Long awaited tricksky 作:LANA(ラナ)
☆専門用語集☆
URANS(ウラヌス):現実世界に置けるネット競馬さんのようなサイト。この物語のなかでは学生やトレーナーしか入れないデータベースも存在する
エミネンスグローリー(ウマ娘):セイウンスカイの同級生。地方レースクラブ出身で持ち前の明るさと元気が特徴!
バンコレオン(ウマ娘):セイウンスカイの同級生。有名レースクラブ出身で、冷静さとしっかりとした実力の持ち主。
「どうして、どうして私なんかがこんなところに来ちゃったんだろう…」
セイウンスカイの口から零れ落ちたその一言は、時計が何度針を重ねても彼女の心を支配し続けた。
祖父が知らないうちに入学試験に申し込んでいたことを知った日。固まりきってもいない決意で東京へ試験に行くと答えた時、祖父が見せた喜びを隠せていない顔。数えきれないウマ娘たちと共に受験をしたあの日の緊張、高ぶり、レース中に感じた、考えてもわからない感情。
何かを忘れている気がして思い出しても、彼女の中にある『どうして』の答えを埋めるものは見つからなかった。ただ彷徨っていた彼女を止めることが出来たのは、溜まりに溜まった疲労と変わらず進み続けていた時間だけだった。
月曜日がさも何もなかったかのような顔をしてやってきて、美浦寮の様子はサクラローレルへのお祝いムードの賑やかさから、洗面台やらコンセントやらの争奪戦が引き起こすうるささへと変貌を遂げていた。
寝る、というのは不思議なもので、良いことも悪いこともある程度忘れさせてしまうようだ。
ぐるぐると迷宮に入ったかのように考え事をしていたセイウンスカイにも、その効果があったのだろう。前日の夜更かしが祟って目の下にクマを作っている以外には至って普段通りの彼女に戻っていた。
凝った手入れをせずとも、自然とまとまってくれる毛質のおかげで、幸いにも彼女が大きな争奪戦に巻き込まれることは今日もなかった。いつものように軽く朝食を取ると寮を出て校舎へと向かっていった。
教室に向かう途中の廊下で、彼女は周囲の一年生たちの雰囲気が少し変わっていることに気が付いた。一晩経ったというのレースへの情熱が全く冷めていないのだ。
むしろそれは、レース前に増して燃え上っているようだった。そして、なによりそれを表していたのが、いつもなら教室に入るとすぐに気が付いて「おはよう」と声をかけてくるバンコレオンの様子だった。
普段、一緒に過ごしている時には特にエミネンスグローリーが話し続けていることもあって、バンコレオンは言った事を横から少し訂正したり、暴走したときに突っ込みを入れたりと決して口数が多いわけではない。だが、驚くことにセイウンスカイが教室に入ると、そのバンコレオン”が”エミネンスグローリー”に”マシンガントークを浴びせていたのだ。
「おはよう、どうしたのさ、これ」
セイウンスカイがそっと近づき、机の上で体も耳も何もかも伏せて朝からやつれた様子になっているエミネンスグローリーに小さく声をかけた。すると、エミネンスグローリーはピクリと耳を動かし、それから重そうに頭を動かしてそこにセイウンスカイがいることを確認した。と同時に、
「ひーん、セイちゃん助けてー!レオンが壊れちゃったー!止まんないよー!」
そう叫びながら、セイウンスカイに泣きついた。
セイウンスカイは止まらないトークに参っている様子に、なんとなく既視感を感じつつ、エミネンスグローリーをなだめた。そして、その様子を見て流石に話すのをやめ、申し訳なさそうにしているバンコレオンにも「おはよう」と声をかけた。
「おう、セイおはよう。すまんな、エミ、ついつい熱くなりすぎた。でも悔しかったんだよ。相手が強いとは分かってても負けるつもりは無かったんだ」
「その話もう何万回も聞いたーー!!」
「なっ、何万回もは言ってないぞ!」
どうやら、やはり朝から前日のレースの話をしていたようで、途中まではただ結果についての話だったのだが、話しているうちにバンコレオンがヒートアップしてしまい、いわゆるコミュ
「アタシはとにかく悔しくて、仕方無いんだよ…お前たちはそういうの、無いのか?」
