中華連邦、世界最大の人口を誇るアジアの連合国家……ブリタニア、E.U.と並んで世界を支配する三大勢力である。
『ブラック・リベリオン』までは隣国の日本がブリタニア領土となった危機感もあって、キュウシュウ制圧やリフレインの流通でブリタニアのエリア11の衛生エリア化を妨害する形で国防を測って険悪な関係であったが、実権を握る大宦官達の専横と国の荒廃を憂う武官達の反乱を『グリンダ騎士団』が鎮圧したのをきっかけにブリタニアとの関係に変化が生じ、第一皇子オデュッセウスと天子の政略結婚で融和を結ぶこととなった。
この場合、事実上は従属国だが国際法上は同盟関係だ。『ユーロ・ブリタニア』の弱体化に伴う本国戦力の困窮という如何ともしがたい本国の懐事情も鑑みればブリタニアとしても都合がいい。
「……将兵や人民の犠牲を減らせるというのに、『部下達に実績を挙げさせる機会が一つ減った』。なんて最低なことを考えている自分がいる。」
「でも、ライル様……中華連邦の反対派鎮圧に協力する任務ならまだチャンスはありませんか?中華連邦の政府に恩を売れば、本国のオヤジ共だって文句言えないでしょう?」
伍長待遇で入隊し、スケジュール表を渡す優衣がメリットを告げる。
「そうなんだが……でもそれは民間人の犠牲がでるということだ。軍人としては、ね。」
どうも半端だ。変なところで板挟みになってしまう。
「あ、そうか。私…自分も一つくらい出世できるとかそういう風にしか…」
それが人としての性ではあるのだろうが、それでも………
「まあ、あまり人前で言うことではないからね。」
優衣が書いた書類審査をしているフェリクスが口を挟む。
「皇コンツェルンの傘下で手伝っていたのが効いているね。書式大体合ってる。怖いくらいの成長速度です。」
「だって、ライル様に良い所見せたいもの。」
「正直なことで。じゃあ、この七か所を訂正して。」
「スパルタ…」
優衣が不満を並べるが…
「これができたら、上陸させてあげるから。」
「はーい。」
ライルに言われて、途端に元気になった。
「全く両極端な……まあ、それが良いんだが。」
あれはあれではっきりしている良い娘だ。……ゲイリーやセヴィーナには単細胞やバカと言われているが。
「確かにどことなくジュリアに似ていますね…」
「でも、やっぱり別人だから。」
「…それならよかった。代わりにしていたら、殴ってました。」
危機一髪だ…危うく、ジュリアの代わりとしかみなさないところだった。
涼子はサザーランドとグラスゴーのスペックについてチーフから説明を受けていた。
「このようにサザーランドはグラスゴーよりも対KMF戦を想定したKMFだ。その分、パワーも生存率もあげている。」
「それは分かるけど、やっぱりこのスタントンファとスタンガンじゃ相手が剣振り回したら間合いで負けるでしょう。あの月下が斬りかかってきたらアウトですよ。はっきり言って、対KMF戦という割に想定が甘いです。ランス頼みだし、いくら騎士の国家でも剣や斧も考えないと。」
「痛いところを突くな。」
涼子は次にライルのヴィンセントのデータをオリジナルと見比べる。
「……このヴィンセント。パーツにかかる負荷が大きいだけあって随分無茶な改良をしてるんですね。重量も軽いし。」
チーフが少し試すような口調になる。
「なぜだと思う?」
「普通に考えれば装甲を削ったんだけど、でもそれだけじゃこのスピードは説明がつかないから、ランドスピナーや手足のモーターのパワーを上げるか、リミッターを外したんじゃないでしょうか?」
「80点というところだな。操縦補助のシステム、つまりOSも殿下に合わせて組んでいる。ちなみに装甲は4割ほど削っている。」
「徹底的なエース専用機ですか……しかも4割じゃあほとんど紙だし。でも、ヴィンセントってサザーランドよりずっとじゃじゃ馬じゃないですか。あのランスロットを並の人間でも扱えるレベルに落とすのならもっと機体の出力抑えないと、このニードルブレイザーもエナジーフィラーの効率が悪いし。ヴィンセントはエース用や指揮官用にするべきですね。将来的にこっちがグロースターに代わる指揮官機になりそうですが……もしかして、これの実用データを元に殿下の専用機も造るんですか?」
