マゼランと行く0083   作:明田川

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核と帰還と

 観艦式前日、即応艦隊は動き始めた残党軍の艦隊と遭遇していた。茨の園からの出撃に際して機雷が相次いで爆発、それを観測した部隊が通報したことで艦隊戦は始まった。

 ア・バオア・クー要塞司令の座乗艦たるマゼラン級ナガトを旗艦とし、即応艦隊ならびに同要塞所属のパトロール艦隊の約四割、観艦式の警備戦力として新たに抽出された小規模艦隊が複数、そして現主力機たるジム改を中心とした100機以上のMS部隊がデラーズフリートに立ちはだかる。

 

「敵艦は距離を保ち砲撃戦をする構えと見えますが」

 

「ミサイル斉射、艦隊とMSを崩す。今日のために用意したありったけをぶつけてやれ、空間ごと爆発で制圧しろ!」

 

 この時のために準備を続けていた即応艦隊の圧倒的な火力によって、想定されていたよりも艦隊の規模が小さいデラーズフリートは、苦戦を強いられていた。

 海賊行為中に撃破・拿捕されたもの、単独行動中に投降したもの、士気の低下により戦力として数えられないもの。彼らの戦力は様々な要因により減り続け、その屋台骨は腐って折れかけていた。

 

「光信号で投降を呼びかけ続けろ、あの時のようにな」

 

 ア・バオア・クー決戦での集団投降、そしてシーマ艦隊の拿捕が決定打になったのだ。万全の準備を終え、潤沢な武器弾薬で以て暴風の如く殴り付ける即応艦隊が先手を打ち、勢いも彼らにあった。

 

「それは、残党軍が応じるとは思えませんが」

 

「煽れば乗ってくる、奴らを観艦式の会場には通すな!」

 

 ビームが掠め、マゼランの装甲が焼ける。これによってミサイル発射管が溶けてなくなるが、先程の攻撃で空になったばかりだ。多少の消耗はあるとはいえ、敵もまたベテラン揃いなのだ、狙いが甘いわけがない。

 

「こちらの別動隊が位置についたようです、第六臨時警備艦隊から連絡がありました」

 

「ではこちらは目の前に注力すれば良いわけだ、結構」

 

 ジオン軍が戦争末期に開発したMSと、連邦軍が戦後に作り上げたMSが激突する。ジムカスタムを装備した精鋭部隊ジェミニ中隊は相手を一気に殲滅する…とまではいかないものの、上手く敵の勢いを抑えつつも押せている。

 

 しかしサジタリウス小隊は本来のパイロットがおらず、別の人間が乗り込んでいる。他の部隊の幾つかも不在であり、何故か完全な状態ではないようだった。これは話に出た別動隊へ戦力を回したことによるものだが、それでも機体数と整備に限界のある敵軍に対し、優位に立てる数は揃っていた。

 

「ジムは予定通り数で押せ、被弾したら下がれと何度言ったら分かる。ボールの代わりにサラミスが砲撃支援だ、砲身がダメになるまで撃て」

 

「敵MS、左翼にて一部突出。予定通りです」

 

「そのまま引き込んで包囲に移れ、火砲の数で叩き落とすんだ」

 

 ミノフスキー粒子散布下では、縦横無尽に動き回るMSを撃ち落とすことは難しい。だが彼らは万能かつ最強の兵器ではない、あくまで艦隊戦における新たな艦載機である。

 MSで動きを止めつつ、船の火力で回避する先を潰して落とす。言うは易し、行うはなんとやら、というやつだ。即応艦隊の練度でやっと可能な局所的に濃密な弾幕は、残党軍のMSを絡めとるようにして撃墜する。

 

「敵艦増速、接近して来ます!」

 

「上等だ。艦首を敵最前列の敵艦へ向け、全砲門を指向せよ」

 

「撃ちますか」

 

「無論だ」

 

 メガ粒子砲の撃ち合いとなれば、マゼランに勝てる船は居ない。周囲のサラミス級も旗艦に従い、敵艦へ正面を向けた。ジオンの艦艇は船の正面に火力が集中しており、強力な反面カバー出来る範囲が狭い。この正面を向けあった砲撃戦では、敵は強さを押し付けようとしたと見える。

 

「敵艦隊は突破を試みるつもりでしょうか」

 

「それにしては判断が遅い、観艦式を目指すのであれば最初から突撃を選んでいた筈だ」

 

 極論を言ってしまえば、観艦式を狙うのに大部隊は必要ない。襲撃に際して最も重要なのは二号機の核弾頭を撃ち込めるか否かであり、部隊規模の大きさよりも、隠密性が重要となるだろう。

