狼のヒーローアカデミア 作:ベネット
『被服控除』
入学前に「個性届」と「身体情報」を提出すると学校専属のサポート会社がコスチュームを用意してくれる素敵なシステムだ。要望を添付する事で便利で最新鋭のコスチュームが手に入る。
「皆どんな格好なんだろ」
私はそんなコスチュームを纏ったクラスメイトが集まってくるのを、一足先に演習場で待っていた。
(だって着る物これだけだし。流石に自分より薄着な生徒なんているわけが……)
「あれ?早いね男子!」
「いたーー!?」
空中に浮かんだ手袋とブーツが近寄ってきていた。
「葉隠さん女の子だよね!?まさか今全裸!?」
クラスでも制服だけ宙に浮いてる光景を見たが女子の制服だった筈だ。
「いやー、私の『個性』って"透明化"だからさ。それを活かそうとするとどうしても……」
「空中に手袋浮かんでブーツがひとりでに動いてるだけでも相当だよ!」
「安心してよ!本気になったら……脱ぐ!」
「見えない、とはいえ……もうちょっとこう!」
「傘咲くんだったよね。黒いコートもイケてるね!改めてよろしく!」
羞恥心とか無いのだろうか……等と考えていると手袋が差し出されたので、握手してみたら元気よく挨拶してくれた。表情は見えないけど、弾んでる声と上下にブンブン振られる手から察するに滅茶苦茶フレンドリーっぽい。
「……うん、よろしく葉隠さん」
個性把握テストで見せた"個性"を見て怖がってるクラスメイトもいるかな、と思っていたけど彼女はあんまり気にしてないみたいだった。
(それか気を使ってくれてるのかな)
どちらにせよ、クラスメイトとしてとても付き合いやすそうな部類だった。その存在に感謝をこめて手をニギニギしてみる。
「ありがたや、ありがたや」
「なにそれ!くすぐったいよー」
そんなやり取りをしているうちに、次々とクラスメイト達が到着し始めていた。
「じゃあ私みんなと挨拶してくるね!」
ブーツが弾むような足取りで離れていく。
「なあお前。ちょっとこっち来いよ……久々にキレちまったぜ」
(代わりにやべえのが来た)
ハー、ハーと息を切らして見るからにブチ切れてる小柄な生徒は、はっきり言って昨日のボンバーマンより怖かった。
「麗日さ……うおお……!」
聴き覚えのある声に目を向けると、緑の兎?っぽいコスチュームの生徒がぴっちりしたスーツの女子生徒と話していた。
「要望ちゃんと書けば良かったよ……パツパツスーツんなった。恥ずかしい……」
(可愛い……麗日お茶子さんだったっけ)
照れたように笑っている彼女は、入学前から緑谷くんと縁があったようで楽しそうに話している。
「なあ無視すんなよ……こっち向けよ」
(ウチのと交換して欲しい)
因みに峰田くんは話したら結構面白かった。
「さあ、始めようか有精卵共!戦闘訓練のお時間だ!!」
全員揃ったらしく、オールマイト先生からの説明が始まった。
「先生!ここは入試の演習場ですがまた市街地演習を行うのでしょうか!?」
そう質問した彼は確か飯田天哉くん。すっごい真面目そうな子だ。フルアーマーのコスチュームを着ていて一瞬誰か分からなかったけど、声と
「いいや、もう2歩先に踏み込む!屋内での
「君らにはこれから『敵組』と『ヒーロー組』に分かれて2対2の屋内戦を行ってもらう!」
「基礎訓練も無しにですか!?」
「その基礎を知るための実践さ!ただし今回はぶっ壊せばOKなロボじゃ無いところがミソだ!」
そのやり取りを境にクラスメイト達から一斉に質問が始まる。
「勝敗のシステムはどうなります?」
「ブッ飛ばしてもいいんスか」
「また相澤先生みたいな除籍とかあるんですか」
「分かれるとはどのような分かれ方をすればよろしいですか」
「このマントやばくない?」「やばい」
「んんん〜〜聖徳太子ィィ!!」
(かわよ……)
オールマイトは新人教師らしくこの手の進行は慣れていないらしい。
「良いかい!?状況設定は『敵』がアジトに核兵器を隠していて『ヒーロー』はそれを処理しようとしている!『ヒーロー』は『敵』を捕まえるか時間内に核兵器を回収すること。『敵』は制限時間まで核兵器を守るか「ヒーロー」を捕まえること」
(((カンペ見てる……)))
設定もかなりアメリカンっぽい。
「コンビ及び対戦相手は『くじ』だ!」
「適当なのですか!?」
「飯田くん、プロは他事務所のヒーローと急造チームアップする事が多いから……そういう事なんじゃないかな」
「なるほど先を見据えた計らい……失礼しました!」
「いいよ!早くやろ!」
(楽しそうだけど、これ場合によっては一瞬で終わりそう)
とはいえ不正する気もないので、用意された箱に手を突っ込んだ。
A:
B:
C:
D:
E:
F:
G:
H:
I:
J:
どうやらFチームらしい。
相方はあまり知らない子だったけど、同じくFと書かれた紙を握りしめているクラスメイトを発見した。
「口田くんって君だよね?よろしくー」
「……!」コクコク
「……あー。ひょっとして喋れない感じ?」
岩石のような頭が特徴的な大柄な男子生徒に話しかけたが、返事はなく頷きだけ返された。なのでそういう"個性"かな、と思って尋ねると
「……!」ブンブン
「…………?」
首を横に振られた……どゆこと?
