デブリ群にて炙り出しを始めた艦長率いる即応艦隊だが、早速というか必然というか、ジオン軍の残党との戦闘に発展した。敵が放ったのは以前から報告にあった未確認機で、艦隊は対空砲火にて迎え撃っていた。
即応艦隊の戦力はマゼラン級一隻、サラミス級三隻、MS母艦として使われているコロンブス級が四隻だ。船の数こそ少ないものの、MSの数は多い。艦載機に戦力を大きく割り振った、ある意味歪な艦隊だった。
「ミノフスキー粒子の散布確認、奴らやる気ですよ!」
「船に近付けるな、対空砲は散らさずに同じ目標を狙って確実に墜とせ!」
「敵機直上ぉーー!!」
速度は今まで戦ったMSの中でも上位、直線的な機動はMSというよりMAを思わせる。敵機は対空砲火を振り切り、盾の裏から伸ばしたビームサーベルで直掩のジムを盾ごと切り裂いた。そして未確認機がかき回すのと同時に、見慣れたMSが船への肉薄を狙う。
明らかに素人ではない、艦長は捕縛を諦めて全戦力で迎え撃つ判断を下していた。
『奴ら速いぞ!正面から撃ち合わずに軸をずらせ!』
『兎に角弾幕を張るんだ、バズーカを構えたザクを懐に入れるんじゃあない。チンケな機関砲で船が沈むかってんだ、敵の火力を分析しろ!』
『バカみてぇな推力してやがる、ドムまであんのかよ!』
飛び交うのは機関砲弾にビームスプレーガン、ブルパップマシンガン、ジムライフル、ビームライフル…未だ装備の統一に至っていないのがよく分かる。敵が放つ機関砲をジム達は盾で受け止め、近接戦を避けるように立ち回る。
しかしサラミスの一隻がリックドムの接近を許し、甲板にバズーカの直撃を受け、盛大に砲塔が飛ぶ。まだ戦闘能力は維持しているようだが、手痛い一撃を喰らってしまった。後方のコロンブス級を潰されるわけにはいかない、MS達はそのドムへ一斉に殴り掛かった。
『やってくれやがったな、スカート野郎!』
サラミスの近くに居たジムがビームサーベルを抜くが、構えたシールドにバズーカの直撃を受けて吹っ飛んでいく。その隙を狙ったジム改がマシンガンで武器を狙い、ドムは使い物にならなくなった筒を投げ捨てる。
『目くらましに気を付けろ、後期の機体なら威力もある筈だ!』
『了解!』
ヒートサーベルを抜こうとしたドムに駆け付けたジム・カスタムが接近、ライフルで牽制しつつ距離を詰める。しかし背後からもう一機が迫り、サーベルで胴体を串刺しにした。
『いい機体乗りやがって、くたばれッ!』
爆散するドムだが、それで敵の攻撃が終わるわけではない。その混乱を突く形で、未確認機が艦隊の防衛網をすり抜けようと迫る。
『こっちで狙う、そのまま追い込んでくれ』
『そう上手くいくかっての!』
船から冷却剤の供給を受けた狙撃用のビーム兵器を構えるのは、同じく狙撃用の機体。砲口から放たれた光条は敵機の長い脚部を薙ぎ払った。すると機体を丸ごと巻き込んで融合炉も誘爆、あっという間に火球となった。
ジムスナイパーⅡによるビームの長時間照射。後世ではギロチンバーストと呼ばれるそれを、大きな制限の下でありつつも即応艦隊は多用していた。ビグロを始めとするMAへの迎撃手段として一年戦争時に編み出された戦術だったが、それは今でも通用する。
『派手に誘爆したな。アレは脚じゃない、プロペラントタンクか』
『回避機動を取らない…いや、取れないのか』
『不器用な直線番長と見た、墜とすぞ!』
今までとは違った相手に直掩のジムは困惑していたが、精鋭が駆るジムカスタムが敵の頭を抑えてライフルを進行方向へと撃ち込んだ。するとマトモな回避も出来ずに被弾し、そのまま爆散した。
