ライル達の処遇は決まった。現状、能力面では貴重だが『ロンスヴォー』も含めて現場レベルの将兵達のブリタニア軍上層部……それ以上に祖国への不信感が余りに強すぎた。
それ故、E.U.からはバルディーニ…中華連邦からは張 高山が管理する形で落ち着いた。
現状、人員は当時のライル軍と『ロンスヴォー』のみだが、少なくとも軍人として生活の糧を得ようとする名誉ブリタニア人達の受け皿が必要という各国政府の意見も採用して『グリンダ騎士団』とはまた違う形で運用が検討されている。
「つまり、あいつらの手下になるしかないって事ね?」
「すまない……だが、ブリタニア、E.U.、中華連邦を事実上相手にするようなものだ。喧嘩して勝てる相手でないことは分かるだろう?」
雛の問いにライルは謝罪しながらも、現実を訴える。
「まあね………んで、暫くはあんたとバルディーニ将軍、美水のお父さんがあたしらの上司って事で良いのね?」
「『黒の騎士団』本部の指揮に従うことにはなるがな………当分、人員は私の軍と『ロンスヴォー』だ。将来的に新兵も加わるが、それは分かってくれ。」
幸也が怒りを抑えているのが分かる口調で問う。
「軍隊なんだから、それは分かります。で……クズ共を殺すってのは無理ですよね?」
「……三極への凶悪テロとして処刑される。私に君達を処刑しろ、なんてことになってほしくない。」
ライルの脳裏に中島達を処刑した記憶が蘇る。アレは未だ、ライルにとってはトラウマだった。分かっている……法的にはどうにも出来ないことくらい。
「今度は、ルルーシュ皇帝と最初から結託してた……なんて、言いそうですから。我慢してあげるって、あいつらに言ってやりたいです。」
「言える機会があれば言ってみるよ。」
レイも純血の人間には強い敵意があるのは相変わらずだ。恐らく、これは生涯変わらないだろう。ライルの中にある貴族出身者への不信と同じく。いや、少なくとも混血達の純血への…そして、名誉ブリタニア人達の祖国への不信感は数十年は続く。せめて、子や孫に伝わらないことを祈るしかなかった。
「ねえ、それってつまりおかしな事を見せたら袋だたきって事よね?」
木宮の問いに、シルヴィオは頷く。
「ああ…何しろルルーシュなんて関係ない。双方の負の面の犠牲者揃いだ。」
「『全部ルルーシュのせいだから、仲良くしましょう』…なんて、通じるわけないものね。あたしだって納得しないわ。」
そして、シルヴィオは漠然とした胸騒ぎがした。ルルーシュの仕業で、果たして全て解決するのだろうか?
セラフィナは憤っていた。
「納得いかない……ルルーシュは即位するまで行方不明だったのよ。それも押しつけるって言うの!?」
「別にそういうわけじゃないのよ?」
エルシリアの窘めも今は効かない。
「でも、ルルーシュのせいだって言ったらそれでみんな納得するの!?そんなの、秀作が日本人から位受けてきた仕打ちと何も変わらないわ!!」
「……そうね、私達も同じ。世界を統一する美名で大勢殺してきた。少なくとも、私はそれを言い訳にしない…………問題なのはきっと、そういう言い訳することでしか次に進めない人間の身勝手さや弱さなのよ。」
「…………秀作が日本人を憎むのも、それと同じ?」
「それは分からない……でも、彼の日本人への憎悪はルルーシュの仕業に出来ない。それだけは事実よ。」
つまり……
「ルルーシュのせいが効かない事例が必ず浮上する、というんですね?」
ゼラートは子との次第を部下達に伝えた。そして、最大の問題点……
「イロナは?」
アレクシアがばつの悪い表情になる。
「食事は取ってるけど、もう取り付く島がないです。」
「『姉ちゃんを返せ』か、『あいつら殺させろ』の一点張りです。」
アサドもため息をつく。だが、イロナの主張に共感しているのも分かる。
「俺が少し話す…」
部屋に入ると、イロナはベッドの上で座り込んでいた。そして、死人のような眼でゼラートをにらみつける。
「分かっている………お前が言いたいことは。」
「じゃあ、あいつら殺させて。」
「駄目だ…」
「お姉ちゃんを殺した奴らを許して生きるくらいなら死ぬ。そんな奴らと仲良しこよしなんてやだ。」
イロナにとって、憎悪の対象はブリタニアではない。E.U.とそれを抱える超合集国……そして、世界だ。
「……死ぬまで憎んでいい。少なくとも、俺は先に死ぬがそれまではお前の憎しみの受け皿にはなってやる。」
それが、ゼラートのイロナに示せるせめてもの誠意だった。
「それって………」
「軍人としていう。お前は所属し続ければ、壊れるか誰彼構わず殺す。だから、除隊しろ。」
「……はい。」
それから、イロナはロシアの正規軍に受けかけた暴行未遂の慰謝料をE.U.政府から受け取って除隊した。予備役とするのは不可能だとゼラートとウェンディが通達し、完全な退役だ。
とはいえ、事態が事態なので当分はドイツにあるゼラートの官舎暮らし。そこからドイツの高校に通わせるつもりだった。
ルーカス軍の処遇はブリタニア政府で行われた。囚われていた女達の中には丁重に扱われた者もおり、彼女達からそうして扱ってくれた軍人達の助命の嘆願もあった。ナンバー2のマクスタインからも責任を全て負うと表明したが、今となってはマクスタインさえも貴重な人材であった。
