狼のヒーローアカデミア 作:ベネット
きっかけは、一つの古い動画
『お母さーん、パソコン!』
『またー?もう、出久だけで再生数1万は増やしてるんじゃない?』
昔起きた大災害。その直後の1人のヒーローのデビュー動画。
ーー見えるか!?もう100人は救い出してる!!やべえって!!まだ10分も経ってねえ!やべえって!!
悲嘆と絶望に満ちた空気を吹き飛ばすような、力強い笑い声。
『もう大丈夫!何故って?』
『私が来た!!』
これが、僕の
『諦めた方がいいね。この世代じゃ珍しいーー何の個性も宿ってない型だ』
どんなに困っている人でも笑顔で救ける超かっこいいヒーロー。
『なれるわけねぇだろ無個性のザコが!』
『そんなにヒーローになりてえなら……来世は個性が宿る信じて、屋上からのワンチャンダイブ!』
憧れは夢になって。でも夢はいつか覚めるもので。
『相応に現実も見なくてはな……少年』
僕の夢はここで終わりーーそう思った。
『なんだありゃ!ヘドロと……爆炎!?』
『ベトベトで掴めねぇし良い個性の
『駄目だ!今この場には解決できる個性持ちがいない!』
"あの子には悪いが応援が来るまでもう少し耐えて貰おう"
『〜〜!』
色々理屈はあったと思う。
『!?馬鹿ヤローー!!止まれ!!止まれ!』
ただ、気がついたら走り出していた。
『爆死だ』
怖かった。
とても怖かったけど。
(どうしようどうしよう!こういう時はーー)
走馬灯のように、これまでの記憶が駆け巡る。
その中には夢であるプロヒーロー達やその個性について分析したノートもあって。
(将来の為のヒーロー分析ノートNO13、25ページ!)
鞄の中身をヘドロのようなヴィランの視界に向かって投げ捨てる。
そして生まれた一瞬の隙に、その流動性の体に飛びついた。
『ブハッ!げほっーーてめえデク!なんで!』
口周りのヘドロ状の物体を掻き分けられ、喋れるようになった幼馴染。だが噛み付くような視線と口調には一片の感謝も見受けられない。
自身の幼馴染である「爆豪勝己」
"爆破"という強力な個性に加え、優れた頭脳と身体能力を併せ持つ男の性格は一言で表現するなら傲岸不遜。自尊心の塊。
そんな彼と自身は、お世話にも良好な関係とは言えなかった。今朝も"平凡な私立中学から出た唯一の雄英進学者という箔をつけたい"という、とてもみみっちい理由で雄英高校の受験を辞退するよう脅迫された。"屋上からのワンチャンダイブ"だって彼から言われた言葉だ。
『足が勝手に!!何でって……分かんないけど、でも!』
嫌な奴だった。
今だって、別に自分が何かする必要はない。
こんな事をしても、逆にヒーローの邪魔になるかもしれない。
ーーそれでも
『君が、助けを求める顔をしてた!』
「ッッ」
結局、僕がしたこと自体に大した成果はなかった。
駆けつけたNO1ヒーロー"オールマイト"。その圧倒的な力で、ヴィランは吹き飛ばされた。パンチ一発で上昇気流が発生し雨が降り始める。
『すげえええええ!!!』
『右手一本で天気が変わっちまった!これが……オールマイト!』
その後僕はヒーロー達に物凄く怒られ、逆に幼馴染の"かっちゃん"はそのタフネスと個性を賞賛されていた。
(何か出来たわけでもない。変わった訳でもないーーでも良かった。これでちゃんと身の丈にあった将来を)
『私が来た!!』
『わっ!オールマイト!?何で……さっきまで取材陣に囲まれて』
『抜け出すくらい訳ないさ!何故なら私はオール……ゲボォ!』
『ぎゃー!?』
HA HA HAーーと笑っていたオールマイトがいきなり吐血し、蒸気をあげたと思ったらガリガリに痩せた人物に変わっていた。
それこそが、NO1ヒーローの秘密。
数年前に敵の襲撃で重症を負い、度重なる手術と後遺症で憔悴しヒーロー活動は1日3時間程度が限界となったーーそう語っていた。
『少年、君には礼と訂正……そして提案をしに来たんだ』
「個性」のない人間でも、あなたみたいになれますか?