「それは、私も悔しかったよ!最後の直線に入るまでは気持ちよく逃げれてたのになー」
「セイだってなんか思うとこはあったんだろ?気づいてないかもだが『クマ』できてるぞ」
「えっ!できてる?あぁ…確かに、まぁちょっと寝るの遅かったからねぇ」
エミネンスグローリーがひょいっと差し出した手鏡で自分にできたクマを確認しながら、セイウンスカイは悔しいとは違う感情を曖昧にそう答えた。
「じゃあ、せっかくの機会だ、放課後にちょっとした反省会をやらないか?吐き出したいことも一杯あるしな」
「えー!?あんなに喋ってまだあるのー!?レオンって意外と負けず嫌いなんだねー!」
「だから、そんな喋ってないぞ!?負けず嫌いというか、引き摺るタイプなのは、否定は、しないが…。ってそれは別にいいだろ、セイは?来るか?」
「そうだね、私2人ほどレースには詳しくないから色々聞かせてほしいかも」
「よし、じゃあ、放課後にウェアを着て昨日レースをしたターフの前集合な」
「オッケー!」
ーーー
最後の授業の鐘が鳴って、およそ30分も経つと練習ターフはウェアを着たウマ娘とそのトレーナーたちで溢れかえることとなる。もちろんそれはセイウンスカイたちが集合場所に決めていたターフも例外ではなかった。
「あ!いたいた!セイちゃん!こっち!こっちだよー!」
「やっと会えた…おまたせ、ごめんね全然見つけられなかったよ」
「いやいや、こちらこそすまない、こうなるのは分かってたんだが…うっかりしてた。ここじゃちょっと人が多いし移動しよう。ランニングもすることだし学園から出てしまおうか」
学校の外に出ても、道のいたるところに練習中のウマ娘たちがいるものだが、それでもターフの大混雑より密度は格段にマシだった。三人は少し歩いてちょうどよい河原を見つけて座ることにしたようだ。
「さて、仕切り直して反省会、はじめるとするか」
「いぇーい!」「お、おー?」
『反省』というには、少しテンションが高い気もするが、ようやく反省会が始まった。
そこで、セイウンスカイが早速疑問を口にする。
「でも、反省会って言っても私、
「あー、それは大丈夫だ、ああいうしっかりした模擬レースは
慣れた手付きでバンコレオンがサイト内の「ウマ娘名鑑」というデータベースから映像を開いた。
「ん、これアタシのレース」
再生ボタンを押すと、スタートからしっかりと見やすい角度で撮られた映像が流れ出す。
バンコレオンのきれいなスタート、そして上手なコース取り、そのどれを見てもセイウンスカイには学ぶことばかりだった。そして、結果を知って見るからこそ気になるのが勝者の動きだった。忘れもしない赤いマスクのウマ娘だ。
そのウマ娘は序盤は後ろから数人といったところを走っていて、そして、中盤にかけて囲まれないように調整しつつ、最終コーナーにかかった瞬間に一気に外から加速して前を目指していっていた。
もう一度映像で見てもバンコレオンの仕掛けは完璧で、「勝った!」と思えてしまうほどだった(エミネンスグローリーはまたヨシ!と叫んだ)が、やはり目を見張るほどの加速を見せたマスクのウマ娘が悠々と彼女を追い抜いていった。
「あーーっ!もう!ムカつく!なんなんだよその差し脚!ジュニアクラブの頃から強いとは聞いてたけど、無茶苦茶だろ!エルコンドルパサー…」
「えるこ…?」
「あぁ、セイは知らないよな『エルコンドルパサー』。このマスクのウマ娘の名前だ」
「エルコンドルパサーさんはー、えーっとなんだっけ、キコクシジョ?なんだよね!」
「そうなんだ、帰国子女のエルコンドルパサーさん、覚えておくよ」
「うん。で、見てなんか思うことあったか?」
「うーん、そうだなぁ…私はむしろ勉強になったというか…。直線で負けたから加速力とかじゃない…かな?」
「加速力、確かにどう走ろうとも今の加速力じゃあ、あの結果になるか…、エミは?」
「ん?私が思う事ー?そうだなー、3番手にいてあれならもう逃げるしかない!とにかく逃げよう!」
「逃げよう!たってそうはいくかよ、それじゃあ昨日のお前と一緒だろ」
「失礼なー!私だって真剣に逃げてるんだけど!」
「別に逃げるのが悪いとは言ってないだろ、まぁ、次お前たちのレース流すからとりあえず、なんだかんだ言うのはそのあとにしてくれ」
