Long awaited tricksky   作:LANA(ラナ)

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こんにちはLANAです!
第1話となります!
遂に始まるトレセン学園生活!
まだまだ分からないことだらけのセイウンスカイは…?

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1.トレセン学園

 黒板にその日の予定を書き込んでいくチョークの音が、緊張から解放され好奇心へと変化を遂げた声にかき消されていく。

 黒板に刻まれた予定も、入学式の後のこの喧騒も、ありふれた"普通"の光景なんだけどなぁ、と座って頬杖を付きながらセイウンスカイは思う。

 ただ、目の前に広がる光景が"普通"でないことは、誰が見ても分かることだった。教室にいるのは教師を除いて全員ウマ娘だし、学校の名前は日本一のウマ娘レース名門校「日本トレーニングセンター学園」だ。これがこれからの"普通"になるとは、少なくとも彼女にはまだ思えていなかった。

 

「はーい!じゃあ皆さん一回席についてー!」

 

 その教室にいるウマ娘たちの担任になった女性教師が慣れた手付きで配布物をめくりながら声をかけた。軽く手を振りながら席に戻っていった生徒たちを見渡し、話を始めた。

 

「はい!皆さん初めまして!皆さんの担任になりました青柳美咲です!よろしく。今日の予定をなんだけど、黒板に書いてある通り最初にプリントを配って、その後学園内のWi-Fiとウマ娘レース専門サイト[[rb:URANS > ウラヌス]]を登録して、最後に皆さんに自己紹介して貰います!疲れたでしょ?それで今日はおしまいだからもうちょっと頑張ろう!それじゃ、さっそくプリント配りまーす!」

 

 前から流れてくるプリントを受け取って後ろに流しながら、セイウンスカイは密かに脳内で頭を抱えていた。"普通じゃないこと"に目が行きすぎて、"普通"に起こり得ることを忘れていた。『自己紹介』という新年度ならば当然のように出現する存在を。

 幸いなことにプリントを配る時間とデバイスの設定をする時間がこれからあるし、自己紹介のスタートは彼女からではなかったから考える時間はあった。

 考え初めて少し、机にプリントの小さな山が出来上がったころ、プリントの配布が終わった。

 

「次はみんなが持ってるデバイスに登録してもらうものなんだけど、Wi-Fi は一番最初に配ったプリントにWi-Fi名とパスワード書いてあるから今入れて登録してね~!それで、次に[[rb:URANS > ウラヌス]]なんだけど、これもプリントに登録の方法は書いてある通りだし、有名なサイトだからも知ってるって子もいると思うけど使い方と登録を諸々一通り説明するね」

 

 教師の説明の通り[[rb:URANS > ウラヌス]](URA Network Service)はレースに疎いウマ娘でも知っているとても有名なサイトだ。全国のウマ娘レースに関する情報が掲載されているサイトで、基本的にはその週のレースの開催情報から、有名ウマ娘の出走、療養、引退情報、インタビュー記事の掲載などありとあらゆるレース関連の情報が常に配信されている。

 この他にも、膨大な情報が入っているデータベース『ウマ娘名鑑』が閲覧できることがこのサイトの人気の理由になっている。この『ウマ娘名鑑』というのが、国内マイナー校のデビュー前ウマ娘から引退してしまった遠く離れた国のウマ娘まで、古今東西の競走ウマ娘のあらゆるデータも収蔵しているという優れものなのである。

 この時期は彼女たちと同様毎年トレセン学園に入学したウマ娘がどんどん登録を済ませていく期間であることから、輝くダイヤの原石を見つけようとばかりにサイトへレースファンが殺到しサーバー負荷が大変なことになることもしばしばあるのだった。

 新入生たちがレースはまだ先でも登録する意味は、ファンや未来のスポンサー、関係者へ向けての情報提供は勿論、登録を済ませておくことで、在学生と在籍トレーナーのみ閲覧できる専用ページからトレーナー契約やレース登録にも活用することが出来るからとのことだった。

 多少複雑な登録が含まれていることもあって時間がかかる子もいる中、セイウンスカイは早めに登録を済ませて再び自己紹介の内容を考え始めていた。

 最も彼女を悩ませているのは、恐らく聞かれるであろう「レースで目指す目標」の内容だった。

 無理にでも「三冠」みたいな大きいことを言うべきだろうか。それとも大真面目に「トレセン学園に入れると思ってなかったから、目標が決まっていない」なんて少し場の冷めることを覚悟してでも本当のことを言うべきだろうか。

