千変万化に負けない陰の実力者になりたくて!   作:kaneda,i9

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ゼータの潜った宝物殿、イータはどう思う?

 暗雲が空を覆い、一瞬の稲光が城の内部を照らす。重厚な扉に守られたそこは、城の中でもひときわ華美な部屋だった。踊れそうなほど広く、奥の階段とその上にそびえる玉座が入口からもよく見える。

 ここは【万魔の城】の最深部、所謂ボス部屋だ。ボス部屋……のはずなんだけど、肝心のボスの気配は無い。恐る恐る部屋に入って来たイータも、僕のそばまで来て辺りを見回してる。

 

「ボス……どこ?」

嘆霊(ストグリ)が来てたみたいだし……倒されて、まだ復活してないんだろうね」

「えー……? この城の由来、わかると思ったのに……」

 

 イータは残念がってるけど、僕も再戦を楽しみにしてたから割と残念だ。ここのボスは6本腕の剣士で……手堅い守り、強烈な剣技、素早い身のこなし、3拍子揃ってて戦うのが楽しかったんだよね。

 テンション上がりすぎて名前を壁に刻んだりしたけど……壁の傷は綺麗サッパリ無くなっている。宝物殿の修復作用だ。消えるなら名前をアピールする意味も無いか。ボスがいないボス部屋くらい意味が無い。

 でもイータはそう思っていないみたいだ。これまで他の部屋でしてきたように、部屋の内装や意匠をじっくり観ている。

 

「やっぱり扉が1つなのはおかしい……宝物殿だから? でも――」

 

 何か呟きながらイータは部屋を見て回り、そのまま玉座の周りを調べ始めた。意外な事に、ここに来るまでの道中、イータは隠し通路や隠し部屋をいくつも見つけている。

『私ならここに隠し通路を作る』とか『構造的に、ここに部屋があるはず』なんて言ってたけど、ミツゴシでの建築の経験が役立ってるのかも。

 

 でも通路じゃなくて罠を見つけてケガする事もあった。イータは錬金術師(アルケミスト)、やっぱり探索はゼータみたいな盗賊(シーフ)の領分だよ。

……ゼータか。彼女が挑んだ呪いの宝物殿の事、イータに話してみようかな。宝物殿については錬金術師の領分だ。結局ゼータはピンピンしてるし、話しても問題は無いでしょ。たぶん。

 

「イータ、ちょっといいかな。……イータ?」

 

 返事は無い。姿も見えない。さっきまで玉座を調べていたはずなんだけど……これは好奇心に負けたな?

 僕も玉座の方に上がってみると……やっぱり、床に隠し階段だ。飾り気の無い階段を駆け下りると、すぐにイータを見つけた。通路の奥、行き止まりの部屋で黒騎士の幻影(ファントム)と戦っている。

 

「むぅ……行け!」

 

 苦しそうな掛け声と共に、イータの残り少ない荷物からスライムが飛び出した。黒いスライムが瞬く間に赤く染まって燃え盛る。まるでマグマだ。マグマと化したスライムが黒騎士に襲い掛かる。でも黒騎士はものともしたい。強引にマグマを突破して、横薙ぎの剣をイータへとぶつける。

 

「んあっ……!?」

 

 短い悲鳴と共に吹き飛ばされるイータ。防御は間に合っていたし、ケガはしてなさそうだ。背中から壁にぶつかって……振り下ろされた剣をスライムの腕で防いだ。

 そのまま防御を固めたはいいけど、壁際に追い詰められて黒騎士に袋叩きにされている。荷物はもう空みたいだし、反撃する手段が無いのか。

 

「うう……暴力反対……ひ弱な錬金術師をいじめないで……」

「冗談が言えるなんて、まだ余裕そうだねイータ」

「ま、マスター……助けて。私が死んだら、世界にとって大きな損失……」

「しょうがないな」

 

 僕が部屋に入ると、すかさず黒騎士はイータから離れた。こっちに意識を向ける黒騎士に対して、僕もスライムソードを構える。ちなみに、スライムソードはいつもの直剣型じゃなくて、刃の無い木剣仕様だ。