ブーブーと文句を垂れているエミネンスグローリーを横目に、バンコレオンが今度はセイウンスカイとエミネンスグローリーのレースを再生した。
『ガコンッ!!』
まずはゲートからのスタート、やる気に満ちてきれいなスタートを決めたエミネンスグローリーとは対極に、セイウンスカイのスタートはあと一歩遅ければ「出遅れ」と呼ばれてしまうようなものだった。
聞き覚えのある「いっくよーー!!!」という声がしっかりと録画された映像からも聞こえて、後ろのウマ娘たちがごちゃごちゃと固まり混ざっていく中、エミネンスグローリーだけが突き抜けていった。
レースの結果から言って、無謀であることに間違いはないのだが、それは分かっていてもその勢いの良さがセイウンスカイからはなんだかかっこよく見えた。
そして後ろのほうで抗う術もなくバ群に飲み込まれていくセイウンスカイ。その様子を見て、真剣な表情のバンコレオンが口を開いた。
「なぁセイ、これってこういう作戦のつもりでやってるのか?後ろに控える作戦ってやつ」
「作戦?いや、全く。スタートも決まらなかったし、とりあえず付いて行った感じだね」
「なるほどな、だからキョロキョロしてるのか。アタシは普段から前の方にしかいないから詳しいことは言えないが、こんな感じで囲まれて加速できないとか、理想の立ち位置じゃない、ってなったら少し速度を落として無理矢理進路をこじ開けるのはアリだと思うぞ」
そんなアドバイスをバンコレオンがしているうちに、段々と映像のエミネンスグローリーの様子がおかしくなってくる。段々とフォームが乱れ顔が上を向き始めていた。
それまで見入っていたエミネンスグローリーがまるで中継でも見ているかのように応援を始めた。
「頑張れー!エミ!まだ大丈夫だよー!ここから踏ん張れー!!」
「いや、大丈夫じゃないだろこれ…、フォームがガッタガタになってるし。とりあえず、スタミナをつけるか仕掛けのタイミングを考えたほうが良いと思う」
「そうか!スタミナ!それだ!ってあぁ!飲み込まれちゃった…」
セイウンスカイの記憶の通り、エミネンスグローリーのことを吸収した直後にバ群は一気に動いて形を変え始めた。セイウンスカイ自身は相変わらず囲まれたままだったが、さっきまでセイウンスカイより少し後ろにいたウマ娘がセイウンスカイの位置まで上がってきて、更に前を目指していったのが目に入った。
たった2分にも満たない映像1本からセイウンスカイは数えきれないほど多くのことを学んでいた。それは実家のテレビで見ていた時とは全く違う見え方で、全てのウマ娘の位置取りや作戦が自分のことのように思える、そんな感覚を彼女は覚えていた。
そして、自身がいた位置から勝ちを狙うとなると、どれだけ狭い隙間でも見つけてこじ開けて進まなければいけないということ、そしてそのための根性と加速力も必要であるということも彼女は痛いほど思い知っていた。
映像はセイウンスカイが食い下がることも出来ないまま下がっていく中、見事セイウンスカイの後ろから上がっていったウマ娘が先行していたウマ娘を捉えきって優勝し、最後にセイウンスカイがゴールを通過したところで終わった。
「うーん、一着はギガヒットさんかー、強いなー!私も惜しかったんだけどなー」
完敗だとばかりに後ろに倒れ込みながら、エミネンスグローリーが言った。
「え?あぁ!一着、同じクラスのギガヒットさんだったんだ!どう走ってるのかばっかり見てて気づかなかったよ。走り方もパワフルなんだねぇ」
「昔から追い込んでくるのが好きなんだよな、彼女。今のレースでも途中までセイの後ろにいただろ」
「あそこからバ群割って出てきて優勝とは…、豪快な作戦だよね。私同じことが出来る気しないし、さっきみたいな後ろからのレースは向いてないのかもなぁ…」
「相当末脚に自信がなきゃやらない作戦だからな。セイはまだ走り慣れてないんだし決めつけるには早いと思うが、いろいろ勉強してみたらどうだ?正直実戦とかコース練習ばっかりで先輩方はテスト期間以外図書室にいないだろうし、空いてると思うぞ」
「そうだね」
セイウンスカイが頷くと、ちょうど話が終わるのを見計らっていたようにエミネンスグローリーが起き上がり、もう居ても立っても居られないという感じで
