狼のヒーローアカデミア   作:ベネット

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入学式

 

「……あのー」

「?新入生かしら」

 

雄英高校職員室。

入学式当日という特別な日であったが、式までまだまだ時間があるため教師陣の席にも空席が目立つ。

そんな中、入学式に向けた準備に取り掛かっていた教師ーー"18禁ヒーロー:ミッドナイト"は、職員室の入り口からひょっこり顔を出している見覚えのない生徒に気が付き声を掛けた。

 

(あら……この子)

 

「傘咲保与と申します!この度は新入生代表に選んで頂いたため、こうして早めにご挨拶に伺わせて頂きました!」

 

艶のある銀髪と宝石の様な緑の瞳を輝かせた少年は、見るからに緊張した様子でカクカクと頭を下げた。

 

(ーー青臭!!)

 

そんな少年が見せる非常に初々しい様子にキュンキュンくる18禁ヒーロー。

 

「……?」

 

身悶えしている間に、反応が無いことが気になったのか。

目の前の少年は顔を上げてーー

 

「綺麗……」

 

ほう、と熱い溜息を漏らした。

 

「っ」

 

"18禁ヒーロー:ミッドナイト"

彼女はSM嬢のような過激なコスチュームに身を包む長身の美女であり、デビュー当時にはその過激すぎるコスチュームが話題となり、それを機に国が『コスチュームの露出における規定法』を制定する事になったという逸話がある。

そのような伝説を生み出した彼女だったが私生活においては割と真面目であり、自身の個性の都合による"過激な格好"に対する「青少年のアレコレ」についても寛容だった。

 

(なんて目で見るのよこの子!)

 

そんな彼女が戸惑ったのは、普段自身に向けられる視線とは少し種類が違う物を感じ取ったから。

 

ーーそれは溢れんばかりの好意。

 

(えっと……悪い気はしないけど、これってあんまり良くないんじゃないかしら……私教師だし、生徒とそういう関係にはなれないし……)

 

「おはようございます!」

 

そんな微妙な雰囲気を吹き飛ばすような快活な声が響き渡る。

 

ぬっ、と職員室に顔を出した男は巨漢だった。

筋骨隆々という言葉がこれ程似合う者も他にいない。ただしそこに巨漢特有の鈍さはなく、只々はち切れんばかりのエネルギーを感じさせる男。

 

「改めまして、本日から皆さまと共に働かせて頂きます!教師として若輩者ではありますが、どうかご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします!!」

 

彼こそが、オールマイト。

存在そのものが敵犯罪の抑止力とされ、"ナチュラルボーンヒーロー"、"平和の象徴"と称される生ける伝説。

 

彼がデビューした当時、超人社会は今とは比べ物にならないほど混乱しており、超常能力"個性"を悪用する犯罪が当たり前のように横行し、人々は犯罪者の影にいつも怯えながら暮らしていた。

 

彼はそんな世の中で誰よりも多くの人々を救い出し、凶悪なヴィランを次々と打ち倒すことで、犯罪への抑止力となり、混迷の最中にあった社会の在り方を一変させたと言われている。

 

 

「こちらこそ光栄だ、NO1ヒーロー」

「分からないことがあったら何でも聞いてください!」

「共に生徒達を導いていきましょう」

 

「ありがとう!……ん?」

 

そんな中、自身の近くに例の生徒(・・・・)がいることに気がつく。

 

「生徒がいたのか!ゴメンね急に!」

 

HA HA HAーーと、時には画風が違うと評される濃い顔で笑いながら、しかしトップヒーローの頭にあるのは少しの懸念だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかし今年は粒揃いだな」

「ああ、特にあの1位!」

 

雄英高校会議室にて行われる合格者の選定は、その日1番の盛り上がりを見せていた。

 

「敵ポイント310って前代未聞だろ!これ歴代TOPじゃねえか!?」

「ああ。例年、試験内容は異なるから一概に比べることは出来ないが……それでも規格外だ」

 

話題に挙がるのは、今年の実技総合成績第一位の少年。

 

「まあ試験内容と相性が良かったっていうのもあるがよ、ありゃどんな現場でも活躍できんだろ」

 

そう評する、首周りにスピーカーのような装置をつけた男の名は"プレゼント・マイク"。

実技試験のプレゼンテーションを担当していた彼もまた、日本が誇るプロヒーローだ。

 

「ああ、戦闘力は言うに及ばず。索敵や人海戦術にも効果的だろう」

「活躍の場は市街地だけじゃない。狼なんだし山岳地帯なんかも得意なんじゃないか?……救助活動は若干怪しいが」

「めちゃくちゃ怖かったですもんね、あの狼」

 

彼だけではない。

そんな意見交換をする教師陣は全員が実績のあるプロヒーロー。試験の場に留まらない、現場の意見が交わされていく。

 

「まあ、流石に合格は確定だが…… これ(・・)もこいつがやったと思うか?」

「「「…………」」」

 

そんな中、1人の教師が零した言葉に沈黙が落ちる。

モニターに映るのは0ポイント敵による破壊の痕跡がーー驚くほど少ない試験会場。

 

「んで、これがその映像」

 

受験生達の上に降り注ぐ瓦礫が、空中で粉々になっていく。

またそれ以外にも、破壊された仮想敵がゴロゴロと転がり1箇所に纏められていく。

 

それはまるで、遊び終わった玩具を片付けるように。

大きなゴミを処分するかのように。

 

「念動力か、はたまた風か」

「風だったら今年の推薦入学者にいましたよね、えーと」

「ああ、あいつなら辞退するそうだ」

「「「ーーはあ!?」」」

 

日本一高い壁と称される雄英高校の入学試験。その推薦入試合格者という栄誉を手放す者の存在に驚愕する教師陣。

 