結果、ルーカス軍に囚われた女達の今後の生活保障などを請け負う条件及び各国の復興支援に従事するという形で命を繋ぐことになった。
それから暫く………
マクスタインは本宅に戻ってきた。貴族制度の廃止とはいえ、元々の領地運営は使用人達に任せており、他の貴族達のように破綻することはなかった。
今後はブリタニアも大きく変わることをマクスタインは予期し、領地をブリタニア政府に提供して残るのは本宅のある一帯のみになった。使用人達にも退職金などを支払うが、一人だけはマクスタインのもとにいた。
「おかえり、パパ!」
幼い少女が抱きついてきた。以前、ルーカスへの貢ぎ物としてスラムから献上されたカミラだ。
「ああ、ただいま……………カミラ、今パパと?」
「うん。」
只、ルーカスの同類の防波堤になってあげる。そのつもりだった。それ以上の考えなんてなかったのに……
マクスタインはカミラをきつく抱きしめた。
「パパ、痛いよ…」
「ああ、すまない。でも、もう少しだけな。」
後ろには、同じようにルーカスに攫われた女達もいた。他のエリアの出身もいたが、行く場所もないので政府の承認を得てマクスタインが身元引受人となる事で引き取っていた。この子達がいるだけも、まだ生きる意味があるのだろう。マクスタイン家の今までの歴史には幕を閉じ、違う歴史を始めるべきなのだ。貴族制度がなくなっても。
アーネストはロシア方面の『ユーロ・ブリタニア』貴族と交渉したが、先方から通信が切られた。
美恵がコーヒーを入れ、それを一口飲む。
「また、ダメだったんですか?」
「ああ、流石に放置されていたからな。反発も大きい。時間をかけて交渉するしかないだろう。」
第100代皇帝となったナナリーの元で帝国制度は解体される。アーネストはその前にと『ユーロ・ブリタニア』に本国に戻るように呼びかけたが、宗主のヴェランス大公と『ラファエル騎士団』のファルネーゼが健在ではまだうまくいかない。
「アーネスト様なら向こうに着くと思いましたけど。」
「……まあ、そう思ったこともある。だが、こうなってしまったら時代の流れに逆らうことは出来ない。なら、民を導く『ユーロ・ブリタニア』から変わる必要があるのだろう。」
民を導くのではなく、民と歩む……口にするのは簡単だ。実行はそれより遙かに難しい。
「いずれ、『黒の騎士団』と超合集国も動くだろう。それまでの間に本国にいる『ユーロ・ブリタニア』貴族達とロシア方面のパイプを作り、少しでも彼らに損がない条件を整える。」
美恵は後ろから抱きついてきた。
「やっぱり、学校を休学しましょうか?」
「お前はまだ年齢で言えば学生だろう?本国の高校に通えるようになったんだから、そちらを優先しろ。」
「直ぐにでも結婚したいです。」
「………大学を出たら貰ってやるから、それまでは我慢しろ。」
すると、後頭部に柔らかな感触がきた。美恵の豊満な胸だ。
「じゃあ、それまでに赤ちゃん出来たら中退しますね。」
「お前な…」
これまで関係を持った女達もそれどころではなくなり、話は付いた。だが、美恵は年齢と事情からアーネストがこれまで通り身元引受人になっていた。
愛しているのは本当だ。しかし……前から思っていたが、美恵は天性の娼婦ではないか?そんなのに惚れた自分は、実は女に酷くだらしのない性格なのでは?
クルークハルトは女達の処遇を持て余していた。平民であるにもかかわらず、女達の多くは彼に付いていく事を望んだのだ。結局、学生の年齢であった者は特例で通える本国の高校卒業後に『黒の騎士団』所属となる自分の元に……他は超合集国やブリタニア政府が設立する法人に就職する者もいた。
「はぁ、まさかあの男の風習を俺が引き継ぐとは。サン・ジル卿に聞かれたら首が飛ぶか?」
今でもクルークハルトの忠誠心はレーモンド・ド・サン・ジルとヴェランス大公のものだ。『ユーロ・ブリタニア』も変わるべきなのはわかる。だが、直ぐには整理が付かない。
「…事務処理をするか。」
テレサはあの後、ルビー共々除隊して自身は孤児院に戻った。メイフィールド家は今後の各国の復興のために子供達への福祉や教育が必要不可欠だと没落を免れた貴族達に呼びかけ、そちらへの従事で完全な没落を防ぐべきとした。その甲斐あって、設立されつつある各国への支援機関で発言権を強化しつつあった。良くも悪くもブリタニアを支えてきた貴族の財力や政治力は今後も欠かせない、というのがメイフィールド家の主張だった。
ライルも農場に戻っているが、貸し別荘のいくつかを福祉施設に改築し、福祉機構に提供することを決めている。同時に、農場それ自体も支援機関に提供し、土地代をもらう形で生計を立てる手はずになっており、農場もそちらと契約を進めている。
「…あの人なら、そっちの方が向いていそうな気がするけど。」
見たことはないが、有紗によれば農場で作物を育てたり、子供達と遊んでいる時のライルは楽しそうだったと聞く。本当にシュナイゼルあたりが皇帝になったらナンバーズ関連に大きな権力を持ったままその農場で隠居していれば、悠々自適だったのではないだろうか?
