マゼランと行く0083   作:明田川

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解体 後編

 ジェミニ中隊はノイエ・ジール率いるMS部隊を撃破し、各小隊が順番に補給を受けていた。旗艦の損傷は大きな動揺を生むかと思われたが、指揮権が取り決め通り移譲されたことで、MS隊の活動に支障はなかった。

 被害は大きいがあの化け物を止められたことで、勢いはこちらにある。前線も押し込むことができており、旗艦への救援は問題なく到着済みだ。

 

「ビームサーベル無し、盾なし、推進剤四割、弾薬三割!」

 

「二番目に回せ、推進剤の量が多い奴から先だ!」

 

 ジェミニ中隊はサラミス級の下部で補給を受けるものが多かったが、とある船のおかげで補給の効率は底上げされていた。同型機を運用しており、MSの運用を前提に作られた船、アルビオンだ。

 

「アルビオンから入電、担当していた第二小隊の補給作業が完了したとのことです!」

 

「流石試作機を運用してるだけはある、メカニックの腕もこっちに負けてねぇな」

 

 彼らは補給が終わった第一小隊に対し合図を送り、パイプやホースを外す。カタパルトがあれば推進剤の節約になるのだが、そんな贅沢は言っていられない。

 そんなことを言っていると、一際大きな爆発が艦隊を襲う。整備士は受け入れ作業中の第三小隊に視線を移しつつ、通信機が不調らしい機体のコックピットを解放させた。

 

「何があった!?」

 

「輸送艦がやられた、オッゴを四発も積んでたってのに!」

 

「誘導方式は?」

 

「レーザーだ、精密誘導じゃなきゃ爆破出来ない箇所はまだある!」

 

 発射地点にオッゴミサイルを指向しようとした時のことだったコロニーから放たれたミサイルの一発が、一隻の輸送船を吹き飛ばしたのだ。貴重なレーザー誘導式のそれが失われたことで、コロニーの解体作業は更に難度を増す。

 

「管制は何か言ってるか」

 

「内部に第六の連中が潜り込んで決死の偵察らしい。デブリで守られた外殻じゃなく、内側からなら…」

 

『ジェミニ中隊へ通達。コロニーBに突入した第六艦隊のMS部隊を援護し、邪魔な戦力を排除しろ。内部の支柱を破壊するためにこちらのMAを投入する』

 

「よしきた」

 

 友軍のMAというのはこの戦域に一機しか居ない、アルビオンの試作三号機デンドロビウムだ。開発に携わった技術者達がここに居たのであれば「広義のMAかもしれないが、厳密には巨大な追加武装を有するMSだ!」、なんて言葉が聞こえて来たかもしれない。

 荊の園、デラーズフリートの拠点として使われていたであろう二つ目のコロニーは、他の物と比べて強固な造りをしている。迎撃されたものや、不発に終わったオッゴミサイルの数を考えると、このミサイルを使う数を節約しつつ解体しなければならない。

 

『艦隊の一斉射撃後、ビーム撹乱幕で道を作る。先導するMAに続け』

 

「大盤振る舞いだな、だが撹乱幕を張るとこっちからの攻撃も通らなくなるぜ」

 

「どうせ中にまで支援砲撃は出来ねぇさ、誤射で死ぬより無いほうがマシってね」

 

 通信機の不調を直してもらった彼は、推進剤と弾薬も満タンになった愛機のコックピットへ滑り込む。

 一年戦争時にニュータイプ専用機として開発されたとあるガンダムのデータを用いたこの機体は、他の量産機とは一線を画す反応速度を見せるため、熟練者でなければ扱いきれない。

 

『アルビオン所属のMS部隊も合流する。ライトブルーのジムカスタムと、ジムキャノンⅡだ』

 

「凄いな、新鋭機揃い踏みだぜ」

 

『…第六艦隊所属機から緊急連絡、コロニー内に未確認MAを確認した。乱戦につき砲撃支援はできない、ビーム撹乱幕とMAのIフィールドを盾に突入してくれ』

 

「マジかよ!」

 

 一気に加速したMAの背後に着くようにして、ジェミニ中隊のジムカスタム達はコロニーへと接近する。隠されていた対空砲がMSを狙うが、デンドロビウムのコンテナが仰々しく開く。

 

「目標コロニー表面、撃ちます!」

 

