「グワジン級大破、沈みます!」
「デラーズめ、生死を確認できないようにする気か」
「どうしますか、艦長」
「どうしようもあるまい、このまま掃討を続ける」
即応艦隊は、遂にデラーズフリートの大部分を撃滅した。予想されていた戦力と大きく変わらない数で現れた彼らは、奇しくも逃げ出したア・バオア・クーから出撃した艦隊に負けたのだ。
大量の残骸だけが漂う空間で、投げ出された人々を連邦軍のランチが収容しては拘束していく。投降に応じなかった残党軍達は、今や正式な軍人ではない。だが生きている人間である以上、犯罪者と言えども人権はあるのだ。連邦軍の兵士達は銃を抜きたくなる気持ちを抑え、救助へ当たる。
「待て、敵艦は全て沈めたな」
「はい」
「パプワ級、いや戦闘艦艇以外を見たものは居るか」
もしコロニー落としをするのであれば、工兵が必要だ。初期加速のための核パルスロケットエンジンも運ばなければならず、その準備はすぐに終わるものでもない。
この艦隊が打って出た以上、艦長は星の屑作戦の最終段階であるコロニー落としをする筈だと考えた。だが不思議なことに、それを成すための戦力がここにはいなかった。
「…おりません」
「周辺を探ってくれ、移動中の艦艇がないか捜索するんだ」
原作において、デラーズフリートは移送中だったコロニーを奪うはずだ。だが彼らにはこれ以上割ける戦力などない、戦闘艦をここで丸ごと沈めて何がしたかったのか。
その答えは、暗礁宙域から現れたものによって示された。
「暗礁宙域から高熱源反応!巨大な物体がデブリを掻き分けて移動しています、機雷をものともしていません!」
「…そうか、ここは」
帰って来たと叫びたかったのは、ソロモンを襲った残党軍だけではない。この冷たい残骸の山が生まれたきっかけは、あのルウム戦役だった。艦長にとって初めての実戦が起きた場所であり、そして幾多の船、そしてサイド5のコロニーの殆どが破壊された、凄惨な爪痕の残る地だ。
今や機雷だらけとなったが、その中を巨大な物体が突き進む。コロニーの残骸だ、それもある程度形を保った。過去の戦乱によって破壊された筈のそれは、デブリや小惑星を用い、質量兵器として再構成されている。
「二…いや三基のコロニーが、こちらへ突っ込んで来ます!」
「回避だ、衝突まであと何分ある」
「速度はそこまで出ていません。接触予定まで、四十五分です」
加速は一度では終わらない筈だ、この数字にどこまでの信憑性があるのかは分からない。だが残党軍が自らの寝蔵を武器とする気概を見せ付けたのだ、このまま脅かして終わりという筈がない。
「残党軍の救助は二十分で切り上げる、それまでに出来るだけ回収しろ。情報源になる者が居れば良いが…」
「コロニーの内部にMSを確認、残骸に張り付いています。恐らく他の艦艇も残骸の裏に隠れているかと」
「このための時間をまんまと稼がれたか。こちらの損害はどうか、補給の進捗は?」
「MS部隊の損耗率は二割ですが、損傷のため出撃できない機体を考えると…稼働率は七割程度かと」
船のミサイルは撃ち切った、砲もあまりの連射に悲鳴を上げている。損傷を受けた船も多い、このままコロニーへ殴りかかるのは得策ではない。
それにミノフスキー粒子下では、この状況を外へ伝えられない。観艦式を襲ったであろう二号機がどうなったのかも気になるところだ、体勢を立て直しつつ情報を得なければ、この一手は防げない。
「再利用型核融合弾頭を使う、一度引いて体勢を立て直すぞ」
「恐らくこの速度のまま移動しません。もう一度加速が成された後で、迎撃が間に合うでしょうか」
「一基なら兎も角、三基ものコロニーを粉砕する火力は即応艦隊に無い。主力艦隊に動いてもらう他ないが、観艦式が無事かどうか…」
そう言って艦長が今後のことに思考を巡らそうとすると、コロニーが光った。正確にはコロニーが纏っているデブリの幾つかから、メガ粒子砲が放たれたのだ。
ルウム戦役によって、艦船の残骸には事欠かないだろう。艦砲を流用したと思わしきそれは、コロニーへ大量に据付られていた。コロニー自体にも色々と設備が後付けされているのを見るに、デラーズフリートの拠点として使われていたのだろうか。