「……驚いたな、そこまで考えるか。」
涼子は少し苦笑する。
「殆どあてずっぽうです……でも、この子でさえ間に合わせなんて。仮想敵はやっぱり『黒の騎士団』のガウェインや紅蓮弐式、あとは『ハンニバルの亡霊』?」
「ああ、そのレベルと戦うのを前提に機体を組み立てるのが本国の意向だ。」
「E.U.と中華連邦の量産機ならともかく、あのレベルじゃ話が違いますからね。……現物を見てみたいかな?」
ライルは大宦官達に出迎えられていた。宦官という去勢した男の古い制度……それをこの時代まで維持し続けるのは大したものだ。
「ライル殿下、この度は我が中華連邦へようこそおいでくださいました。」
「こちらこそ、お出迎え感謝いたします。」
そんな様子を一人の男が見ていた。長い黒髪をなびかせた…おそらくエルシリアとシルヴィオと同じくらいの年齢だろう。
なんだろう……雰囲気が。
只の大宦官の腰巾着ではないのかもしれない。
「初めまして、ライル・フェ・ブリタニア殿下。黎星刻(リー・シンクー)です。」
「こちらこそ、ライル・フェ・ブリタニアです。」
「御有名はかねがね、聞き及んでおります。我が国とブリタニアの友好の暁には貴方と肩を並べてみたいものですよ…」
「……自信がおありですね。もし貴方がいらっしゃったのならば、紅巾党の事件で『グリンダ騎士団』の出番はなかったでしょう。」
軽く挨拶と会話をするが、ライルはこの男に興味をそそられた。手合わせしてみたいほどだ。
「さあ、殿下。こちらへ…迎賓館で歓迎の準備が整っております。」
リムジンへ案内され、ライルは外の景色を車窓から眺める。ハイウェイ周辺は租界や本国と同じ近代都市だが、その下は……
ゲットーといい勝負、か。
窓から緑の髪の少女が一瞬だけ見えた。ブリタニア人のようだったが……あの顔は見覚えがある。ヴェルド達から借りた雑誌で読んだ…
まさか、『グリンダ騎士団』のソキア・シェルパ?
ソキア・シェルパは冷や汗をかいていた。まさか、最近になって巻き返しつつある第八皇子が中華連邦に来るとは。
あの事件後、豹変したマリーベルに着いていけなくなったソキアは筆頭騎士オルドリン・ジヴォンの行方を追っていた。ブリタニア人の自分が中華連邦に行けたのは中華連邦との外交拠点の香港租界の存在と、オデュッセウスの政略結婚が大きい。
よりにもよって、現ブリタニアで一番扱いにくい皇族が来るなんて。
「まさか私を追ってきた、なんてことはないよね?」
エリア11から来た以上は考えにくいが、暫く大人しくしていた方がよさそうだ。
迎賓館では中華連邦の宮廷料理以外にもE.U.とブリタニアのエリアから輸入した美酒が振る舞われていた。中華連邦の上流階級も訪れ、ライルとパイプを持とうとしている。ゲイリーもまた、ライルの幕僚であるということからパイプを持ちたがるものが多い。
同時にエリア11の財閥代表として良二も出席していた。
「本命は俺を伝手にスザク、ひいてはシュナイゼル殿下だろうな。」
とはいえ、中華連邦の有力者とのパイプは作っておけば後々社員たちのためになるから我慢だ。
俺個人としては、E.U.にいる社員と家族たちだけでも帰してほしいんだがな。武石財閥のE.U.方面の債務も踏み倒され、社員はゲットーの中。今回の遠征を通じて何とか社員たちを出してもらいたいものだ。
スザクは自分のやり方で社会を変えようとしている。自分にはその力はない。何より、親たちが放り出したものを守る方が良二にとっては大事だ。俗物な両親のことだ。財閥の権利と引き換えになるうまみのある話が来れば、本当にやりかねない。
スザク……俺には自分で変えられるだけの力も手段もない。だが、変えられる可能性のある人を助ける。それが、俺のやり方だ。
「ライル・フェ・ブリタニア様でいらっしゃいますね。」
声をかけられて振り向くと、周囲の要人たちも感嘆している美女がいた。中華連邦の礼装に身を包んでいるが、男達はそれ以上にその下……豊満な胸に目が行った。目算だが、クリスタルと優衣より上かもしれない。
いるところにはいるんだな……しかし、少し色めき立ち過ぎじゃないか?