 若々しい声のパイロットがそう言うと、大量のミサイルがコロニーへ降り注ぐ。船の対空砲を無理矢理取り付けただけのそれは、一瞬にして耕されるようにして残骸と化し、宙を舞う。

 

「凄ぇ火力…!」

 

『味方MAの詳細情報だが、情報封鎖が解かれた。機体性能を共有する、上手く使え』

 

「小回りのきく武装は少ない、背後への対応もミサイル頼りか。となればこっちも負けてられねぇな、行くぞ!」

 

 邪魔はもう入らない、ジェミニ中隊はMAの支援を優先するアルビオン隊に先駆け、内部への侵入を試みた。ガンダム試作三号機の装備は大き過ぎる上、死角も多い。内部の解体に使う装備を不意打ちで損傷するのは避けたかった。

 

「アルビオン所属機へ、ジェミニ中隊が前に出る。MAは外部の砲台を先に叩いてくれ」

 

「相手もMAです、危険ではありませんか」

 

「ヤバくなったら言うさ」

 

 つまり彼らは、露払いを買って出たというわけだ。暗色を基調とした迷彩塗装に身を包むジムカスタム達はコロニーへと侵入し、その内部で行われている戦闘を見る。

 

「赤いMA!?」

 

「クソッ、面倒な!」

 

 データベースにほんの少しだが情報があると言うことは、戦時に開発されていた機体なのだろう。ヴァルヴァロと呼ばれるそれは、第六艦隊のMSから放たれるビームを弾きながら突き進む。

 そして反撃というにはあまりに苛烈な機関砲の掃射がコロニー内で瓦礫を巻き上がらせ、盾を構えていたゲルググをズタズタに引き裂いた。

 

「ビームが効いてねぇぞ!」

 

「第六の連中と連携してどうにかするしかない、コロニー内じゃあ三号機は不利だ。取り回しが悪過ぎるからな」

 

 普段なら援護射撃を担当してくれるサジタリウス小隊は、別の仕事をしているため頼りにはできない。敵機の装甲がビームを弾くのならとバズーカを構えた数機が前に出ると、砲撃を開始した。

 

「第六、状況は!」

 

「見ての通りだよ、厄介な野郎だねぇ!」

 

 隊長機がビーム砲を放ち続けているが、効いている素振りはない。余程分厚い耐ビームコーティングでも施しているのだろうか、並の機体なら爆散していてもおかしくはない。

 

「敵の武装はビーム砲が三門、機関砲と腕が二本、後は何を隠してるか分りゃしないよ」

 

「そちらは偵察を続行してくれ、あの蟹野郎はこっちで潰す!」

 

「大きく出たね、本気かい」

 

「無茶だろうがなんだろうが、無理を通すのさ。サッサとデータを集めて艦隊に報告してくれ、あの馬鹿艦長によろしく言っておいてくれよな!」

 

 第六艦隊のゲルググはジェミニ中隊との通信を終え、コロニー内の偵察へと戻る。内部に抱え込んだ大量の小惑星の間を抜け、ゲルググ達はカメラを左右に振って使える情報を掻き集める。

 それに対してジムカスタム達は武器を構え、巨大な筒の中で蟹漁を始めるべく動き出した。

 

「さっきのを見る限りIフィールドじゃあない、元々の装甲で耐えてやがったな」

 

「なんてバケモンだよ…残党の連中はこんなのばっかりか!?」

 

 コロニーの中は、さながらヴァルヴァロの巣に見えた。目の良いパイロットが居れば、コロニーの内壁へ設置された何かを見つけることも出来ただろう。

 しかしそうなる前に一機がその効果範囲へと近付き、まんまと罠にかかった。センサーが機構を展開するそれを確認したことで警告音が鳴るが、遅かった。

 

「こっちは下から追い込…!?」

 

 プラズマリーダーと呼ばれたそれは、青白い電流を放って機体の動作を封じる。内壁に足を擦るほどの高度で移動中だった一個小隊は、予期せぬ攻撃に対応出来ない。

 

「不味い、退避しろ!」

 

「駄目だ、機体が動かない!」

 

 コロニー内に潜んでいたのはMAだけではない。罠にかかったMSを仕留めるべく動いたのは、塗装もまばらなザクⅡだ。恐らく状態の悪い機体はこうして使う気だったのだろう、構えたバズーカがジムカスタムを捉える。