「回避!ビーム攪乱幕展開、回収作業中の部隊を守れ!」
「展開間に合いません、着弾します!」
ミノフスキー粒子の散布下だったのもあり、大部分は艦隊を素通りする。しかし数発が命中し、サラミス級の一隻が艦首を吹っ飛ばされ、マゼラン級の砲塔が飛ぶ。ナガトが被弾したのだ、艦橋内に警報が鳴り響く。
「ランチとMSを収容しろ、射程外へ退避する。通信が可能になり次第ア・バオア・クーと司令部へ緊急連絡、このデカブツの解体工事を始める!」
「了解!」
「頼むぞ、観艦式は無事に終わっていてくれ……!」
ーーー
ーー
ー
射程外に退避した艦長達は、観艦式の会場から早急に離脱していたエフェメラ艦長と合流していた。状況は悪いが、打開するための材料はまだ残されている。
「参ったよ、なんとかはなったけどねぇ」
「いや、よく頑張ってくれた。済まないが艦隊に加わってくれ、もうひと仕事あってな」
核攻撃を行った二号機は、それを止めるべく吶喊した一号機との戦闘で大破した。パイロットであるアナベル・ガトーは機体から脱出したものの、回収できる友軍が居なかったことで捕縛。残党軍も戦力の大部分を失い、現在も追撃は続いているとのことだ。
こういった観艦式で起こったことの顛末を報告するため、ナガトの艦橋へやって来ていたエフェメラ艦長は、久しぶりに要塞司令と顔を合わせている。
移動するコロニーの近くに中立を謳うアクシズの艦隊が居たことも偵察の結果分かっており、残存勢力が補給を受け、潜んでいる可能性が高い。こちらに時間があるということは、向こう側にも貴重な時間が流れているのだ。
その時間を使って情報共有だけをしているのかと言われればそうではなく、この事態を収められるだけの戦力を集めている最中だ。その待ち時間を使い、こうして判断に必要な情報をかき集めている。
「ああ、なるほどねぇ……あの連邦軍とは思えない艦隊が、その仕事の原因かい?」
「保管していた船だ、君の部下達が引っ張り出してきてくれた」
二号機の強奪によって蜂の巣をつついたような騒ぎだったジャブローだが、旧サイド5から現れた三基のコロニーによって、その混乱は大きくなっていた。観艦式も襲撃を受け、自慢の艦隊は損害の確認中という有様だ。
ゆっくりと、しかし確実に地球へ向かうそれに対し、ア・バオア・クーの要塞司令はある作戦を提案した。持ちうる全ての戦力をぶつけるべく、彼は要塞から大量の兵装や資材を抱えた艦隊を出撃させて合流、宇宙のど真ん中にて準備の真っ最中だ。
「こちらの準備には少々時間がかかる、悪いが暫く待機だ。デラーズフリートとは最後の戦いになるだろう、しっかり休息を取ってくれ」
「家族が居る奴を数人下がらせてもいいかい。こっちは正式な軍人じゃあない協力者って立ち位置だ、作戦参加の義務はない」
「無論参加を強制するつもりはない、そんな権限は持ち合わせていないのでな。それと、そちらが希望していた民間企業の設立だが…どうにか許可を取り付けた、受け取ってくれ」
彼女は民間へ移籍を考えていたとはいえ、今すぐという気はなかった。宇宙の状況が状況であり、独立するにしても何処かへ入るにしろ、自身の立場が足を引っ張る。連邦軍から戦争犯罪の証人として保護されているが、それも何処まで保護されるかは不明瞭だ。
「船舶の護衛や、護衛の育成を主とする民間軍事会社。MSに関してはこちらで用意できるが、その場合はこちらの紐付きという形にはなる」
「連邦軍側の責任者は?」
「私だ。こちらとしても信頼できる戦力とは付き合いを続けたいと思っているのでね、仕事の依頼相手にはしばらく困らないだろう」
艦長は本気なのだろう、用意された書類の分厚さからもそれは感じられた。彼のサインが入ったそれさえあれば、今すぐにでも企業は設立できる。何処から用意したのかと言いたくなるが、それなりの金額の融資・投資にも用意があるらしい。
至れり尽くせりだ、今までの働きの代金にとして見るには過分だろう。だがそれはエフェメラ艦長に対し、彼が払ってもいいと思えた最大限のものと考えると、適当なのかもしれない。
「…もしソレを受け取って、参加しなかったら?」