「続いて最初の対戦相手はーーこいつらだ!!」
頭に疑問符を浮かべていると、オールマイトによって最初の対戦が発表された。
「Aコンビが『ヒーロー』!Dコンビが『敵』だ!」
(あ、緑谷くんvs爆豪幼年だ)
「敵チームは先に入ってセッティングを!5分後ヒーローチームが潜入でスタートする。他の皆はモニターで観察するぞ!」
緑谷くんに一声掛けようかと思ったけど、オールマイトが両チームに何やら話しかけていたのでやめておいた。
「じゃ、行こっか口田くん」
「……」コクコク
その後も会話のキャッチボールは成立しなかった。
『いつまでも"雑魚で出来損ないのデク"じゃないぞ……かっちゃん、僕はーー「頑張れ」って感じのデクだ!!』
『このーークソナードがあああ!!』
「アイツら何話してんだ?定点カメラで音声ないと分かんねえな」
おそらく上のようなやり取りが行われたAチーム対Dチーム。
対戦が始まるなり爆豪幼年が単独で突っ込み、それに緑谷くんが応戦。"個性"を使わずその猛攻を凌ぎ、最後はその超パワーで上の階まで天井をぶち抜いていた。そして時間稼ぎに徹していた飯田くんの度肝を抜く形で麗日さんが核兵器に接触。Aチームの勝利となった。
(結構突っ込み所はあったけど……室内でボンバーマンが大規模爆破して建物の壁消し飛ばしたり。核兵器に向かって瓦礫大量に飛ばしたり)
「まあ、今回のベストは飯田少年だけどな!」
「なな!?」
「けろ。勝ったお茶子ちゃんか緑谷ちゃんじゃないの?」
「何故だろうなあ〜〜分かる人!?」
「はい、オールマイト先生」
スッと手を挙げたのは、胸元が開いたセクシーなコスチュームを纏った女子生徒。
(確か八百万さんだっけ)
個性把握テストで身体から色々な物を生み出してた生徒だった。応用力が高そうな個性と、その圧倒的なおっぱいで印象に残っている。
「それは飯田さんが1番状況に則した行動をとっていたからです」
爆豪幼年は私怨丸出しの単独特攻に加え屋内での大規模破壊。緑谷くんも同様に核兵器の場所を正確に把握していない状況での大規模破壊。麗日さんは中盤で敵に成りきった飯田くんを見て吹き出すという気の緩み。また最後の攻撃が乱暴過ぎたこと。
「ハリボテを『核』として扱っていたらあんな危険な行動出来ませんわ。相手の個性に対する対策を行い且つ"核の争奪"を想定していたからこそ飯田さんは最後対応に遅れた。ヒーローチームの勝ちは『訓練だから』という甘えから生じた一種の反則のようなものです」
しーん
(((推薦入学者ってすごい!!)))
