少しずつやっていきます。
『ブラック・リベリオン』から一年が経とうとしていた。ブリタニアは各国への攻略を更に進めるべく、軍事拡張路線をとり、帝国最強騎士『ナイトオブラウンズ』を中心にKMFのさらなる進化を推し進める。
ナンバーズ出身者で初めて『ラウンズ』に叙せられた枢木スザクのランスロットがめざましい活躍を見せ、更に『グリンダ騎士団』で運用された第六、第七世代相当の試作段階のKMFも多大な戦果を挙げた。
これを持って、宰相シュナイゼル・エル・ブリタニアの主導で第七世代以降のKMFの開発が進められた。特に、ランスロットは次期主力量産機として注目され、量産化計画『ヴィンセント・プラン』が実行された。
その名の通り、RPI-212ヴィンセントの開発計画だ。ランスロットをベースにした量産試作機であり、既に『ラウンズ』直属部隊または皇族の親衛隊を中心に配備が進められ、『ラウンズ』もまたヴェルキンゲトリクスことサグラモールの実用から第七世代の技術をベースにした専用機の開発を進めていた。
第八皇子ライル・フェ・ブリタニアの軍隊もまた同じだ。
ライル軍でもライル、レイ、長野の三人にフラッグシップ機及び親衛隊と名誉騎士団の隊長機として回された。将来的にはヴェルドやコローレ、フェリクス、セヴィーナといったエースパイロット達にも回される手はずにはなっている。
「なぜブリタニア貴族の我々ではなく、あんなどちらにもなれない出来損ないやイレヴンに回されるのだ。」
貴族の新兵の中にはまだレイの下に着くのが不服そうな者もいたが……
「いい加減にしろ、スレイター卿の実力は見ただろう?」
「あれは機体に助けられたんだ。我々ならば。」
「そういって、サザーランド同士で惨敗したのはどなた?」
同じ貴族の新兵でも、実力は認めた者が窘めると同時にクリスタルなどの古株達が黙らせる。
「ねえ、『弱い犬程よく吠える』を自分でやってる自覚ある?」
「我々が弱いだと!?」
クリスタルに食って掛かるが、逆にあしらわれた。
「ほら、私にも勝てない。家柄や人種で腕力が上がるわけじゃないのよ?」
が、まだ不服そうだがそこへフェリクスがやってきた。
「例えば、貴方達が出世して部下を率いるとしますけど…爵位が上というだけで最初から勝った気になるような部下を、あてにしますか?」
「そんなの、あてになるわけ…あ!」
言われて、思い至ったようだ。
「そういうこと……大体、レイが色目でヴィンセントに乗ったり騎士になるなら、私はどうなの?士官学校時代から殿下にアプローチしてたんだけど。」
「それは、その…」
国外脱出を阻止した後の休暇でクリスタルがライルと結ばれたのは半ば軍の人間の多くが察していた。メイドの有紗と騎士のレイも同じような仲であることは大勢が認知している。
特にゲイリーやフェリクスといった古株達は「女でも少し落ち着く理由が出来れば良い」とライルの精神衛生上の観点と自分達自身の安全の観点からイレヴンの有紗やハーフのレイについては何も言わなかった。
そもそも、貴族のクリスタルが二人とこれまで通りの関係を望んでいるので外野がとやかく言えるような話ではなかった。
「貴族でそれも純血だからいい。ハーフやナンバーズが色目を使ったらダメ。逆に貴族が出世すれば実力、平民やナンバーズが出世するのは実力じゃなくて賄賂や色仕掛け。」
クリスタルが、貴族達が見ようとしていないであろう側面を堂々と突きつけた。
「どこにそんな法則があるのかしら?」
それを、セヴィーナが少し茶々を入れた。
「それは、あの男の受け売りだろうが。」
「まあ、ね。でも…貴女だってそこだけは認めてるんでしょう?」
「……はい。」
同じ新兵でもニコラ・ド・フィリドールはライルの実力主義は、ある意味でブリタニアの不平等に最も忠実であると考えていた。しかし、実力不足だからといって淘汰するわけではない。
『出世したいなら努力しろ。』、『家柄で出世させる気などない。』。
そういうタイプだ。実際、クリスタルとフェリクスは名門の出身だが実力はライル軍でも指折り、平民のセヴィーナや下級貴族のヴェルドとコローレも同じ。そして、名誉騎士団の隊員達も。
中でも副隊長の畑方秀作は『双剣皇女』の妹姫セラフィナ・ギ・ブリタニアと個人的に親しくしている以外にライル軍のナンバー2ゲイリー・B・クレヴィングの被保護者。同騎士団のエースの川村雛は末席同然ながらウェルナー・レイ・ブリタニアとよく会っており、母に当たる皇妃トゥーリアの覚えも良く、それで出世したなどと妬まれているが、彼らが会ったのはその前後。そう考えるのも無理ないが、実力は本物だとニコラも今は認めている。