「厄介な反面、思ったよりも脆い機体だな…」
「ジェミニ中隊より連絡、敵の機体特性についてです」
数回の戦闘で敵の特性を暴いたらしく、報告では小回りの効かなさと共に急増品の一発屋だが一撃離脱は脅威と簡潔に纏められていた。種が割れればこちらの番だ、連邦軍正規兵の強さを見せてやる。
「敵機は速度だけだ。射程距離まで近付いて頭を抑えろ、足はAMBACも出来んハリボテだ」
「MS部隊への情報共有終わりました、対空砲も散布界を狭めて敵の予測軌道に集中させます」
「主砲はこのままデブリ群を撃ち続けろ、出て来ようとする奴の頭を抑える」
「主砲、射撃及び照準そのまま!」
「了解!」
無謀にも艦隊に挑んだ敵機は最初こそ翻弄して見せたが、急増品では流石に無理があったようだ。それでも数機のジムが被害を受けた、回収を急いでいるが対空砲火が邪魔で遅れが出ている。より強力な対艦兵器を搭載していた場合、サラミスの一隻や二隻は食われていた。
未確認機以外の機体は温存したいのか、劣勢と見るや否や彼らは攻撃が散発的になり、デブリの中へ後退していく。それを逃がすまいと艦隊のメガ粒子砲が放たれるが、小さいMSを撃ち抜くのは容易ではなかった。
「藪をつついた結果がこれか…強行偵察の目的は達成した、牽制しつつ後退する」
要塞司令直属の即応艦隊と言えば聞こえはいいが、上から少数だけ配備された規格違いの機体や、高性能だがパイロットを選ぶような、汎用性に欠ける兵器が主力だ。装備の統一ができていないのも、これに起因する。
扱い難いが、ア・バオア・クー駐留艦隊の切り札だ。このデブリ内に何が潜んでいるか分からないが、貴重な戦力を失えば今後の航路維持に支障が出る。使える戦力に余裕はないのだ。
「ジェミニ中隊が撃墜した敵機の回収をしたいと」
「証拠にはなるだろうが融合炉が怖いな。まだ時間はある、ワイヤーをくくりつけて曳航しろと伝えてくれ」
「了解です」
残党軍が居るとわかれば話は早い、無理に攻めず離脱して監視するだけだ。今失っていい戦力は無い、予定通り偵察に留めて戦略的な勝利を目指せばそれでいい。彼らと違って連邦軍には時間があるのだ、いつまでもデブリの中に居られるほど人間は強くない。
「敵はこれだけか…?」
「前方のデブリ内に閃光!核融合炉の爆発と思われます!」
「何!?」
爆発の規模からして艦船クラス、流されたデブリに押し潰されたようだ。やはりあの奇妙なMSモドキだけではなく、二の矢を準備していたらしい。受光素子が焼けるのを承知の上で光学センサを向け、光の中の敵艦を映像に収める。ムサイ級だ、特徴的なエンジン部に直撃したらしい。
「前方に敵艦が潜んでいる、全艦回避運動」
「デブリ内から砲撃!」
「後は逃げるだけだ。ビーム撹乱幕をデブリ群に向けて投射しろ、敵艦からの砲撃を遮りつつミサイル発射、撹乱幕を抜けさせるな」
潜んでいたのがバレてはしょうがないと言わんばかりの砲撃が船をかすめ、装甲の表面が少し溶ける。ビーム撹乱幕が広がりきっていないためまだ砲撃が届くのだ、回避が後少し遅ければ艦首に直撃していた。
「…砲手の腕が良いらしい、危なかったな」
「重いんですよこの船ェ!」
「サラミスとは違うか、我々もこの船に慣れきっていないな」
マゼランの船員は特性が違うサラミス級からそのまま引っ張って来ている上に、このような策を弄する相手は久しぶりだった。錆びついている、そう感じざるを得ない。
「敵の追撃は?」
「砲撃のみかと、デブリから出る気は無いようです」
「…少なくともムサイが二隻か、奥にどれだけいるやら」