思っていたより詳しく分析され動揺するクラスメイト達。
「ま、まあ飯田少年もまた固すぎる節はあったりする訳なんだが……まあ、正解だよ、うん」
そして言うことが無くなり動揺する
「常に下学上達!一意専心に励まねばトップヒーローになどなれませんので!」
(あ、これ真面目にやった方がいいやつだ)
最初から巫山戯るつもりはなかったけど、出来るだけ遊び心は出さない方が良さそうだった。
「……見せ場を作ってあげたかったけど、ごめんね」
「……?」
『悪いな。レベルが違いすぎた』
第2対戦はBチーム対Iチーム。個人的には葉隠さんがいるIチームを応援していたのだが、はっきり言って勝負になってなかった。
Bチームの轟くんが建物の外壁に手をつけると、みるみる内に建物が凍りつく。後に残ったのは足を凍らされ動けなくなった2人だけ。
「仲間を巻き込まず、核兵器にもダメージを与えず、尚且つ敵の弱体化!」ガタガタ
「最強じゃねえか!」ガタガタ
その出力は並ではなく、少し離れた場所にあるモニタールームにまで寒波が及んでいた。
「けろ……」
辛そうな生徒もいるので、こちらで
「あれ、なんか……急に暖かくなった」
「あ、おい見ろ!轟ってやつ氷溶かしてるぞ!あんな事まで出来んの!?推薦入学者ってやっぱ凄えな!」
「……ふむ?」
チラリとオールマイトに見られた気がしたが、そのまま授業は進んでいった。
「みんな色々工夫してるね」
「…………!」コクコク
守り手はバリケードを作ったり、核兵器の周りにテープっぽい物を張り巡らせたり。攻め側は索敵して相手の場所を探ったりしていた。
「相手は青山くんと芦戸さんかな」
そしてどうやら自分達は最後らしい。自動的に相手も決まる。
(後は『敵側』か『ヒーロー側』かだけど……出来ればヒーロー側がいいな)
この訓練では15分という制限時間があるため、普通であれば敵側の方が有利だと言えるだろう。だがーー
(轟くんもそうだけど、私たちみたいな
加えて自身の能力である
「それでは最後の対戦!Eコンビ対Fコンビ!Eが『ヒーロー側』でFが『敵側』だ!」
(まあ、うん。2分の1だしね)
正直、一瞬で終わらせればオールマイトと……なんて期待が0だったというと嘘になるけど。
「じゃあ行こっか甲田くん」
「…………!」シュバババ
いや、手話じゃ分かんないって。
モニタールームside
最後の対戦者であるクラスメイトが出て行った部屋は、戦闘後の高揚と無事授業を乗り越えた安堵が入り混じった空気になっていた。
「にしてもちょっと楽しみじゃね?新入生代表ってつまり現状だと一年のTOPって事だろ?」
緊張から解放された反動で、これまでより気楽な発言も出る。もしこの場にいたのが相澤先生であった場合は出なかった台詞だが、短いやり取りでもオールマイトがテレビ越しに見ていた時と同じように、親しみやすいキャラクターであったことも拍車をかけている。
「いや分かんねえぞ?推薦入学者もいるし」
「あ、そっか……轟とかヤバかったよな」
クラスの視線が、圧倒的な"個性"を見せつけた推薦入学者に集まる。
「…………」
(((けっ、イケメンが……)))
それに反応せず、クールに佇む姿に一部男子が殺意を覚えた。
「でもあっちのイケメンは、なんつーかこう、緩いよな」
「ウチも思った!」
「凄く話しやすかったよ!」
(((ぶち殺す)))
女子が好意的なコメントを発し、男子の大半が殺意を覚えた。
「でも結局アイツの"個性"ってさーー」
Eコンビside
「風を操る人狼?」
「多分ね⭐︎」
『ヒーロー側』の2人はアジトに潜入する前に作戦会議をしていた。
「あー、凄かったよねあれ」
それは"個性把握テスト"での一幕。
ゥゥォオオオ!!