 

「やられッ」

 

 MSが爆発し、コロニーに穴が開く。ジェミニ中隊のジムカスタムが一機撃墜された、幸先の悪いスタートだ。周囲に居た同小隊機も爆発に巻き込まれ、プラズマリーダーによって操作すらままならない状態でコロニー外へ投げ出される。

 即座に体勢を立て直して復帰を図るが、隠れていたMS達が今だと言わんばかりに彼らを撃つ。

 

「クソッ、なんだありゃあ!」

 

「あんな武器、どこで使う予定で作ったんだよ!ゲテモノが!」

 

 周囲の機体が仇と言わんばかりにライフルで電流の発生源を破壊し、ガラクタ同然のザクⅡをビームサーベルで串刺しにする。ただでさえ小惑星やデブリが内部に存在するために視界が悪い上、罠もあるとなれば迂闊には動けない。

 

「不味いな、まんまと罠の中に入り込んじまったか」

 

「だが中から破壊しなきゃ駄目なんだろう、やるしかないぞ!」

 

 バズーカを持つ機体がヴァルヴァロへ攻撃を加えていたが、全てを避けられるわけもない。他の機体が逃げる先を徹底的に潰したことで、立て続けに数発が命中した。

 それでも大きな損傷が無いことにジェミニ中隊の面々は驚きつつも、敵機の分析を続けた。相手の武器の射角は広くなく、ビーム砲も強力だが正面以外を狙うことはできない。

 

「正面に立つな、上か下を狙え!」

 

「近付き過ぎるな、クローにやられるぞ!」

 

 柔軟性に関してはMSが上だ。コロニー内という閉所ではその機動力も最大限には活かせないだろう、ならばこちらが有利。そう思った彼らだったが、一つの疑問が浮かぶ。

 機体特性から鑑みて、この機体が得意とするのは一撃離脱。MSよりも対艦攻撃が得意に思えるこのMAは、何故コロニーの内部で敵を待っていたのか。

 

「このコロニーをどうしても守る訳があるってことか」

 

「内部を荒らされたく無いのかもな、もしかすると…」

 

「デラーズフリートの司令部がこの中に?」

 

「敵の拠点として改造されていたコロニーだ、本陣を置くならここだろうさ」

 

 あのMAはコロニー内での戦闘において小惑星を盾にしつつ、こちらの攻撃を出来る限り避け、反撃でビーム砲を放ってはこちらの隊列を崩してくる。隠れていたザクⅡのように、まだ潜伏している戦力は居るはずだが、何故か動きがない。

 

「コイツら、何を待ってやがる」

 

「…MAだ、俺達をいたぶって仲間のMAを呼ばせようとしているんじゃあないか」

 

 コロニーへ致命的な打撃を与えられるのは味方のガンダム試作三号機のみ、相手もそれを分かっているのではないか。時間が経てば経つほどコロニーは地球へ近付くのだから、いつかはデンドロビウムが内部へ入らなければならない、コロニー内を虱潰しに調査する時間はない。

 

「だがまぁ、焦っていても冷静さは失っちゃいないんでね」

 

「味方のMAには連絡を入れた、すぐに予定の位置へ着くってさ」

 

「上等、仕掛けるぞ!」

 

 だったら入らなければいいのだ。敵機の情報収集のために消極的な動きを取っていたジェミニ中隊機だが、動きを変えて一斉にヴァルヴァロへ襲いかかった。

 背後に回り込んだ一機が推進器を狙ってライフルを放ち、動きを大きく鈍らせる。そしてそこに叩き込まれたバズーカが、分厚い耐ビームコーティングを装甲ごと剥ぎ取った。奇襲の効果はすぐに薄れる、例えMAが相手でも数的有利はそう簡単に崩れない。

 

「デンドロビウム!穴から撃て!」

 

「了解!」

 

 そして外部の砲台を粗方潰し終わっていたデンドロビウムが、友軍機の爆発で開いたコロニーの穴から主砲を覗かせる。戦艦クラスの主砲と同等のそれは、容赦なくヴァルヴァロにビームの奔流をぶつける。

 自慢の耐ビームコーティングは既に効果を失っている以上対抗策はない、その閃光はあっさりと赤い機体を貫いた。

 