正に藪蛇というヤツだろうか、相手はそこらの海賊とは違うようだ。しかし即応艦隊はごく少数の被害で多くの情報を得ることが出来た、相手が本格的に動き出す前に対策を立てなければならない。
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ある一室は旧ジオン軍色の強い装飾がなされていたが、それらを布で覆って会議室として利用されていた。運び込まれたディスプレイには恰幅の良い男性が写っており、彼はとある派閥の長でもあった。戦後の経済政策に対して多少の口出しが出来たのは、この派閥の力を借りることが出来たからだ。
「…暗礁宙域で未確認機及びムサイ級二隻と接敵か、そちらの被害はどうだね」
通信相手は一年戦争後に軍を退き、既に政治家へと転向している。しかし着々とその勢力を伸ばし、連邦軍時代に築いた各方面へのパイプを巧みに活用している大物だ。戦時の連邦軍において困ることが無かったと言わしめた補給体制の確立は、彼の影響が大きかったとされている。
「ジムが数機、サラミス一隻が少し損傷した程度です」
「なるほど、上手くやってくれたか」
暗礁宙域に急拵えの監視設備を設置し、艦長達は報告のため帰還していた。回収した敵機の残骸は交戦記録と合わせて充分な証拠となったようだ、通信相手も軽い事態だとは思っていない。
戦後の復興特需に沸く経済界は、この状況を上手く使いたがっている。様々な企業との距離が近いこの政治家も、その意向に従うだろう。となれば社会不安は避けたい、残党軍を叩き潰したい要塞司令とも、意見は合う。
「君はこの残党が動くと思うか」
「MSを相手にするには向かないような急増品でしたが、技術力は確かです。あんな機体までも作るとは、何か意図があると感じざるを得ません」
「ほう、例えば?」
「爆装した上で観艦式に特攻、という可能性も。もっと派手なことを考えている可能性もあり得ますが」
暗礁宙域に潜んでいた者達からすれば艦長の考察は的外れもいいところだが、現状の限られた情報ではもっともらしく聞こえた。観艦式は絶対に成功させなくてはならないイベントだ、少しの妨害も許されない。
「映像中継中の観艦式で一隻でも沈められれば、残党軍は一矢報いたと騒ぎ立てるでしょう。反連邦感情を煽る報道がなされる可能性も大いにあります」
「確かに大きな問題だな、君はこれからどうする気だね」
「今まで通りの海賊狩りを続けつつ、暗礁宙域に睨みを利かせます。我々の規模ではあまり大きな艦隊の相手は出来ませんが、監視と足止め程度ならやってみせます」
艦長の報告相手である恰幅のいい男性は何度か頷き、ジオン残党に対してある程度の範囲なら独自の裁量で動けるだけの指令をしたためると告げた。かなりの高官相手に緊張した彼は手で汗を拭い、副官へと話しかけた。
「…あの方に直接報告することになるとはな」
「連邦軍内でも反応に温度差があることは事実です、理解ある人にある程度のフリーハンドを与えて貰えたのは良いことかと」
「かといって要塞の復旧と航路の治安維持は継続する必要がある。戦力にも限りはある上に今回の損害もな…下手には動けん」
色々と問題はあるものの、大きな動きをするわけにもいかない艦長は監視を継続しつつ周辺宙域を立ち入り禁止とした。暫くの間は膠着状態が続くものの、地球のある基地で発生した大事件を機に事態は急速に悪化していくことになる。そんなことを知る由もない彼らは、時間はこちらの味方だと考えてしまっていた。
艦長がこの出来事と前世の記憶を結びつけることができるのは、もう少し先のこととなる。
感想欄で思いっきりドラッツェとバレてたな…流石だ……