腹の底に響くような唸り声と共に、見目麗しい少年は精悍な人狼と化していた。その体格はオールマイトすら見下ろす程大きく、また見掛け倒しでもなかった。
『50m……0.5秒!?』
『ドヤ』
『立ち幅跳び……測定不能!』
『空飛べます』
『握力……壊れたので測定不能!』
『ごめんなさい。弁償は勘弁してください』
『がんばれー』
『……はあ。おい傘咲、それ走ってる奴らの気が散るから止めろ』
特筆すべきは、その圧倒的な身体能力。
フィジカルに於いては間違いなくこのクラス最強だった。
「ボール投げも立ち幅跳びも、風を操ってたんだと思うよ⭐︎」
「何それーー!2つの能力なんて反則じゃん!?」
シンプルに強力な変身能力に加えて、汎用性の高い風を操るハイブリッド個性。それがEコンビの予想だった。
「でも助かったね⭐︎」
「どこが!?」
「此処が狭い屋内だってことさ」
「……え?」
「外で戦う事になったらお手上げだったけど、狭い通路なら僕のレーザーは避けにくい筈⭐︎それに風を操る個性だって、室内じゃ使いにくいんじゃないかな?さっきの爆豪くんの評価を聴いてたら、あんまり派手に動けない筈だし⭐︎」
「……確かに!」
滅茶苦茶派手なマントと赤いサングラスという格好からは想像できないほど、相方は頭脳派だった。
「うおおーー!何とかなる気がしてきた!」
ぴょんぴょん跳ねる女子生徒から"個性"である液体が飛んで、相方のマントを溶かして穴を開けた。
「あ、あああああああああああ!!!」
「あっ、ごめたんごめたん」
「それではEコンビ対Fコンビによる屋内対人訓練、スタート!!」
スタートの合図が流れる。
「わあああああーーー!?」
「喋れるの!?ふざけんな!」
「うん?」
「よし行こっかーーどうかした?」
「いや、気のせいみたいだ」
何か聞こえた気がしたが、とりあえず進む事にした。
「でもあれだけ早いとコレ巻くのも大変そうだよね」
"ヒーロー側"の勝利条件の一つ『確保テープ』
それを"敵側"に巻きつけた時点で相手を捉えた事になるアイテムだった。
「うん。だから無理に戦わず、僕が足止めしてる間に『核兵器』を確保するのが最善だろうね⭐︎」
ォォオオオウ!
「ーー来たよ!」
獣の唸り声に、すぐさま個性を発動出来るように身構えた。そして曲がり角から姿を見せたのはーー
「ぐるるる」
「えーと……イメチェンした?」
見覚えのある巨大な灰色狼だったが、昨日見た時と2つ違いがあった。1つは『個性把握テスト』で見た時は人狼ーー2足歩行だったのが今は4足であり、完全に狼だったこと。そしてもう1つが……
「…………」
飢えて血走った目。獰猛な野生そのものの気配。
(こんなに怖かったっけ?)
以前見た時は、ただただ圧倒されるような存在感だけがあり『恐ろしさ』は感じなかった。
ーーだが今は違う。
「傘咲くん役にハマり過ぎじゃない!?」
音を立てずジリジリと距離を詰める獣に言葉を掛けたのは、自分の内側に生じた恐怖を誤魔化すため。
「ガアアアーー!」
「ッ!」
それに一切応えることなく、獣は襲いかかった。
(やば、足が)
生まれて初めて経験する実践。そこに人智を超えた怪物に襲い掛かられる恐怖に足がすくんでーー
「ノンノン、僕から目を離すなんてね⭐︎」
眩い光が迸り、きゃいんと悲鳴をあげた怪物が止まっていた。
その血走った目は閉じられている。
「ーーありがと青山くん!」
相方のフォローに感謝し、灰色狼の足元に自身の"個性"である『酸』を分泌する。
「怖がらせてくれたお礼!してあげるから!」
声に反応した灰色狼が動こうとしてーーたたらを踏んだ。
(よし、狙い通り!)
芦戸三奈ーー彼女の個性は身体中から溶解液を噴出することができるものだ。酸の強度や粘度は自在に調節することができるため、今回はローションのような粘液を相手の足元にぶちまけていた。
(そして、ここ!)
視界を奪われ、足元の粘液で自由に動けなくなった灰色狼。
その足に……確保テープを巻きつけた。
「ーーぃ、ぃやったーーー!!」
「ウィ⭐︎」
予想以上に上手くいった結果に、笑顔が溢れる。
何せ相手は新入生代表……つまり暫定で学年最強の相手。
そんな相手の裏をかけたことに対する高揚感が湧き上がってーー
「「「「「ぐるるる」」」」」
「「……え?」」
目の前に、絶望が現れた。