Long awaited tricksky 作:LANA(ラナ)
無事入学を果たしたセイウンスカイ!最初のホームルームを終えた彼女はこれから生活を送ることの鳴る美浦寮へ!
同室のウマ娘が書かれていたが、そのウマ娘はなんと!中山記念を制した先輩サクラローレル!
高鳴る心臓を抑えてセイウンスカイはドアノブを回すのだった…
X(旧Twitter)やってます!
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「えーっと、こんにちはー?はじめまして……」
鳴り止まない鼓動を抑えて発したセイウンスカイの声は廊下を通って奥の部屋へ吸い込まれていく。彼女のもとに返ってきたのは明るい声でも可愛らしい声でもなく、ただ時計が無機質に秒針を動かす音だけだった。
セイウンスカイも吸い込まれるように奥へと進んでいくと、2つのベッドと勉強机がシンメトリーのように置かれている静まり返った空間が彼女を待っていた。ただ、その様子は左右で少し違っていた。やって来る新入生のためにきれいに整えられてはいるもののどこか寂しそうにしている左側に対して、沢山書き込みのされたカレンダーや机の上に飾られた写真、カラフルな文房具たちが右側では楽しそうにそこに
「失礼しまーす」と呟きながらセイウンスカイがカレンダーを確認すると、サクラローレルが部屋にいない理由はすぐに分かった。『セイウンスカイちゃんようこそ!』と書かれたその前日に可愛らしい桜マークが描かれ、『レース調整京都へ!』と書かれていたからだ。
「いないならいないって言ってくれればいいのに。無駄に緊張しちゃったじゃないですかー、もう……」
緊張が一気に解けたセイウンスカイは、ドサッという音ともに肩から荷物を下ろしながら残念さと安堵の入り交じった愚痴を小さく溢した。そしてそのまま流れるよう整えられたベットに飛び込む。期待通りの触り心地と弾力が彼女を迎え入れた。
「あー、疲れたー」
それまでの日常と全く違う一日は、いかに元気に満ち溢れている中学生のウマ娘であっても疲れるものだった。加えて重賞ウマ娘と同室になってしまった緊張まで抱えていたのだから、しっかりと意識を保とうと思わなければ間違いなくストンと眠りに落ちてしまっていたことだろう。
「いかん、いかんぞー私ぃ……流石に少しは荷解きをしなくちゃ」
ひんやりとした心地のよさと洗濯されたばかりの良い香りを携えて襲いかかった
一つため息を吐いて完全に体を起こすと、秒刻みで億劫になっていく自分を振り切らんとばかりにセイウンスカイは近くの一箱を引っ掴んで思いっきりテープを剥がした。中から顔を出したのは入学が決まった後から祖父と地元の専門店をあちこち回って揃えたトレーニング用品たちだった。使い古された思い出の品というわけでないものの、頭の中に浮かんでくるとても早くて慌ただしい幸せな日々を彼女は思わずにはいられなかった。丁寧に備え付けの棚にしまっていく彼女の顔からは、どこかぎこちなかったところが無くなっていき、いつもの自然な表情へと変わっていった。
一箱目があっという間に片付いて底が見えてきた頃、
「お、そっか、この段ボールに入れてたんだっけ」
残された小物に混じった一つの小さな黒い
ドンドン!!