少なくとも、二人も含め彼らはニコラよりは強いという事実だけは揺るがない。家族はハーフの部下など恥さらし、等と言うが少なくとも実力がない上に家柄を振りかざす貴族の部下よりは安心できるし、主君のライルも信頼できる。そう考えていた。
「すみません、無理を頼んで。」
「いえ、しかし中華連邦の鋼骸やE.U.のパンツァー・フンメルの武器を使おうとは。」
「射程距離は長いですから……使えるものは全部使わないと。」
ライル軍では、KMF部隊の編制に手を加えていた。ブレイズルミナスを応用したシュロッタ―鋼合金の盾や外装、ブレイズルミナスそれ自体を搭載した盾などの追加装備の充実。中華連邦やE.U.で運用されるKMFの火器をサザーランドの追加装備として再利用するなど、ゲリラ的な運用が目立っていた。
あの名誉騎士団の反乱に端を発した転属や除隊で人員不足になったライル軍は新兵を多く編入することとなり、実際の戦力が低下した対症療法だ。
一朝一夕で兵士が育つわけではないので、彼らには後方支援或いは前線に出るとしても重装甲部隊での試験運用を行ってもらうことにした。他にも『ユーロ・ブリタニア』で運用した移動砲台カンタベリーの接収やサザーランド・スナイパーで装備されたハドロン砲のオプションパーツ化、日本解放戦線の雷光の流用改造などを積極的に行うようになる。
今やライル軍は新型KMFや新装備の試験運用を行う側面も強くなっていた。
また、人員でもいくらか変化が生じた。准将への昇進に併せて幕僚達の列に名を連ねた長野は異議を唱える将校たちにKMF、戦闘指揮の模擬戦で受けて立ち、全戦全勝。もはや異議を挟む者などなく、その振る舞いと実力を絶賛したライルが『帝国の侍』と呼ぶようになり、何時しか異名として定着していった。
加えて、『ユーロ・ブリタニア』の弱体化とライル軍の補充要員の両立をかねて、『ミカエル騎士団』のテレサ・スクラーリ、『ガブリエル騎士団』所属で元はE.U.ロシア軍所属だったマルセル・コヴァリョフが補充要員として加わった。二人とも、『四大騎士団』の制服を着用し続けており、搭乗機はグロースターだがそれも所属時代のカラーリングを許した。
『ユーロ・ブリタニア』からは他の騎士も引き抜かれ、『ラファエル騎士団』からはテレサの双子の姉でメイフィールド伯爵家の長女ルビーがエルシリア・セラフィナ軍に、『ウリエル騎士団』所属の平民騎士ヴァルター・E・クルークハルトがルーカス軍、大貴族軍からは若手騎士のアーネスト・N・シェーリンと部下のイレヴン羽田美恵がシルヴィオ軍に引き抜かれた。
ただでさえ弱体化の著しかった『ユーロ・ブリタニア』は本国に若手の騎士達を引き抜かれた上、未確認だが本国軍に反旗を翻した騎士達もいるという。内情はやはり、安定しているとはいいがたかった。
話を戻し、KMFの運用はヴィンセント以外にはこれまで通りで、鹵獲した機体も使用している。だが、その中でも秀作、雛、クリスタルの三人は別格だった。
三人のKMFは改修され、秀作のランスロットはアストラット、雛のゼットランドはローレンス、クリスタルのブラッドフォードはハリファクスへと名前も変更された。
アストラットは軽量化による機動力の向上及び近接戦闘用の長剣を追加、ローレンスは既に運用が定まった『ナイトオブシックス』専用機モルドレッドとゼットランドの中間と言える装備だが、腕に近接戦闘用のナックルダスターを装備している。ハリファクスはブラッドフォードに先んじてプラズマモーターからフロートシステムへ動力を変更したことでフォートレスモードとKMFモードの空中変形を可能にした。また、デュアルアームズを廃止して持ち味のハドロンスピアーの機能をフォートレスモード時の使用に限定、フロートユニットの内部にMVSを搭載するなど大幅な武装変更がなされた。
『グリンダ騎士団』のランスロット・グレイルのようにエメラルドプランによるドッキング機能は外され、個々の戦闘能力を重視する方針だ。
新たな戦闘方針で、ライル軍は再結成された。
ライルはサラから聞いたアッシュフォード学園の様子が気がかりだった。なんでも、あの『黒の騎士団』残党の占拠事件の時点で『ブラック・リベリオン』の時の生徒と教員は全員本国へ戻り、本国やエリア11の他の転校生で補填された。ただし、生徒会だけは残っているらしい。
何故、生徒会だけ?枢木卿と親しかったというが、
そして何より、副会長の妹が何故か別人になっていたという。
『なぜか、クララっていう名前の女の子が妹ということになっていたんです。その……本当はナナリーっていう名前で眼も見えない子なのに。』
ナナリーという名前を聞いて、ライルは寒気がした。ナナリー。まさか、あのナナリー?