「あなたは?」
「私は張 美水(チャン・メイシュイ)……中華連邦、四川の軍を預かる張 高山(チャン・ガオシャン)を父に持つ者です。」
「おお、美水嬢……張将軍の御息女がお越しになるとは。」
どうやら、張将軍というのは相当な大物のようだ。キュウシュウの曹将軍とどちらが上なのかは分からないが、
大宦官達もこの様子を見ており……
「張の娘が、出てくるとはな。」
「いっそ、あの娘とライル殿下ならば釣り合いがとれるというのに。」
だが、張は大宦官達と距離を置いていた。四川の軍隊はあくまで国家のために動くという方針から大宦官達に着いているようなものだ。
四川省都の成都にある基地司令官にして、四川省責任者の張 高山(チャン・ガオシャン)は娘の動向が気がかりであった。張は50代で、娘は20歳。遅めに生まれた娘だから少々過保護で、今回のパーティー出席も彼は乗り気ではなかった。
「確かに…中華連邦が今後ブリタニアと友誼を結ぶこととなれば、皇族との縁は持って損はない。いや…」
そもそも、娘は軍人ですらない。飛び級ですでに大学を出ており、物資流通や経済の論文を書いて政府からの評価も高い。インドのラクシャータ・チャウラ―に並ぶ才媛と評価する者もいる。その評価にたがわず、現在娘は政府の役職に着いている。
現在の大宦官の体制で四川の民が踏みとどまれるのも、張の功績と美水の論文及びそれで築いた大宦官との伝手のおかげだ。
「四川の軍が丸ごとあの男の軍門に下った時、はたしてどうなるか。」
「その備えでご息女は向かわれたのでしょう?」
「すこし、心配しすぎです。」
「分かっておる。」
張 美水はライル・フェ・ブリタニアという男を分析しようとしていた。曰く『東洋人の女が好み』、『最近になり、猟色家の傾向が出始めた』、『ナンバーズの人権向上による植民地政策の安定を図っている』、色々と噂はあるが最後の方が重要だった。
もし、後者ならば中華連邦とブリタニアの関係を築くうえで彼のようなタイプは貴重だ。
「殿下は平民を積極的に取り立てているとお聞きしましたが?」
「ええ、その通りです。ですが、今後の植民地政策を踏まえるとナンバーズ出身者にも門を開く必要があると考えています。」
「なぜです?E.U.攻略は順調だとお聞きしておりますが。」
出来るだけ、相手から情報を取ろうと踏み込むが…
「優れた才能や能力の持ち主はいくらいても困りません。ナンバーズだって、原石がいるはず。あの枢木スザクはまさに最上のダイヤでしょう。」
大事なのは人材、という考えか。確かに父もそれに近い考え方だ。だが、現状ではその人材を育てるのも一苦労だ。
「父にお会いになられます?」
「…可能なのですか?」
「父は四川省の軍の最高責任者です。皇族の方とのご面会ならば、多少の融通は聞きます。」
有紗はため息をついた。メイドとしての仕事は続けているが、あの時の恐怖がまだ……その上。
違う…分かっているのに!
あの後、ライルが組み伏せてきた。拒まれたショックで無理やりに唇を奪ってきた。いつもなら気持ちいいはずのキスがあの時は怖くて、押しのけてしまった。それ以来……距離感が余計に狂ってしまった。
「ねえ、ライル様と何かあったの?」
優衣だ…
「あ、その……この前の誘拐の後。」
「……良いの?だって、あの後夜の相手してないんでしょう?」
「なんでそっちが出てくるの?」
「見てれば分かるって、女同士なんだから。」
そう、あれ以来ライルは夜の相手を頼まなくなった。有紗どころかレイやクリスタルさえもだ。昨日、二人からそのことを聞いた。
「ライル様の事、嫌いになっちゃったの?」
「違う!違うの!」
別に、ライルが人を殺めるのを見るのが怖くなったわけじゃない……直接殺めるのはあの処刑の時に見ているし、既にKMFや戦車を撃破するのを見ているのだ。
「分からないの……自分でも、よく。」
あんな野獣のように暴れるのがライルの本質で、ナンバーズへの差別や貴族達の横暴を憂える高潔な皇子が仮面なのか。
「事務次官をバラバラにしたのがライル様の素顔なのか、ブリタニアを変えようとして悩んでいる方か……」
「……特区の事件で両親を殺された私が言うのも変だけど、ユーフェミア副総督だって分からないわ。特区だって本気だったのか、ゼロをはめる罠だったのか。大多数は後者だけどさ。でも、一般のイレヴンや他のナンバーズが考えているイメージとかけ離れたライル様をあなたなら知ってるでしょ?」
「うん…」
「だったら、もっかい面と向かわないと。それこそ夜にガンガン攻めてもらうとか。」
面と向かって……
会って間もない優衣がここまで積極的になれるのが有紗には少し羨ましかった。
でも、そういわれれば暴れだす少し前の…
あの静かだが怒り心頭の顔や歓迎パーティーで献上された女性たちの扱いに四苦八苦していた顔は有紗と知り合ったころの顔によく似ていた。
中華連邦にもライルのハーレムはいます。ここまで来たら、レクイエム時点でのブリタニア、E.U.、中華連邦、エリア11は絶対に制覇です(笑)。
クロエとヒルダに近いノリで頑張っている優衣と涼子、元々の才能に加えて後がないからか必死と思ってください。そこに、ライルに良いところを見せたい優衣、新型KMFに興味津々の涼子です。