「なんだってそんなーー」

「おい、関係ない話は他所でやれ」

 

無精髭を生やし草臥れた格好をした中年男。

日本最高峰、と称される学舎にはやや似つかわしくないように見える男だが、その言葉で会議は本筋に戻った。

 

「この会場にこんなことが出来る"個性"を持っている受験者はいなかった。そしてこの現象が明らかにコイツの意思に基づいて起きている以上、これもコイツの"個性"であることは明白だ。そこから議論するのは時間の無駄だ。合理的じゃない」

「そうは言うがな、"イレイザーヘッド"」

 

下顎から突き出た牙と、左頬に十字傷があるのが特徴的な筋肉質な男性の名は"ブラドキング"。

彼と"イレイザーヘッド"と呼ばれた無精髭の男は共に今年の一年生ヒーロー科の担任になる予定だった。

 

「傘咲保与。個性"千疋狼"。申告された資料には、自身の近くに狼の群れを召喚し使役する。また自身も特殊な力を持つ狼に変身できるーーとあるが、この現象は明らかにその範疇を逸脱している」

 

モニター越しの異常は、彼の周辺に留まらない。

明らかに視界に入らない遠方に於いても同じ現象が起きていた。

 

「特殊な力を持つ狼、という点に含まれているのかもしれんが……この出力は異常だ」

 

昨今個性は複雑化し、多様な能力を発揮する物もある。彼自身も何度かそういった個性を指導した事があったがーー

 

それを前例として並べると、今回のこれはあまりに強力過ぎた(・・・・・・・・・)

 

「だからこそ!僕らがその力を正しく導く必要があるのさ!」

「校長……」

 

ハハッ!と笑って周囲を恐怖に陥れている二足歩行のマスコットのような白いネズミこそ、この場の最上位者。

 

根津校長。

その可愛らしい容姿とは裏腹に、個性『ハイスペック』により人間以上の頭脳となった世界でも類を見ない“存在だ。

 

「強力な力を持つからこそ、僕らはその力を使って他人を助ける道を選んだ。そして同じ道を歩もうとしている彼らを、先達(・・)として導くためにここに集まっているのさ!」

 

 

 

 

 

 

 

(ーー勿論、分かっているさ!)

 

目の前にいる少年は、ヒーローを志して集まった金の卵。

彼だけじゃない。

自身も指導することになる少年少女達は、1人1人が無限の可能性を秘めた若き力だ。そこに疑いはない。

 

ズキッ

 

「!」

 

(呪いだな、これは)

 

軋む様に痛む身体が、かつての悪夢を思い出させる。

 

「君は傘咲少年だったね。少し早いが入学おめでとう!新入生代表の挨拶かな?緊張するだろうが……安心しなさい。私もいる!教師としては新人だからね。お互い頑張ろう!!」

 

(もうあいつはいない!警戒し過ぎだぞ八木俊典!)

 

複数の個性(・・・・・)に見え、微かに沸いた疑心を振り切ってみれば目の前には初々しい新入生がーー

 

「…………」

 

無言で立ち尽くしていた。

あれ、滑った?

 

「あー、少年?」

「…………」

 

ポーっとしたような、熱に浮かされたような視線。

少しの沈黙の後に、ぽろっと一言。

 

「……かっこよ」

「!?」

 

 

 

 

 

 

 

「「「個性把握……テストォ!?」」」

「入学式は!?ガイダンスは!?」

「そんなもの、ウチにはないよ」

「ダウトォ!それ絶対ダウト!」

 

僕たち(・・・)は急に教室に現れた担任に、グラウンドに連れて来られていた。

 

「雄英は"自由な校風"が売り文句。そしてそれは先生側もまた然り」

「でもあの、20人って聞いてましたけど1人居ないんですが!」

「ああ、新入生代表だってさ」

「それ入学式じゃん!バリバリあるじゃん!?」

 

(((そして可哀想……)))

 

今頃1人で入学式に臨んでいるであろうクラスメイトに黙祷を捧げる生徒達を尻目に、"相澤消太"と名乗った担任の説明は続く。

 

「ソフトボール投げ、立ち幅跳び、50メートル走、持久走、握力、反復横跳び、上体起こし、長座体前屈。中学の頃からやってるだろ"個性"禁止のテスト……国は未だ画一的な記録を取って平均を作り続けてる。ま、文部科学省の怠慢だな」

 

そういった相澤先生はボールを1人の学生ーー自身の幼馴染に投げ渡した。

 

「爆豪。中学の時のソフトボール投げ、何mだった?」

「67」

「その円の中に入って"個性"使ってやってみろ。円から出なきゃ何してもいいから、はよ」

「……んじゃまあ」

 

そう言うと振りかぶってーー

 

「死ねえ!!!」

 

爆風と共にボールを打ち上げていた。

……死ね?

 

「まずは自身の最大限を知る……それがスタートラインだ」

 

先生が手にした機械からピピッと音がして、こちらに見せられる。

 

「705.2m!?」

「なんだこれ!!すげー面白そう(・・・・)!」

「個性思いっきり使えるんだ!流石ヒーロー科!」

 

ワイワイと盛り上がる生徒達の中で、僕は1人慌てていた。

 

(ちょっと待てよ。マズイぞ8種目って。あの力(・・・)はまだ僕には)

 

面白そう(・・・・)……か。ヒーロー目指す3年間、そんな腹積りで過ごす気でいるのか」

 

声が低くなった相澤先生は

 

「よし、トータル成績最下位の者は見込み無しと判断し"除籍処分"としよう」

 

そんな、絶望的な言葉を口にした。

 

 

 

 

 

 

 

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