貞操逆転・男女比偏重・美少女ソシャゲ・ゲッターロボ 作:芯鉄
衝撃的な事実を伝えられた翌日、俺は一冊の本を自室――小さな机と布団しかない殺風景な部屋――で横になって読んでいた。
母親から渡されたケッダーロボに関する数十冊の専門書の中から、「よくわかるケッダーロボ」と表紙に書かれた一番初心者向けそうな本を選び、最初に読む本と決めた。
その本には、ゲッターロボのパチモンのことが開発経緯から書かれていた。
まずケッダーとは宇宙から降り注ぐ宇宙線のことであり、ケッダ―線を動力炉とするロボットだからケッダーロボと呼ばれるらしい。
「うん。名前以外はゲッターロボの基本設定と同じだな」
ゲッターロボの作品はアニメや漫画、OVA等の様々な媒体で発表されているが、異なる世界観が複数存在する。
しかし、一部の例外(アニメ版號)を除き、基本的に宇宙線であるゲッター線を動力にするロボットの設定は共通している。
ゲッターロボと違いを確認しながら本を音読していると、ある項目に至り、声を荒げてしまった。
「『ケッダー線の発見し命名者でもある早乙女博士については』……っておかしいだろが!」
この世界にゲッターロボの開発者である早乙女博士が存在する事実よりも、早乙女博士がケッダ―線などというおかしな名前を付けている事実に驚いた。
「おかしい。早乙女博士ならどんな世界に生まれてもゲッター線と名付けるはずだ。まかり間違っても、ケッダーなんてダサすぎる命名をするセンスはないはずだ」
本の最後尾にある索引から早乙女博士の項目を見つけ出し、早乙女博士個人について書かれたページを探した。
それによると、30年前にケッダー線を発見した博士は、極秘に研究を進めていたが、20年前に発生した事件の際に、人々を助けるためにプロトタイプのケッダーロボを出撃させた。多くの人々にケッダーロボを目撃され隠ぺいができなくなったことで、博士は世間にケッダー線とケッダーロボの存在を公表したらしい。
また、プロトタイプのケッダーロボは一人乗りで合体機能を持たない機体であったが、早乙女博士はケッダーロボ公表の10年後に戦闘機3機による合体・変形機能を有したロボットを完成させたとも書かれているた。
そして、早乙女博士個人についての情報は、写真や生年月日はおろか、下の名前すら記されていなかった。
どうやら誘拐や暗殺などの危険から身を守るために、個人情報については伏せられているらしい。
「じゃあ、早乙女という名字も偽名の可能性があるのか。それなら、この早乙女博士は偽物に違いない」
厄介なオタクみたいなことを言っていることは自覚しながらも、どうしてもケッダーと名付ける早乙女博士は解釈違いなので、自分の中では早乙女博士(偽)として扱い、これ以上の博士個人の調査は諦めた。
そして、ついでにケッダーという名も呼びたくないので、世間一般で呼ばれている通称的な名前として本に書かれていた「KD」とこれからは呼ぶことに決めた。
「KD線にKDロボか。よし、これなら声に出しても抵抗感は覚えないな」
呼称に関する折り合いをつけた俺は、改めて本を読み進めた。
パチモンには乗りたくないという気持ちが和らぎ、名前はなんであれロボットに乗ってみたいとの思いが強くなった。
抵抗感が減ったためか、これまでよりページが読む速度も速くなり、KDロボが20年前から戦っている『敵』や世界の国々(国名は前世と同じ)へKDロボが配備される経緯について知ることが出来た。
そして、一番知りたい内容が書かれたページに到達した。
「『KDパイロットの資質』か。えっと、『KDロボの適正は男性は有しておらず、女性にしか乗ることが出来ません』……どういうことだよ!!」
目についたのは、KDロボは男性には乗れないという文章。
「じゃあ、どうして俺は11年間もあんな地獄のような鍛錬をして……いや落ち着け、まずは、適正について確認してからだ」
本によると、まずKDロボを適性のない人間が乗れば、機体の移動時にかかるG(重力加速度)により、瞬く間に意識を失い、全身を骨折するようだ。
では適性のある人間が乗ればどうなるかといえば、コクピットの機構によってGの影響をほとんど受けないようになっている。
KDロボのコクピットKD線が高濃度に充満しており、適性のある人間が乗れば、Gの影響が軽減されるという現象が発生するらしい。
そのため、KDロボのパイロットには適性のある極一部の女性しかなることが出来ず、適性が一切ない男性がパイロットになった事例はないとのことだ。
KDロボに乗るための適正について、一通り本の内容を読んだ結果、適性のない男の自分をKDロボに乗せるために母親達が考えた方策について、理解した。
「適性のない人間が乗れば、人間には耐えられない負荷がかかる。ならば、負荷にも耐えられる超人的な肉体を持つ人間なら、適性がなくてもKDロボに乗れるはず」
人間に耐えられないなら、超人を用意すればいいというゲッターロボ作品のような単純ながらも狂気を孕む発想に対し、思わず苦笑を漏らす。
「上等だ。やってやろうじゃないか」
これまで受けてきた訓練を思えば、どんなに危険なロボットであろうと、今更ロボットに乗るこから逃げることは選択肢になかった。
〇
KDロボの存在を知らされてからの1年間は、従来の修行に加え、KDロボのコクピットを再現したシミュレーターによる操縦訓練とロボットの整備等に関する座学が修行に追加された。