 そんなこと考えがグルグルと彼女の頭の中で回っているなか、黒板には話して欲しい内容が書かれていった。その内容は名前や趣味のような基本的なものと、得意な脚質といったトレセン学園ならではの要素が加わったものだった。

「憧れのウマ娘、レースで目指す目標」

 この二つが追加されると、レースの目標だけじゃなく「憧れのウマ娘」まで!?と彼女はさらに頭を抱えた。 

 レース中継は休日に祖父とよく見てはいたものの、自身が走ることになるとは微塵も思ってもいなかった彼女には憧れのウマ娘というのが全く見当たらなかった。小さい頃は当然のように憧れを持ってはいたが、それは「走っている大きくて速いおねえちゃん」全員に向けられたものだったからだ。

 

 彼女が考え込んでいると、一人目のウマ娘が自信満々、誰でも来い!といった顔で自己紹介を始めた。

 

「はじめまして!ギガヒットって言います!趣味はレースのことを走りながら考えることです!得意な脚質は差しとか追込、後ろから一気に抜き去るのが得意です!憧れのウマ娘はウイニングチケット先輩で、アタシもあんな風にいつでも前向きで、大舞台で魅せるウマ娘になりたいと思ってます!走りに行くときは是非誘ってください!よろしくお願いしまーす!!」

 

 ギガヒットの元気を通り越してしまうほどの大きな声に圧倒されつつも、セイウンスカイの頭の中では目の回りそうな考え込みが吹き飛んでいた。

 そうだ、これから自己紹介する人から目標と憧れのウマ娘をちょっと拝借するとしよう。心の中で小さく頷き、彼女はそれからしっかりと自己紹介に耳を傾け続けた。

 そして彼女の番がやってくると、それまでと同じように彼女も立ち上がって淡々と話し始めた。

 

「はじめましてセイウンスカイです。趣味は釣りに行くこと。脚質とかはまだ決まってなくて色々模索してます。憧れのウマ娘はオグリキャップさん。目標は誰よりも楽しくレースをすることです。よろしくお願いします」

 

 場が冷めてしまうんじゃ…なんて心配していたようなことはひとつもなく、セイウンスカイは小さな拍手と共に自己紹介を終えたのだった。

 その後もクラスでは淀みなく自己紹介は続いていった。中には無謀と分かっても大逃げを好み選んで走ると言ったウマ娘もいたし、彼女たちが生まれる遥か昔に走っていた名も知らないウマ娘を目標とするウマ娘もいた。

 しかし、どんな作戦、どんな目標であっても目指すその先は入学したばかりの少女たちには近いようで遠い場所にある未知なる栄光のゴールだった。

 一人一人の少し熱を帯びた目標を聞いて、やはり"普通"の学校ではないことをセイウンスカイは感じ取っていた。そして、同時にトレセン学園では夢や目標を持たない彼女こそが最も"普通"でないことも。

 

 最後の一人が自己紹介を終え、暖かな拍手に包まれると黒板の端の方に立っていた担任が拍手をしながらゆっくりと教壇へと戻ってきた。

 

「皆さんお疲れさま!素敵な自己紹介ありがとう!学校生活についての話はまたこれからしていくから、今日はこれでおしまい、にしたいんだけど最後にもう一つだけあります。これから皆さんが生活する寮の鍵を配るから大切に持っててもらって時間が来たら美浦寮の人と栗東寮の人に分かれてそれぞれの寮に他のクラスの人も一緒に移動してもらいます。そこで部屋割りと色々な案内を寮長にしてもらう感じになるからそれだけ覚えててね。じゃ、それまでの時間自由にしててね~」

 

 そう言うと一人一人に鍵を配り始めた。セイウンスカイが受け取ったのは「美浦寮」と書かれた鍵だった。

 再び騒がしさが戻ってきた教室で、今度は彼女も近くに座っているウマ娘に声をかけられいくつか会話を交わしていた。そうして5分ほど経った頃、他のクラスでも鍵の配布まで終わったからそれぞれの寮に分かれて移動するように、と指示が出た。