ーープロはいつだって命懸けだよ。「
それは、少し前のやりとり。
『あの場の誰でもない。小心者で"無個性"の君だからこそ私は私は動かされた!』
『トップヒーロー達は学生の内から逸話を残しているがーー彼らの多くがこう話を結ぶ!』
考えるより先に身体が動いたーーと。
『君もそうだったんだろう!?』
『ーーッ』
心臓が脈打つ。身体が熱くなる。
ーー何故か母の言葉を思い出していた。
ごめんねえ出久ごめんね……!
(違うんだお母さん)
(僕があの時言って欲しかったのは)
『君はヒーローになれる』
ずっと欲しかった言葉。
それを誰でもない、自身の
これ以上の衝撃なんてーー
『君なら私の力を受け継ぐに値する!!』
『……へ?』
そしてオールマイトから語られた個性「ワン・フォー・オール」
代々聖火の如く受け継がれ、救いを求める声と義勇の心が紡いできたーー力の結晶。
『元々後継は探していたんだ。そして君になら!渡しても良いと思ったのさ!さあ、どうする?』
答えなんて決まっていた。
『夢』を『現実』にする為の、僕の物語が始まった。
『じゃあとりあえず、この海浜公園のつもりに積もった粗大ゴミを片付けながら全身を鍛えようか!私の個性「ワン・フォー・オール」は生半可な身体だと受け取った瞬間に四肢がもげて爆散しちゃうから!』
『四肢が!?』
『前にも言ったがヒーローは"無個性"でも成り立つ様な仕事じゃない。悲しいがこれが現実だ。しかも緑谷少年は雄英志望だろう?あそこはヒーロー科最難関!それまでの残り10ヶ月で
『そこでこれ!私考案の「目指せ合格!アメリカンドリームプラン」!!!ぶっちゃけ超ハード。ついてこれる?』
『はい!』
そうして始まったトレーニングは、本当に超ハードだった。
数えきれないくらい吐いたし、それでも必要な栄養をとるためお母さんにお願いして決まった献立の特別メニューを用意してもらった。
『ヘイヘイヘイ!オーバーワークは逆効果だぞ!合格したくないのか!?』
気持ちが空回りしてしまったこともあったけど、オールマイトはそんな僕の気持ちを汲んでスケジュールを調整してくれた。そしてーー
『おいおいマジかよ。指定した区間以外まで完璧に……チリ一つない』
『胸を張れ少年。これはただ与えられたものじゃないーーこれは君自身が勝ち取った力だ。早速授与式といこう!』
「ーーはい!」
そう言ったオールマイトは自身の特徴的な前髪を一本引き抜いてーー
『食え』
「へあ!?」
ーーそうして力を授かってから、たったの3時間後に挑んだ雄英高校実技試験。
『標的補足!!!ブッ殺ス!!!』
(ビビっちゃうのコレもう癖だ……なんで足動かないんだよ、馬鹿ヤロウ!)
1ポイントすら取れずに迎えた試験の後半。
お邪魔ギミックと称された巨大仮想敵が出現した時、僕は迷わず逃げようとして。
『痛……』
転んじゃったら縁起悪いもんね、と言いながら。
自身の個性で僕が転ばないように助けてくれた女子が倒れたのが見えた。
『ーーーー』
"器は成したが、あくまでそれは急造品。力の慣らしも出来なかったからな。肉体への反動は覚悟しておくことーーあと大事な事を一つ。私の個性「ワン・フォー・オール」を使う時は、ケツの穴グッと引き締めて心の中でこう叫べ!"
『
そこから先はあまり憶えていない。
無我夢中で飛び出して、視界一杯に広がった仮想敵を全力でぶん殴りーーそれで終わり。右腕と両足を骨折して動ける筈もなく、試験はそこで終了。
『ちょっと出久!何焼き魚と微笑み合ってんの!?』
そして放心して過ごした数日後。
『筆記は取れていても……実技は0ポイント。当然不合格だーーそれだけならね!』
『すみません、あの……私と同じ会場にいた、頭もさもさの人分かりますか?えーと、こう、地味めの』
合否通知で送られてきた動画に映るのはオールマイトと、試験会場で一緒だった女の子だった。
『あの人に私のポイント分けるって出来ませんか!?』
"助けてもらったんです!ーー私のせいでロスした分、せめて!"