 

「こちらと同じように、奴らも別動隊を出している。この艦隊に目的の二号機は居ないだろう」

 

 互いに本命を別の場に置いての戦いだ。艦長は出来る限り敵戦力を削ぐことを目的に攻撃を続けつつも、ミノフスキー粒子が広がるにつれて完全に別動隊との通信が途切れたのを確認した。

 後は天に運を任せるのみだ、同じことを考えているであろう敵に対し、即応艦隊は攻撃の手を緩めず追い詰めていく。

 

「(…なんだ、この違和感は。何を見落としている?)」

 

 しかし艦長自身、二号機がこの艦隊とは違う場所で行動していること以外に、何か重要なことがあるような気がした。この作品の全容をしっかりと覚えていない自分の脳を殴りつけたくなる気持ちに駆られつつ、今は艦隊の指揮に集中しなければと前を向き直す。

 その忘れていたものがなんだったのかは、後で嫌でも分かるのだから。

 

ーーー

ーー

 

「全く、あの要塞司令も厄介な仕事を押し付けてくれたもんだね」

 

「艦長、奴ら準備が出来たそうです」

 

「少しは生きやすくなったんだ、戦時気分の馬鹿どもをぶん殴ってこいと伝えてやりな」

 

「アイマム!」

 

 観艦式が行われる旧ジオン軍の要塞、ソロモン。コンペイトウと名を改められたそこには、本来参加が予定されていなかった筈の第六臨時警備艦隊がコロンブス級三隻を追加で従え、小惑星やデブリ群に身を隠しつつ展開していた。

 

「だが結局…本当にやれるかどうかは、運次第さね」

 

 即応艦隊とは別口で残党軍への対応に当たっていた強襲揚陸艦アルビオンだが、第六艦隊と全面的な協力…ということは難しかった。今まで接点がなく、追撃のために飛び回っている上、使えるコネを別の方面に使っていたからだ。

 しかし観艦式を守ると言う条件下では、ある程度の連携は可能だと考えた。アルビオンは二号機の怖さを知っている部隊だ、本命を叩くことを優先するに違いない。第六臨時艦隊は周囲の艦隊に自らの存在を示し、後方での迎撃準備を行うと通信を入れていた。

 

「熱源を見逃すんじゃないよ、ここで撃たれれば巻き添えを喰らう」

 

 観艦式が行われている近くに居れば、それだけで核の加害範囲内に収まってしまう。ザンジバル級では誤射が怖いが、連邦軍の艦艇用塗料を使い回したことで、ほんの少しばかりはその可能性が減っていた。

 

「サジタリウス小隊、ジェミニ中隊第二小隊より返信。ここまでの護衛感謝すると来てますが」

 

「礼を言うなら別の奴さ、難儀を背負い込んで何が楽しいんだか…分かってるだろうに」

 

 コロンブス級が推進器を吹かし、機体の射出角度を調整する。艦長の提言により、別動隊の面々は「二号機は加害範囲を最大化するため、陣形の中心に位置するバーミンガムへ狙いを定める」、というヤマを張っていた。

 そして攻撃の寸前、核弾頭の射出装置であるアトミックバズーカを組み立てる瞬間の隙を狙う。MSによる強行突破だ、迎撃による攻撃失敗を加味すれば、恐らく機体自身が駄目にならないギリギリで発射する。かなりのリスクだが、奴らならその程度やってのけるという敵への信頼があっての想定だった。

 

「これは…艦長、残党軍です!」

 

「早速のお出ましか、敵の進行方向は?」

 

「モニターに出しますが、すでにアルビオンの艦載機が展開しています。突出する敵機なし!」

 

「…ガトーはそこらの奴に遅れを取るようなパイロットじゃあない、無理矢理にでも抜けてくる筈だがね」

 

 S-8、そう示された地点にて新たな熱源が二つ観測される。配置されていた無人兵器が攻撃したことを見ると、敵なのだろう。

 ただでさえ少ない戦力を更に分け、本命を最高の発射地点へ辿り着かせるために陽動をして見せたのだ。エフェメラ艦長が即座に指示を出すと、コロンブス級が抱えていたサジタリウス小隊を発進させる。彼らに取り付けられた、巨大なブースターが点火された。

 

「速い、ジムが相手になってないじゃあないか」

 

「鎧袖一触ですな、足の速いのが一機追っては居ますが…」

 

「後はサジタリウスが撃てるか、当てられるかどうかだね」

 