「お姉ちゃん、おなかすいたー。」
「はいはい、待っててね。ちゃんと手を洗うのよ。」
「はーい。」
子供達が洗面所へ行き、ルビーが皿を用意する。
「ごめんなさい、お姉ちゃん。」
「良いのよ、貴女がしていたことって今までしたこともなかったし。」
ルビーは気にせず、食事の準備を進めていた。
マルセルはまだ『ユーロ・ブリタニア』領土となっているロシアに戻って、公共墓地の家族の墓に花を添えた。
「まだ、俺にはE.U.への憎悪がある。ルルーシュ皇帝の仕業なんかじゃない、正真正銘奴らの仕業だ。」
全ては『悪逆皇帝ルルーシュの仕業』、等という形で世界は復興へ向かっているがマルセルに言わせれば責任転嫁も良いところだ。シャイング卿が世界を滅ぼしたがるのも分かる気がする。
「こんな責任転嫁をしないと、次に進めない世界か…世知辛いよ。」
分かってくれる人がいるだけ、自分は恵まれているのか?
「ヴィヨン卿ならなんて言ったのだろうな。」
シルヴィオは母方の実家で領地の立て直しに追われていた。幸い、木宮の両親も帝都を離れていたために難を逃れたが、帝都消滅の混乱はまだ続いている。
「結婚を申し込んだ矢先、当分結婚は先だな。」
「大丈夫です、気長に待ちますから。」
ミルカが新しい書類を持ってきて、シルヴィオは再び目を通す。
「まあ、あたしが30になるまでには結婚してちょうだいね。」
木宮が茶々を入れて、確認の終わった書類を持って退室していった。そういえば………彼の姉は結婚のめどが立った。相手は離宮の警護隊だった騎士で、今はSPに転向しようとしているとか。
エルシリアとセラフィナは『黒の騎士団』に編入されるブリタニア軍の将官になった。コーネリアも同様だが、エルシリアはあえてコーネリアと同じ階級で留まり、部下達もコーネリアより下を望んでいた。
「人望の一点では姉上には勝てないな。」
「でも、コーネリア姉さんのポストって地位の割には……」
「そりゃ、そうよ。シュナイゼル殿下はゼロの補佐だけど、コーネリア様は自由が効くもの。帝国再建をあの方が謳えば一気に爆発よ?」
予備役になったクレアがコーネリアを地位にしては低い扱いにする理由を説明した。確かに、『ラウンズ』も殆ど死ぬか行方不明の今とあっては、コーネリアは帝国再建の最有力候補。議会が慎重になるのも無理はないだろう。
ウェルナーは各国への支援機関のスタッフの道を選んだ。といっても、本人が病弱なためにデスクワーク中心だが……
「ふぅ、やっと終わった。」
一息つき、雛が紅茶を入れる。
「はい、お疲れ様。シナモン入りのミルクティーよ、あんまおいしくないけど。」
「ありがとう。」
雛はあの後、『黒の騎士団』予備役としてウェルナーの警護を買って出た。騎士に選ばれた、というのが本人の言い分でウェルナーと母トゥーリアが信頼できる人間として彼女を指名したのも大きい。
「今更だけど『黒の騎士団』正規部隊じゃなくて良かったんですか?」
「やだ。本格的に所属すると、あいつらの手下になる。これでも我慢してる方なの。」
『黒の騎士団』の日本系に対して相当恨みがあるようだ。散々聞かされているが、同時に理解できる。これは『ルルーシュの仕業』ですむ問題ではない。
「ルルーシュのせいだって言う人がいたら?」
「そんな奴ら生きている価値ない。ああ、前の体制だったら合法的に殺せたのに。」
「…雛、聞かなかったことにしてあげるけど今の体制じゃ思想犯になるよ?」
「分かってるわよ。ていうか、言論の自由を認めろ。」
前回の文では書かなかったけど、マルセルもイロナ同様にルルーシュの仕業が効かない事例です。
結局、ロゴス理論振り回さないと先に進めない世界が悪いのか、それとも人間が悪いのか……私は後者だと思うし、そんなのが跋扈する世界なら消えて良いとさえ思ってしまいます。