「内部の罠に気をつけろ、支柱を壊すにしてもMSが潜伏して…」

 

「爆導索が使えます、退避してください!」

 

「考えたな…よし任せた、まとめて吹っ飛ばしちまえ」

 

 MAを撃破して器用にも内部へ颯爽と飛び込んだデンドロビウムは、爆導索を展開した。それはケーブルに大量の爆薬を取り付けたもので、本来ならば機雷の除去などに使われる代物だ。

 しかしその爆薬量を考えれば、本来の用途以外にも使えることは明白だ。市街地だったであろうコロニー内壁の廃墟へばら撒かれたそれは、一切合切を吹き飛ばした。溜め込んだ小惑星が砕け散り、散弾となって被害は拡大する。隠れていたであろう者たちがいた場所には、クレーターが残るのみだ。

 

「オイオイ…」

 

「要らねぇ世話だった、みたいだな」

 

 更にミサイルが熱源へ向かって猛進し、次々と待ち伏せしていた戦力を周囲と同じスクラップへと変えていく。筒状コロニーの中心にある柱にも爆導索を巻きつけ、爆破すれば仕事は終わりだ。

 安全のために第六艦隊のMSが帰還するのを待ちたかったが、ゲルググの一機がジェミニ中隊に対してレーザー通信を行う。何かと思えば、小惑星で隠された場所から何かを引っ張り出した。それは大勢の負傷兵が乗ったボロボロのランチで、ワイヤーで引っ張ってもらわないと移動すらままならないらしい。

 

「第六のMSから通信、投降したいって連中を確保したが…そいつらからタレコミだ、アクシズの艦隊がまだ近くに居るらしい」

 

「何だと、その艦隊が何かする気なのか?」

 

「生き残りの回収が目的らしい、今横槍を入れられるのは不味いぞ。階級が上の連中を逃がせば、この後で同じようなことをやらかす!」

 

 残党軍から聞いたであろう話をそのままパイロットの男は伝えるが、その真偽は定かではない。しかし三基目のコロニーはまだ解体が続いている、アクシズ艦隊からの横槍は避けたいのは事実だ。アクシズが積極的に動くかは不明だが、テロリストを逃がすわけにはいかなかった。

 

「だが追撃できる予備戦力はあるのか、MAは倒したとはいえコロニーの解体はまだ…」

 

「頭脳労働は上に任せようぜ、外に出て報告だ」

 

 彼らがコロニーから出た直後、爆導索が起爆された。コロニーの中心にある柱が折れ、抱え込んだ大質量がその被害を拡大していく。そして後部に取り付けられた推進器によって押されたことで、内部で破断したコロニーは自壊し、空き缶が縦に潰されるかのように、ゆっくりと変形していった。

 

『こちら旗艦ナガト。通信能力の復旧が完了した、これより指揮を再開する。コロニーBの崩壊を確認、解体は実行しつつ最優先目標をコロニーCへ再設定する。残存勢力の排除を行え、一人も逃がすな』

 

ーーー

ーー

 

 アクシズの艦隊に対し、レーザー通信が入る。連邦軍の要件は一つだけだ、それ以外にこの場で望むものなどない。

 

「アクシズへ帰還しろ、このテロリストへの対処は我々が行う」

 

 通信を送るのは通信能力を復旧させた旗艦ナガト、そしてマイクを握るのはその艦長だ。負傷しているのにも関わらず、言い淀むことはない。ただ真っ直ぐに、彼らへ要求を続ける。

 

「こちらは既にソーラ・システムの敷設を完了している。少々距離はあるが光速ならすぐだ、そちらの艦隊ごとテロリストを焼きたくはないのだがな」

 

 この超長距離で大量の鏡からなるソーラ・システムを照準できてなどいない、それ以前に敷設すらまだ終わっていないだろう。だがこのコロニーの軌道計算は既に終わっている、コロニーへそれが指向されている以上、その付近に居るということの危険性は分かるだろう。

 アクシズも数少ない戦力を減らしたくはないだろう。分かりやすい退く理由を与えられた彼らはゆっくりと回頭し、艦隊の向きを帰るべき方向へ変えていく。

 

「……今回は、間に合ったか」

 

 艦橋の割れた窓から外を見ると、三つ目のコロニーが崩れた。

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