 睨み合っていると……イータがふらつきながら僕の後ろに隠れ、タイミングを見計らったかのように黒騎士が動く。

 

 真っ向から来る黒騎士の剣を、木剣で受け流す。卓越した剣技の連続攻撃を全て受け流す。……木剣の強度だと防御に限界がある。それでもルークが木剣で強くなったのなら……こういう戦い方になるはずだ。間合いを掴めば、僅かな力で剣を弾き……反撃に移る隙を作れる。

 

「やっぱり、練習台にちょうどいいね」

 

 剣に魔力を集中させる。ここまではイプシロンの技『飛ぶ斬撃』と同じ、でも今回は飛ばさない。魔力の刃を纏わせた木剣で、黒騎士を鎧ごと真っ二つだ。

 うーん……やっぱり違うな。今の僕が木剣で敵を斬るなら、こういうやり方になっちゃうんだよね。魔力を使わず、同じ事ができるのだろうか?

 

「マスター……アレ、いいの?」

「うん? 何の話?」

 

 イータの視線を追うと、倒れる黒騎士の向こうに壁が見えた。勢い余った魔力の刃が壁を切り裂き……『嘆きの亡霊(ストレンジグリーフ) 参上』と壁に刻まれた文字を切り裂いている。……こんな事をするのはルークだろうな。僕のを見て真似したんだろう。

 

 

 

 

 

 それから目の前で復活したボスを倒し、僕達は外のキャンプに戻った。暗雲のせいでわからなかったけど、もうすっかり日が落ちている。もう1泊して、温泉ランドに戻るのは明日の朝という事になった。

 

「見てマスター! 幻影の死骸から作った……液体マナ・マテリアル!」

「へえ……少なくとも、美味しそうには見えない色だね」

「それも考えてるけど、これでもっと強いスライムが作れるはず……ふふ! 楽しみ……!」

 

 戻って来てからというものの、イータのテンションが妙に高い。城から持ち帰ったボスの死骸を楽しそうにいじくりまわしている。実戦テストに持ってきた発明品も使い果たして……今回の宝物殿攻略は大成功なのだろう。よかったね。

 

「ところでイータ、いくつか聞きたい事があるんだけど」

「? 私よりマスターの方が詳しいと思う」

「まだ何も言ってないよ。僕が聞きたいのは宝物殿、中でも挑戦者に制約を強いる宝物殿の事」

「へえ……」

 

 実験の手を止めて、イータは僕へと向き直った。どうやら興味を示してくれたみたいだ。

 

「そういう宝物殿があるって噂には聞くけど……帝都の周りでもあんまり見ないんだよね。イータは見た事ある?」

「……あると言えばあるし、無いと言えば無い」

「と言うと?」

「私達が見つけたのは、魔法に制限がかかる宝物殿。でもそこはディアボロス教団の研究所の跡地で……そこに残ってた研究のせいなのか、宝物殿の制約なのか、どっちとも言えない」

 

 研究所の跡地……《アカシャの塔》みたいな魔術結社がいたのかな? そっちも気になるけど、今は本題に集中しよう。ゼータが挑んだ宝物殿についてだ。

 

「これは例えばの話なんだけど……『入った人間が世界から忘れ去られてしまう』そんな宝物殿があったら、レベルはいくつになるかな」

「10」

 

 イータは迷いなく即答した。

 

「世界全体に影響を及ぼす制約なんて……神の力でもないと無理だと思う」

 

 神。イータが言っているのは宗教的な神じゃなくて、宝物殿に顕現する神の事だ。

 

 ロダン家の始祖ソリス・ロダンは【星神殿】に現れた『異星の神』を倒した。クライ達が憧れた伝説のハンター、エクシード・ジークエンスは『代行者』が君臨する【聖王殿】の攻略でレベル10になった。そういう神の事をイータは言っている。

 