『個性を得て尚、君の行動は人を動かした』
『先の試験で見ていたのは敵ポイントのみにあらず!
『
『合格だってさ』
多くの人に救けられて、僕の人生は変わっていく。
『……!!っっはい!』
『夢』を『現実』に変える為の一歩を、踏み出した。
そうして迎えた雄英高校での最初の1日はーー
「よし、トータル成績最下位の者は見込み無しと判断し"除籍処分"としよう」
「「「はあああ!?」」」
早くも暗雲が立ち込めていた。
「最下位除籍って……!入学初日ですよ!?いえ、初日じゃなくても理不尽過ぎる!」
「自然災害、大事故、身勝手なヴィラン達……世界は理不尽に溢れてる。そしてそんな理不尽を覆していくのが"ヒーロー"だ。放課後マックで談笑したかったならお生憎様。雄英はこれから3年間、君たちに全力で苦難を与え続ける。ーー
そうして始まった個性把握テスト。
「50メートル……3秒04!?」
「速!」
ふくらはぎからバイクの排煙筒のような物を生やした生徒は俊足で駆け抜け。
「皆工夫が足りないね」
ある生徒はお腹からレーザーのような物を出し、その反動で宙を舞った。
(まずいまずいまずい!僕の個性は調整が効かない……一度使えば身体が壊れてしまう力!調整……イメージは出来ても実践となるとッ)
「えい」
「ーー凄え!みんな、記録∞が出たぞ!!」
(ダメだこれ!実践ですぐできる様な簡単な話じゃない!皆個性を使って一つは大記録を出してる……このボール投げの後は持久走、上体起こし、長座体前屈ーーもう後がない!)
このままだと、僕が最下位。
(そんなの嫌だ!)
せめて一つだけでも大記録を。その一心で個性を発動させようとしてーー
「記録、46m」
「……え?」
「個性を消したーーつくづくあの入試は合理性に欠く。お前のような奴でも合格出来てしまう」
そう言った先生の首元で揺れるゴーグルを見て、ようやく気がついた。
「視た人間の
「イレイザーヘッド?」
「ウチ名前だけは知ってる。たしかアングラ系のヒーローだよ」
ざわつく生徒達の前で、何故個性を消したのか語られていく。
一度の力の行使で動けなくなり、
(僕はまだ、力を0か100でしか使えないーーでも相澤先生のいう通りだ)
普通に力を使ったら、また腕が駄目になる。
だから僕は指先一点……そこだけに「ワン・フォー・オール」を使った。
「記録705.3m!」
「先生……まだ、動けます」
人差し指は赤黒く変色し、思う様に動かせない。
ーーでも
「こいつ……」
その時、ずっと無表情だった先生の顔が少し笑ったように見えて
「どーいうことだこらワケ言えデクてめえ!!」
「かかか、かっちゃん!?」
手から爆炎を放ちながらこちらに駆け寄ってくる幼馴染を見て悲鳴をあげてしまった。
「やれやれ……ん?」
「死ねコラ!!」
「うわああ!!!」
過去のトラウマから思わず目を閉じて
「ーーブッ!?」
一瞬だけ、凄い風を感じた。
同時に聴き覚えのある声に目を開けると……
「かっちゃん!?」
自身に襲い掛かろうとしていた幼馴染が、地面に仰向けになっていた。
「…………んだ、こりゃ」
普段の機敏さからは想像も出来ないような、のろのろとした動き。
鼻血が出たのか顔に当てた手のひらの下から、赤い雫が落ちるのが見えた。
「大丈夫かっちゃん!?」
駆け寄ろうとして、先程より距離が離れていることに気がつく。
(何がーー)
「ごめん。余計だった?」
「!?」
いきなり声をかけられ、咄嗟にそちらに向き直ると見慣れない生徒がいた。
(ーー凄い)
印象としては銀と宝石。
目鼻立ちが整っているのは勿論、不思議と惹きつけられる絢爛な雰囲気。
自身と同じで、どこか違う翠の瞳と視線が絡み合ってーー
「テメェだな、今の……!」
BOOM!!