「ねぇねぇそろそろランニングに行こうよー!スタミナをつけたいー!スタミナ!」
と叫んだ。
「そうだな、そろそろいい時間だしランニングして帰るか」
ーーー
ランニングを終えて、帰ってきたセイウンスカイは諸々の用事をすませ、ベッドに寝そべって自分のレース映像を何度も確認していた。上位に入っているウマ娘たちとその逆にあまり結果の出せなかったウマ娘たち。着順という形で残酷にもその力量差は表されてしまっていても、その一人一人が溢れんばかりの”勝ちたい”という感情を負けず劣らず持ち走っていることをセイウンスカイは知っていた。
映像の向こう側でどんどんと置き去りにされていく自分を見つめながら改めて彼女はどんな気持ちで走っていたかを思い出す。
しかし、やはりそこには”勝ちたい”という気持ちはなかった。前から離されていく焦り、恐怖、そしてどこか達観したような諦念。
友人といる間は全く気にすらならなかった『どうして』がどこからか手を伸ばして前日と同じように彼女を締め付け始めた。
「はぁ~~~…」
かかり始めたモヤを振り払って忘れてしまいたいとばかりにせっかくとかした髪をくしゃくしゃにしながら、セイウンスカイが長い溜息をついた
ーーーその瞬間、
ガチャッ!!
もう寝るだけだ、とかけていた部屋の鍵が突然音を立て、ドアが開いた!
「っ…!?」
予想外の出来事に飛び上がるように体を起こしたセイウンスカイの目が捉えたのは、美しい栃栗毛の髪に、愛らしい"桜"色の目をしたウマ娘だった。忘れるはずもない。そこにいるのは、前日にテレビの向こう側で『最強』へと登り詰めた
「あ!セイウンスカイちゃん!?初めまして!サクラローレルです!これからよろしくねっ♪」
「あっ…はい!セイウンスカイです!こちらこそ、よろしくお願いします」
固まっているセイウンスカイに対して、流れるように荷物を置き手を取ってそう言ったサクラローレル。そのしなやかさに圧倒されたまま、セイウンスカイはオウムのように言葉を返していた。
徐々に状況が把握できてくると、今度は緊張がセイウンスカイの中で顔を出してきた。それでも、彼女は咄嗟に次の言葉を目の前の先輩に送った。
「その…サクラローレル先輩、天皇賞、優勝おめでとうございます」
前日のように身体が逃げ出すことはなく、今度はしっかりと伝えることのできた「おめでとう」に、セイウンスカイは心の奥でほっと胸を撫でおろす。
「昨日のレース見てくれたの?どうもありがとう!」
セイウンスカイに眩しく感じるほどの笑顔でそう言うと、サクラローレルは続けて少し裏話をしてくれた。
「本当は3200mも走ったんだからもう少しゆっくり休んでから帰ってきたいところなんだけど、レースって毎週やってるからね。次のレースの準備で、部屋の清掃なんかもしなきゃいけないらしくて昨日の今日で帰って来ることになったんだよね。そうだ!はい、これ京都土産!」
持ち帰ってきた荷物を片付け始めていたサクラローレルが、生八ツ橋の箱を取り出してセイウンスカイに手渡す。
「あ、ありがとうございます!」
「そんなカチコチしなくてもいいのに…。そう言えばスカイちゃんってまだこっちに来てからそんなに経ってないよね?大丈夫?疲れとか溜まってない?」
「疲れは、大丈夫です。ただレースの世界に慣れてないもので、そこが大変ですかね」
「そっか……
あれ?レースの世界に慣れてないってことはここに来る前はレースクラブとかには入ってなかったの?」
「入って…ないですね」
「それで合格できたならすごいじゃない!」
「ただ…」
心が二文字発したところでセイウンスカイの口をつぐませた。サクラローレルを祝いたい、それはまごうこと無き本心だったからだ。インタビューでライバルとして口にしていた絶対王者ともいえるナリタブライアンを遂に倒したのだから。ここで続きを話してしまえば深刻なテンションまっしぐらになりかねないことは、彼女が考えずともわかることだった。
「それが、さっきのながーいため息の正体かな?」
黙りこくったセイウンスカイにサクラローレルが軽く言い放った一言。その一言は、セイウンスカイにとって突然サクラローレルが帰ってきたことよりも遥かに大きなある種の衝撃を与えた。