 もしイータの言う通りなら、ゼータが入った宝物殿は……? よし。そろそろゼータの事を思い出してもらおう。そうすれば、ただの例え話じゃないと理解してくれるはずだ。まずは……忘れてることを自覚させるかな。

 

「話は変わるけどイータ、七陰メンバー全員の名前、ちゃんと覚えてる?」

「……? そんな事を聞く意味が分からない。いくら私でも、友人の名前を忘れたりしない」

「いいから、言ってみてよ」

「むぅ……アルファ様、ベータ、ガンマ、デルタ、イプシロン……それと私」

「うん、もう1人は?」

「……もう1人?」

「だってイータをいれても、まだ6人しか言ってないよ」

「え? …………嘘。七陰は7人?」

 

 目を白黒させ、困惑の表情を浮かべるイータ。焦った様子で考え込み……やがて取り乱し、目を見開いて頭を抱える。

 

「どうして……? マスターに言われるまで、何も変だと思わなかった。それなのに……まだ顔も名前も、思い……出せない」

「それが『入った人間が世界から忘れ去られてしまう』って事なんだよ」

「っ!? マスターは……覚えて、いるの?」

「うん。七陰の6番目は金猫獣人のゼータだ」

「ゼータ……あ、思い出した。うん……思い出せてる」

 

 なんとか落ち着きを取り戻したみたいだ。けれども怪訝な表情を浮かべている。

 

「ゼータは無事?」

「宝物殿からなんとか抜け出して、今頃どこかで元気にやってるよ。なんでも帝都に隠れてる宝物殿があって、そこに挑んだらしいんだ」

「帝都……神の力……もしかして【星神殿】と関係してる?」

 

 帝都にある神がかった制約の宝物殿……なるほど。ゼータが挑んだのは神の置き土産か。

 

「かもね。次にゼータに会ったら、入り方を聞いてみようかな」

「!? どうして……まさかマスターは……神に挑む気?」

「もちろん」

 

 陰の実力者としていつか神に挑戦したいと思ってたし……その足掛かりにちょうどよさそうじゃないか。

 

「ふふ……ふふふふ! さすがマスター……マスターと一緒なら、世界の全てを解き明かせそう……!」

「ああ、うん。ありがとう?」

 

 落ち着いたと思ったのに……イータのテンションは上がったり下がったり忙しいね。楽しそうに笑ったかと思ったら、今度は神妙な顔を見せている。

 

「マスター、制約のある宝物殿……もう1つ心当たりがある」

「もう1つ?」

「魔人ディアボロス……悪魔憑きは元々、宝物殿の制約だった可能性がある」

「ふむ」

 

《ディアボロス教団》は僕の考えた設定だけど、それは魔人ディアボロスの伝説から作った設定だ。もし伝説が本当で、魔人が実在したのなら――

 

「魔人ディアボロスは神に等しい存在だった……という事か」

「そう。【星神殿】みたいに、魔人ディアボロスも宝物殿を根城にしてて……それに挑んだ古代の戦士は、次々と体に異変が起きた」

「体の異変……それが、後に悪魔憑きと呼ばれるようになった?」

「制約じゃなくて、幻影の能力って可能性もあるけど……どちらにしろ宝物殿が原因。この仮説が最有力だと、私達は考えてる」

 

……いや悪魔憑きとディアボロスが関係してるってのは僕の考えた設定だからね? 設定を前提にされると、どこからどこまでが真面目な話なのかわかんないよ!

 まあ、悪魔憑きの発生源が宝物殿ってのは面白いと思ったし……話半分にとどめておこう。

 

「面白い話だが、いずれにせよ過去……過去に斃された神になど興味は無い」

 

 もし復活しても、テンプレ的に面白いイベントになる可能性は低いしね。過去の強敵が再登場! だなんて。

 

「でもマスターは……神に挑む気がある。魔人ディアボロスじゃないの……?」

「我はただ1人の戦士として……武の頂を目指しているだけだ」

 

 神と戦える世界なら、最低でも神に痛手を与えられるくらいには強くならないとね。でも神を倒して主人公になるつもりは無い。僕がなりたいのは……陰の実力者だ。

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