一体、何故?どういうことだ?
もし、生徒会のナナリーがあのナナリーだとしたら……
「あ、その……クララという子にお兄さんかお姉さんは?」
『は、はい…ルルーシュ・ランペルージって言います。』
ライルは頭を割られたような衝撃に襲われた。ルルーシュとナナリー…間違いない!
『ブラック・リベリオン』からしばらくして、ナナリー・ヴィ・ブリタニアが第87皇位継承権者として復帰したというニュースはあった。何度か会い、兄ルルーシュと共に日本へ留学生の名目で送られた際に世話になったのが当時の首相枢木ゲンブの家。そう、枢木スザクの実家だ。ナナリー本人から、スザクと親しくしていたと聞いている。
間違いない…アッシュフォード学園にいるのはルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。第五皇妃『閃光のマリアンヌ』の遺児だ。
一体、何故?エリア11で苗字を変え学生を?
『もしかして……帰国したっていうナナリー様って。』
『サラ、この件は他言無用で。』
それ以上は危険だと考え、ライルは詮索を控えさせた。
仮にルルーシュとナナリーが生きていたとするならば、おそらくアッシュフォード家だ。あの家はマリアンヌがテストパイロットをしていたガニメデを開発していたことで縁がある。そして、日本にもパイプがあったという。もしかしたら、ルルーシュとナナリーを日本政府と共謀して匿っていたのかもしれない。いざという時、地位を回復する時のため。同時に、二人を母の暗殺の追手から守ることもあるだろう。
しかし、『ブラック・リベリオン』の混乱で二人の素性が割れてしまい、ナナリーだけ助かった。にしては妙だ。
サラの話によれば、ルルーシュとも電話をしてごく普通に過ごしていたという。しかも、今度は弟がいるということに。
何が起きている?仮にアッシュフォード学園のルルーシュが僕の弟のルルーシュだとして、ナナリーが別人にすり替わり、今度は弟。誰も何とも思っていない。
しかも、生徒会以外は教師も含めて全員が入れ替わった。あの学園で、何が起こっている?
そういえば、『黒の騎士団』残党の占拠事件でもカラレスはマリーベルがいたのを考慮しても動けなかったという。まさか、皇帝が『ユーロ・ブリタニア』の動向に関心を持たなかったことに関係があるのか?
この間、エリア11に探りを入れてもらったらグレイブ・ガロファーノから妙な話を聞いている。
「どうも、妙な連中がエリア11にいるみたいです。」
「妙な連中?」
「ええ、それがどうも正規の命令系統から外れている部隊で…」
正規の命令系統から外れている部隊。あるとすれば、まずジヴォン家が率いる暗殺部隊『プルートーン』。ライルは要請をしたことはないが、皇族の命令で動く特殊部隊だ。現在の隊長のオイアグロ・ジヴォン…オルドリンの叔父にあたる彼が隊長になってからは動く回数が少なくなったという。
おそらく、彼の優れた経営者としての手腕だ。『経済面の騎士』などと揶揄される程の敏腕企業家の彼は大型KMFの開発も手掛け、ゼロに奪われたガウェインがその代表例。現在はそのガウェインの派生型として『ナイトオブワン』ビスマルク・ヴァルトシュタイン専用機ギャラハッドの開発を行っている。その手腕を持って、ジヴォン家の財政は潤っている。もはや、汚れ仕事を受ける必要がないほどに。
そんな彼はビスマルクにさえ隠れて、何かをしているがそれは分からない。とはいうものの、エリア11の状況に関しては、おそらくオイアグロは白だ。となれば……
まさか、機密情報局?
通称、機情。皇帝直属の情報機関にして特殊部隊。シュナイゼルでさえ、その全容を知ることは困難だ。
そんな連中が何故、ゼロがいないエリア11に?
ナナリーが戻ってきて、ルルーシュだけアッシュフォード学園にいることと関係があるのか?
ライルは確実に近づいていた。パンドラの箱に、その中にある恐ろしい真実の一端に。
もう少し、探りを入れてみるとしよう。
同時に、エリア11にある天領神根島も行きたいところだ。もしかしたら、皇帝の関心はここにあるのだろうか?
そして、中島京子との約束を果たすいい機会でもあった。
『ユーロ・ブリタニア』は弱体化も狙って若手の有力騎士や貴族層を本国側に引き抜かれています。
あんなことがあった以上、恐らく大公も強く出られないでしょうね。