 機体よりも大きなブースターは質量が大きく、その加速は鈍い。しかし一度速度が乗ってしまえばこちらのものだ、自らが構える武器の射程内に敵を収められればそれでいい。

 一気に加速したことで機体は異音を発し、ブースターと機体を繋げる部品すら歪みかける。急増品のそれらは期待された仕事を一度だけという制限の中でこなし、火薬が封入されたボルトに点火することで自壊する。

 

『奴め、艦隊の上を通り過ぎる気だ!』

 

『小隊長より各機、下手にスラスターは吹かすな。慣性で飛びながら狙いを付けろ、光学でだ!』

 

 機体側のセンサーで狙おうにも、敵が回避行動を取ってしまえばそれまでだ。彼らは奇しくも迎撃のために放たれたミサイルに紛れるように飛び上がり、艦隊の直上を射角に捉える。

 小隊の全機が狙いを定めた時、阿吽の呼吸でビームが放たれた。足止めを行おうとしていたリックドムが巻き込まれて爆散し、分割したアトミックバズーカを組み立てようとしていた二号機は予想外の一撃に、作業を中断した。

 

「外したッ!」

 

『何のための冷却装置だと、思っている!』

 

 安全装置を取っ払ったことで、このビームライフルの連続照射時間は大幅に伸びていた。その代わりに自爆する危険性すら帯びていたが、薙ぎ払われるようにして逃げ道を潰した粒子の束は、二号機の右肩から伸びる推進器を抉り取る。

 エフェメラ艦長が目を見開いたのも束の間、敵機はあまりに長いビームの連続照射に驚きつつも、それに対応した機動を見せる。ビームの網目の合間を抜け、損傷を広げつつも、バズーカを組み上げた。

 

「駄目か、あの要塞司令!期待だけさせてこのザマ……」

 

 しかし速度差から遅れて急行したジェミニ中隊のジムカスタムが、装備していたバズーカを放つ。散弾が装填されたそれは、多少の回避ではその雨からは逃れられない。

 

『あの発射装置さえ壊してしまえば!』

 

『ばら撒け!撃ち尽くしてもかまわん!』

 

 散弾であれば与えられる被害は少ない、二号機はバズーカを庇う形で姿勢を変える。しかし再装填を終えたジムカスタムは、散弾に紛れて通常弾を放つ。その存在に気が付いた相手は咄嗟に回避しようとするが、大出力を誇る肩部の推進器は先程失われている。

 

『ぶつけてもいい、止めろ!』

 

『貴重な機体だぜ、整備士にどやされちまうな』

 

『馬鹿なこと言いやがって。こっちの生産機数知ってるか、目の前の奴の二百倍だ!』

 

 二号機はバズーカから手を離し、腰からビームサーベルを抜く。しかし飛来したのはジムカスタムではなく、弾切れになって投げ捨てられたバズーカだった。

 それを一太刀で切り払い、同じく光る刃を携えた相手と対峙する。バズーカと盾、発射に必要な装備を守りつつ戦わなければならない二号機と、何をしてでも止めさえすれば良い第六警備艦隊。アドバンテージはジムにあった。

 

「取り付いた、だが…」

 

『コイツ、サーベル一本で!』

 

「護衛はいい、ゲルググを行かせな!」

 

 今日のために全機へ専用のビームライフルを装備したゲルググマリーネは、二号機の援護に回ろうとする残党軍を止めていた。しかし連邦軍の機体が援護に回ったことで、その場に止まった方が誤射のリスクが上がってしまう。

 

「誤射がなんだい、アイツが一発撃てば全員心中だよ」

 

 ビームサーベルが交差し、有利な筈のジムカスタムが追い込まれていく。暗色を基調とした迷彩塗装を熱で剥がされ、浅い切り傷が増える。

 熟練者同士の近接戦は先を読み、瞬時の判断で最適解を出し、そしてそれらを繰り返すことが前提だ。MSという複雑な動作を可能にする兵器において、パイロットの力量は性能や環境をも覆す。

 

『不味いッ!』

 

 二号機が下から上へと振り上げたサーベルは、ジムカスタムの片腕を捉えた。根本から切断された右腕が宙を舞い、ジェミニ中隊のパイロットは滝のように汗を流しながらペダルを踏み込んで追撃を避ける。

 

『装備を守りながらだってのに、こっちが負ける!?』

 

 相手は教本に乗るようなエース、その圧倒的なセンスは逆境の中で更に磨かれる。ジムライフルによる援護に合わせて損傷した機体が下がり、五体満足のジムカスタムがサーベルを抜く。

 

『後退だ、援護を…ガッ!?』

 

