お礼と言ってはなんですが、「サラミスと行く一年戦争」の方にちょっとしたおまけを投稿しました。よければどうぞ、艦長が出世した理由とか、色々詰め込んでおきました。
設備の復旧が進むア・バオア・クーにて、見慣れない船団が寄港していた。彼らが積むのは旧ジオン公国の企業に対して発注した高価な機材や電子機器であり、価値が非常に高い代物ばかりだった。
「…凄い積荷だな、分けて運ばずに纏めて持って来たのか」
「海賊が喉から手が出るほど欲しい品だなこりゃあ、ここもやっと設備が整ってきたぜ」
輸送船達を見て感想を溢すのは連邦軍のパイロット二名であり、彼らもまた商船の護衛帰りだ。何処からともなく湧いて出る残党軍と戦い続けるのは終わりが無いのではないかと思わされるが、艦長の肝入りで整備される基地の娯楽設備は士気の維持に役立っていた。
「にしてもまた怪我して帰ってきてやがる、ジムの予備機あったか?」
「何機かバラして部品にしたと聞いたが」
護衛のサラミス二隻とジム二個小隊も見るからにくたびれており、盾には弾痕が目立つ。そんな連邦軍の護衛に混じって武器を持つのは、目立つ白色や赤色、珍しいものではオレンジ色に身を包んだゲルググだ。
ジオン軍の鹵獲兵器をそのまま利用しているらしく、連邦軍と同じ装備は盾くらいのものだ。砲身の汚れや熱で焼けた跡からして、相当な数発砲したのが分かる。損傷は少ないあたり、かなりの腕利きが乗っているのかもしれない。
「おいアレ、司令が色々言ってた奴じゃあねぇの?」
「元ジオンをまとめた部隊か、どれどれ」
ゲルググには誤射を防ぐため、肩に大きく連邦軍のマークが描かれている。また頭部も周囲へ配慮してか、モノアイの保護用という名目でスリットを埋めるようにしてバイザーが取り付けられていた。
「こっちの真似っ子ってわけか、洒落くせぇの」
「まあ、一つ目を見せびらかされるよりかマシだがな。あの積荷のことだ、使える戦力は使いたかったんだろうよ」
MSに混ざってまだ武装したオッゴが居るのは、それほどまでに手が足りないということか、それとも作業用の機体も一応の自衛火器を持たせているのか。詳しいことは見ているだけでは分からなかったが、兎に角大変そうだ。
「追加の護衛ってわけか、鹵獲した機体でよくやるぜ」
「今じゃ軍人上がりの就職先だからな。ゲルググは兎も角オッゴはどうかと思うが…作業用にMSを使わせたくない以上コイツしかない」
「ジオン軍の連中も大変だな、まあ海賊になるより幸せなんだろうが」
そんな同情や諦観に近い感情を抱く彼らだが、輸送船から降りてきた人々を見て少々身構えた。彼らの所作は崩れてはいるが旧ジオン軍のものだ、これだけの積荷を裏切りの危険性がある船員に任せていたというのは危機感を感じざるを得ない。
「おいアレ…」
「アイツらか、裏切る心配は無いんじゃねぇか?」
「てことは訳ありなのか」
「戸籍をちょいと弄って綺麗な身元を用意してやる代わりにああやって働かされてんのさ、ここまでやるってことは残党の方にも居場所が無いんじゃねぇかな」
彼らのような人々の社会復帰も艦長は支援する方向で進めているらしい。無論怪しい奴は片端から独房にぶち込んでいるとのことなので、彼からすれば建前のようなルールやガイドラインにも真面目に従っているだけなのだろう。ジオンが行った戦争犯罪について、その裁判はまだ終わりは見ていないらしい。
「俺達の仕事が減るなら文句ねえよ、一番忙しいのがトップってのはアレだが」
「マトモな機体を用意してくれるだけでも有り難い限りさ。こんな時期の治安維持なんざ貧乏くじでしかない、艦長殿も便利に使われてんなぁ」
自販機から買った格安のハンバーガーを頬張り、まあまあの味だなと見物人の一人が言う。要塞の中と言う閉鎖空間で士気を保つのは難しい上に、この要塞も設備がまだまだ不十分だ。
パトロール艦隊が各サイドのコロニーに寄港するときが、彼らにとって羽を伸ばせる貴重な機会になってしまっている。より長い休暇を与えるために、より多くの人員でローテーションを組みたいというのが要塞指令の考えのようだが、上層部には『観艦式と再編が終わるまで待ってくれ』と言われてしまっているのが実情らしい。
「そこのパイロット二人、揃ってジムをぶっ壊したって?」
「あ、いやその……」
「責める気はない、勘違いしないでくれ。それより機体のレコーダーを見てな、操作しているときに違和感はなかったか?」
「姿勢制御に遅れがあった、恐らく一部のアポジモーターの噴射に何かあったのかと思ったが」
「試験はパスしてるんだがな。すまなかった、原因究明を急ぐ」
人員以外にも、MS不足も目下の問題だ。補給として回されてくるのは戦時に大量生産されたジムが殆どで、それを誤魔化すように少数の高性能機が入ってくる。今欲しいのはマトモに動く大量の量産機であり、整備能力を圧迫し搭乗者を選ぶ高性能機は持て余すのだ。
「上が新しい機体を送って来やがらないのが悪いんだ、まあそれで死んだら笑えねぇけどな」
即応艦隊として高性能機を集中運用し、厄介な海賊に対しピンポイントで運用することで形にはなっているが、複数の機種を分散して運用するだけの余剰がないことの裏返しでもあった。
