり噓を言っているとは思えない。クライと姉さん、どっちの言う事も本当なら……クライにはハンターの才能は無いけど、クランマスターの才能だけはあったって事?

 僕がクライの事を測りかねていると、店の奥で誰かが勢いよく立ち上がった。ティノだ。

 

「何も無いなんて事ありません! 私が強くなれたのはますたぁのおかげです! 帝都の全てを知るますたぁの叡智をもってすれば、レベル8への到達も当然です! ますたぁは神」

「小僧、嬢ちゃんに何教えてやがる!」

 

 必死に反論するティノに、なんだかマーチスさんが怒っているけど……クライの方は首をかしげている。

 

「いや……いやいや、僕は何もしてないよ。ティノが強くなったのはリィズのおかげだし、僕は帝都の事なんて全然だよ」

 

 困惑気味にクライがそう言うと、ティノは目を見開いて固まってしまった。

 

「ま、ますたぁにとってアレは、『何もしてない』の範疇なんですか……」

 

 いったい何したのさクライ? そう思って顔を覗くけど、相変わらず不思議そうに首をかしげている。

 それより、ティノが変な事を言うたびマーチスさんが機嫌を悪くしている方が問題だ。元々しかめっ面だったけど、ますます顔をしかめてクライを睨んでいる。このままだと面倒なことになりそう。

 

「クライ、話の続きは別の場所にしない?」

「……うんうん、そうだね」

 

僕の提案にクライは苦笑いを返した。

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