 セイウンスカイと話していたウマ娘は一言「またねー」と告げると栗東寮側の集まりに移っていった。それを軽く見送ると、彼女もゆっくりと美浦寮の集まりへ入っていったのだった。

 

 セイウンスカイ達がこれから向かう美浦寮はトレセン学園の東側にあり、皇帝こと生徒会長のシンボリルドルフも暮らしている寮だ。ついに始まる寮生活、まだ分からない同室に、移動しているウマ娘達は好奇心を爆発させていた。

 到着するとすぐに暮らしているウマ娘達が共同で使っているテレビのある広間へ案内された。

 すると、一瞬それまでよりも大きく「ワッ」と声が上がる。寮長のヒシアマゾンが待っていたからだ。

 声が上がるのも無理はない、ヒシアマゾンはその強さから女傑と呼ばれ名だたるウマ娘と烈戦を繰り広げているウマ娘だからだ。そして寮長としも栗東寮のフジキセキに引けを取らない人気を誇っている。

 「案内役」とだけ書いたなんともシンプルな看板を掛けてムッとした顔で「なんでこんなもん掛けなきゃならないんだい」なんて愚痴をこぼしていなければ、もみくちゃにされていたかも分からない。

 どう反応したら良いのか分からない新入生ウマ娘達が顔を見合わせていることに気付き、ヒシアマゾンがそれまでから一変、一気に笑顔になって口を開いた。

 

「あぁ!良く来たね!寮長のヒシアマゾンだ!早速寮の中を見て回るのも悪くも無いけど、荷物も重いだろ?そこの掲示板に部屋の割り当ては書いてあるから確認しな!部屋に荷物を持っていって、少し整理したら夕食の1時間前にまたここに集合だ!部屋の場所が分かんないとかだったら遠慮無くアタシに聞きな!それじゃ解散!」

 

 そうヒシアマゾンが伝え終わると、新入生ウマ娘達の塊が一気に掲示板の方に移動して我先にと部屋を確認していった。集団の狭い中に入るのがあまり得意ではないセイウンスカイは、従姉妹のセイウンエリアと同室になってはいないだろうか、という淡い希望を持ってほぼ人のいなくなった掲示板で名前を探した。

 

「セイウン…セイウンっと……。お、やっぱりエリちゃんは一緒じゃないかー。で、私は…っと。」

 

 セイウンスカイと書かれた部屋もすぐに彼女の目に留まった。

 

「ここかー、私の同室は…先輩ね。お名前を拝け……

 んん?」

 

「どうしたんだい?」

 

 最後の方まで残っていたこともあって迷ってる子はいないかとばかりにヒシアマゾンが掲示板の近付いてきた。

 

「何かお困りごとかい?」

 

「あぁ、どうも寮長。いやー、別に困り事じゃあないんですケド……」

 

「なんかこう改まって寮長って呼ばれるのはむず痒いな。アタシのことはヒシアマさんか姐さんとでも呼びな!で、どうしたってんだい?」

 

「えーっと、それじゃヒシアマさん、この私の同室の『サクラローレル』さんって……」

 

「あぁ!そのことか!ってことはアンタがセイウンスカイだね?ちょうどローレルの同室が空いたってんで新入生の誰かに入って貰うってなったわけさ。アイツはケガから明けて絶好調だからね、アンタにも良い影響があるはずさ」

 

「じゃあやっぱり、ついこないだ中山記念を勝ったサクラローレルさんなんですね?」

 

「なぁに、緊張することはないさ。アイツは優しいやつだよ、ブライアンの話となるとちっとばかし怖いけどね。さぁ、そろそろ行った行った!時間になったら呼びに行くからな!分かんないことがあったらまた聞きな!」

 

 そう言うと、セイウンスカイの周りで迷っている他のウマ娘のもとにヒシアマゾンは向かっていった。

 

 緊張するなって言っても無理があるんと思うんだけどなぁとセイウンスカイは部屋に向かいながら思う。1つ深呼吸をすると、

「えーっと、こんにちはー?はじめまして…」

 

彼女は出来る限りの明るい挨拶をしながらゆっくりとノブを回して扉を開いていくのだった。

 




色々試行錯誤をしていた時期で、あんまり分けなくていいのに当時話数を分けちゃったんですよね。まぁ結局未だに何が正解かは分かってないんですよね。

※投稿日は2024年7月12日
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