率先して海賊狩りを司令自らが行うというのは、どちらかというとパフォーマンスの一環という側面が大きい。だが海賊に悩まされる人々にとって『実績のある艦長が率いる艦隊が来て、厄介な海賊を討ち取っていく』ということが、ただ有り難かった。
「司令の即応艦隊が使ってるジム・カスタム、アレ羨ましいよな」
「見た目にそぐわずピーキーらしいぜ、お前にゃ無理だよ」
「悪いねぇ、平々凡々なパイロットで」
強力な艦隊が定期的に航路の巡回を行うため、残党軍も活動を縮小せざるを得なくなる。上層部が人気取りのために始めろと指示して来たものだが、それは思っていたよりも大きな成功を収めていたのだ。
「あ〜…それと悪いニュースかもしれないが、もう予備機の準備は終わってる。次の作戦には参加してもらうことになりそうだ」
「クソ、休めると思ったのによ……」
暫く仕事は減りそうにない。彼らが疲弊し、要塞司令が過労死するのが先か、それとも海賊が絶滅するのが先かは、神のみぞ知るだろう。
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ブリーフィングルームに集められたのは艦長率いる艦隊の面々であり、ディスプレイにはかつての戦場が映し出されていた。残骸の山と化したその宙域こそ、ルウム戦役の舞台となった場だ。
「今回の任務は暗礁宙域の調査だ。旧サイド5のコロニーを回収するという計画、その前段階により我々は召集された」
「コロニーそのものというより、上は残骸を再利用する気ですか」
「資材が足りないからな、屑鉄も立派な資源であることに変わりはない。それにコロニーの残骸であれば、新たなコロニーを作る上で必要な素材をすべて内包しているということだからな」
あれから海賊も少々数を減らし、護衛の数も増やすことが出来るようになってきた時のことだった。艦長率いるジオン方面即応艦隊は、戦争によって失われた旧サイド5の調査を命じられた。
「…だがそれはあくまで建前だ、本命はこの区域に潜んでいると思われるジオン軍残党に対する強行偵察だ」
「何処からの情報ですか艦長、パイロットがこの数集められてるってことは相当な相手とお見受けしますが」
「輸送船とジャンク屋からだ。情報提供窓口に連絡があった。調べたところ既に数人の未帰還者が居る他、不審な物資の動きも確認出来た」
スペースノイド達の信頼をある程度得ることに成功していたから出来た芸当だろう、彼らも自身の食い扶持を命懸けで守ってくれる存在相手には協力的であり、上層部も残党狩りということで簡単に調査の許可を与えてくれた。
「規模は不明だが、降伏に応じなかったジオン軍艦隊の規模を考えるとかなりの数が居てもおかしくは無い。動かせる全戦力で薮をつつくわけだ、何が出てくるかは分からん」
「大規模な残党が目立った動きもせずに潜んでいると?」
「生きて帰った者はやけに速い機体を見たと言っている。見間違いかもしれないが、速度を出せる兵器を野放しにするのはリスクが高い、ここで潰す必要がある」
輸送船を襲って逃げるというのが海賊の動きだが、即応部隊が追いつけない程の機体が出てくれば今以上に後手に回るのは明らかだと艦長は考えたようだ。
「デブリの中に突っ込むという作戦は半ば無謀だ、そこで我々は時代遅れのデカブツ唯一の利点である火力を活かすことにした」
デブリ群に対してマゼラン級ご自慢の主砲及びミサイルを投射、侵入口をこじ開けつつ待ち伏せを炙り出す。敵機が艦隊に迫るためには盾となるデブリから出る他なく、そこを艦隊とMSの集中砲火で叩き落とすという算段だ。
「今回はあくまで強行偵察だ、敵の存在が確認出来ればそれでいい。再編を終えた連邦軍の大艦隊が観艦式の後にでも鏖殺してくれる、我々はそれまで周辺宙域の監視に当たることになるがな」
「そりゃ地獄ですね、どれだけ待たされるか」
「最寄りのコロニーまでちょいと遠い気がしますがねぇ」
「雁首揃えて待つわけではない、周辺に監視装置を敷設する程度だ。結局のところ我々にとって一番の敵は、今も暴れる残党崩れの海賊だからな」
海賊は何も生まないばかりか損失を産む。それに比べて素直に投降した者達は戦後の復興に関わってくれている、つまり働いて税金を納めてくれているのだ。それが周り回って軍へと投入され、艦長達の給料やMSの維持管理費となる。
どんな場所で生まれ、どんな主義思想を持っていたとしても、軍は納税者を守るものだ。そして集められた税金とは公共事業でも言えることだが、不特定多数のために使われるものだ。艦長はその前世から、アースノイドだろうと、スペースノイドだろうと、同じ守るべき納税者として認識している。
「作戦の開始は警戒シフトを組み替えて戦力を捻出する都合上、少々遅れて一ヶ月後になる。それまでにデブリ群内や敵高機動型との戦闘を想定した訓練に励むように!」
情報が無い暗礁宙域に謎の高速機、彼らは知らず知らずのうちに茨の中へと入りこもうとしていた。
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