「どうしようと問題はない。先ほども言ったが、こちらに何かする権限はない。我々は証人である君達に頼り過ぎている、潮時がどこかはそちらの判断で構わない」
彼女は要塞司令から受け取った書類の中身をその場で改めず、懐へ仕舞い込んだ。そして艦橋の窓からかつての部下達が操る艦隊を見て、大きなため息を吐いた。
「会社を作る準備ができるまでは、お世話になるよ。でもこんな大仕事が続くとなると、命が幾つあっても足りやしないね」
「感謝する、エフェメラ艦長」
「なに、こっちも借りを返すくらいの気概はあるのさ」
わざとらしい動きと表情で敬礼をし、彼女は艦橋を離れる。周囲のクルー達は張りつめた空気に息を詰まらせていたようだが、ドアが閉まるのをみて胸をなでおろす。だが緊張を緩めてもらっては困る、まだ話す相手は残っているのだ。
「…そろそろ時間か、司令部へ通信を繋いでくれ」
「了解です」
要塞司令は彼女へ心からの感謝を抱きつつ、時計を見て通信を繋ぐよう指示する。何のための通信かというと、今回のコロニー落としに対しての対応を決定するためのものだ。通信を繋いで少し、定刻通りに会議は開始された。
『前置きは無しで良い、早速始めてくれたまえ。我々に時間はないのでな』
「はい。旧サイド5から出現した三基のコロニーはゆっくりと加速しつつ、地球を目指しています。これに対し、再利用型核融合弾頭を使用した対コロニー落とし戦術を用いた迎撃作戦を提案致します」
デラーズフリートは原作とは違い、月を経由せず直接地球へ向かうルートを選択した。観艦式への核攻撃が失敗に終わったためだろうか、それともコロニーが三基かつ大量の迎撃設備を有していることから、強行突破が可能と判断したためだろうか。
分からないことは多いが、その質量の大きさ故に加速が容易ではないことは分かっている。今まで即応艦隊が行っていた海賊狩りや暗礁宙域の監視で、物資は想定より集められていないだろう。
『続けてくれ』
「MS用核融合炉を暴走、自爆させることでコロニーの構造物を破壊。我々が地球へ辿り着く前に複数のパーツに解体し、軌道修正を容易にさせます。その後は地球付近に配置した主力艦隊とソーラ・システムによる攻撃により落下軌道からコロニーを排除、迎撃します」
『……ふむ。その再利用型弾頭とやらは、どれだけの数を用意できたのかね』
「自律飛行型が四十二発、レーザー誘導型が二十五発です。爆破ポイントは策定しましたが、その上で必要な数はなんとか」
三基のコロニーの図面をコロニー公社から借り、解体に必要な爆破ポイントを割り出していた。専用の爆弾ではない以上、MSの核融合炉では非効率的な作業となってしまうが、なんとか足りる計算だ。
残党軍もコロニー内部に潜み砲台などでの妨害を行ってくることが予想されるため、本当に足りるかどうかは微妙なところだ。
『艦隊は現在再編中だ。コロニーがこれ以上加速を行った場合、貴官の艦隊が設定した迎撃ポイントへの合流が間に合わない可能性があるが、それについては』
「ソーラ・システムさえあれば。主力艦隊抜きでも問題ないよう、解体してみせます」
『……参謀も貴官の作戦での迎撃に賛成だそうだ。合流可能な戦力はそちらに向かわせるが、責任は大きいぞ』
「覚悟の上です。観艦式では事前に共有していたとはいえ、出過ぎた真似を」
『それに関しては気にしなくても構わん、聞いていたことに一々文句はつけんよ』
「では、準備作業の指揮に戻ります」
上層部は納得してくれた…というより、取れる手段を全て取ろうとしているのだろうか。連邦軍本隊の迎撃行動に対し、事前にある程度の打撃が与えられると考えられた即応艦隊によるコロニー解体作戦は実行の許可が出た。後手に回ったがために落とすためのコロニーを準備させてしまったことについて、艦長は頭を抱えていた。
シーマ艦隊が居ない以上、デラーズフリートの戦力は然程大きなものではなかった。しかし大きなものでもないとはいえ、搔き集められる全戦力をもってしても難しい戦いになることは分かっていた。どうにかして事前に止められなかったか、艦長は自責の念を抱きつつも指揮に戻る。