こちらの肉体的・精神的疲労を無視した理不尽なまでの修行内容はこれまでと変わらなかったが、それでも俺はこの1年間の訓練はとても楽しかった。
これまでは終わりの見えないひたすら肉体を鍛える訓練ばかりでつらいものだったが、操縦の技術や知識を学ぶというロボットに乗るための明確なゴールの見える訓練が加わったことで、初めて修行が楽しいと思えた。
そして、1年間の修行を経て、15歳の誕生日を迎え――本来であれば高校1年生と学校に通う年齢にまでなっていた。
〇
「やあ、真一君。最近は夜遅くまで起きているようだね」
「ええ、KDロボに関する本を読むが楽しくてつい時間を忘れてしまいます。どうぞ座布団です」
夜10時を過ぎ、部屋の電気をつけたままにしていた俺の部屋に、眼鏡をかけ和服を着た細身の男性が訪ねてきた。
日中の修行の疲れもあるが、夜更かしに用いるための娯楽――漫画やゲームなどは一切与えられていないので、早寝早起きという生活習慣で過ごしていた。
しかし、KDロボに関する書籍数十冊を与えられてからは、寝るのを惜しんで読んでいた。
「はは。ここまでケッダーロボにのめり込むとは驚いたね。男の子は普通、こういう野蛮なものに興味を持つことはないはずなのにね」
「そういうものなんですかね。俺は今まで先生以外の男に会ったことがないので、そういうのは良くわからないです」
俺が先生と呼ぶ男性は、教師役の忍者の一人であり、座学を教える立場にあった。
そして、彼は俺の二度目の人生の中で、唯一言葉を交わしたことのある男性だった。
「世間一般の男子の趣味については、人それぞれだから一括りにできないけど、料理や家庭菜園とか、あとはアクセサリー作りが好きな子が多いかな」
「へえーそうなんですね。どれも自分には合わなそうな気がします。ちなみに先生はアクセサリー作りとかはしているんですか」
「最近はしてないけど、僕が君くらいの年齢の時には3日に1個くらいのペースで作っていたかな」
「すごいペースですね」
取りとめのない話を10分ぐらいしただろうか。
ふと、先生の様子がおかしいことに気づいた。
顔が少し下を向き、目線が泳いでいた。
「どうかしました先生。体調が優れないのでしたらお休みになられては」
「ああ、いや、そういうわけではないんだ」
こほんと軽い咳をし、
「君に大事な話があるんだ」
真剣な表情で話し出した。
「真一君は、今の自分が置かれている状況がとても異常なことが理解しているかい」
「それは……。はい。普通だったら、こんなに厳しい訓練を受けさせられるはずがないですよね。でも、ロボットに乗ることは俺が望んでいることでですから、なんというかその、気にしないでください」
俺の回答に対し、先生は首を横に振った。
「違うんだ。男の子の君がケッダーロボになんて乗りたいなんて思わされていること自体が異常なんだ」
「ロボットが趣味の男は変わっているということですか。でも、趣味なんて人それぞれですし、ロボット好きの男だって世の中には少しはいるんじゃないですか」
前世におけるロボット作品のファン層について、女性よりも男性の方が圧倒的に多かった。
だが、それでも女性ファンの数が0人というわけではなく、女性人気が高いといわれる作品も複数思い浮かべれることができた。
(いや、でも女性人気が高い作品って登場人物が美少年だったりで、ロボットよりもキャラ人気が高かったな。ロボットそのものが好きな女子っていうのはあまり見たことないな)
「今の君には、僕の言葉の意味は伝わらないようだね」
前世におけるロボット作品の女性人気についての考察という話の本筋からかけ離れていたことを考えていたところ、先生の落胆の声が耳に入った。
「先生……」
どのような言葉を返してよいのか悩んでいると先生が座布団から立ち上がり、障子を開けた。
「棟梁がよく言う言葉に『目に見えるものを信じるな』というのがあるだろう」
「えっと、確かによく言ってますね」
急な話題の転換に対し、戸惑いながら返答する。
「あの夜空に浮かぶ月だってここからだと綺麗に見えるが、実際は隕石の激突によるクレーターなどでぼこぼこになっているんだよ」
障子を開けた先にある満月を指さしながら先生は話していた。
「3年位前に、同じ月のクレーターの話をしてくれましたね」
「覚えていてくれてたんだね。それじゃあ、別の実例を見せようか」
そう言いながら先生は――帯の結び目を解いた。
重力に従い畳に落下する男性用の帯(半幅帯)見ながら、俺は先生の行動の意図を理解できないでいた。
「よく見るんだ」
そして、先生は着物をはだけさせ、今まで衣服で隠れていた部分を俺に見せつけた。
「女の体?」
さらしで胸を押さえつけ、布で腰のくびれが隠されていたものの、そこにあったのは、女性の体だった。
「先生は女だったのか!? なぜ性別を偽っていたんだ!」
思いもしなかった見せられ、混乱と羞恥の感情を発露した荒げた声で、問いかけた。
「ああ私は女だ。そして、なぜ男としてふるまっていたかについては、棟梁の命令があったからだよ」
「お袋の命令?」
「そうだ。『周囲に同姓が一人でもいた方が精神的な安定になるだろう』と言っていたよ」
「我が母親ながらなんという……はっ!」
先生との会話に気を取られていた俺は、満月を見せるために開かれた障子の先から放たれた物体の接近に気づくのが遅れてしまった。
避けることが出来ない距離まで接近を許したその物体は――人間の頭部ほどの大きさがある鉄球だった。それが音速のスピードで自分に接近し、
「ぐはっ!!」
直撃を頭部に受けてしまった。