「スカイ!時間だよ!片付け切り上げて出て来な!」
荒いノックの音が突如鳴り響きタイムリミットを告げた。続いて聞こえた姉御肌の声に彼女は聞こえるように声を返すと、仕方ないとばかりに
ーーー
再び部屋を出て集まっている新入生ウマ娘たちは、相も変わらず高いテンションでおしゃべりを展開していた。誰が何を話しているのかすら分からなくなりそうなその空間でも、ヒシアマゾンは負けていなかった。一声で全体に指示を通すと親鴨の如く後ろに後輩の行列をくっつけて、前半には説明しきれなかった施設の数々を巡り切り、ちょうど彼女たちが空腹を感じ始めたころには食堂に到着して見せた。
セイウンスカイは他の新入生同様食堂を一通り見て回り、適当な席を見つけて食事を取ると、山盛りの皿に囲まれながら小さな観光名所と化している先輩のオグリキャップを横目に食堂を出た。一度部屋に着替えを取りに戻って大浴場へ行ってみよう、空腹が満たされてそう考えていた彼女の耳に、通りかかった共用スペースのテレビの声が届いた。
「今年もあと数日に迫った春の天皇賞!初の盾制覇に向けて注目のウマ娘たちにインタビューしてきました!」
『春の天皇賞』という言葉で反射的に振り向いた彼女の目に映ったのは、扉の先にいなかった先輩の姿だった。
「先月ケガ明けの初戦で見事!中山記念を優勝されましたサクラローレルさんです!その勢いそのままに初の大舞台に挑まれるわけですけれども、意気込みの方いかがでしょうか?」
「そうですね、ようやく辿り着いた場所ですから、悔いのないように、桜を咲かせられるように頑張りたいと思っています!」
「ありがとうございます。ちなみに中山記念の時から是非対決したいと仰っていたナリタブライアン選手の出走も決まっていますが、何かメッセージとかはありますか?」
「はい!ブライアンちゃん!やっと勝負できるね!絶対捕まえて見せるから、ね!」
テレビを見ていた者なら誰もが感じたであろう、笑顔で話すサクラローレルから発された恐怖と緊張感が入り混じった感情を、セイウンスカイも身震いするほど感じ取っていた。しかし、彼女の中を走ったものはそれだけではなかったようだ。
気になっていたサクラローレルのインタビューはとっくに終わっているというのに、セイウンスカイはその場から離れていく気配を見せなかった。だからと言って、続いてインタビューを受けているウマ娘を見ているわけではなくただただその場で下を向いて何をするでもなく固まっていた。
少ししてようやく動き出した彼女は魂が抜けてしまったようだった。ふらふらと部屋に戻るとふらふらと着替えを取ってきて大浴場へ向かい、入る前と変わらぬ無表情で浴場から出て部屋へ戻っていった。
部屋に戻った彼女は手に持っていた制服を鞄に向かって軽く投げて力なくベッドに倒れこむ。それを見計らったかのように置きっぱなしにしていたスマートフォンが震えて通知が届いたことを知らせた。彼女は倒れたままの姿勢で手繰り寄せるようにしてそれを取ると、目線だけ上げて通知を確認した。
通知元は彼女の祖父だった。まだガラケーであるというのにそれにすら慣れていないようで文章の所々で句点と半濁点が間違って使われていたり、簡単な言葉が平仮名のままであったりする。文字通りの無表情だったセイウンスカイもヘンテコな文章を前にして耐えられずクスリと笑みを溢した。
メールの内容は「学園生活がやっと始まったけどどうだ?」という至って単純なものだった。祖父が祖父なりに自分のことを気にして、でも考えすぎないように気を遣ってそのメールが書かれていることを感じ取ったセイウンスカイは返信を考えた。祖父のメールのお陰か気持ちが解れた彼女は、少し前まで彼女の頭の中を回っていた大きくて暗いそして恐ろしい
メールを送り始めてから、セイウンスカイは数時間前に机の上に置いていった黒い
そして、机に飾っていた写真を取ると今度は過去から彼女に笑いかけている者へその笑顔を向け
「頑張るからきっと見ててね」
と小声で言葉をかけたのだった。
セイウンスカイは何かに納得したように頷くと、再び髪飾りをケースにしまい、電気を消して、ベッドに優しく包み込まれながら眠りへ落ちていくのだった。
連載している方(pixiv)がいま私情で停まっているので、その間にハーメルンにも展開してみたりしています。
※投稿日は2024/10/18です