「よし、正式な許可が下りた。兵装の搭載を急がせてくれ、思っていたより余裕はなさそうだ」
「それは一体何故です、そんな話はありませんでしたが…」
「お偉方がここまで簡単にやれと言ったんだ。主力艦隊がどんな有様かは知らないが、藁にも縋る勢いということさ」
マゼラン級ナガトには大量のミサイル発射管が搭載され、その中にはビーム攪乱幕がおさまっている。オッゴを再利用したミサイルを破壊されるわけにはいかないため、周囲を守るために搭載しているのだ。
艦の左右には事前に用意されていた金具に沿って、巨大な箱型の構造物が取り付けられているが、それは本来MSを搭載するために用意されていた格納庫ブロックだ。後回しにされていた改修が、今この場で暫定的だが行われていた。
今はオッゴミサイルを搭載するためのスペースと化したが、輸送艦も足りない有様なので仕方ない。様々なロゴを持つ民間の輸送船すらこの作戦に参加しているあたり、どれだけ余裕がないのかが窺い知れる。
「使えるコロンブス級にオッゴを積み込め、空いている機体は片っ端から外へ並べろ!総力戦だ!」
「嬉しいことに物資には困らないな。何処からこんな数が集まって来たんだ、民間の輸送艦に…アレは造船関係か?」
「ア・バオア・クー整備の伝手だよ、艦長は何かと人気だからな」
「何やら連絡だ、輸送船が協力する気だって…?」
「乗組員は降ろせよ、民間人の死者は出せない」
推進剤や武器弾薬は兎も角、要塞の駐留艦隊が運び切れるかどうか分からなかった巨大な物体すらここに届いている。即応艦隊が必死で守った宇宙の航路は、有事に手を貸してくれていた。作業用の機体があちこちで動き、補給作業は想定以上の速さで進んでいる。
「全パトロール艦隊は全速力でこちらへ集結中。推進剤の補給は必要になりますが、作戦開始までには四割が合流できる予定です」
「モスボール状態で保管していた鹵獲機及び旧ジオン軍艦艇、全艦合流しました。エフェメラ艦長の艦隊でなら運用出来るかと」
ムサイ級はザクⅡやリックドム、ゲルググなどを従え、この宙域へ集結していた。MSには旧ジオン軍の人材で構成される第六警備艦隊の非番だった人々が搭乗しているらしく、動きに素人臭さはない。
戦後のパイロット育成にはザクが利用されていることもあり、連邦軍のパイロット達で編成された鹵獲機部隊もあるようだ。
「…どうやって運んだんだ?」
「機関の再始動を行いつつ、他の船で曳航して来たとのことです」
旧ジオン軍の人材もある程度採用していたためか、鹵獲した各種兵器は連邦軍へと所属を改め、コロニー落としを阻止するために集結していた。彼らの頑張りに感謝しつつ、巨大なMAの存在に、目を剥く。かつて若い技術将校と共に投降した、ビグ・ラングだ。
作業用として使われるにあたってオレンジ色に塗り替えられ、武装も排除されていたが、今回の事態に際し再武装を行ったらしい。補給作業を行うオッゴに対し、彼らの指揮と補給を担当している。まるで現場監督だ、しかしその武装はどこに仕舞っていたんだと思わざるを得ない。
「アルビオンより入電、こちらの戦列に加わる…とのことです。連邦軍とジオンのオールスターですよ、艦長」
その船は大急ぎで取り寄せたのか、船に収まりきらないほどの巨大な機体が武装を積み込んでいる。アレはガンダム三号機に巨大な武装プラットフォームを合体させた機体、デンドロビウムだ。
よく間に合わせたなと艦長は笑顔でそれを見るが、周囲も目立つペガサス級に興奮しているようだ。強力な戦力に違いない、出て来るであろうMAと真正面から戦える機体は、この作戦において重要な存在になるだろう。
「提示していた作戦どおり、迎撃予定地点が待機中の全艦艇へ共有されました」
「補給作業の進捗状況60%に到達。核融合弾頭の搭載は完了しましたが、ブースターへの燃料充填がまだです」
艦隊の準備は着々と進んでいるが、まだ出撃が可能な段階ではない。そんな状況でも集まった戦力の数に皆の士気の高まりを感じる中、時間は刻一刻と過ぎていく。艦長は原作とは大きく違う道を進むこととなった現状を見て、最早やれることをやるしかないと覚悟を決めていた。