「えっ!?」
驚きを隠しきれず思わず顔をあげたセイウンスカイが目にしたのは、いたずらっぽく自身に笑いかける先輩の顔だった。
「聞こえてたよー?ばっちりね!」
セイウンスカイはその笑顔がインタビューの時に見たものと同じものであるとは信じられなかった。一度は恐怖したはずのそれが、今彼女にとってこれ以上ない頼もしさを感じるものになっているのだから。
そして、その頼もしさに託すように彼女は重く閉ざした口を開いた。
「ただ…分からなくなってしまったんです。ここは、私みたいな中途半端なウマ娘が来ても良いところだったんだろうか…って」
「なるほどね。そうだなー、スカイちゃんの答えになるかは分からないけど、私の場合は、の話をさせてもらうね」
セイウンスカイが頷くと、なにかを懐かしむようにサクラローレルは話し始めた。
「思い返してみれば、私が今ここにいるのは奇跡と言ってもおかしくはないの。知っての通りトレセン学園は日本一の名門校、まともに走れる子ですら普通は入学さえ叶わない。私みたいに生まれつき足が弱くて、直線で足がもたないウマ娘なんて本当はもってのほか。でも、奇跡的に私は入学することが出来て、その上専属のトレーナーさんまでついてくれて。」
そこまで話して、サクラローレルは一度言葉を切った。座っていた鞄の前からおもむろに立ち上がると彼女の机にある写真を持ち上げて、また言葉を続けた。
「去年、怪我をして一年は走れないと分かったときはスカイちゃんと同じようなことを思ったこともあったかな。だけど治る怪我なんかに負けていられないもの。ここまで奇跡が起こったんだから、あとは夢を叶えるだけ。その日が来るまで私は止まる気はないんだ」
サクラローレルの力強い決意はどこか寂しさも感じられるものだったが、その言葉は間違いなくセイウンスカイの探す答えへの大きなヒントとなるものだった。
「どうかな?なにか答えは見つかりそう?」
「はい、どうもありがとうございます!またちょっと考えてみることにします!」
「あー!ダメだよ?そんなに難しい顔して考えてちゃ。あと、今日はそろそろ寝たら?クマ、意外と酷いよ?」
その日の夜、セイウンスカイは恐ろしく早く、そしてぐっすりと眠りにつくことができたのだった。
ーーー
次の日、セイウンスカイはバンコレオンに勧められた通り、図書館で様々なレースに関する本を借りると読む場所を探して歩き回っていた。そして、彼女が見つけたのが「花壇」と書かれた立て札が倒れているだけの、人はほとんど来ない場所だった。
一本の大きな木とそこに差し込む木漏れ日。そして、心地の良い風。これほど本に集中出来る場所は、人で溢れかえるトレセン学園内で探しても他には無いだろう。
セイウンスカイは独り占めだとばかりにその木の下で大の字で寝転がると、空を見上げた。模擬レースの日より雲の少ない透き通るような空だった。
サクラローレルの話を聞き、セイウンスカイは一人のウマ娘を思い出していた。ぐるぐると考えていた時には出てこなかった答え。それをそのウマ娘はとっくにセイウンスカイにくれていた。
彼女はポケットからスマートフォンを取り出した。LANEを開きメッセージを表示する。送信元は彼女の「母」だ。
「『せっかくチャンスがあるなら思い切ってぶつかってみたら?』ねぇ。まったく、それが一番大変なんだから」
彼女は嬉しそうに小さく笑うと、決心がついたように言った。
「でも、そうだよね。どうして来ちゃったんだろう、じゃない。来れたんだもの。あとはやれることからやっていくしかないんだ。さーて、長い道のりになるぞー!」
芦毛の少女、セイウンスカイは再び空を仰ぎ見た。
彼女の望んだ空はどこまでも遠かった。
遠すぎて届くかも分からないその空は
きっとだからこそ果てしない、ただ青い空だった。
pixiv側だと前話の投稿から日にちを置きすぎちゃったなぁって反省があります。
負けているスカイを描写しているとこちらの心も痛むものなんですが、でも割と酷な史実をしている子なので、それも踏まえてお付き合いいただければなと思います。
※投稿日は2025/3/27