「かっちゃん!?」
聴き覚えのある爆発音に目を向けると、マグマのような怒りを噴出させた幼馴染がいた。
「そうだよ。凄い剣幕だったから……でもごめんね。出来るだけ手加減したんだけど、怪我させちゃった。一応リカバリーガールに見てもらった方がいいかも」
付き添うよ、という言葉にーー
ブチッという音が聞こえた気がした。
「ぶち、殺す」
地面から身体を起こしていた幼馴染が、掌から小規模の爆発を繰り返しながらバネ仕掛けのように跳ね起きる。
「……はあ」
それを見た銀色の生徒は溜息をついた。
そして指先が微かに動いてーー
「いい加減にしろ」
「ぐっ!?」
かっちゃんの身体に布のような物が巻き付いていた。
「んだこれっ」
「炭素繊維に特殊合金の鋼線を編み込んだ『捕縛武器』だ。……何度も"個性"使わすな。俺はドライアイなんだ」
(((個性凄いのに勿体無い)))
皆と心の声が一致した気がした。
「それと傘咲。新入生代表お疲れさん」
「はい先生。針のむしろでした」
(やっぱり彼がーーそれにしてもさっきのは一体どんな個性なんだ?……見えない物体を飛ばした?いやそれにしてはかっちゃんが飛ばされた距離に説明がつかない気がする。いくらかっちゃんでも、物をぶつけられてあの距離を飛ばされたならもっとダメージを受けるはずで……だとしたら」ぶつぶつ
「それはそれとして、今みたいな個性の使い方もう一度したらその時点で除籍だ。肝に銘じとけ。あと早速で悪いが、お前にもこれから個性把握テストを受けてもらう……ああ、因みに最下位だったら除籍な」
「はい……ん?」
「ほら準備。巻きでいけ。はよ」
除籍……?と首を傾げている彼を含めて、個性把握テストが再開した。
相澤先生は鬼畜だと思う。
「はよ」
全校生徒の前で、夜なべして作ったカンペを見ながらの新入生代表の挨拶。全ての緊張から解き放たれウキウキしながら向かった自分のクラスにはーー誰も並んでいなかった。
あの時の絶望と羞恥心を、今ここで!
「おらーー!!」
ピピ
「記録ーー"測定不能"!?」
「流石首席なだけあるな!……でも∞との違いってなんだ?」
「……測定不能は単に測定機器の限界を超えた記録。∞は理論上限界がない記録だ。傘咲、お前の"個性"はあのボールを無限に飛ばせるか?」
「いえ。やったことないけど多分無理だと思います」
疲れそうだし。
というかクラスメイト達の口振りからして、自分の前に記録∞を出した猛者がいるのだろうか。
「ーーッ」
そして先程から、あの頭がボンバーしているクラスメイトが血走った目でこちらを睨みつけている件について。なんか手のひらも物理的にボンバーしていて怖いし、謝るのでどうにか許してくれないものだろうか。
「やっぱりそうだ!周りに風が吹いてるし、多分風を操る個性!でも風を操るだけならあまり攻撃性能は高くない筈ーーでも実際かっちゃんが何かにぶつかったみたいに鼻血を出したってことはよっぽど強い風か、あるいは……」ぶつぶつ
そして先程から、この頭がモジャモジャしているクラスメイトが血走った目でこちらを観察している件について。なんかぶつぶつ呟いていて怖いので、あっちを向いててくれないだろうか。
「残りは持久走、上体起こし、長座体前屈だが……傘咲。お前は他の生徒が終わらせた種目をさっさと済ませてこい。50m走、握力、立ち幅跳び、反復横跳びだ」
相澤先生が告げた種目は、どれも力や瞬発力を測定するものだった。だったらーー
「事前に個性使ってもいいですか?」
「フライングしなきゃ何でもいいよ」
言質とったり。
ーーじゃあやるか。
「皆さん。改めまして、初めまして。これから"個性"を発動させますが……あまり驚かないでくださいね」
ぽつり、ぽつり
先程まで快晴だった空にはどこからか黒々とした雲が入り込んでいた。同時に少し強くなり始めた風に雨が混じる。
(ああ、またやっちゃった。この癖、そろそろ治さないと)
自身の中で渦巻く力に意識を向ける。
……脳味噌が細い糸になってほどけていくような感覚。
「それでは皆々様。今後ともよろしくお願いします」
言い忘れてたけれど。
これは私が最強のヒーローになるまでの物語だ。