 冷却装置を有した巨大な盾が突き出され、間に入った機体のバイザーが叩き割られる。そして二号機はそのまま頭部のバルカンでライフルを破壊、突き出されたビームサーベルは胸部を貫いた。

 

『デリケートって噂は!?』

 

『クソッ、脱出する!』

 

 コックピットのある腹部を貫かれなかったのは、余裕のなさ故だろう。核融合炉の爆発をこの近距離で受ければ、二号機も無事では済まない。そう分かっていたためか、撃破した機体を思い切り蹴飛ばした。

 

『撃て!』

 

『駄目だ、脱出したアイツが!』

 

 戦友ごと撃たなくては止められない、二号機はバズーカを回収して構えようとしている。ほんの刹那の躊躇、その時だった、何かが圧倒的な速さで突っ込んだのは。

 

『ガトォーーーッ!!』

 

『ガンダム…例の足が速いヤツか!』

 

 一機のガンダム、足が速いと言われた試作一号機が二号機へと突っ込んだのだ。なりふり構っていない体当たり、それは相手を撃破するためのものではなく、担いだそれの狙いを狂わせるための一撃だった。

 

『クソッ、アイツやりやがった!』

 

「撃たれる…船の影にMSを隠しな!核が来るよ!」

 

 核は放たれた、見当違いの方向へと。しかしその加害範囲は広く、大きく逸れたとしても被害は生まれてしまう。人類の科学が産んだ人工の太陽はMSの動力炉が死に際に放つ灯火とは違い、その何倍もの大きな光を艦隊に見せつけた。

 その莫大な放射熱は船の外装を焼き、砲身を歪ませ、装備を破壊する。最も近い位置に居たサラミス数隻が爆沈したが、装甲の厚いマゼランは辛うじて無事、被害は最小限に抑えられたのだ。

 

「…損傷を確認しな、この距離でも被害がないわけじゃあない」

 

 こうして、観艦式への攻撃は失敗に終わったように見えた。脱出したジェミニ中隊のパイロットも、駆けつけたゲルググが盾になったことでことなきを得たようだ。しかし莫大な熱は艦隊を壊滅こそさせなかったものの、多数の船を航行不能に陥らせたのだ。

 救援活動を行いつつ、無事な船を集めるとなると、動けるのは半数ほどだ。比較的装甲の薄い輸送艦を始めとした支援艦艇群が大きな被害を受けたのだ、連続した作戦行動はままならない。今ある弾薬で追撃を行わなければならないのだ。

 

「直撃よりか幾らかマシだが、厄介なことになったねぇ」

 

『こちらサジタリウス1。すまない、発射を許した』

 

「サッサと帰還しな、丸腰で戦う気かい」

 

『確かにそれは御免蒙る、一度補給に戻る』

 

 無理をさせたビームライフルの砲身を赤く光らせるジムスナイパーⅡ達を回収しつつ、かつてリリーマルレーンと呼ばれていたザンジバル級は動き始める。

 味方に撃たれることを避けるため、艦載機のゲルググ達は第六警備艦隊の護衛に戻る。そのうちの数機がサジタリウス小隊に接近し、ジムカスタムが使っていたものと同じ、火薬式のライフルを投げ渡す。

 

「二号機は逃すんじゃないよ、サジタリウスの連中には横槍を入れさせるなと伝えな」

 

「アイマム!」

 

 連邦軍は被害を受けたが、核の直撃という最悪のパターンからは逃れた。しかし星の屑作戦の本命はこの一撃ではない、核は連邦軍の主力艦隊から継戦能力を奪うことこそが、その存在意義だった。

 本来よりもその規模が小さいからこそ、デラーズフリートはとある策を立てていた。圧倒的多数を相手取るために、そして最終的な目標を達成するために。

 

『間に入れない、激戦だ』

 

「だったら終わるまで待ちな、パイロットは絶対にとっ捕まえるんだよ」

 

『例のエースパイロットって話ですか、エフェメラ艦長』

 

「ジオンのエースが機体を変えて現れたら、被害はこれじゃあ済まないよ」

 

 混乱する大艦隊に対し、彼女は形ばかりかと言わんばかりに顔を顰め、苛つきを隠さない。捕まった先が周りよりよっぽどマシな要塞司令で良かったとも思いつつ、連邦軍にこのままなし崩しに身を置くことが明確な危険を秘めていることを再認識する。

 

 こんな危ない橋を渡らされるのなら前々から考えていた民間への転職を考えなければ、なんて今後の進路を考えていると、時間が過ぎていく。それが過ぎるほどに、見えないところで何かが起きているとも知らずに。

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